血液・造血器の病気
<多発性骨髄腫>
多発性骨髄腫(MM:Multiple Myeloma)は、
「骨髄腫細胞」が主に骨髄で増え続け、体にいろいろな症状があらわれる病気です。
40歳未満での発症は非常にまれで、年齢が進むにつれて発症数が増加し、性別では男性にやや多い傾向があります。
わが国では1年間に人口10万人あたり5人発症するといわれています。
多発性骨髄腫は無症状の場合もあり、血液検査、尿検査で異常を指摘されてはじめて発見されることも少なくありません。
最近では、健診や人間ドックの血液検査で異常が発見され、精密検査で多発性骨髄腫と診断されることが増えています。
血清アルブミン値と血清β₂マイクログロブリン値によって3つの病態水準を分類します。
さらに2015年には血清LD値が正常上限より高い場合や、
FISH検査で3つの染色体異常、del(17P),t(4;14),t(14;16)が認められる例では予後不良であることが示されました。
一般的には慢性の経過をたどりますが、まれに急激に進行する場合もあります。
また、症状についても個人差が大きく、個々の患者さんの病状に合った適切な治療を選択することがとても重要になります。
骨髄腫細胞には、さまざまな遺伝子や染色体の異常が生じていることが知られていますが、その原因ははっきりしていません。
この病気のしくみを理解するためには、血液に関する若干の予備知識が必要です。
まず、血液中には酸素を運搬する赤血球、出血を止める働きがある血小板、免疫をつかさどる白血球やリンパ球などの血液細胞があります。
これらはそれぞれ体を守るために大切な役割をもっており、
造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)と呼ばれる細胞から、
それぞれの形態・機能をもつ血液細胞に成熟していきます。この過程を分化といいます。
多発性骨髄腫は、これら血液細胞の1つである「形質細胞(けいしつさいぼう)」のがんです。
形質細胞は、骨髄(「血液の工場」)で造られる血液細胞のうち、白血球の一種であるB細胞から分かれてできる細胞です。
この細胞は、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物から体を守ってくれる「抗体」をつくる働きをもっています。
この形質細胞ががん化して骨髄腫細胞になり、多発性骨髄腫を発症します。
骨髄腫細胞は骨髄の中で増加し、異物を攻撃する能力がなく、
役に立たない抗体(これをMタンパクと呼びます)をつくり続けます。
これらの骨髄腫細胞やMタンパクが、さまざまな症状を引き起こします。
多発性骨髄腫では、骨髄の中で増殖した骨髄腫細胞によって、
正常な血液細胞をつくり出す過程(造血)が妨げられるために、
貧血による息切れ・だるさや、白血球減少に伴う感染症、血小板減少による出血傾向などが生じます。
また、骨髄腫細胞が正常な形質細胞の居場所を占拠してしまうために、
免疫機能の低下(正常な抗体産生の減少)を来します。
さらに骨髄腫細胞が無制限に産生するMタンパク(異常免疫グロブリン)による症状として、
腎障害や血液循環の障害(*1過粘稠度症候群:かねんちょうどしょうこうぐん)や(*2 アミロイドーシス)が起こります。
免疫機能が低下すれば肺炎や尿路感染症などの感染症が起こりやすくなります。
また、骨髄腫細胞によって刺激された破骨細胞(はこつさいぼう:骨を溶かす細胞)が骨の組織を破壊してしまい、
骨痛や病的な骨折(*3 圧迫骨折)、脊髄(せきずい)圧迫による麻痺(まひ)(*4 脊髄圧迫症状)などに加えて、
血液中にカルシウムが溶け出すことにより高カルシウム血症が起こることがあります。
さらに、各臓器の機能も低下するなど、さまざまな症状を引き起こします。
※1 過粘稠度症候群:血液中のMタンパクが大量に増加することにより、血液の粘性が高くなり、血液の循環が悪化する状態。
*2 アミロイドーシス:Mタンパクの一部がさまざまな組織に沈着して、臓器機能を低下させる状態。
*3 圧迫骨折:脊椎(せきつい)の強度が弱まり加重によって押しつぶされること。多発性骨髄腫で骨髄腫細胞の影響で骨が弱くなり、骨折しやすくなる(病的骨折)。
*4 脊髄圧迫症状:脊椎が変形して神経が圧迫されるために生じる疼痛(とうつう)・手足のしびれ・麻痺、排尿・排便の障害などの症状を指す。
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