最新の臨床医学:6月14日(木) 神経病学

<一過性全健忘>

 

永久的記憶の欠落を生じるが、日常生活で困った様子がみられないという病気があります。

 

誘因なく突然発症し、発作中は意識清明ですが、

新しい記憶ができない(前向性健忘)、

発作前にさかのぼり記憶が障害される(逆行性健忘)症状を主徴とする症候群です。

 

 

発作は平均5~6時間続き、24時間以内に消失するといった予後良好な経過をたどります。

 

しかし、発作中の記憶は永久に欠落します。

 

発症の75%が50~70歳代で、40歳未満での発症は稀です。

 

見当識は保たれるが、近時記憶障害のため、同じ質問を繰り返します。

 

数唱などの即時記憶、自分の生い立ちなど遠隔記憶は保たれ、意味記憶や手続き記憶も保たれ、失語や失行もないので料理や自動車の運転も可能です。

 

 

原因

不明です。従来から両側の海馬障害によると考えられています。

 

そして、片頭痛、脳血管障害、代謝異常および脳静脈灌流異常などが推測されています。

 

精神的なストレスなど情動的なもの、水浴、水泳およびバルサルバ負荷が誘因となることが報告されています。

 

 

診断基準(Hodge,1990)

1)発作中の情報は、その間ほとんど目撃していた目撃者から得られる

 

2)発作中、明らかな順行性健忘(=前向性健忘)が存在する

 

3)意識障害はなく、高次脳機能障害は健忘に限られる

 

4)発作中および発作後に神経学的局所症状はない

 

5)てんかんの特徴がない

 

6)発作は24時間以内に消失する

 

7)最近の頭部外傷や活動性のてんかん(治療中、もしくは過去2年間にほっさがあったもの)のある患者は除外する

 

 

検査

高性能MRI検査で、頭部単純MRI拡張強調像で、発症直後に異常はないが、6~72時間で海馬CAI領域を中心に小さな異常信号を検出することがあり、補助診断とします。

 

ただし、この所見は10日後までに消失します。

 

 

予後

再発は稀で、6~10%程度と報告されています。