最新の臨床医学:4月1日<輸血の副作用>

輸血は、それをヒト由来の血液または血液成分で補う治療法の一種です。

 

血液は、赤血球、白血球や血小板といった細胞成分と血漿成分からできています。

 

そして、それぞれが独自の働きを持っています。十分な血液を作れない場合や、出血が大量なために、生命に危険が生ずる場合や、血液を固めるタンパク質(凝固因子)が足りず、出血の危険がある場合に、それらを適切に補う必要があります。

 

輸血で補うことができる成分は、主に赤血球、血小板、血漿成分および凝固因子です。輸血は、それぞれの状況に適した血液製剤を選んで輸血します。ただし、これには副作用を伴うことがあります。

 

 

輸血の副作用には、大きく分けて、溶血性副作用と非溶血性副作用とがあり、感染症(輸血後感染症)も問題になります。

 

溶血性副作用には即時型の溶血性副作用としてABO不適合型輸血などがあるほか、遅延型溶血性副作用があります。

 

非溶血性副作用が大多数を占め、主なものは、発熱、アレルギー反応、TRALI/TACO

 

輸血後GVHD(輸血後移植片対宿主病)、輸血後鉄過剰症、高カリウム血症、などがあります。とくに輸血後鉄過剰症では血清フェリチンの増加がみられ、鉄キレート剤を投与します。

 

頻回の赤血球輸血によって生じた輸血後過剰症に対しては、鉄キレート療法としてデフェロキキサミンメシル酸塩(デスフェラール®)、デフェラシロクス(エクジェイド®)が用いられます。詳細については「輸血後鉄過剰症の診療ガイド」が出されています。

 

 

TRALI/TACOについての詳細:

TRALI(Transfusion-related acute lung injury:輸血関連急性肺障害)は、低酸素血症、両側肺野の浸潤影を伴う急性の肺障害(肺傷害・肺損傷)を呈し、呼吸困難等を伴うこともあります。ほかの原因による肺障害を除外するため、診断基準が2004年のConsensus Conferenceで定められました。TRALIの基本的病態は非心原性の肺水腫(肺障害)であり、循環過負荷によるものは除外されます。急性肺障害の危険因子がある場合には、輸血が原因かその病態自体が原因かはっきりしないためpossible TRALIとして区別しています。

 

TACO(Transfusion associated circulatory overload:輸血関連循環過負荷)は1940年代から言及されていた輸血の合併症でした。最近ではTRALI との鑑別の重要性から、基本的病態についての検討が進み、輸血や輸液の過剰な量負荷もしくは過剰な速度負荷と、患者の心、腎、肺機能の低下などにより、呼吸困難をきたすは心不全の病態とされます。

 

 

感染症としては、ウイルス、細菌、原虫などがあります。

 

詳細は、日本赤十字社の医薬品情報(http://www.jrc.or.jp/mr/reaction/

 

が最新の情報を提供しています。

 

そこには、輸血用血液製剤における遡及調査について「血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン」に基づき解説しています。

 

また輸血後副作用にも副作用等報告制度があり、輸血用血液製剤による重篤な副作用や感染症が発生した場合の報告制度について解説しています。とりわけ、輸血副作用の救済制度には、輸血用血液製剤を介した感染症による健康被害についての救済制度があります。

 

この他、生物由来製品感染等被害救済制度という最近の医学の進歩にともなう医療による被害者救済制度も制定されています。

 

また、日本赤十字社ではへモビジランス(血液安全管理体制)を中心に海外の状況についても紹介しています。

 

 

このように、医学の進歩は病人に多大な利益をもたらす反面、実際の医療では避けることのできない副作用など、不利益をもたらすことがあります。

 

こればかりは、個々の医師がどんなに研修しても皆無にすることは不可能です。

 

しかし、万が一の事態が生じた場合でも、様々な被害者救済制度が整備されつつあるのはせめてもの救いです。

 

しかしながら、多くの人々はその存在すら知らず、制度の恩恵に浴することができません。

 

 

臨床医としては、このような制度についても、従来以上に注意と関心を払っておかなければならないことを痛感します。