日々の臨床9月17日日曜日<副腎白質ジストロフィー>

神経・精神・運動器の病気

 

<副腎白質ジストロフィー>

 

中枢神経系(脳や脊髄)において脱髄(神経線維を覆っている髄鞘と呼ばれるさやの部分[電線に例えれば銅線が神経でその被覆の部分]の崩壊が起こる病態)や神経細胞の変性と、腎臓の上にありホルモンを産生している副腎という臓器の機能不全を特徴とする疾患です。

 

男性に重症化する遺伝病です。中枢神経系白質、副腎皮質、血清、白血球、赤血球など全身の組織において極長鎖脂肪酸と呼ばれる脂肪酸の増加を認めます。

 

 

この病気の患者さんは男性2~3万人に一人の割合と考えられます。

 

ほぼ同数の女性の保因者が存在すると考えられます。

 

通常、女性の方は症状を示しませんが、一部の女性保因者では加齢とともに軽度の歩行障害等をきたす方がみえます。

 

 

この病気の遺伝子に異常がある男性のうち40%程度の方は小児、思春期までに大脳型と呼ばれる症状で発症し、多くは急速に進行します。

 

成人では大脳型以外に、下肢のつっぱり感、歩行障害を主体とするAdrenomyeloneuropathy(AMN)で発症することがあります。

 

その他にも副腎機能不全のみの症状で発症する方もみえますが、AMNや大脳型に進展することがあるので、注意を要します。

 

 

この病気の原因はX染色体(男性では1つ、女性では2つ持っています)に存在するABCD1遺伝子の異常によりおこる遺伝病の一つです。

 

原因となる遺伝子のつくるタンパク質はadrenoleukodystrophy protein(ALDP)と呼ばれています。

 

これは細胞内にあるぺルオキシソームという細胞内小器官の膜に存在するタンパク質です。

 

ぺルオキシソームへの物質の移送に関わっていると考えられ、この膜タンパクの異常により極長鎖脂肪酸という物質の活性型誘導体がペルオキシソーム内へ移送されなくなる結果、

 

分解(β酸化といいます)ができなくなり細胞内に蓄積し、神経系細胞膜の機能異常を引き起こす可能性が示唆されています。

 

 

この病気の症状は、小児で発症する場合は、知能低下(学力の低下)、行動の異常(学校の落ち着きのなさ)、斜視、視力・聴力低下、歩行時の足のつっぱり(痙性麻痺)などの症状で発症することが多いです。

 

症状は進行性でコミュニケーションがとれなくなり、無治療では通常1~2年で終日臥床状態となります。

 

成人で発症する場合には歩行障害を主徴として知覚障害、尿失禁、インポテンツなどをきたし知能低下をきたさない慢性の経過をとる Adrenomyeloneuropathy(AMN)というタイプと小児と同様に知能低下を主徴とし急速に進行し臥床状態にいたるタイプ(成人大脳型)があります。

 

その他、思春期に発症する思春期型、ふらつき(小脳失調)を初発とする小脳・脳幹型などがあります。

 

女性保因者は通常発症しませんが、中高年以降に軽度の歩行異常(足のつっぱり)を認める場合もあります。

 

 

この病気の診断は血中極長鎖脂肪酸測定が重要で、画像では頭部MRIなどで後頭葉から進展していく白質病変が特徴的です。

 

 

この病気の治療法は小児大脳型や思春期大脳型で発症早期の場合には造血細胞移植(骨髄移植や臍帯血移植)の効果が報告されています。

 

移植後1~2年は症状が緩徐に進行しますが、その後停止する例が多いようです。

 

ただし、ある程度症状が進行した場合には増悪する場合もあり、また本治療法自体の危険度もあるため本治療法の選択には充分な検討が必要です。

 

成人大脳型でも近年、造血細胞移植施行例の報告があり、今後の検討が期待されます。

 

歩行障害を主徴とするAMNでは歩行時の足のつっぱりを緩和する抗痙縮薬の内服や理学療法が行われます。

 

また公的支援としては小児慢性特定疾患、成人の場合でも2000年4月より特定疾患に指定されていますので(2015年1月1日からは指定難病)、申請により医療費の公費負担が受けられます。

 

また身体機能障害の程度に応じて身体障害者手帳の申請をおこない介護用品の支援などが受けられます。