最新の臨床医学:7月20日(金)呼吸器・アレルギー・膠原病学

かぜの診断、とくに『夏かぜ』について

 

一般に、かぜ(寒邪、風邪、感冒)は感染によって生じる上気道を中心とした急性炎症を指します。そして、症状の主体が上気道の急性炎症によるものであれば、急性上気道炎と診断されることが多いです。

 

急性上気道炎(風邪)の80%以上がウイルス性であり、基本的には自然軽快します。

 

ウイルスは多領域に分布し症状を引き起こす、という特徴があります。

 

そこで気管、鼻腔、咽頭の3領域のうち、少なくとも2つが同時に同程度、急性に存在する場合に、「ウイルス性上気道炎(風邪)」と診断することができます。

 

ただし、ウイルスはその他の領域にも分布することがあり、他の症状(発熱、関節痛、痰、眼脂、嘔吐、下痢など)も起こり得ます。

 

多くある症状のうちで、上気道炎の症状として診断に有用なのが、咳嗽(気管領域)鼻汁(鼻腔領域)咽頭痛(咽頭領域)です。

 

鼻汁症状が強い場合は副鼻腔炎などが疑われるが、疼痛が強い場合などを除いて多くはウイルス性です。

 

これらの症状が揃わない急性上気道炎も、感染初期などには存在し得ます。

 

また急性上気道炎の診断に「発熱」は必須ではありません。

 

 

さて今はやりの夏かぜについてですが、夏かぜの病原体は、主としてウイルスです。

 

代表的な御三家がアデノウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルスです。

 

夏かぜの症状の特徴は咽喉頭症状です。

 

咽頭痛、嗄声(声がれ)、咳、喀痰、喘鳴(ゼイゼイ)などの症状は、アデノウイルスやコクサッキーウイルスなどによるケースが多いです。

 

 

いずれにせよウイルス感染の咽頭痛はのど飴などが効き、むしろ飲み込むと喉はすっとすることも多いです。

 

トローチを処方することがありますが、その場合は、噛みくださずにゆっくりと唾液に溶かして服用します。

 

抗菌薬はウイルス感染には不要であり、また細菌感染症の合併予防の効果もありません。

 

本人の症状に合わせて、解熱鎮痛薬、鎮咳薬等での対症療法を行います。

 

 

「風邪」を正しく診断することで、重篤化し得る疾患を除外し、不要な抗菌薬治療による菌交代現象や副作用、耐性菌の出現を抑えることができます。

 

しかし、その場合でも安易にウイルス感染と診断せず、きちんと細菌感染を除外するようにすることが望ましいです。

 

細菌はウイルスとは異なり、1つの臓器(領域)のみを好む傾向があります。嚥下できないほど咽頭痛が強ければ、細菌性咽頭炎扁桃周囲膿瘍急性喉頭蓋炎が鑑別に上がります。

 

咳嗽のみが強ければ肺炎気管支炎を疑います。

 

発熱のみであれば、他の随伴症状の有無や診察所見から、必要に応じて尿路感染胆嚢炎蜂窩織炎なども検索します。

 

上気道炎は基本比較的元気であり、たとえ風邪の症状であっても、ぐったりしている場合は、心筋炎髄膜炎川崎病なども考慮しないといけません。

 

『風邪は万病の元』といわれる所以です。風邪を軽視してはいけない理由がここにあります。