<連休を、音楽と語学で過ごす>
2月11日(日・建国記念の日)・12日(月・振替え休日)の二日間は、予定では土曜日の水氣道の後は、水戸で過ごす予定でした。
しかし、蓄積疲労の回復と気分の調整を要する事態が生じたために、予定を変更して自宅で静かに過ごすことにしました。
自分の体調や気分の変調をきちんと把握し、まずは自分自身で適切な対策を講じることは、どなたにとってとても大切な心掛けであると思います。
医師も例外ではありません。むしろ、その必要性については、近年ひしひしと感じられます。
患者である皆様を私の診察室にお迎えして、医師として奉仕するのが私の職務の中核のスタイルです。
しかし、私の専門フィールドは、診療所の外、東京の外、さらには外国にも及んでいます。
建国記念の日を迎えて、ふと心を過(よぎ)ったのは、<言霊(ことだま)>という言葉でした。
<古代日本で、言葉に宿っていると信じられていた不思議な力。発した言葉どおりの結果を表す力があるとされた。>【大辞泉】
そして日本は<言霊の幸(さき)わう国>とされ、言葉の霊力が幸福をもたらす国、であるとされます。
古代日本では、文字が無かったのですから言葉は、音(おと)でした。
つまり、言霊とは音霊(おとだま)であったということになります。ただし、音霊なる言葉は、一部の例外的な使用法を除いて一般的には用いられていないようです。
さて、言葉というのは、あらゆる学問の土台となるものです。そして、そればかりでなく、
ヨハネの福音書第1章第1節にも
<初めに、ことばがあった。ことばは神とともにあった。ことばは神であった。>とあります。
これも言霊のことであると解釈することができますが、初めのことばは文字以前のことですから、やはり音霊(おとだま)に通じています。
日本で暮らす私たちにとって、日本語の恩恵を受けていない人を想像することは難しいです。
しかも、職業によっては、日本語以外の外国語も操(あやつ)らなければならないことでしょう。
英語を使わないで済む医師は少ないはずです。
またオペラ歌手は、イタリア語、ドイツ語の他、フランス語その他も操ります。ここで、操る、という言葉を用いましたが、言葉が人を操る、つまり、神が言葉を通して人を操るということを感じています。
医師にとって、言葉は薬です。使い方が適切でなければ、毒にもなります。
言葉が神であるならば、言葉が薬になることは道理だと思います。
しかし、逆に、言葉が毒になることが事実であるとするならば、言葉は悪魔でもあり得るということでしょうか。
文字表記では同じ言葉が、ある人から発せられれば薬、また別の人から発せられれば毒であるとすれば、その違いは何なのでしょう。
文字に変換すると同じでも、アクセントやイントネーション、あるいはリズムや間の取り方によって、相手に与える印象が異なります。
私は誕生から18歳までを茨城県で過ごしたので、茨城のアクセントが心身に染み込んでいます。
今年になって郷里の駅で同郷の高齢者に話しかけられることがありました。
<何か、この人を怒らせるようなことをしたのだろうか>とドキリとする瞬間でした。
その方は、親切に声を掛けてくださっただけなのですが、それが水戸地方の伝統的なアクセントであることに気づき、ほっとしたようなわけです。
誕生以来、東京育ちの娘たちや、両親共に茨城県人でない妻なども、悪意のない私の言葉のアクセントに不快感を覚えるので困惑することがしばしばです。
ましてやよそ様には、私は大きな誤解を与えているのではないかと危惧するしだいです。
郷里を離れて40年。郷里の言葉のアクセントを消去するのではなく、むしろ、最近では、郷里の祖先たちが歌ってきた東歌(あずまうた)に思いを馳せ、万葉集に接近しつつあります。
私がこれまで外国語や音楽(とくに声楽)に馴染んできたのも、母語を慈しみつつ、しかも、なるべく他者に不快感を与えないようなコミュニケーションを願ってきたためなのかもしれません。
こと、おと、ひと、この三つは、きっと一繋がりなのだろうと思います。
それはきっと神に由来するのではないだろうか、そんな思いを巡らせているところです。
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