内分泌・代謝・栄養の病気
<偽性アルドステロン症>
漢方薬にも副作用はあります!
高円寺南診療所では、当たり前のように漢方薬を処方しています。
当たり前のように、というのは、特に患者さんからのリクエストがなくても、積極的にミネラル・ビタミン類と同様に漢方処方をお勧めしているからです。
しかし、中には、「西洋薬・現代薬は毒物なので内服したくない、副作用のない漢方のみでお願いします」とおっしゃる方もお見えになります。
実は、そうした患者さんの中で、すでに漢方薬を処方されて内服中の薬によって病気を悪化させていた症例を経験しました。
高円寺南診療所が処方した漢方薬による副作用も極めて少数例ながら経験し、貴重な反省例として記憶にとどめています。
症例:40代の女性。
3か月前に職場の人間ドックで高血圧、糖尿病を指摘された、ということで健診データを持参されました。
なお、彼女は、数年前の当初は漢方専門医から漢方薬の処方を受けていましたが、
保険が利かないため、経済的な理由から、市販の漢方薬を購入していたとのことでした。
彼女はもともと低血圧傾向でしたが、近年に至って徐々に血圧が上昇してきたとのことでした。
1週間前から脱力と筋肉痛がひどくなってきたので、自己診断でリウマチを疑い高円寺南診療所を受診した、とのことです。
さっそく拝見すると、血圧は198 / 114mmHg。
四肢の筋力が低下していたため、頸部の病変を疑い、頸椎のレントゲン検査を試みましたが、
膝を少し曲げた状態で立位を保持することができなかったため、検査をあきらめました。
そのかわり、診察室のベッドで深部腱反射を調べたところ、
膝蓋腱(膝)、アキレス腱(かかと)のいずれも反射が減弱していました。
ただし、病的反射はみられず、脳梗塞やパーキンソン病などの病気ではなさそうでした。
彼女が継続して内服していた漢方薬は『甘草湯(かんぞうとう)』でした。
夜になるとこむら返りがひどいため、自由診療の漢方専門医から処方された『芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)』を指示通り、就眠前のみ内服したところ、
その日の夜からこむらがえりの発作はピタリと止まり、熟睡もできるようになって大助かりだったそうです。
実は彼女は、タバコを1日2箱吸い、ガラガラ声でした。
医療費の節約のため、薬局で『芍薬甘草湯』を求めようとしたところ、
あいにく品切れのため、待ちきれない性格の彼女は、代わりに名称の良く似た『甘草湯』を購入したそうです。
この『甘草湯』が彼女にとって、大当たりで、長年気になっていた咳とのどの痛みが軽くなり、
名前の通り甘くて飲みやすいことから、お茶代わりに一日3回内服し始めたとのことでした。
直ちに禁煙と甘草湯服用を中止するようにアドヴァイスしましたが、御不服のようでした。
血液検査は受けてくださったので、再診時に結果を報告しました。
血液生化学所見:
Na(ナトリウム)144mEq/L、K(カリウム)2.1mEq/L、Cl91mEq/L、HbA1c8.8%
低K血症、低Cl血症、耐糖能異常(糖尿病)
医学的判断のプロセス:
脱力、筋肉痛、筋力低下、深部反射減弱といった症状は低K血症にともなう症状です。
また低K血症はインスリン分泌を障害し、その結果、血糖値を上昇させます。
低K血症を伴う高血圧症は、漢方薬『甘草湯』の主成分である生薬<甘草>に含まれるグリチルリチンによるものです。
グリチルリチンは、アルドステロンと同様に、鉱質コルチコイド様作用をもち、
高血圧と低K血症をもたらし、血漿レニン活性は抑制されます。
ただし、グリチルリチン自体は、血漿のアルドステロンを抑制します。
低Cl血症は低Cl性代謝性アルカローシスをもたらします。
診断:偽性アルドステロン症
(偽性というのは、実際にはアルドステロン上昇が原因でないにもかかわらず、アルドステロン症に似た病態が出現することから命名されたのではないかと思われます。)
まとめ:
漢方薬投与中に高血圧や低K血症がみられたら、まず漢方薬のなかに甘草が含まれているかどうか、
含まれているとすればどの程度か、指示を守ってきちんと内服していたか、を再確認しています。
甘草の成分であるグリチルリチンを過剰に摂取し続けると、誰でも偽性アルドステロン症による高血圧がもたらされることになります。
後日譚:
彼女は、ようやく『甘草湯』内服を中止、半年後に禁煙成功。血圧も理想血圧に戻り、血中K、Clも正常、血糖値も正常化しました。
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