総合医療・プライマリケア
<総合医療>
"総合医"か"総合力のある専門医"か?
近頃、総合医(General Physician:ドクターG)という言葉が流行っているようです。
しかし、私が数回テレビ番組で見た限りドクターGは、
残念ながら私がモデルとしたいと思えるような実際的な医師像からはかけ離れ、むしろマジシャンのように思えました。
実際的な総合医が活躍できない理由は、なぜでしょうか。
それは日本の医療事情が非常に奇妙な現象に晒されていることと無関係ではなさそうです。
日本は世界でも有数の診療レベルを誇っている一方で、世界でも有数の医師不足に陥り、とても歪(いびつ)な様相を呈しています。
そのため医療資源の地域格差、診療科格差はますます深刻な問題となっています。
国民皆保険の下で、万人が医療保険を負担しながら、
受けることのできる医療の質と量には不公平な地域間格差、疾患間格差が出ています。
疾患間格差というのは、現行の保険医療で高額な薬剤費までもカバーしてできる病気がある一方で、
十分安価に治せるのにもかかわらず、その多くが非薬物療法であるためか、治療法を健康保険がカバーしてくれないため、
医療経営を逼迫させるほど採算がとれない、たとえば線維筋痛症、心身症などの病気が存在するからです。
医療供給の客観的な指標としての医師数は1980年を最高に増え続けた後、年々減少に転じました。
そればかりではなく質においても、各臓器の専門医数の減少だけではなく、自分の専門以外は診ない、あるいは診ることができない医師の急増、
その結果、患者の<たらい回し現象>を引き起こしてしまったのです。
ドクター・ショッピングなどと患者を批判する資格は国にも医師にもありません。
それ以前に、患者に信頼される医師を育成し、そうした本物の医師を社会全体が継続して支援すべきすべきではないでしょうか。
そこで「旧き良き時代に戻れ」、とばかりに専門以外の患者も診ることの重要性が再認識され新臨床研修制度が始まりました。
しかし、「専門以外の患者も診る」ことは、医療訴訟などのトラブルに巻き込まれ易いという、患者・医師の双方にとって大きなリスクを伴います。
そのような事情もあるためか患者の大病院集中、専門医志向は一向に改まりません。
とりわけ権威主義、ブランド大病院志向の患者に対しては、診療所の医師は専門医資格を複数取得していても信頼を得ることは難しく、全く無力ですらあります。
しかも、有効かつ安全、そして適切に行える一般医療の提供すら拒否されかねないのが現実なのです。
心身の衰弱によって大病院に通院することが困難にならない限り、診療所受診を受け入れようとはされません。
もっとも、受け入れてくださるのではなく、やむを得ず受診され、これまで受けてきた医療の様式の継続を要求しようとされるわけです。
これは双方にとって不幸と言わざるを得ません。
この現実を知らずに“総合診療医”もしくは“総合力のある専門医”を目指す若手医師の大半が、
やがて厳しい現実に直面して失望し、途方にくれるのではないか、と憂いています。
近未来を見通せる勘の良い若者は大学受験の段階で、すでに医学部医学科を候補から外していることでしょう。
2008年には医学部定員を増やす国の施策が開始。徐々に年間1000人の医学部増員となりました。
しかし、地域格差を埋めるほどの専門医育成には少なくとも10年を要するとされます。
日本は10年も経たないうちに2025年問題に遭遇します。
患者の高齢化とともに多疾患を抱え病態が複雑化した患者が激増してくるのです。
そこで求められる医師の能力・責任・リスクも加速度的に拡大していきます。
しかし、経済的・社会的評価はむしろ低下し、ひたすら理不尽で不合理な奴隷化へ向かっている、といっても過言ではないようにさえ思えてきます。
この現実に対応できる医師像として、“総合診療医”もしくは“総合力のある専門医”に他ならないと考える単細胞な医学教育者が現れ出しました。
また同様の認識に立ち危機感を覚えたに厚労省は、遅ればせながら2020年東京オリンピックまでに30,000人の総合医育成の目標を掲げました。
その甲斐あってか2017年現在で、すでに家庭医療専門医(日本プライマリケア連合学会)579人、総合内科専門医(日本内科学会)26,679人、合計で27,000人強に達しました。
家庭医療専門医もしくは総合内科専門医が“総合診療医”もしくは“総合力のある専門医”という認識であれば、少なくとも数の上では、概ね目標に到達したことになります。
新専門医制度は、こうした総合医、総合力のある専門医育成を願って始まる制度でもあり、当初、新専門医制度は2017年開始予定でした。
それが実際には様々な矛盾含みであったため、意見の集約や実施のための足並みがそろわず2018年にして漸く開始できるかどうか、という状況です。
それで確たる展望を持てず、落ち着く先が見えない若手研修医を大いに悩ませる結果を招くことになっています。
“総合診療医”もしくは“総合力のある専門医”では不足であり、
“総合診療医”かつ“総合力のある専門医”となることを目標とすべきでしょうが、
それは他のあらゆる臓器別専門医になるよりも、はるかに高度で長期の忍耐を要する道程です。
しかも、それに見合った社会的評価(医師からも、患者からも)受けることができるだろうとは、到底思えません。
厚労省にとっても患者にとっても都合の良い、救世主ともいうべき医師であるはずの“総合診療医”かつ“総合力のある専門医”を助けてしかるべきであるにもかかわらず、
助けると見せかけて、実のところは次々と裏切りを続け、足を引っ張る結果を招いてきた、という歴史がすべてを物語っているからです。
次回からは、こうした厳しい現実を踏まえながら、それにもかかわらずたくましく継続していくことが可能な総合医療・プライマリケアについて、皆様と共に実践していく方法を考えていきたいと思います。
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