日々の臨床 ⑥:11月24日 金曜日< アルツハイマー病は予防できるか?>

心身医学科(心療内科、脳神経内科、神経科を含む)

 

< アルツハイマー病は予防できるか?>

 

21日付けのニューヨークタイムズの国際版の第9面のOpinionの見出しは、

 

What if you knew Alzheimer’s was coming for you?

 

(もし、アルツハイマー病があなたを襲いつつあるとしたら?)

 

最初のパラグラフで、早々と刺激的なセンテンスが飛び込んで来ました。

 

ApoE4,that is strongly linked to Alzheimer’s. Most Americans with this genotype go on to develop late-onset dementia.

 

アポE4はアルツハイマー病と強く関連している。この遺伝子型をもつ米国人のほとんどが晩発性の認知症になっていく。)

 

 

そして、次のパラグラフでは、さらにショッキングなセンテンスが連なっていました。

 

no drug had proven effective in reversing Alzheimer’s disease. And preventive measures like diet and exercise, the neurologist told her, would do no good.

 

(アルツハイマー病を元に戻せると証明された薬はない。その上、食事や運動のような予防法は効果が無いだろうということを神経科医が彼女に伝えた。)

 

 

寄稿者はPagan Kennedy、著述家らしく“Inventology: How We Dream Up Things That Change the World”という本の著者であるということ以外に、詳細な肩書や経歴は掲載されていませんでした。

 

 

アポE4保持者はアルツハイマー型認知症のリスクを3~8倍にまで高めるといわれていますが、アポE4と呼ばれる遺伝子を日本人の5人に1人が持っています。

 

 

私はNHKの報道や日本の有力紙の記事も批判的に読んでいますが、それはニューヨークタイムズも例外ではありません。

 

 

アルツハイマー病に予防法が無いというのは本当だろうかと疑わしく思いました。

 

 

さて、アルツハイマー病では、β(ベータ)アミロイドやタウと呼ばれるタンパク質が脳に蓄積したり、過剰なリン酸化を起こしたりすることで、海馬の委縮や神経伝達組織の機能低下が起こると考えられています。

 

 

最近の内外の研究から、脳内で起こるこうした負の現象の改善に、運動が有効であることが分かってきました。たとえば、運動をすると、βアミロイドを分解する酵素(ネプリライシンなど)が活性化され、βアミロイドの蓄積を防ぐとする報告があります。

 

また、運動をすることで筋肉細胞から放出されるホルモン(イリシン)が、脳の細胞死を抑制する神経栄養因子(BDNF)を増やし、海馬の神経細胞の活性化や神経伝達機能を向上させるとの報告もみられます。

 

さらに、運動が体内の酸化ストレスを減少させ、同時にインスリン分解酵素を活性化させて、タンパク質のリン酸化や蓄積を防ぐ効果があることも指摘されています。

 

 

それでは、どのような運動が、予防に効果的なのでしょうか。

 

 

多くの研究で推奨されているのは、次のような運動です。

 

<アルツハイマー病に効果的な運動方法とは>

 

○ウォーキングやエアロバイク(自転車こぎ)などの有酸素運動が良い。

 

○ウェイトトレーニングなど強い運動を週1回やるよりも、30分程度の軽い運動を週3~4回程度おこなうことが大切。

 

○運動の効果は半年から1年程度は運動を継続することで効果が明確になる。

 

○楽しみながら運動をすることが大切。

 

○運動をしながら、同時に脳に負荷をかける(頭を使う)とより効果的。

 

プログラムに変化をつけ、脳に新しい刺激を与える工夫をしましょう。

 

 

なお、現時点では、骨密度の低下とアルツハイマー病の発症に関連があることがわかっています。

 

骨を強くするためには重力をかけて骨を刺激することが大切です。

 

つまり、骨密度を上げて強い骨にするためには、水泳などの水平運動ではなくスクワット、ジャンプ、ウエイト・トレーニングなど骨に垂直に荷重がかかる立位の運動が推奨されます。

 

しかし、このような運動を陸上でいきなりはじめると関節などに負荷がかかりやすいので皆にお勧めすることはできません。

 

効果的な運動を安全に行うためには、水の浮力を利用でき、しかも垂直運動である水氣道®から始めてみるのがよいでしょう。

 

 

なお生活習慣でとくに気をつけたいのは、喫煙と過度の飲酒です。

 

とくに喫煙と過度の飲酒習慣が重なった場合、海外の研究報告では脳の認知機能の低下が36%も早まることが指摘されています。

 

 

参考文献

 

①Scarmeas N, Stern Y, Mayeux R, Luchsinger JA. Mediterranean Diet, Alzheimer Disease, and Vascular Mediation. Arch. Neurol. 63(12), 1709 (2006).

②Morris MC, Tangney CC, Wang Y, Sacks FM, Bennett DA, Aggarwal NT. MIND diet associated with reduced incidence of Alzheimer’s disease. Alzheimers Dement. 11(9), 1007–1014 (2015).

③Tomata Y, Sugiyama K, Kaiho Y, et al. Dietary Patterns and Incident Dementia in Elderly Japanese: The Ohsaki Cohort 2006 Study. J. Gerontol. A Biol. Sci. Med. Sci. 71(10), 1322–1328 (2016).

④Lim GP. A Diet Enriched with the Omega-3 Fatty Acid Docosahexaenoic Acid Reduces Amyloid Burden in an Aged Alzheimer Mouse Model. Journal of Neuroscience. 25(12), 3032–3040 (2005).

⑤Rezai-Zadeh K, Shytle D, Sun N, et al. Green tea epigallocatechin-3-gallate (EGCG) modulates amyloid precursor protein cleavage and reduces cerebral amyloidosis in Alzheimer transgenic mice. Journal of Neuroscience. 25(38), 8807–8814 (2005).

⑥Wang J, Ho L, Zhao Z, et al. Moderate consumption of Cabernet Sauvignon attenuates A  neuropathology in a mouse model of Alzheimer’s disease. The FASEB Journal. 20(13), 2313–2320 (2006).

⑦ Lim GP, Chu T, Yang F, Beech W, Frautschy SA, Cole GM. The curry spice curcumin reduces oxidative damage and amyloid pathology in an Alzheimer transgenic mouse. Journal of Neuroscience. 21(21), 8370–8377 (2001).

⑧Henderson ST, Vogel JL, Barr LJ, Garvin F, Jones JJ, Costantini LC. Study of the ketogenic agent AC-1202 in mild to moderate Alzheimer’s disease: a randomized, double-blind, placebo-controlled, multicenter trial. Nutr Metab (Lond). 6(1), 31 (2009).

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⑩J Alzheimers Dis. 2017;55(4):1605-1619. doi: 10.3233/JAD-160658.
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⑪Curr Alzheimer Res. 2014;11(7):706-13.
Bone loss and osteoporosis are associated with conversion from mild cognitive impairment to Alzheimer’s disease.
Zhou R, Zhou H, Rui L, Xu J1