第115回日本内科学会(京都)4月15日(日)報告③その2

たった3日間の学会ですが、内容が濃く、膨大な情報量になってしまいました。

 

以下の学会報告リポートは、いわば講義ノートのようなものですが、一般の皆様にも理解し易いように書き改めています。私の分析の他、感想や思い付きは朱書きとしました。

 

 

1.腎血管性高血圧の診断と治療… …………………………防衛医科大学校 熊谷 裕生

 

腎血管性高血圧は腎実質性高血圧と並び、腎性高血圧の代表的疾患です。腎血管性高血圧は、動脈硬化等により片側または両側の腎動脈が狭窄することによって生じた高血圧です。若年者に多い線維筋性異形成と中高年者に多い粥状動脈硬化性のものがあります。

 

診断:形態診断としては、MRアンギオグラフィで狭窄75%以上のものを腎動脈狭窄と定義します。

 

腎動脈狭窄(Renal Artery Stenosis;RAS)は、全身の動脈硬化性病変を反映し、頚動脈 狭窄や心血管疾患との合併が多いことが知られています。

 

RAS の評価は、心筋梗塞や脳 梗塞など生命予後に影響を及ぼす疾患の診療上、重要な情報になると考えられます。

 

最終診断には、腎動脈造影や造影CTが必要となります。

 

 

しかし、腎動脈硬化(RAS)の診断には、放射線を用いた CT 血管造影やデジタルサブトラクション血管造影、 磁気を用いた MR血管撮影などがあります。

 

これらは RASの存在を正確に証明することができますが、被ばくや造影剤の問題もあり、ペースメーカーが挿入された患者さんでは検査ができない場合もあります。

 

また、形態だけでなく、レノグラムで狭窄腎の機能も低下していることを確認して、はじめて腎動脈狭窄による腎血管性高血圧と診断されます。

 

腎動脈やその分枝の狭窄病変に対し、薬物療法や血行再建を慎重に選択して介入することが望ましいです。

 

一方、エコー検査は、従来の方法では得られない血流速度が評価できること、また腎障害のある患者にも繰り返し施行できることなどの利点があり、 簡便かつ安全なスクリーニング検査として有用です。

 

腎動脈エコーの検査法 腎動脈起始部の収縮期最高血流速度(Peak systolic velocity;PSV)を測定し、腎動脈の狭窄の程度を評価します。同時に腹部大動脈の血流も測定します。

 

これは後述する腎動脈/腹部大動脈血流速度比(RAS) の評価基準 の一つに、腎動脈と大動脈の血流速度比があるためです。

 

また腎内血管(区域動脈・葉間動脈)の血流を測定することにより、腎実質障害の程度を評価することも可能です。

 

このデータは、RAS に対する経皮的腎動脈形成術(Percutaneous Transcatheter Renal Angioplasty; PTRA)適応判定にも用いられています。

 

 

〇腎動脈狭窄の評価方法 腎動脈起始部の片側または両側の PSV が 180cm/sec 以上、または腎動脈/腹部大動脈血流速度比(renal/aorta ratio:RAR)が 3.5 以上の場合、有意な腎動脈狭窄(径狭窄率 60%以上) が示唆されます。

 

腎動脈エコー検査対象 (右腎動脈 大動脈 左腎動脈 )

 

治療:降圧だけでなく腎機能の改善や悪化防止を目指します。ドップラーエコーresistive indexが0.8以上の症例にステント療法は無効です。

 

また腎血管拡張術+ステント療法は薬物療法(ABR+スタチン+抗血小板薬)と差が無いことがわかりました。

 

そこで、すべての症例に対して薬物療法を基本としますが、肺水腫・腎機能が急速に悪化する症例、両側腎動脈狭窄、片腎の腎動脈狭窄、治療抵抗性高血圧(3種類以上の降圧剤でも無効)等に対してはステント療法を考慮すべきです。

 

 

〇腎内血流(区域・葉間動脈)の評価方法 腎機能評価において、末梢血管抵抗を示す指標 RI (resistance index:抵抗係数)値が用いられています。

 

これは腎内血管の収縮期最高血流速度と拡張末期血流速度から求めることができる簡便な指標です。

 

RI>0.8 の場合には高度の腎機能障害で予後不良とされています。RI 値が高値となる例では血流を PTRA で回復しても腎機能の改善が難しいことが報告されています。

 

このように、腎動脈エコーは非侵襲的にRASが評価できるだけでなく、腎実質障害の程度、治療方針や効果などの判定に役立つ情報が得られる大変有用な検査法です。

 

高円寺南診療所でも実施できる検査なので、十分に活用していきたいと思います。