日々の臨床⑥:10月27日金曜日<心身医学を正しく理解しましょう!>

心身医学科(心療内科、脳神経内科、神経科を含む)

 

<心身医学を正しく理解しましょう!>

 

 

心身医学とは、患者を身体面とともに心理面、社会面(生活環境面)を含めて、総合的、統合的にみていこうとする医学です。

 

つきつめれば、心身医学は総合医学を超えて統合医学を志向する医学です。

 

このように紹介させていただきながら、私は、心身医学は臨床医にとって、ごく当たり前の基本的な医学だと感ぜずにはいられません。

 

つまり、日々の臨床を振り返るに当たって、一人一人の患者さんに対して、身体面はもちろんのこと、

 

心理面、社会面(生活環境面)を含めてきちんとみていたかどうか、という反省を繰り返し、積み重ねていくことこそが現場の実地医療だと考えるからです。

 

 

しかしながら、現代医療は専門分化が極端にまで進み、また診断や評価の手続きは煩雑であり、

 

そのため、たとえば大学病院での診察は、たとえば身体面でさえ、その一部をみるのが精いっぱいというのが実情です。

 

これは已むを得ない現実です。

 

また、地域の基幹病院である総合病院も、多種多様な専門診療科の寄せ集め(総合)ではありますが、それぞれの診療科相互の連携は必ずしも密接ではありません。

 

患者さんは一つの体で一つの人格を持つ存在であるにもかかわらず、多数の症状を訴えると、複数の科を受診することになりますが、

 

健康状態や全体的な病態について統一的に理解することはとても難しいはずです。

 

なぜ難しいのかというと、それは各科のいずれの専門医に答えを求めても、おそらく彼らの能力を超える質問だからです。

 

それでは、誰がその役割を果たしてくれるでしょうか。

 

まずは、身体面が基本ですから、内科医、それも総合内科医ということになりますが、残念ながら総合内科=統合内科ではありません。

 

 

それでも諦めてしまうには及びません。それを担当することを目指して修錬を続けているのが心身医療専門医です。

 

心療内科医というのは、まさに心身医療の内科分野を担当する医師です。

 

心療小児科、心療婦人(女性)科、心療皮膚科、心療整形外科といった分野を提唱する向きもあり、

 

とても重要な領域だと思いますが、ほとんど認知されていないのが実情ではないでしょうか。

 

心身医療の分野の中核として確立したはずの心療内科専門医にしても

 

2017年10月1日現在で全国では118名、都内では27名、杉並区では2名、末松弘行先生(東大心療内科名誉教授)と私の2名のみです。

 

心療内科の看板は、とくに精神科に併記されていることがほとんどです。

 

それが心療内科を解りにくくさせている主要な原因の一つであることは否めません。

 

 

それも、精神科を明示せず、神経科、心療内科を併記する精神科医がほとんどなので、さらに患者さんは迷うことになるのではないでしょうか。

 

心療内科医は、少なくとも身体面(主に内科領域)の診療を基盤として、そこから心理面、社会面(生活環境面)を含めて、総合的さらには統合的にみていこうとする臨床医です。

 

 

たとえば線維筋痛症の患者さんは、心療内科専門医こそが責任をもって担当すべきだと思います。

 

精神科専門医は、しばしば線維筋痛症の患者さんに身体表現性障害という診断名を付けて、向精神薬を中心とする薬物療法を試みがちであるし、

 

整形外科やペインクリニックの専門医は慢性疼痛ということでオピオイド(麻薬性鎮痛剤やその関連合成鎮痛薬)を処方して痛みを強力に抑え込もうとする例が目立ち、

 

患者さんの苦悩を受け止めることが困難な場合は、心療内科を受診するように勧めるケースが多いようです。

 

ただし、紹介先が心療内科専門医であればまだしも、心療内科を標榜するだけの精神科医を受診させるのが圧倒的に多いように思われます。

 

多くの精神科の先生方もご苦労されているようです。

 

 

この現状を解決するためには、心療内科専門医の積極的育成が急務であるはずです。

 

しかし、心療内科専門医になるには、内科の専門的研修に加えて、心理学・精神医学、家庭医学や産業医学を含め心身医学を学び十分な訓練を受けなくてはなりません。

 

そのため、道のりは遠く厳しく、苦労の割には経済的見返りが乏しい、と映るためなのでしょうか、

 

心療内科専門医を志そうという平成生まれの若手医師はとても少ないのが残念でなりません。