一般内科(循環器・消化器・内分泌・代謝・栄養関連の病気)
<腹痛の診療>
腹痛は、高円寺南診療所の初診時の訴えで多いものの一つです。
中には急性腹症といって、直ちに外科手術が必要なケースもあるので、診断の手順は特に慎重を要します。
1)バイタル・チェック・・・高円寺南診療所では、診察に先立ち、必ず血圧、脈拍を計測していただいています。
これを習慣的に行うことで突発的で重大な医療事故の発生を未然に防ぐことが可能となります。
2)問診・・・腹痛発現の状態、性状、程度、経過、食事摂取との関連などについて行います。
問診の間に、患者さんの呼吸状態(バイタル・チェックの継続)を観察しています。
腹痛がどんなときに悪化して、あるいは軽快するかを確認します。
たとえば、胃潰瘍では食物摂取により腹痛がひどくなります。
嘔吐した後に楽になるのは胃もしくは十二指腸・空腸などの病気、排便後に軽快するものは小腸もしくは大腸の疾患、をそれぞれ疑います。
また、体を動かしたり咳をしたりすると痛みがひどくなれば腹膜炎を疑います。
座ったり、前屈位をとったりすることによって痛みが軽くなるのは後腹膜臓器のうち膵臓の病気を疑います。
3)診察・・・まず患者さんの診察ベッド上での姿勢を観察します。
痛みを訴える方を下にして側臥位をとりたがる場合は、腹膜炎を疑います。
身体をじっとし、冷汗を出しているような腹痛は重篤です。
視診によって腹部膨隆の有無、聴診では腸閉塞時の腸管ぜん動不穏、調雑音の亢進、金属音など聞きのがしが無いよう注意深く聴診します。
腹部血管雑音が聴取されることもあり、その場合は解離性大動脈瘤や腸間膜血栓症を疑います。
触診で最も重要なのは圧痛の有無です。
自発痛の部位と圧痛の部位が一致すれば、その部位に腹痛の原因がある可能性が高いです。
腹部全体が硬くなる筋性防御を呈する場合は、汎発性腹膜炎であり、広い範囲に腹膜炎が波及している所見です。
炎症が高度の場合は腹壁が板のように固くなり板状硬といいます。
また、比較的初期の段階であれば、圧痛の確認時に反動痛があれば、腹膜刺激症状として腹膜炎を疑います。
4)検査・・・①一般検査、②生化学検査、③腹部単純エックス線検査、④腹部超音波検査、⑤造影検査など
①一般検査:血液一般検査では白血球数とその分画(好中球成分が優位か?)を調べ、炎症の有無と、その程度、および種類を判断します。
また赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値を調べ貧血の有無を確認します。
検尿は血尿、血色素尿および尿路感染症の診断に有用です。
高円寺南診療所では、以前から尿検査を重視してきましたが、それによって多くの病気の早期発見を可能としてきました。
②生化学検査:血液生化学検査では、CRP、血清電解質、腎機能、血清アミラーゼ(膵炎の診断)、胆道系酵素(胆石症、胆のう炎の診断)などで原因臓器の特定を探ります。
③腹部単純エックス線検査:急性腹症の診断には欠かせない検査の一つです。
腹部単純エックス線検査は、まず立位撮影を行います。
これによって、横隔膜下のガス像を認めると消化管せん孔です。
腸管内ガスの異常貯留、鏡面像をみれば腸閉塞が疑われます。
実際に、高円寺南診療所で経験する急性腹症の70%程度は、腸管内ガスの異常貯留によるものです。
その他、胆石、膵石、尿路結石を認めることもあります。
④腹部超音波検査:急性腹症の患者さんで、急性虫垂炎が疑われる場合には役に立つ検査です。
とくに女性で右下腹部痛がある場合、虫垂炎なのか卵巣の病気なのか鑑別が難しい場合は、超音波検査が有用です。
虫垂壁に浮腫を認めれば虫垂炎の診断がつきます。
また、子宮外妊娠などに遭遇したこともありました。
腸管の拡張、腸内容物の貯留があればイレウスと診断でき、遊離ガスがあれば消化管せん孔の手掛かりになります。
さらに堪能結石、総胆管結石、膵炎などの胆・膵疾患や尿管の拡張を認めれば尿管結石を見落とさないようにします。
かつて、<女性患者を診たら妊娠を疑え、妊娠を疑ったら子宮外妊娠を忘れるな>という教育を受けたことがありますが、
この教えの御蔭で、一人の女性の命を救えたことへの感謝は忘れません。
⑤造影検査:近年では内視鏡検査が優先されることが多くなっていますが、それでも上部消化管造影検査は、とくに腫瘍の検査などに用いられています。
なお高円寺南診療所の症例では機能性の消化管障害が多数を占めるため、特に上部消化管の働きを確認することが重要な課題となっております。
内視鏡検査は局所の組織形態の観察には優れますが、臓器全体の機能の観察には、造影検査によって得られる情報が内視鏡では得にくいことを経験しています。
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