認知症の病態と治療…………………名古屋大学 祖父江 元
高齢者の約4人に1人が認知症もしくは認知症予備軍とされる時代になりました。一口に認知症といっても、その背景疾患の種類により、病像や経過、治療法等が異なります。
認知症の根治治療や病態抑止治療開発のために、症例ごとの超早期診断が重要になります。
脳には領域内の機能的な結合や特定の領域間の機能的な統合を高めること等によって、脳の蛋白質老化に抗して認知機能を保つシステムが内在しています。
アルツハイマー病や前頭側頭葉変性症の発症に楔前部・尾状核がハブ領域として関係しています。
また前頭側頭葉変性症の早期診断に繋がる尾状核の異常を早期に検出できる意思決定課題として確率逆転学習が有用です。
近年の画像検査の進歩、とりわけ神経回路解析、PET,網羅的高次機能検査などどれ一つ取ってみても日常診療には馴染めない大道具ですが、確率逆転学習は導入可能かもしれません。
それを良く調べて、検討し、できれば臨床応用したいと思います。
管理が困難な糖尿病とその対策………………東京大学 門脇孝
管理困難な糖尿病として(1)肥満糖尿病と(2)高齢者糖尿病が挙げられました。
治療の二大原則は、①低血糖を起こさないこと、②体重を増やさないこと
(1)肥満糖尿病の治療は、カロリー制限・糖質調整と有酸素運動による減量に加え、血糖管理の上で必要な場合には体重を増加させないビグアナイド薬、Dpp-4阻害薬、GLP-L受容体作動薬、SGLT2阻害薬等を単独あるいは組み合わせて使用します。
これらに対して、SU薬やインスリン注射は避けます。肥満糖尿病に合併し易い高血圧、脂質代謝異常についても管理します。インスリン抵抗性高度例や動脈硬化進展例では、チアゾリジン役を使用することで病態の改善・像区の防止を期待することができますが、心不全等の禁忌や体重の増加に注意する必要があります。
肥満症(BMI≧25)では、現体重の3%の減量、高度肥満(BMI≧30)では、現体重の5~10%の減量を当面の目標とします。
ただし、入院治療をした高度肥満者の4割はリバウンドしてしまいます。有用なツールとして、グラフ化体重日記〔大分医大方式〕や食行動質問票(「くせ」や「ずれ」を自覚させる)があります。
(2)高齢者糖尿病は、65歳以上の糖尿病者とした場合、全糖尿病患者の68%を占めます。重要な課題は、サルコペニアと認知機能低下です。
高齢者糖尿病は日本糖尿病学会・日本老年医学会の「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」にしたがって、高齢者の認知機能・ADLを評価し、重症低血糖を起こし得るインスリンやSU薬等を使用している場合と、そうでない場合に分類します。
分類に応じて血糖管理目標を個別に定めます。投薬量については、腎機能等を考慮しながら慎重に設定します。
高齢者では、サルコペニアやサルコペニア肥満が増加することから、体重だけではなく、体組成も考慮した病態の評価を行います。
摂取エネルギーは原則25~30kcal/kg標準体重の範囲で、サルコペニアがある場合には比較的多めのエネルギー摂取とします。
腎障害がある場合を除いて、蛋白質は比較的多めに摂取します。蛋白質の摂取状況と筋肉量の増減は直接関係します。
運動療法は、有酸素運動(体脂肪を燃焼させる)だけでなく、無理なく実行可能なレジスタンス運動(筋肉を維持・増強させる)、さらにはバランス訓練の併用を勧めます。
門脇先生は、肥満糖尿病、高齢者糖尿病ともに、患者のアドヒアランスや治療意欲を引き出すように患者中心医療を進めることが大切であると述べられました。また、サルコペニア対策としては遅くとも65歳までに始めるようにとのことでした。
門脇先生のレクチャーを受講して、高円寺南診療所は糖尿病診療の実践面においては、最先端を行っているといっても、あながち過言ではないことが確認されました。
体重のみならず、体組成も概ね3か月ごとに実施しています。また、水氣道®は糖尿病治療においてもまさに理想的なエクササイズであることは、参加者であれば容易に理解できることでしょう。
ただし、グラフ化体重日記〔大分医大方式〕や食行動質問票は、再検討して導入をはかりたいと思います。
門脇先生のレクチャーで疑問なのは、患者のアドヒアランスや治療意欲を引き出すことと患者中心医療との関連が不明であることです。
そもそも東大病院は患者中心の医療を実践することに向いているのでしょうか。患者中心の個別的医療を真剣に推進していったとしたら、東大にはエビデンスが集積できなくなり、研究が進まず、論文も生産できなくなります。
せいぜいが、診療ガイドラインに掲載できるような層別化医療を目指さざるを得ないのではないでしょうか。
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