最新の臨床医学:5月2日<肥大型心筋症(HCM)>

心筋症とは、高血圧や虚血性心疾患などの特定の原因なしに、心筋の病変の首座を有する疾患を包含する概念です。

 

国内では日本循環器学会から、「肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2012年改訂版)」が示されホームページから参照可能です。

 

 

診断:

明らかな原因なく心筋肥大を来たし、不均一な心肥大の分布を特徴とします。

 

特に、左室流出路狭窄を有する状態を閉塞性肥大型心筋症とよびます。心筋βミオシン重鎖遺伝子などの多数の遺伝子異常が発見されており、家族歴の聴取が重要です。

 

心筋肥大に伴う相対的心筋虚血は狭心痛を生じ、拡張能障害による左室拡張末期圧上昇は息切れなどの心不全の原因となります。

 

重症不整脈や流出路狭窄と関連して失神、眼前暗黒感などの脳虚血症状を自覚します。

 

左室コンプリアンス低下に伴いⅣ音を聴取し、流出路狭窄を有する例では駆出性収縮期雑音を認めます。

 

心電図では左室高電位、ST-T変化、巨大陰性T波、異常Q波など左室肥大の所見を認め、スクリーニング検査としての感度が高いです。

 

心筋肥大を反映してBNP、心筋トロポニンが上昇し予後予測因子になります。

 

心エコーは診断の中心的な役割を果たします。非対称性中隔肥大が有名ですが、抗壁、前壁、心尖部に肥大が局在することもあります。流出路狭窄の場合は、僧房弁の収縮期前方運動を認めます。

 

心臓MRIでは遅延造影を60~80%の症例で認め心筋の線維化を反映します。

 

心筋生検では心筋細胞の肥大と錯綜配列を認めます。

 

 

 

管理・治療:

①薬物療法ではβ遮断薬は閉塞性肥大型心筋症で特に有効です。

 

内因性交感刺激作用やα遮断作用を有さない薬物が適しています。

 

ACE阻害薬、ARBは左室流出路圧較差を有さず、かつ左室収縮期が低下した症例に適応があります。

 

高度の流出路圧較差を示す場合は血圧低下を誘発するため禁忌です。

 

抗不整脈薬のうちⅠ型抗不整脈薬(ジソピラミド、シベンゾリンコハク酸塩)は陰性変力作用により左室流出路狭窄を軽減します。

 

β遮断薬、カルシウム拮抗薬は頻脈性心房細動合併例の心拍コントロールに用います。ただし、ジギタリスは流出路狭窄を増強させるため禁忌です。

 

アミオダロンは心房細動の予防に有効であり、β遮断薬とともに心室性不整脈に対して投与されますが、突然死予防効果には限界があり、高リスク症例では植込み型除細動器(ICDを積極的に検討します。

 

 

②非薬物療法では、心筋切開術、心筋切除術、僧房弁手術は左室流出路拡大と血行動態上の障害となる僧房弁収縮期前方運動の解除目的で行います。

 

経皮的中隔心筋焼灼術は流出路狭窄の原因となる肥厚した中隔心筋を灌流する冠動脈にエタノールを注入し局所壊死を作成して狭窄を解除します。

 

適応となるのは薬物療法に抵抗性の心不全、狭心症、失神などがあり、左室内圧較差が30mmHg以上、中隔壁圧5mm以上、左室駆出率が40%以上の症例です。

 

 

 

経過・予後:

2002年に行われた国内疫学調査では、肥大型心筋症の年間死亡率は2.8%、死因は不整脈32%、心不全21%でした。

 

肥大型心筋症は心臓突然死の原因となるためリスク評価を十分に行います。

 

高リスク症例では運動やスポーツ競技を禁止します。

 

突然死リスクが低いと判断された症例ではレクリエーション程度の運動は可能です。

 

日本人に多い心尖部肥大型心筋症の予後は良好とされています。肥大型心筋症の5~10%では心筋壁厚の減少と左室拡大が進行し、拡張型心筋症と類似の病態を呈します。

 

この病態を拡張相肥大型心筋症と称し、予後不良であるため経年的な評価が必要です。