日々の臨床9月1日金曜日<感染性心内膜炎>

心臓・脈管 / 腎・泌尿器の病気

 

<感染性心内膜炎>

 

高円寺南診療所は内科なのに、目や鼻や皮膚や関節や筋肉まで診るので変わっている、とお感じの皆様、

 

そんな皆様のために、内科医の仕事とはどのような範囲に及ぶのか、またそれがなぜ必要なのかについての例を挙げてみたいと思います。

 

 

<熱が出て、脈拍数が増え、動悸がして、体の節々が痛む>という症状を経験したことがある方は、ひどい風邪の症状の辛さを実感できることでしょう。

 

こうした一連の症状はウィルス性感染症、とりわけインフルエンザの症状を思わせます。

 

風邪は万病の元といいますが、しかし、このような場合、心得のある医師は、患者さんの指を診ます。

 

高円寺南診療所では、動脈血酸素飽和度を指で測定する際に観察する習慣があります。

 

指頭部に紫色の皮下結節を認め痛みを伴うようであれば、有痛性皮下結節(オスラー結節)です。

 

その場合、手のひらも観察し、小さな5mm以下の紅い斑を見つけ、

 

痛みを伴わないものであれば手掌無痛性小赤色斑(ジェインウェイ病変)です。

 

その場合は目の診察をします。眼瞼結膜にも点状出血を認めたら、

 

感染性心内膜炎を強く疑います。最近、感染性心内膜炎は院内発生例が増加しています。

 

 

そこで患者さんの心音を丁寧に聴くことになります。

 

発熱に加えて新規に心臓の雑音を聴いたら、感染性心内膜炎を見落としてはならないからです。

 

特に僧房弁逆流に合併した場合、心尖部に収縮期雑音を聴取することがあります。

 

 

感染性心内膜炎は、こうした弁膜症に合併しやすいので病歴の再確認が必要です。

 

心室中隔欠損症、大動脈化依存症、ファロー四徴症、大動脈閉鎖不全、僧房弁逆流、肺動脈狭窄、肥厚性閉塞性心筋症などで

 

軽症な弁膜症ほど、欠損孔が小さいので心臓内で勢いの激しいジェット血流を生じやすいです。

 

ジェット血流によって心内膜が障害されると、その部位に血栓が形成されやすくなります。

 

細菌感染により菌血症が起こると、この血栓に細菌が付着し疣贅(ゆうぜい)が生じます。

 

これに対して二次口型の心房中隔欠損症では、欠損孔が比較的大きく勢いが弱いので

 

ジェット血流は生じにくいので感染性心内膜炎は来しにくいことが知られています。

 

 

片麻痺(脳塞栓)、胸部痛(急性心筋梗塞)、血尿・蛋白尿(腎梗塞)、左上腹部痛(脾腫)など、確認すべき症状は全身に及びます。

 

このように感染性心内膜炎は塞栓症が生じ脳、心臓、腎、脾の梗塞を引き起こすことがあります。

 

末梢塞栓症状として、上記の指先のオスラー結節、手掌のジェーンウェイ病変の他に、爪下線状出血、眼底の出血性梗塞(ロス斑)などがあります。

 

 

確定診断にはDuke診断基準が用いられています。

 

もっとも、心臓超音波検査で疣贅が証明されれば診断は確定しますが、

 

血液培養によって原因菌を検出することが重要です。

 

 

血液検査では、白血球数増加、赤沈亢進、CRP陽性など典型的な炎症所見の他、リウマチ因子陽性、血清補体価の一過性低下が観察されます。

 

頭部MRI検査で感染性脳動脈瘤の有無をチェックすることも大切です。

 

 

適切な治療を行わないと、致命的になります。

 

原因菌で最も多いのは緑色連鎖球菌であり、その場合、アミノグリコシド系抗菌薬を1日に複数回投与します。

 

なお感染性心内膜炎のリスクのある患者に抜歯を行う場合は、適切な抗菌薬を処置30分前に投与する必要があります。

 

 

手術適応:①頻発塞栓②心不全悪化③人工弁に伴う心内膜炎④膿瘍形成⑤真菌性心内膜炎などには、急性期の手術適応があり、人工弁置換術を行います。

 

可動性のある10mm以上の疣腫が増大傾向の場合は、感染性塞栓症のリスクが高いため、外科手術の相対的適応(classⅡa)となります。

 

 

死因としては、心不全によるものが多いです。