東洋医学(漢方・中医・鍼灸)
<漢方の見立て方 ②>
漢方の見立て方を一言で言ってしまえば、それは白か黒かということです(図1)。
いま、黒を陰、白を陽とすると、この世は夜(黒・陰)の世界と昼(白・陽)の世界で成り立っています。
分類学的には2分法です。ただし、夜は永久に続くことはなく、やがて夜が明けて朝を迎えます。
こうして昼がはじまりますが、昼も永久に続くことはなく、やがて日が暮れて夕べを迎え、夜が訪れます。
「陰極まればすなわち陽、陽極まればすなわち陰」といいます。
白が次第に盛んになっていくと中心が黒になり、そこから黒が次第に盛んになっていくと、こんどは中心が白になって、再び白が次第に盛んになっていきます。
図1 陰陽(いんよう)
図2 八卦(はっけ)
陰と陽は、一方が盛んになれば、他方は衰えながら絶えず変化を続けます。
その変化の過程はアナログ的ですが、陰陽の全体(太極)は大局的には変わらず、これはエネルギー保存の法則の原型といえるかもしれません。
また、陰と陽の変化は周期的に繰り返されますから、リズムがあります。
生命の原理は、心臓の拍動のように反復的な繰り返しの動きである拍動です。
これに対して図2は、図1の陰陽の変化の全体像の各局面をデジタル化したものを加えています。陰は- -,陽はーで表されます。
八卦(はっけ)は、古代中国から伝わる易における8つの基本図像。
すなわち、
- (乾) (兌) (離) (震)
- (巽) (坎) (艮) (坤)
の八つです。
8という数字は2×2×2という2進法が元になっています。
漢方の見立ての基本は、病位(表・裏)×病性(寒・熱)×病勢(虚・実)の組み合わせで8つに分類します。
これを八綱といいますが、この八綱をもとに病人の証を弁えることを八綱弁証といいます。
こうした、陰陽に基づく八綱弁証と気・血・水と五行(例えば、肝・心・脾・肺・腎)の組み合わせによって、多様な病態を分類評価することができます。
漢方薬の処方は、こうした見立てをもとに決定していきます。
身近な例を挙げてみます。わかりやすいのは風邪の初期の対応の例だと思います。
まず体力が衰えたときには風邪をひきやすいものですが、漢方薬の基本型に桂枝湯があります。
これは八綱分類での証の見立てが表・寒・虚であるときに処方します。
つまり、病位が表、病性が寒、病勢が虚という見立てに基づき桂枝湯の証とされた場合に処方します。
また、ふだんは比較的体力がある人で、自然発汗が無く、頭痛、発熱、悪寒、肩こり等を伴う風邪で八綱弁証で、表・寒・実証であれば葛根湯の証という見立てができるので葛根湯を処方します。
西洋医学での診断は、いずれも感冒あるいは急性上気道炎であり、上記のいずれの体質の方に対しても同じ処方がなされがちです。
そのため冗談のようではありますが、西洋医学の効き目の方がむしろ当たるも八卦、当たらぬも八卦ということになり、ときには体質に合わず副作用をもたらします。
これに対して漢方では八卦や八綱に基づいて、予め体質や体調を処方判断に取り入れているため、見立てからして区別して、より効果的な処方をすることができ、その上、副作用も少ないという利点もあります。
表・寒までは共通していても、虚証(体力・抵抗力が弱い)であれば桂枝湯、
実証(体力・抵抗力が強い)であれば葛根湯ということになります。
虚実の判定はとても大切で、効果的な治療の手掛かりになります。
高円寺南診療所では、3か月に1回のペース(丁度、春・夏・秋・冬の四季に相当)でフィットネス・チェック(体組成・体力検査)をすることを推奨して、実践しています。
上記の虚・実の見立てを、現代医学・健康科学の視点からもより客観的に把握し、より的確な処方をするためにとても役立っています。
なお、一年の周期も、陰陽の変化そのものですし、月経のある女性の一月の周期も陰陽の変化であり、一週間刻みで春・夏・秋・冬が巡ってきます。
それから毎日の繰り返しも、朝(春)・昼(夏)・夕(秋)・夜(冬)の周期に対応しています。
高円寺南診療所の漢方処方の特徴は、季節ごとに処方を変更することがあること、朝・昼・夕ですべて同じ漢方薬を処方することは少なく、それぞれの時間帯で最も効果的な漢方薬を処方していることが多いということです。
同じ人でも朝・昼・夕・夜の証(体調・気分)は微妙に異なるものです。
従来の漢方処方は、そのあたりを余り考慮してこなかったのではないかと思います。
温故知新(古きをたずねて、新しきを知る)といいますが、高円寺南診療所方式は斬新なものというよりも、むしろ、古典の神髄に根差した根拠のある立場に立脚し、しかも現代西洋医学との組み合わせることによって、高水準の医療を提供しようとするものなのです。
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