最新の臨床医学 腎臓病学:5月14日<急性腎障害の新たな診断と治療>

重要なトピックですので、先月中にご報告できなかった日本内科学会での私の受講メモをご紹介します。

 

これまでは、急性腎不全という括りで扱われてきた病態が、2000年以降に新たに急性腎障害(acute kidney injury:AKI)と呼ばれるようになって久しいのですが、一般の皆様には、まだ馴染みのない名称ではないかと思います。

 

いずれにせよ、両者とも急激に腎機能が低下する腎障害の病態を指すものであって、迅速かつ適切な対応を要する臨床上の重要な課題です。

 

 

第115回 日本内科学会総会 第3日 ―平成30 年4 月15 日()― 講演会場(京都市勧業館(みやこめっせ)第3 展示場)より

 

教育講演18.14 時00 分~14 時20 分(20 分) 座長 東北大学 伊藤貞嘉 

急性腎障害の新たな診断と治療…………東京大学 土井 研 先生

 

まず、急性腎障害(AKI)とは、単に急性腎不全からの名称変更ではありません。

 

両者には、発症に至る臨床的背景が異なります。

 

急性腎障害とは、敗血症や多臓器不全に急激な腎障害が合併するようなケースで生じる病態です。

 

これは、生命予後を著しく悪化させる病態であるため、腎臓専門医のみならず循環器専門医や集中治療医が注目するに至って成立した疾患概念です。

 

 

つまり、急性腎障害(AKI)は、従来の急性腎不全以上に早期診断・早期治療介入を要する病態であって、それによって予後改善を図る必要があるとの認識の上に、国際的に統一された診断基準(KDIGO2012)が示され広く使われるようになりました。

 

 

AKIの診断基準では、従来の指標よりも早期に腎障害を検出できるAKIバイオマーカーが示されています。本邦では以下の2種類が保険収載されています。

 

尿L-FABP(liver-type fatty acid binding protein),

 

NGAL(neutrophil gelatinase-associated lipocalin)

 

しかしながら、これらがAKIの治療成績向上に繋がるかどうかは未知数です。

 

 

AKIに対する治療は、特異的に有効な治療法は存在しないため、循環維持と腎毒性物質の回避といった保存的治療が主体ですが、早期介入が不可欠であるという認識が持たれています。

 

さて、それでは高円寺南診療所における日常診療に関してはどうか、という課題を少しばかり検討してみます。

 

まず、AKIが問題になるのは超高齢者です。

 

しかも、その超高齢者に対して侵襲的な治療が試みられている状況がAKIの背景となります。

 

つまり、具体的なケースとしては、ICUにおいて積極的な治療をしているような臨床状況であるため、高円寺南診療所における日常診療との隔たりは大きいです。

 

逆に言えば、日常の診療での適切な健康管理により、高齢者の敗血症や多臓器不全に代表されるような病態に陥るリスクを減らしていくことこそが高円寺南診療所の医療指針といえるのであって、今後はAKIの予防に一層の注意を払っていかなければならないでしょう。

 

 

高円寺南診療所では

 

〇起床・就寝など日常生活リズムの確立をはじめ、養生と鍛錬のバランス、すなわち、食事、運動、休養およびストレス・コントロール、予防接種などをはじめ、腎臓その他の諸臓器を強化する非薬物療法を優先している方針からも、すでにAKI予防に叶う診療体系を確立しています。

 

 

〇また、薬物療法における処方ピラミッドとしては、食事内容の見直しとともに、ミネラル類⇒ビタミン類⇒漢方薬という優先順位に従い、インフラを確立してから、必要に応じてなるべく腎毒性の少ない安全な一般薬剤を慎重に処方しています。

 

このような処方指針が、AKIの予防に貢献していることは、最近の知見から徐々に明らかになってきていることを確認することができます。

 

 

〇腎機能の評価に対しては、血清クレアチニンと尿量という従来の指標のみで十分な管理が可能であると考えています。

 

 

〇急性腎障害(AKI)は、超高齢者等に対する侵襲的な治療法の進歩がもたらした病態であるということは今後の医療を考えるうえで、とても大きな示唆を与えているものと思われます。