診療実践 アレルギーの背後の隠れ貧血(潜在性鉄欠乏性貧血)にご用心!

アレルギー症状の改善には免疫の最前線である皮膚・消化管を含む粘膜、

および免疫機能を常に最適状態に維持しておくことが大切です。

この皮膚・粘膜などはタンパク・ヘム鉄・ビタミンC・亜鉛などを材料に造られます。

貧血があると赤血球の材料でヘモグロビンを構成するタンパク・ヘム鉄が不足し、皮膚や粘膜の

修復にまでまわらなくなる結果、体調も気分も不安定で改善しにくい状態になるので注意を要します。

 

 

Y.Iさんは36歳女性。胃腸の調子がすぐれず、またアレルギー体質で湿疹もあり、

消化性潰瘍治療薬と抗アレルギー剤を内服中です。

問診により、階段を上るときに息切れすること、

起床がつらく、朝はエンジンがかかりにくいことが確認できました。

 

潜在性鉄欠乏性貧血の治療のため食事からの鉄分摂取を励行中ですが、

4か月前と比べても鉄欠乏状態が改善しないため外来栄養食事指導とともに当面は鉄剤を内服して

いただくことになりました。

貧血の改善とともに不快な腹部症状や湿疹などのアレルギー症状の改善が期待できると思います。

その結果もYさんにインタビューする予定です。

 

さて、Yさんのような鉄欠乏状態は困ったことに医師さえ気づかないことが多いです。

その理由は、一般の健康診断では、血清鉄、総鉄結合能、血清フェリチン等を測定せず、

ヘモグロビン値が11g/dl以上ということだけで貧血なしと判定されてしまいがちだからです。

 

Yさんの一般血液検査データもヘモグロビン値が11.2g/dlで11g/dlを超えていましたが、

MCV(赤血球の容積)が81flで85fl 以下なので赤血球のサイズが小さい小球性貧血を疑いました。

血清生化学検査のデータでは、血清鉄(Fe)が32μg/dlで50μg/dl 以下なので血清中の鉄欠乏状態。

血清フェリチン値4μg/ml 以下(検出以下)で貯蔵鉄の欠乏状態。総鉄結合能(TIBC)が372μg/dlでした。

 

そこで総鉄結合能(TIBC)と血清鉄(Fe)から鉄飽和度(トランスフェリン飽和度)を計算してみます。

すると血清中の鉄飽和度(トランスフェリン飽和度)=Fe/TIBC=32/372=8.6%、

これは20%以下なので明らかに貧血状態。

以上より、Yさんは鉄欠乏による貧血が認められます。

 

 

また下記の症状がいくつかあれば鉄欠乏の疑いがあります。

 

身体症状 

① 全身症状:疲れやすい 倦怠感

② 局所症状:頭痛 めまい 立ちくらみ 動悸 息切れ

 

精神症状:気持ちが沈む いらいらが強くなった

 

行動・生活習慣異常:氷をかじりたくなる(氷食症) 朝寝坊・朝食の欠食・遅刻

 

客観的所見:爪が割れやすい(二枚爪)、髪や肌のつやが悪くなった、抵抗力低下(風邪をひきやすいなど)、湿疹ができやすく治りにくい

 

鉄欠乏の原因の大半は出血によるものなので、胃や十二指腸の潰瘍・炎症・痔・癌などによる消化管からの出血や月経による出血を疑います。

治療と並行しながら原因検索を計画的に進めていくことが必要です。

 

 

 

参考文献:高円寺南診療所の院長および管理栄養士が執筆したテキストです!

 

#1 食物と栄養学シリーズ10  <第二版> 臨床栄養学 

     吉田勉 監修、飯嶋正広・今本美幸 編著中田美砂恵ら著 

     学文社2016.4.10、193ページ以降を御参照ください。

 

#2 わかりやすい臨床栄養学 第4版 

     吉田勉 監修、飯嶋正広ら著

     三共出版2015.3.31、174ページ以降を御参照ください。