最新の臨床医学:腎臓病学<腎血管性高血圧>

ある日、20代の女性が頭痛とめまいのために受診されました。

 

<4種類の降圧剤を他の病因から処方されているにもかかわらず、血圧が高いまま>とのことで、以前から職場の産業医から高円寺南診療所を紹介されていたが無視していた模様です。

 

そのかわり耳鼻咽喉科や脳神経外科を受診していましたが、精密検査をしても異常が見つからず、頭痛とめまいがますますひどくなって困り果てていました。

 

 

さっそく彼女の降圧剤を調べてみると、利尿降圧剤もありました。

 

このことから直ちに腹部の聴診を行ったところ、左側の腎動脈領域に血管雑音を聴きとることができました。

 

これは彼女の左の腎動脈に狭窄があることが示唆されます。

 

この段階で、診断は腎血管性高血圧が疑われます。

 

 

この病気は、腎動脈の狭窄化などで腎血流量が低下することが原因となる高血圧です。

 

腎血流量が低下すると腎の傍糸球体装置からレニン分泌が増加すると高血圧をもたらすからです。

 

それでは、若い女性の腎動脈狭窄の原因は何が考えられるかというと、まず線維筋性異形成もしくは大動脈炎症候群を考えます。

 

この症例の場合は、炎症性所見に乏しいため線維筋性異形成を疑いました。

 

 

腎臓の超音波検査(腎血流ドプラーも併用)をしたところ左の腎臓の長径が右の腎臓の長径より1.5㎝ほど小さく、虚血性腎症と呼ばれる進行性の腎不全に移行する可能性が高いと判断しました。

 

この女性の降圧剤の中にはACE阻害薬があり、この病気ではかえって腎機能を悪化させてしまうことが知られています。

 

 

一時は狭窄している右腎動脈に対して血行再建術や血管バイパス術など外科的治療も検討して紹介の準備をしていましたが、降圧剤を変更してCa拮抗薬、β遮断薬、利尿薬の3剤としたところ、徐々に血圧が安定化し、頭痛やめまいもみられなくなりました。

 

 

頭痛やめまいなどありふれた症状ですが、コントロール不良の高血圧が原因でした。

 

いずれにせよ、きちんとした問診がとても大切です。

 

症状のみに焦点を当てて画像診断しても何もわからないことがしばしばあります。

 

そのようなときに、他科の先生たちは「心療内科を受診してください」とアドバイスするようです。

 

 

参照:高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)