最新の臨床医学:5月10日 <遅発性ウイルス感染症(2)>

ウイルス感染症のうち感染後長い潜伏期を経て発症し進行性の経過を示すものを言います。

 

変性疾患様の発症の仕方をし、慢性進行性の経過により、死の転帰をとります。

 

亜急性硬化性全脳炎進行性多層性白質脳症プリオン病クロイツフェルト‐ヤコブ病などがあります。

 

今回は、プリオン病、とくにクロイツフェルト-ヤコブ病についてまとめてみます。

 

 

プリオン病とは、プリオン蛋白(PrP)が何らかの原因で異常型プリオン蛋白に変わり、これが脳内に蓄積して発症する予後不良の脳疾患です。

 

プリオン病は、孤発性(約80%)、遺伝性(約15%)、獲得性(約5%)に分類されます。

 

最多の孤発性のものはクロイツフェルト‐ヤコブ病に属し、その発症原因は解明されていません。

 

遺伝性プリオン病は常染色体優性遺伝形式をとり、遺伝子検査によりPrP遺伝子の突然変異を認めます。

 

獲得性プリオン病は、かつて儀式的な食人習慣が原因となるkuru病がありましたが、食人禁止により発病は終息しました。

 

 

医原性クロイツフェルト‐ヤコブ病は硬膜移植、角膜移植、ヒト下垂体由来成長ホルモンなどが発症原因となっていました。

 

特に本邦では、かつて脳外科手術の際に年間約2万件の硬膜移植が行われていました。

 

その際、汚染された輸入ヒト硬膜の使用(乾燥脳硬膜移植)により、日本の罹患率の500倍に当たる症例がクロイツフェルト-ヤコブ病に感染したのではないかと疑われています。

 

現在はヒト由来成分を極力使用しない方向になり、また十分な不活化が行われています。

 

また牛海綿状脳症(BSE)感染牛の摂取による変異型クロイツフェルト‐ヤコブ病が話題になったこともありました。

 

牛海綿状脳症(BSE)は、牛の病気の一つで、BSEプリオンと呼ばれる病原体に牛が感染した場合、牛の脳の組織がスポンジ状になり、異常行動、運動失調などを示し、死亡するとされています。

 

かつて、BSEに感染した牛の脳や脊髄などを原料としたえさ(牛骨粉など)が、他の牛に与えられたことが原因で、英国などを中心に、牛へのBSEの感染が広がり、日本でも平成13年9月以降、平成21年1月までの間に36頭の感染牛が発見されました。

 

 しかし、日本や海外で、牛の脳や脊髄などの組織を家畜のえさに混ぜないといった規制が行われ、厚生労働省では、最新の科学的知見に基づき、国内検査体制、輸入条件といった対策全般の見直しを行っています。

 

 

ここで、プリオン病とクロイツフェルト‐ヤコブ病の関係について整理しておきます。

 

プリオン病は様々な原因と病状をもたらしますが、クロイツフェルト‐ヤコブ病は、脳の海綿状変性を特徴とし、亜急性進行性認知症や多彩な神経症状を呈する疾患です。

 

クロイツフェルト-ヤコブ病は感染症法の5類感染症であり、届け出が必要です。

 

他への感染予防のため、隔離の必要はないものの、患者の臓器、血液、脳脊髄液の取り扱いは注意を要します。

 

60歳以上での発症が約75%であり、男女差はなく、罹患率は100万人に1人で、日本では100人程度と推計されます。

 

認知症、小脳症状、視覚異常で発症し、急速に進行します。

 

検査は、遺伝子検査(遺伝性プリオン病ではPrP遺伝子異常)、髄液検査(異常型PrP蛋白、14-3-3蛋白や総タウ蛋白の上昇)、脳波検査(周期性同期性放電:PSD 1回/秒)、MRI検査(DWI拡散強調画像で、基底核や皮質の高信号域、大脳の進行性萎縮)などです。

 

ただし、治療は対症療法のみであるため、経過は進行性であり、大半は1~2年で死亡します。

 

 

私は初期研修した30年ほど前の虎の門病院の脳神経外科でも、輸入ヒト硬膜(乾燥脳硬膜移植)を使用していたことを記憶しています。

 

患者さんのその後の経過が気になるところです。