診察室から:8月7日(火)RSさん希望(難病克服)のメッセージ①

RSさんのメッセージを3回(3週)にわたってご紹介いたします。

 

RS1

 

第1回:ポリファーマシーの巻

 

­=病気の前に立ちはだかる現代医療の問題=

 

 

現在50代の主婦であるRSさんは、瞬時も和らぐことのない激痛に45年間苦しんでこられました。

 

つまり、これまでの彼女の人生のほとんどが痛みに占められていた、ということです。

 

平成29年11月に高円寺南診療所の初診なので、まだ通院後一年を経過していません。

 

幸いに、彼女は元気になり、こうして振り返りのリポートを書けるまでになりました。

 

 

当初、彼女には医学的な問題以前に、優先的に解決すべき医療上の課題がありました。

 

それは、ポリファーマシーという現代医療にありがちな社会問題でもあります。

 

ポリファーマシーは多剤投与と訳されていることがあります。

 

厚生労働省のHPを検索すると、医薬・生活衛生局医薬安全対策課において第7回 高齢者医薬品適正使用検討会が平成30年5月7日(月)に開催されています。

 

資料も添付されています。

 

高齢者医薬品適正使用検討会

 

 

以下、引用します。

 

高齢者医薬品適正使用検討会 開催趣旨及び検討課題について

 

 

医薬・生活衛生局安全対策課 資料1 

 

ポリファーマシーの概念

 

高齢者の薬物有害事象増加には、多くの疾患上、機能上、そして社会的な要因が関わるが、薬物動態/薬力学の加齢変化と多剤服用が二大要因である。

 

多剤服用の中でも害をなすものを特にポリファーマシーと呼び、本指針でも両者を使い分けた。

 

ポリファーマシーは、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態である。

 

何剤からポリファーマシーとするかについて厳密な定義はなく、患者の病態、生活、環境により適正処方も変化する。

 

薬物有害事象は薬剤数にほぼ比例して増加し、6 種類以上が特に薬物有害事象の発生増加に関連したというデータもある。

 

一方、治療に 6 種類以上の薬剤が必要な場合もあれば、3種類で問題が起きる場合もあり、本質的にはその中身が重要である。

 

したがって、ポリファーマシーの是正に際しても、一律の剤数/種類数のみに着目するのではなく、安全性の確保等からみた処方内容の適正化が求められる。

 

 

 

診察室からの解説:

厚生労働省の見解によると、ポリファーマシーは、

『単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態』としています。

 

RSさんは、服用する薬剤数が多いことに関連して、服薬することに大きな苦痛を感じて悩み続けてきたので、少なくとも服薬アドヒアランスの低下をもたらしていたことが推定されます。

 

 

なおポリファーマシーに対する厚生労働省の定義において

『何剤からポリファーマシーとするかについて厳密な定義はない。』とする一方で、

『6 種類以上が特に薬物有害事象の発生増加に関連したというデータ』を例に挙げておおよその目安を挙げています。

 

 

RSさんが前医から処方されていた薬剤の種類は14種類、薬剤数は1日32(その他、頓服1剤)でした。薬剤数から直ちにポリファーマシーとすることはできないとはいえ、この数に及んでもポリファーマシーに該当しない、と言い切る医師は、まず存在しないのではないでしょうか。

 

RSさんにとってポリファーマシーは、直ちに対策を取るべき重要な課題でした。

 

そしてポリファーマシー対策の最終的な目的は、

『一律の剤数/種類数のみに着目するのではなく、安全性の確保等からみた処方内容の適正化が求められる。』

として、(薬剤服用者の)安全性の確保等と読み取ることができます。

 

 

現在RSさんが服用している薬剤は5種類、薬剤数は1日12です。

 

薬剤の種類の内訳は、ビタミン剤(シナール錠、ノイロビタン錠、ワンアルファ錠)、漢方薬(当帰芍薬散)、およびノイロトロピン錠です。

 

このように、いまだ5種類を継続内服中とはいえ、ビタミン剤3種類と漢方薬1種類を含めたものですから、安全性の確保の見地からも、現在のRSさんはポリファーマシー状態からの離脱に成功したということができるでしょう。

 

RSさんが、もし以前の処方通りの服薬を続けていったとしたらどのような結果を招くことになったでしょうか。

 

現在の病気が治らないばかりか悪化し、さらに副作用が出現していたので、他にも新たな病気を複数抱え込んでいたのではないかと思われます。

 

最後に、厚生労働省は、ポリファーマシー対策を「高齢者医薬品適正使用検討会」の括り中で検討しています。

 

しかし、ポリファーマシーの被害者は高齢者のみの問題ではないことを深く認識して、若年者を含めて調査・分析を進めて早期からの対策を立案すべきではないかと思われます。

 

その理由は、高齢に至ってはじめてポリファーマシーの問題が浮上するのではなく、多くの場合、中年期や壮年期から徐々に発展していく問題であると考えられるからです。

 

RSさんは50代の女性ですが、これからは、癌や婦人病をはじめ色々な病気が発生し易くなる年代です。

 

非高齢者のポリファーマシーは、将来において不可欠となる新たな薬物治療の可能性をも阻む医療上の重大な問題をはらんでいるということにも気づいていただきたいと思います。

 

 

第1回:ポリファーマシーの巻(2018・8・7)

 

第2回:新療法を巡る葛藤の巻(2018・8・14)

 

第3回:「継続は力なり」の巻(2018・8・21)