最新の臨床医学 10月14日(日)心療内科についてのQ&A

心療内科についてのQ&Aをご紹介いたします。

 

それは日本心療内科学会のHPです。

 

心療内科Q&Aのコラムを読むことができます。

 

Q&Aは、想定した事例です。Q&Aや疾患についてのご質問、病院の紹介等は、受け付けておりませんのでご了承下さい。

※「質問」をクリックするとが表示されます。

 

と書かれています。

 

高円寺南診療所に通院中の皆様が、一般論であるこのQ&Aを読んでいただくためには、実際に即した具体的な解説が必要だと考えました。

 

そこで、「質問」「答え」の後に、<高円寺南診療所の見解>でコメントを加えることにしました。

 

 

Q

試験の前や、試合の前になるとお腹が痛くなりトイレに行きたくなります。

 

入試が近いので心配なのですがどうしたらいいでしょうか?

 

 

 

A

試験前や試合前などに腹痛やトイレに行きたくなるとここぞというときに困ると思います。

 

「また起こるのでは…」と心配や不安になることもあるかもしれません。

 

それら症状を慢性的に引き起こすもののひとつに過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:以下IBS)があります。IBSは大きく分けると、

 

①お腹の痛みや張りといった便秘の特徴をもつ「便秘型」、

② お腹が痛くなった後に下痢を伴う「下痢型」、

③ 「便秘型」と「下痢型」の両方の特徴をもつ「混合型」、

④ そしてこの3つの型のどれにもあてはまりにくい「分類不能型」の4つに分けることができます。

 

欧米を中心とした調査では人口の10~25%の人がこの病気で悩んでいるといわれています。

 

IBSの原因はまだ完全には明らかではありませんが,睡眠不足や不規則な食生活などの生活習慣の乱れや,さまざまなストレスが大きく関与していると考えられています。

 

IBSの治療は,睡眠や食生活などの生活習慣の見直しや,整腸剤・下痢止めなどの薬物療法だけでなく、ストレスを解消していくためのカウンセリングや自律訓練法といったリラクセーション法などが治療の中心となります。

 

IBSの症状はゆっくりと改善していくことが多く、改善を体感するまで数ヶ月を要することも珍しくありません。

 

そのため「IBSと上手に付き合っていく」と考えを広げていくことも必要となります。

 

治療に関してはかかりつけ医や、心療内科や消化器科、胃腸科などを気軽に受診してください。

 

(緒方 慶三郎 、立部なな恵)

 

 

<高円寺南診療所の見解> 

執筆者名に心当たりがないため、日本心療内科学会の登録指導医・専門医名簿を検索しましたが、お二方のお名前はリストされていませんでした。

 

恐らく新進気鋭の方々なのだと思います。インターネットで検索すると、緒方 慶三郎先生(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科心身内科学分野)、立部なな恵先生 (新日鉄八幡記念病院 心療内科)とのことでした。今後のご活躍を期待したいと思います。

 

 

そこで過敏性腸症候群(IBS)について、補足説明を加えながら改めて整理してみます。

 

IBSとは、便通異常(下痢、便秘)と腹痛、腹満感などの症状を慢性的に繰り返しますが、明らかな器質的異常はありません。そのため機能性疾患とされます。

 

主な身体症状は、腹痛、腹部不快感、便通異常などです。

 

合併し易い精神症状は、不安、過敏、緊張、焦燥、抑うつ感などです。

 

 

IBSのサブタイプは、下痢型、便秘型、混合型、分類不能型です。

 

日本人の有病率はごく軽度のものまで含めると全人口の約20%と大変多いと考えられていますが、病院を受診する人はそのうちの20%くらいと推定されています。

 

性差は男:女=1:1.6で女性に多くみられ、男性は下痢型が多く、女性では便秘型が多い傾向があります。

 

明らかな原因は不明です。ただし、多くの症例で発症と経過に心理的因子が関与します。大腸や小腸の運動や分泌が過剰になったもので、大部分は心理社会的ストレスが強く関係しています。

 

つまり、このような病態が背景にあるために消化器心身症の一つとされ、心身症としての診断と治療のガイドラインが発行されています。心理的因子が発症準備因子、発症因子および症状持続・増悪因子として作用します。

 

生物学的病態でいえば、病態としては消化管運動機能異常、内臓知覚過敏、腸脳相関異常などが指摘されています。

 

また社会的病態でいえば、会社や学校にうまく適応できないときの身体反応としてあらわれることが多く、出社拒否症、登校拒否症の身体症状と考えられています。

 

 

「また起こるのでは…」と心配や不安になることがあるとすれば、そのような不安を予期不安といいます。

 

予期不安は、ある状況にまだ直面していないのに、それと似た状況や場面における失敗を過去の経験の追想などによって自己暗示的に予測して生じる不安です。

 

予期不安と不安内容の現実化とが悪循環を形成することが多いです。

 

具体的には乗り物中で強い腹部症状や気分不快を経験すると、「またお腹が痛くなったらどうしよう」という予期不安にとどまらず、乗り物に乗ること自体が恐くなる(広場恐怖)を合併することもあります。

 

ちなみに、早稲田大学人間科学部の野村忍らの調査によると、パニック障害との合併が36%くらいにみられ、合併すると広場恐怖になりやすいことが示されています。

 

診断のポイントは、

①器質的病変がないこと、

②腹痛(腹部不快感)があって排便によって軽快する、

③下痢、粘液便または便秘、

④残便感があること、

⑤症状が3ヶ月以上繰り返す、

というものです。同じような症状を呈する病変(例えば癌や炎症性腸疾患など)がないかどうかを注腸X線検査や内視鏡検査で確認する必要があります。

 

内科的治療としては、

①食事療法や生活指導が基本です。

生活上の注意としては、過労や睡眠不足にならないこと、規則正しい食生活の習慣をつけ、飲み過ぎ、食べ過ぎは控えるなど一般的なことが最も重要なカギです。

 

②整腸剤や止痢剤などを処方することが一般的に行われているようですが、止痢剤はあまりお勧めできません。

 

③心療内科的治療としては、不安や抑うつ症状に対して:

抗不安薬や抗うつ薬を処方したり、自律訓練法を指導して、リラクセーションにつとめたりします。

 

そして、力ウンセリングを行って、原因となっている心理社会的ストレス(心理的葛藤や不適応状態)の解消をはかります。

 

心理的ストレスが身体に現れていることから、身体の調整をすることによって心理的な安定をもたらす方法もあります。

 

こうした方法は心身医学的アプローチというより身心医学的アプローチとでも呼ぶべきでしょう。

 

高円寺南診療所での鍼灸療法、水氣道、聖楽院での公開レッスンは、すべてこのアプローチを基礎としています。

 

乗り物恐怖(広場恐怖)に対して:系統的脱感作法やエクスポージャーなどの認知行動療法を行い、乗り物に対する恐怖心を徐々に解消していきます。

 

この病気になる人は、性格的に過剰適応(まわりに気を使いすぎる)、几帳面、内向的でなかなか自己主張ができない人が多いといわれています。

 

こういう人は、くよくよと一人で悩みを引きずることが多く、それでよけいに気分や考え方が暗くなり、行動が消極的になってしまいがちです。

 

日頃から相談相手をもち、気軽に相談したり率直に自分の感じていることを表現したりする練習する機会を提供しているのは、こうした目的のためなのです。