血液・造血器の病気
<発作性夜間ヘモグロビン尿症>
貧血はありふれた病気です。
しかし、貧血の種類は多様であり、鉄欠乏性貧血のように日常的なものばかりではありません。
そこで貧血に気づいた場合、高円寺南診療所では、尿検査で溶血の有無を確認しています。
尿潜血陽性、尿中ヘモジデリン陽性の場合は、
ヘモグロビン尿として血管内溶血を疑うなど、発作性夜間ヘモグロビン尿症を鑑別します。
まず、直接クームス試験で自己免疫性溶血性貧血を除外します。
直接クームス試験が陽性の場合は、寒冷凝集素価を測定して寒冷凝集素症を鑑別します。
そもそもなぜ夜間に溶血が起こりやすいかというと、
睡眠中は低換気になるため、呼吸性アシドーシス(体液の酸性化傾向)が強まることに関係しています。
逆に言えば、体液が酸性化する原因があれば日中でも溶血する病気であるともいえるでしょう。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(Paroximal Nocturnal Hemogrobinuria:PNH)は、
補体による血管内溶血を主徴とする造血幹細胞疾患です。
原因は遺伝子に後天的変異を持った造血幹細胞がクローン性に拡大することによるものであり、PNHはクローン性疾患です。
PNHしばしば再生不良性貧血を代表とする造血不全疾患と合併・相互移行します。
血栓症は本邦例ではまれですが、このPNHには特徴的な合併症です。
アジア例では造血不全症状が主体です。
溶血により血漿中に放出された遊離ヘモグロビンは一酸化窒素(NO)を強力に吸着します。
NOは平滑筋弛緩作用をもつため、これが減少することで消化管が収縮し、腹痛や嚥下困難をもたらします。
PNH赤血球では、グリコシルホスファチジルイノシトール(glycosyl phosphatidylinositol:GPI)を介して膜上に結合する数種の蛋白が欠損しています。
そのような蛋白であるCD55,CD59などの補体制御蛋白がPNH赤血球で欠如しているため、補体感受性が亢進します。
感染などにより補体が活性化されると、補体の攻撃を受けて溶血と血栓症が起きます。
補体活性状態による易溶血性は、ハム試験(アシドーシスによる易溶血性をみる検査でPNHに特異性が高い)や砂糖水試験で確認できます。
また、そもそもこの異常は、GPIの生合成を支配する遺伝子であるPIGA遺伝子の変異の結果もたらされることが明らかにされました。
診断には、フローサイトメトリーを用いたPNH型血球(CD55,CD59欠損細胞)の検出が必須で年に1回程度のフォローアップ検査が推奨されます。
非常に稀な疾患であり、新規治療薬(エクリズマブ)の適応、妊娠時の管理にあたっては、高度な専門性のもとに医学管理を行う必要があります。
エクリズマブはヒト化抗補体C5モノクローナル抗体であり、終末補体活性化経路を完全に阻害することで、PNHにおける補体による溶血を防ぎ症状を改善することができます。
治療法は、骨髄移植により異常クローンを排除し、正常クローンによって置き換えることが、現在のところ唯一の根治療法です。
しかし、明確な適応基準はありません。
これまでは、血栓症、反復する溶血発作、重篤な汎血球減少症を呈する重症例などに施行されてきました。
したがって、血管内溶血、骨髄不全及び血栓症に対する対症療法が主体となります。
溶血発作に対しては、感染症等の発作の誘因を除去するとともに、必要に応じ副腎皮質ステロイドにより溶血をコントロールします。
遊離血色素による腎障害を防止するため積極的に輸液による利尿をはかりつつ、ハプトグロビンを投与します。
慢性溶血に対しては、補体第5成分に対する抗体薬(エクリズマブ)が開発され、溶血に対する劇的な抑制効果が示されています。
骨髄不全に対しては、再生不良性貧血に準じた治療を行うが、軽度の骨髄不全を伴うことが多く、蛋白同化ホルモンが汎用されます。
溶血か骨髄不全かを問わず、貧血に対しては、必要があれば輸血を行うが、従来推奨されてきた洗浄赤血球輸血は必ずしも必要ではありません。
血栓症の予防と治療にヘパリンやワーファリン製剤による抗血栓療法を行います。
エクリズマブによる血栓予防効果も示されており、今後PNHの治療戦略は大きく変わっていくことが予測されています。
予後に関して、PNHは極めて緩徐に進行し、溶血発作を反復したり、溶血が持続したりします。
骨髄低形成の進行による汎血球減少と関連した出血(1/4)と感染(1/3)が主な死因となります。
発症/診断からの長期予後は、平均生存期間が32.1年、50%生存が25年でした。
PNHでは自然寛解が起こり得るというのも特徴の一つでありますが、その頻度は、日米比較調査によると5%でした。
エクリズマブの登場により、今後は予後が改善することが期待されています。
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