日々の臨床⑦:11月18日 土曜日<漢方の見立て方①>

東洋医学

 

<漢方の見立て方①>

 

漢方では、病人を見立てる際には、西洋医学のように病名ではなく(しょう)で分類します。

 

 

分類基準が異なるため、西洋医学の病名診断と漢方の証の見立ては併存しても矛盾は生じません。

 

高円寺南診療所では統合医学的アプローチのため、両者を同時並行で行っています。

 

 

東西医学の併用が有益なのは、たとえば何人かの患者さんが西洋医学で同じAという病名診断をした場合に、それぞれの患者さんに同様の治療を施すことになりますが、それに加えて漢方での見立てをすると、必ずしも同じ<証>ではありません。

 

むしろ、それぞれに異なる<証>であることが普通です。

 

たとえば、A病の3人が、それぞれ甲の証、乙の証、丙の証、ということになります。

 

その場合、高円寺南診療所では、3人の患者さんをA-甲、A-乙、A-丙と認識して、それぞれに最も適した治療方法を選択するようにしています。

 

それによって、治療効果のメリットを最大化し、副作用などのデメリットを最小化することを試みているのです。

 

 

 

さて<証>とは、具体的には陰-陽表-裏寒-熱虚-実という8綱4対の基本尺度の組み合わせに基づいて、病状を分析し、これらを統合して正しい見立て<証>に至ろうとする方法です。

 

このように見立てのために8綱の尺度概念を用いるため、この方法は八綱弁証(はっこうべんしょう)と呼ばれています。

 

 

表裏とは病気のある場所、寒熱は病気の性質、虚実は病邪の強弱と身体の抵抗力の強弱との相対関係をそれぞれ表しています。

 

そしてこれらのすべてを総括する概念が陰陽です。

 

 

今回は陰陽の見分け方について説明いたします。

 

 

私は、患者さんを前にしたとき、必ず陰陽の事前鑑別をします。

 

ただし、これはあくまでも仮説です。

 

なぜなら<病気は病人を騙(だま)し、したがって病人は医者を欺(あざむ)く>のが普通だと考えているからです。

 

それならば、なぜ事前鑑別が必要なのでしょうか。

 

それは、必要の有無以前に、必然的に行ってしまう作業だからです。

 

つまり、私の右脳系による無意識の印象形成です。

 

無意識であるから直接コントロールすることは難しいです。

 

しかし、これは、それ以降の見立ての手続きによって逐次再検討を加え、場合によっては仮説を修正します。

 

むしろ、限られた情報だからといって判断保留をすべきだという左脳系の指令をまともに受けてしまうと、かえって西洋医学的な還元的先入観に支配されしまって、盲点が広がってしまいかねないからです。

 

 

また、はじめに仮説を立てて、次に検証を加える、といったプロセスを重ねていくと、次第に勘が鋭くなり、感覚も研ぎ澄まされてくるというメリットがあります。

 

この方法は、西洋医学的にも応用可能であり、たとえば、問診や打聴診などの簡単な診察によって、心臓の拡大を疑った場合、

 

レントゲン撮影をする前に、その大きさを予め推定しておいてから撮影して、予測と実際の画像所見がどれだけ一致していたかどうか、

 

ということは医師一人だけでも実行可能なセルフトレーニングです。

 

 

さて、こうした前置きの後に、陰陽とは何か、に戻ってみましょう。

 

 

陰陽は表-裏(部位)、寒-熱(生理的活動)、虚-実(組織構造)を統合した概念です。

 

 

とは人体の構造的物質的な側面、とは心身の機能的運動的な側面(心理機能と生理機能)を指します。

 

陰という人体の器に陽という内容が心身の総体が満たされていて、両者は相互依存の関係にあると考えます。

 

 

典型的な<陰証>と見立てることができる場合では、

 

病気の部位裏(身体の腹面、下部)にあり、生理的活動性(抑制、衰退)状態であり、

 

病気の影響を受けている組織構造(筋骨、五臓)で、「血」の状態に変動が生じ易いです。

 

 

たとえば、お腹(裏)が冷えて(衰退)下半身の筋力(筋骨)が低下しているような病人は「血」が不足しているか、巡りが悪い可能性があります。

 

このような病人は<陰証>と見立てられることでしょう。

 

 

典型的な<陽証>と見立てることができる場合では、

 

病気の部位表(身体の背面、上部)にあり、生理的活動性は(興奮、亢進)状態であり、

 

病気の影響を受けている組織構造(皮毛、六腑)で、「気」の状態に変動が生じ易いです

 

 

たとえば、背中や肩(表)が凝っていて、気持ちが興奮している状態(興奮、緊張亢進)、鳥肌は立つが汗がかけない(皮毛)という病人は「気」の流れがせき止められているか、上逆している可能性があります。

 

このような病人は<陽証>と見立てられることでしょう。

 

 

しかし、実際の臨床上では、陰陽錯雑(いんようさくざつ)といって、陰の中にも陽があり、陽の中にも陰があることが多く、

 

このあたりを深く見立て、一人一人の全体像を把握することが必要になります。

 

 

なお、水氣道®の稽古のプログラム体系も、身と心のバランス陰陽のバランスの調整に向けて構成されています。

 

水氣道®の稽古を通して、私たちは自分自身の見立てをすることができるようになり、また、それに基づいたバランス調整プログラムを組み立てて実行できるようになります。