日々の臨床 7月5日水曜日<慢性胃炎?>

消化器系の病気

 

テーマ:慢性胃炎

 

機能性ディスペプシアとは何か?>

 

 

慢性胃炎ほど、聞きなれている割には、あいまいに理解されている病名はありません。

 

慢性胃炎は、厳密には組織学的または形態学的に、

 

胃の慢性炎症細胞浸潤や固有胃腺の萎縮を伴う病態と定義されています。

 

しかし、実際には、こうした器質的病変を認めない症候学的胃炎が多く、

 

近年では、これを機能性ディスペプシアとして区別するようになりました。

 

そこで、慢性胃炎はヘリコバクター・ピロリ感染や自己免疫による

 

慢性の組織学的な胃炎を指すようになってきています。

 

 

内科を受診する患者さんの訴えとして多いのは、全身倦怠感、食欲不振などです。

 

ただし、こうした漠然とした全身症状だけではれだけでは、特定の病気に絞り込むことは難しいです。

 

これらの症状に加えて、腹部不快感、腹部膨満感などが確認できて初めて、

 

胃腸病を疑うことが可能となります。

 

たとえば悪心・嘔吐、心窩部痛(みぞおちの痛み)あれば、胃炎を疑います。

 

また胸焼けがあれば、胃食道逆流症(逆流性食道炎)も疑うべきでしょう。

 

 

原因:

ヘリコバクター・ピロリ感染によるものが80%で、

 

その他に消炎鎮痛剤NSAIDs、全身疾患(自己免疫・膠原病など)

 

 

分類:いくつかあります。

 

1)シュナイダーの組織形態学的分類(表層性、萎縮性、肥厚性)胃炎

 

萎縮性胃炎には、ヘリコバクター・ピロリ感染の持続によって

 

胃粘膜が委縮する結果生じ、胃酸分泌が減少します。

 

ヘリコバクター・ピロリ関連疾患には、胃・十二指腸潰瘍、

 

胃がん、胃MALTリンパ腫などがあります。

 

 

2)ストリックランド-マッケイの免疫学的分類(A型、B型)胃炎

 

A型胃炎:

自己免疫性で抗壁細胞抗体陽性、胃体部を中心とした萎縮性胃炎なので、

 

胃酸分泌が低下し、無酸となり、そのフィードバックにより高ガストリン血症をきたす。

 

悪性貧血、胃カルチノイドなどの合併例があります。

 

 

B型胃炎:

ヘリコバクター・ピロリ感染性で、前庭部から胃体部へ進行する。

 

腸上皮化成を伴うので胃がん発生のリスクが高いです。

 

ヘリコバクター・ピロリ除菌後には、胃酸分泌が亢進し、

 

一時的に逆流性食道炎を起こすことがあります。

 

 

検査:器質的胃炎の診断には内視鏡検査と生検が行われます。

 

①血清ペプシノゲン(胃がん検診用:保険外)陽性者は③を勧めます。

 

②上部消化管造影エックス線

 

③上部消化管内視鏡:慢性活動性胃炎の所見があれば④を勧めます。

 

④ヘリコバクター・ピロリ感染検査

 

 

治療:

教科書的には、自覚症状がある場合のみ治療をします。

 

ライフスタイルの改善や、ストレス対処など

 

心療内科学的アプローチが有効であることが認知されていますが、

 

消化器内科専門医で心療内科的アプローチはおろか、

 

生活指導を丁寧に行っている例はわずかで、

 

抗不安薬を投与しているようです。

 

その他、胃酸分泌抑制薬、粘膜防御因子薬、消化管運動機能調節薬などが投与されます。

 

A型胃炎に対してはビタミンB12を投与して、

 

悪性貧血や連合性脊髄変性症の予防を講じます。

 

内視鏡検査などでヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の確定診断がなされた場合は、

 

ヘリコバクター・ピロリ除菌療法の適応になります。

 

ただし、ペニシリン・アレルギーがある患者さんのピロリ菌除菌には、

 

通常用いているアモキシシリンは禁忌です。

 

その代りにクラリスロマイシンとメトロニダゾールが用いられています。

 

 

近年、ヘリコバクター・ピロリの感染率は低下しており、

 

ヘリコバクター・ピロリ関連疾患の増加は考えにくいです。

 

高円寺南診療所では内視鏡検査で異常はないが、

 

慢性胃炎という診断を受けている胃弱の方が多いです。

 

つまり、機能性ディスペプシアの患者さんの対応が適切になされていないことがわかります。

 

その場合は、各人のライフスタイルや疲労度のチェックやストレス対策がとても役立ちます。

 

さらに気質・体質・病状に応じて、

 

六君子湯、茯苓飲、安中散、平胃散、人参湯、当帰芍薬散などを使い分けます。

 

漢方処方の妙味は、漢方薬自体が身体症状のみならず、

 

同時に不安・抑うつなどの精神症状にも有効だからです。

 

粘膜防御作用、消化管運動機能調節作用なども兼ね持っていることも証明されています。

 

ただし、胃酸分泌抑制作用には限界があるので、

 

必要に応じて制酸剤を加えることはありますが、わずかで済むことがほとんどです。