日々の臨床② 10月9日月曜日<老年医学>

総合医療・プライマリケア

 

<老年医学>

 

老年医学とは、高齢者を対象とする臨床医学の専門分野です。

 

臓器別の高齢者疾患へのアプローチだけでなく、老化に伴う高齢者特有の諸条件を考慮してのアプローチを必要とします。

 

さらに、個々の高齢者の価値観やQOLなどの側面までを含めた包括的な対応が求められる分野です。

 

 

高齢者の定義は、一般に65歳以上の人と定義されます。

 

そこから74歳までを前期高齢者、75歳から84歳までは、後期高齢者、85歳以上を超高齢者としてきました。

 

ところが、最近では元気で活動的な高齢者が増えたせいか、老人の定義を75歳以上の人に改めてはどうか、という提言もなされているようです。

 

そうなると、たとえば後期高齢者を90歳以上、超高齢者を100歳以上、という具合に改められていくかもしれません。

 

 

日本では1970年に高齢化率が7%を超え、高齢化社会となり、

 

1994年にはこれが14%を超えることで高齢社会、

 

さらに2007年には21%を超えたため、超高齢化社会になりました。

 

 

高齢者の多くは、生理的老化に伴う症状と、病気やケガなどによる病的老化に伴う症状が重複しています。

 

そこで、これらの診断、治療、生活指導に至るまでを一括して行うのが老年医学の役割であると考えると解りやすいかもしれません。

 

 

高円寺南診療所では、患者さんに「症状の原因は歳のせいでしょうか」と尋ねられて

 

「はい、おっしゃる通りです。あなたの症状は歳のせいです」などと見立てることは、ほとんど無かったように思います。

 

歳のせいと考えれば、患者さんは諦めざるを得なくなりますし、

 

医師も何となく責任逃れができるので、ある意味、双方の気が楽になる可能性はあります。

 

そうなると、とたんにその患者さんに対する医療の質が低下することになることは大きな損失です。

 

 

そうならないためには、老化という現象には、上述のとおり、生理的な老化と、病的な老化があること、

 

そして、両者はまったく無関係ではなく、密接な関係をもっていることを、改めて考察する必要があると思います。

 

 

可能な限り、高齢の患者さんの訴えが老化に基くものなのかどうか、

 

そして、それらが老化現象だとして、生理的な現象なのか、病的な現象なのかを、注意深く観察して、可能な範囲で見極めておくことが、

 

その後の診療方針を決定する上で、とても大切だと思います。

 

 

それでは、生理的老化とはどのようなものでしょうか。

 

このタイプの老化は全ての人の加齢に伴って発生する生理的な機能低下です。

 

成熟期を過ぎてから、ゆるやかに、かつ不可逆的に進行します。

 

白髪、老眼、シミやシワなどがその典型例で、多くの場合では年相応に進行していく老化現象です。

 

 

これに対して、病的老化というものがあります。

 

これは特定の疾患に罹患したり、環境要因などのストレスにさらされたりした人に生じる著しく加速された老化です。

 

高血圧、動脈硬化、骨粗しょう症などがその例ですが、治療によってある程度可逆的です。

 

 

高円寺南診療所では、水氣道®参加者の皆さんに、季節の変わり目である3か月ごとにフィットネス・チェックを実施して、

 

身体組成や骨密度にもとづく構造年齢、肺年齢や稽古の成果を評価し、水氣道®によるアンチエイジングの進捗を評価しています。

 

また、水氣道®参加者でない皆さんにも、可能な限り半年に一回はフィットネス・チェックを受けていただいて、病的老化の早期発見と治療に役立てています。

 

 

そもそも高齢者の疾患の二大特徴は“多様性”と“非典型性”にあるとされます。

 

“多様性”とは、高齢者の病態は若年者とは大きく異なり、多くの疾患に同時に罹ることです。

 

また“非典型性”とは、若年者では現れる症状が、はっきりと現れにくく、陽性所見を取りにくい場合が多いことを意味します。

 

そして、“多様性”と“非典型性”とがあいまって、多くの疾患を併発しているため、現れる症状や所見は、そうした複数の疾患からもたらされる場合が多いです。

 

その他の特徴としては、病気の治療によって改善しても、容易に再発を繰り返しやすいこと、

 

精神・神経症候をもって発症しやすいこと、

 

本来の疾患とは直接関連性が少ないはずの合併症を併発しやすいこと、

 

病気の予後は心理社会的要因の影響を受けやすいこと、などが挙げられるでしょう。

 

 

こうした事情が背景となって、高齢者は複数の医療機関にまたがって医療提供を受ける可能性が高く、

 

それぞれの担当医が、その高齢者の全体像を把握しにくいまま、治療薬を処方し、

 

全体として、かなりの種類と数の薬剤を抱えることになります。

 

それにもかかわらず、高齢者では各臓器の機能が低下しているため、薬剤による副作用発現も急増しやすくなります。

 

 

高円寺南診療所では、高齢者に限らず、なるべく漢方薬を上手に活用しています。

 

 

なぜなら、現代医学的発想に立つならば、極端な話をすれば、症状の数だけ処方薬が必要になりがちです。

 

これに対して、漢方薬は、複数の症状をカバーできるので、薬の処方をシンプルにすることができます。

 

また、漢方薬の多くは身体症状ばかりでなく、それに付随する精神症状も同時に改善できることが少なくないからです。

 

また、水氣道®の稽古に稽古的に参加している方や定期的に鍼灸治療を受けている方は、

 

病気やケガに罹りにくくなるばかりでなく、症状が現れやすいため、早期に病気を気づくことができ、治療による反応も良好です。

 

こうした意味においては、水氣道®や鍼灸・漢方薬による治療は高齢での老化の進行を遅らせるアンチエイジング効果がみられます。

 

しかも、病的な老化の治療のみならず、生理的な老化にも、アンチエイジング効果が及んでいるように観察されます。