日々の臨床 8月1日火曜日<のどの痛みや腹痛は、単なる風邪とは限りません!>

血液・造血器の病気

 

<のどの痛みや腹痛は、単なる風邪とは限りません!>

 

咽頭(のど)が痛いので他院を受診し、

 

感冒薬を処方され症状が改善したので風邪は治った、と自己判断した20歳男性。

 

1週間後に腹痛とともに下肢に盛り上がった湿疹が出現したため、

 

一石二鳥の安上がりを狙って高円寺南診療所を受診することになったそうです。

 

 

この方は、今どきの平成生まれのお兄さんで、

 

帽子を被ったまま診察室にお入りになるのでした。

 

意識は清明、発熱なし、血圧126/80mmHg、脈拍数68拍/分、

 

バイタルサインには異常を認めませんでしたが、

 

そのためか尿検査がお気に召さないようでした。

 

<腹痛と湿疹できたのに、なぜ尿まで調べるんだ。>とのたまうのでした。

 

 

尿検査所見:蛋白(+)、潜血(+)、

 

これで腎機能障害、ときに腎炎合併が疑われるので血液検査が必要なのですが、

 

聞く耳持たぬ若者への説明に苦慮しました。

 

 

<検査の結果すべて異常が無かったら診療代は払いたくない。>という若者に対して、

 

<私の眼には狂いがないので>と応じると、

 

<先生おもしれえ、オッサン大門(ドラマ、ドクターXの主人公)かよ!わかったよ。

 

痛くねえように血取ってよ。俺、医者と注射が大の苦手なんで>

 

と急に弱気な態度に。

 

 

採血後<先生、スゲー名医だ!ちっとも痛くなかった>、

 

やはり、この男の子、身長は180センチ近いが、

 

先月まで未成年のお子ちゃまでありました。

 

 

 

 初診時診断の手掛かり:

 

①隆起性の病変、②急性の腹痛その他、

 

最低、これだけで、米国リウマチ学会の基準で

 

<シェーンライン・ヘノッホ紫斑病>と診断できます

 

その他、この症例は③20歳以下(つまり、未成年者の病気)に一応該当しています。

 

なお、④バイオプシーといって生検組織で、

 

小動静脈壁の顆粒球を見出せば、確かですが、ふつうそこまでしません。

 

これは、全身性のアレルギー性血管炎が本体で、

 

血管の炎症によって毛細血管の透過性が亢進して、浮腫や組織への出血を来す病気です。

 

 

先行感染があり、隆起性の紫斑、腹痛、腎炎などの所見が揃えば、

 

概ね誤診はないと思いますが、医学には100%確実ということはありません。

 

素人の一般大衆はそれがわからないのは仕方ないから

 

裁判に訴えることもやむなしだとしても、

 

裁判官がそのレベルだとこの国の司法も大いに心もとないと思います。

 

 

追加の検査として、腹部レントゲン検査をしました。

 

その理由は、腸重積を来すことがあるため、見落としを防ぐためです。

 

幸い腸重積の所見はありませんでしたが、

 

腸管ガス像が顕著でしたので、ガスを駆除することにしました。

 

像が顕著でしたので、ガスを駆除することにしました。

 

 

 

処方:

ガスコン®【消化管ガス駆除剤】のみを処方(前医で処方され、飲み残していた鎮痛剤の内服を許可する)

 

 

血液所見(再診時に説明):

赤血球474万、Hb14.2g/dL, 白血球9,800好酸球15%、血小板32万、

 

PT-INR1.0(基準0.9~1.1),APTT32秒(基準対照32.2)、

 

血清IgA612mg/dL、血沈15mm/時間(基準値2~10)

 

 

幸いにも血小板・凝固系は正常であったので、特別な治療は必要ではありません。

 

ただし、炎症所見があり、特に血清IgAが高値なのでIgA腎症との鑑別が必要です。

 

 

前医で処方された飲み残しの薬を呑み切ってしまうと、関節が痛みだしたというので、

 

精査しましたが関節リウマチの合併は認められませんでした。

 

 

現在は、軽度のネフローゼ症候群のため、定期的に尿検査をしています。

 

今では素直で誠実な青年に成長しています。