水氣道の、非薬物療法の意義について2回に分けて解説します。
認知症発病までの道のり
認知症は発症するまでに20年程度の予防的対処を要する期間が存在します。
これは症状が出現する以前の前段階の時期を含めての期間に相当します。
認知症を他人事とせず、自らの将来のリスクとして早期に対策を講じておくことが必要であることが示唆されます。
認知症に対する薬物療法
アルツハイマー病やその他の認知症抑制のための薬物療法の効果は、様々な学問的努力にもかかわらず、現状においてはかなり限定的です。
しかも、使用できる薬物は限られ、薬物による副作用の問題があり、また薬剤費用も安価ではありません。
認知療法に対する非薬物療法
認知症に対する薬物療法の効果が満足のいくものではないため、認知症に対しては非薬物療法による治療が試みられてきました。
アルツハイマー病に対する介入は、運動療法の他に認知トレーニング、行動介入、認知的刺激、経頭蓋磁気刺激、音楽療法、回想法、ADL訓練、マッサージ、レクリエーション、多重感覚重喜、心理療法、バリデーション(共感して対応するコミュニケーション法)、リラクゼーション法があります。
またこれらの複合プログラムを実施した報告があります。
また、認知症については介護者の支援も重要な課題であり、介護者に対しては、教育、支援、ケース管理、レスパイトケア、およびこれらの複合プログラムも考案されています。
以上のプログラムによって、
すべての結果
(患者:認知機能、行動、気分、QOL)
(介護者:気分、心理的健康、QOL,拘束)
において軽度から中等度の効果がアルツハイマー病患者および介護者に対してみられたとする系統的総説¹があります。
1)Olazaran J.Reisberg B,Clare L,et al:Nonpharmacological therapies in Alzheimer’s diseases: a systematic review of efficacy. Dement Geriatr Cogn disord 2010; 30:161-178.
認知症に対する運動療法
とくに認知症予防に対する運動療法は、有酸素運動や筋力トレーニング、およびそれらの複合的なトレーニングによって認知機能の低下抑制や向上を目的として行われます。
また認知症治療としての運動療法は、認知機能の改善、情動・精神機能の安定や改善、日常生活動作(ADL)の改善、また介護者負担の軽減を目的として行われます。
認知症に対する運動療法の課題と現状
認知療法に対する運動療法の普及が容易でないことが最大の課題です。
とくに、運動習慣を持たない中・高年者に対し、どうしたら運動を開始し、さらに継続的に実施して貰えるかが最大の障壁だと思われます。
そのためには、運動療法の効用についての明確なエビデンスを構築することが必要であるという認識までは、識者の間では共通しています。
具体的には、効果的な運動処方をするための運動内容、頻度、強度に関する知見を集積する必要があります。
しかし、認知症に対する運動療法の実証研究は緒についたばかりです。
水氣道®でのデータ収集と解析を積極的に推進していく必要があります。
運動療法による認知機能向上のメカニズム
運動が認知機能に対して良好な影響を及ぼすことは経験的にはよく知られています。
しかし、そのメカニズムは複雑であり、理論上は生物学的、行動学的、社会心理学的レベルの各階層において認知機能に影響を及ぼしていると考えられています。
運動療法による認知機能向上は、これらの各階層での作用の総体として発揮されると考えることができます。
生物学的レベルでは、運動によるインスリン抵抗性の改善が神経シナプス機能の向上、それが、さらには脳容量増加に繋がることによって認知機能の向上に寄与することが考えられます。
一方、運動により脳血流量が上昇することによって、脳由来神経栄養因子(BDNF)やインスリン様成長因子(IGF-1)などの神経栄養因子が向上します。
これはインスリン抵抗性改善と同様に、神経シナプス機能向上、脳容量増加さらには認知機能向上に繋がります。
行動学的レベルでは、まず運動療法により身体活動性が向上するのみならず、睡眠状態改善や疲労感の低下が期待できます。
その結果、身体活動性はさらに向上することに伴い認知機能が向上します。
社会心理学的レベルでは、運動によるうつ症状の改善、自己効力感の向上による社会的ネットワークの再構築が期待できます。
とくに、うつ症状の緩和により、認知的活動が向上し、これらが認知機能全般の向上に寄与します。
次回は、<認知症予防に効果的な運動療法としての水氣道®の可能性>です
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