<分類困難な患者群から学んできたこと>
その4・・・“患者モドキ”について
“患者モドキ”とは、患者としての自覚がない来談者です。
たいていは、家族など身内の問題で自らが悩んでいる方々です。
こうした方々は、① 電話でのお問い合わせ、②直接ご来院の上でのご相談、いずれの場合もあります。
実際には①の場合が多いのですが、高円寺南診療所のような零細医療機関では十分に対応できないことが少なからずあります。
なぜなら、ご相談内容が明確でないまま、長電話になりがちで、受付機能が麻痺してしまうからです。
これに対しては、事務職員を二人体制とすることで緩和できますが、零細医療機関では常時二人体制というのは現実には難しいです。
電話対応のためだけに専属の職員を一人確保する余裕はありません。
最近とくに増えているのは、<安全で安価な欲求不満のはけ口>として、あちこちの開業医に電話しまくっているようなタイプの方々です。
訴えは多く、複雑で、切々と苦悩を訴えるので、つい話に引き込まれてしまい、あるいは一方的に途切れなく話し続けるのですが、結局<遠方なので、通院できない>という方です。
最初から、受診するつもりのない、得体のしれない方は、被害者意識、弱者意識が強く、こうした“魂の病”にとりつかれた匿名の病人の方々に振り回される医療機関は非常に困惑します。
高円寺南診療所が対応できるのは、身体疾患の方の他には、せいぜい、何とか病識があり、受診意思のある“心の病”の方までが限度です。
電話対応で、最も困るのは、どうしても医師(院長)に取り次いでほしい、という強引な方です。
明らかに業者であれば、窓口で鄭重にお断りして済むことですが、中には患者成り済ましの方、公的機関の職員や各種関連医学会の事務局員を騙る方など、やっかいな方々も紛れ込んできます。
医師(院長)は、大抵の場合は、すでに目の前の患者さんを診察しております。
順番を待って診察室に入ってこられた患者さんにとっての貴重な時間を中断する権利など、面識すらない第三者にあろうはずはない、と考えますが、いかがでしょうか。
電話で用件を済ませたいと考えている人には、精神的な余裕が無く、大きな不安に取りつかれているためか、相手方がいつでもすぐに対応して当然と考えているようですが、ご一考願いたいところです。
医療に限りませんが、迷惑を受けているかもしれない第三者が具体的にイメージできないと、ついついマナー違反であることに気付けず迷惑行為をしてしまいがちです。
ただし、緊急の問い合わせ、ということもありますから、やむを得ないこともあります。
ですから全面的にご遠慮願うこともできず苦慮します。
そこで、何とかご自分の足で来院することが可能な方は、受診していただくのがベストです。
それが不可能な場合は、近医あるいは場合によっては救急車の要請をご一考いただきたいと思います。
②の場合、直接ご来院の上でのご相談であっても、ご用向きが来談者ご本人でない場合の対応も簡単ではないことが少なくありません。
この場合も来談者は直接、医師(院長)との面談を希望されることが多いです。
しかし、零細医療機関であっても高円寺南診療所はチーム医療を構築し展開することによって、規模の大きな医療機関が必ずしも得意としない重要なサービスを提供することができるのです。
つまり、各職員が現場での一つ一つの臨床経験の積み重ねと、毎週実施している院内カンファレンスで研修を続けています。
それにもかかわらず医師(院長)以外の高円寺南診療所の一人一人の職員を信頼していただけないとすれば、それは医師(院長)自身の管理・教育能力を含めて信頼されていないことと同義であるとすら考えています。
信頼のないところには、その後のチーム診療において双方にとって好ましい結果はもたらされません。
ですから、担当職員との事前の面談をお受けいただけない場合は、ご相談はお引き受けしないようにいたしております。
また、<病識の無い、受診意思のない>家族を何とか説得して欲しい、という御希望も少なくないです。
公的な相談窓口がみつからずお困りであることには同情いたしますが、それにしても全くの筋違いです。
病識があって、さらに受診意思があってはじめて“患者”というステータスが得られるはずだからです。
病識があっても、受診意思が無ければ、“病人”ではあっても、“患者”ではありません。
医療機関はすべての“病人”を受け入れる所ではなく、それに相応しい“患者”様のみを受け入れ、医療上の奉仕をする所です。
大切なのは、<病識がないが、患者本人以上に困っている>という御家族の方です。
私は、このようなご家族の方を、“患者モドキ”の一種に分類しています。なぜなら、一定の割合で、このような皆様自身が“病人”だからです。
“病人”の方が、ひとたび医療機関を訪れれば“患者”になるのが通例ですが、どうしても“患者”として扱われたくない方々は、まさに“患者モドキ”ではないでしょうか。
多くの小児科のドクターも、いわゆる“モンスター・ママ”などの対策で苦慮されているようです。
あまり使いたくない言葉ですが、<母原病>の患者さんなどは、典型的な“患者モドキ”として分類できそうです。
しかも、<母原病>は、思春期頃までに解決されないまま、年余にわたって継続し、さらに複雑化し、子が中高年に達し、社会的にも十分成熟しているにもかかわらず、不適切に親が介入してくることもしばしばです。
コミュニケーション不足による思い込みや囚われ、さらには妄想に至っていることがあり、それを医療機関や学校、場合によっては職場などに責任を転化して、自分の気が済む解決を迫ろうとするケースも散見されます。
原因や責任の所在が明らかであっても、他に原因や責任を転嫁しようという態度であれば、永久に問題は解決できないと思います。
いずれの専門か、ということによらず、自らの病識が無い、あるいはそれを受容しようとしない来談者の扱いは、とても厄介であり、保険診療制度の枠組みでは、とうてい解決できないテーマの一つだと思います。
医師をはじめとする医療従事者、介護従事者は、決して強い立場にはありません。
むしろ、社会的弱者であるとさえ思われるような事例が増えてきているのは、とても残念な思いがいたします。
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