日々の臨床9月14日木曜日<特発性器質化肺炎>

呼吸器 / 感染症 / 免疫・アレルギー・膠原病

 

<特発性器質化肺炎>

 

平成元年開設以来の最大の疑問は、なぜ高円寺南診療所には厄介な病気をもった患者さんが相当数受診されるのか、ということです。

 

お気づきの方がいらっしゃいましたら、今後どのように対応したら良いのかも含めてこっそり教えてくださいませんか?

 

 

もっとも私は、そうした厄介な患者さんの御蔭で貴重な臨床力を磨くことができたことを実感しております。

 

しかしながら、この苦労を再び繰り返せるか、といわれたら、果たしてYesと答えることができるかどうか、率直なところ自身はありません。

 

 

厄介な患者さんの例を挙げるのは恐縮ですが、年齢・性別も伏せてご報告させていただきます。

 

その方は熱が出て、咳も出て、全身がけだるくて、体重が減ってきたので、数か月がまんして様子をみていたが、さすがに心配になり近所の内科を受診したそうです。

 

そこは随分と流行っている医院らしく、即座に肺炎と診断したドクターは抗生物質を1ヶ月分処方されたとのことです。

 

患者を待たせず、必要な検査も省略して、面倒くさい説明もはぶき、患者のニーズ通りの抗生物質を、気前よく長期処方することができ、しかも、禁煙指導など患者の嫌がることは絶対にしない、

 

だからとても良い先生としての誉れが高いそうです。

 

そこまでいくと、確かに流行りそうです。

 

そのドクターも凄いですが、1ヶ月きちんと飲み続ける患者さんも凄いと思いました。

 

それで完治してしまえばハッピーなのですが、そうは問屋が卸さなかったようです。

 

 

やむなく高円寺南診療所を受診することになりました。

 

問診と診察の後、無料の血圧測定と末梢動脈血中酸素飽和度の測定をすると、低酸素血症であることが確認できました。

 

そこで無料ではない胸部レントゲン検査と血液検査を受けさせられる羽目になったその患者さんは、とても不服そうでした。

 

 

ともあれ、胸部レントゲン検査では気管支透亮像を伴い、濃厚な浸潤影が広がっていました。

 

呼吸機能検査をすると肺活量が顕著に低下していました。

 

この段階で、間質性肺炎と診断し、副腎皮質ステロイド剤を処方しました。

 

 

初診時の血液検査の結果でもCRP上昇,赤沈延長、好中球増加といった一連の炎症所見が確認されました。

 

再診時に、その患者さんはすっかり元気になられて、そのときばかりは、とても感謝してくれました。

 

しかし、特発性間質性肺炎の臨床診断基準を満たすこと、今後の治療指針を確定するためにも、紹介状を書くので病理学的な精密検査を受けてきてほしいことを申し出たら、

 

<検査のための余分な金は払いたくない>、と急に不機嫌になり、来院されなくなりました。

 

 

1ヶ月後、看護師である娘に連れられて再び来院されたその方は、内服中断後、再発し、呼吸困難のため救急搬送されたとのことでした。

 

搬送先の某大学病院では気管支肺胞洗浄液(BAL)検査でリンパ球増加、CD4/CD8比が低下し、そこで肺生検をしたところ

 

OP(器質化肺炎)パターンを呈し特発性器質化肺炎という診断名が確定した模様でした。

 

患者さんの娘さんは報告が簡にして要を得ていて優秀な看護師であると思われました。

 

 

前医の初診時診断である肺炎という診断名と一致して得心したつもりの、その患者さんは、

 

再び前医を受診して別の種類の抗生物質を処方されたところ、アナフィラキシーショックに陥り生死を彷徨った、とのことでした。

 

統発性器質化肺炎は、細菌性肺炎ではないので抗生物質の長期投与は無効であるばかりか、有害ですらあります。

 

本質的には、特発性間質肺炎の一種であるため、副腎皮質ステロイド剤の内服を一定期間つづけていかないと再発することが多いことも知られています。