プライマリケア・救急・心療内科Vol.3

「環境薬物中毒」No.3

 

今月のテーマ<中毒の特定内科診療>

 

 

労働衛生コンサルタントや作業環境測定士にとって

 

医師資格は必須ではありませんが、

 

医師がこれらの専門業務を兼ねることによって、

 

より抜本的で具体的な有効策を提案することができるのは確かだと思います。

 

 

第一種作業環境測定士として

 

金属類、有機溶剤の専門性を駆使した

 

コンサルテーションの一例をお示ししましょう。

 

 

以下は鉛やトルエンなどの有機溶剤を取扱う

 

作業者を雇用しているある事業所の新任の産業医からのご相談です。

 

 

「従業員の一般健康診断と特殊健康診断とを実施しました。

 

有機溶剤取扱い作業者に対してのみ、

 

前夜からのアルコール飲料、栄養ドリンクおよび清涼飲料水の摂取を禁止し、

 

従業員全員に対して当日の朝食摂取を許可しました。

 

 

休日明けの午前中、作業開始前に、血液と尿を採取しました。

 

 

しかし、検体採取時期が適切でない検査項目があることを当局から指摘されました。

 

 

また、従業員や事業所の担当責任者から、アルコールはわかるが、

 

なぜ、栄養ドリンクおよび清涼飲料水まで制限しなければならないのかと、

 

質問を受けて答えられず困っています。

 

 

前任の産業医が残してくれたマニュアル通りに実施したのですが、

 

私も理由がわかりません。

 

 

今後は、どのようなことに注意して職場健診をしたらよいか、ご指導ください。」

 

 

 

労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士ドクトル飯嶋の回答:

 

 

ご連絡ありがとうございます。

 

ご相談内容の中で、もっとも重要なポイントは、

 

有機溶剤中毒の診断に関する事項です。

 

 

その理由は、有機溶剤中毒の診断に用いる尿の採取時期は、

 

尿中の有機溶剤の代謝物濃度が最も高値を示す時期とすべきとされているからです。

 

 

尿中馬尿酸を測定されていますが、

 

お取扱いの有機溶剤の主成分がトルエンであることから、

 

適切な指標です。

 

ただし上記の理由により、作業開始前ではなく、

 

作業終了時の尿を検体として用いるのが適切でした。

 

 

尿検査による尿中馬尿酸については、

 

トルエン取扱い業務を連続して3日以上行った作業\終了時に

 

採尿して再検することが必要です。

 

 

これに対して、鉛中毒の診断に用いる血液や尿の採取時期は、

 

当該作業に従事している時期であれば、

 

原則的にいつでも良いからです。

 

 

血中鉛を測定されていますが、

 

これは鉛の暴露の指標として十分な条件を満たしていますから、

 

次回まで再検する必要はありません。

 

 

飲食物摂取制限などは事業場の責任者等に、

 

事前にその理由をわかりやすく説明しておかれると、

 

事業従事者の協力が得られやすくなると思います。

 

 

次回からは、清涼飲料水の他、

 

イチゴやスモモなどのフルーツの摂取も制限してください。

 

 

その理由は、安息香酸を含有するイチゴ、スモモなどの果実摂取や

 

清涼飲料水等を摂取すると、

 

尿中に排出される馬尿酸の量が変動するからです。

 

 

以上、よろしくお願いいたします。

 

 

労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士 医学博士 飯嶋正広