今月のテーマ <クリーゼ(危機)>

 

 

「クリーゼを理解する①」

 

 

クリーゼとは、内分泌系、つまり、ホルモンの異常によって危険な状態に陥っていることです。

 

内分泌系は、全身の調節系として、

 

自律神経系、免疫系とともに生命維持にとってとても重要な役割を果たしています。

 

 

そもそもクリーゼ(Krise)とはドイツ語で、英語のクライシス(crisis)に相当します。

 

 

クリーゼは具体的には、甲状腺クリーゼや副腎クリーゼ、高血圧クリーゼ、

 

重症筋無力症のクリーゼなど多くの種類があります。

 

 

これらのクリーゼのきっかけは、いずれも急激なストレスにさらされることが共通しています。

 

しかし、変化の方向性も違いもあり、大別して2つのパターンがあります。

 

 

その二つを仮に「機能亢進過剰型」と「機能低下急落型」と名付けることにします。

 

 

前者の「機能亢進過剰型」は、基礎疾患としてホルモンの亢進症があり、

 

急激なストレスが加わって、さらに過剰状態になるものです。

 

甲状腺クリーゼ、高血圧クリーゼがこれに相当します。

 

 

後者の「機能低下急落型」は、基礎疾患としてホルモンの低下症があり、

 

急激なストレスが加わって、さらに絶対的な欠乏状態になるものです。

 

副腎クリーゼや重症筋無力症のクリーゼがこれに相当します。

 

 

次回(明日)は、ストレスとホルモン調節異常、

 

それに伴うクリーゼの起こり方について説明します。

 今月のテーマ<内分泌の特定内科診療>

 

 

高浸透圧高血糖症候群を合併した 「糖尿病性ケトアシドーシス」 Vol.2

 

 

現症:バイタルサイン 意識水準JCSⅡ-20、脈拍92/分、血圧118/72mmHg,

 

呼吸数28/分、体温37.1℃

 

 

栄養状態:身長180㎝、体重62㎏⇒BMI19.1(概ね正常範囲)

 

 

診察所見:眼球結膜(黄疸なし)、眼瞼結膜(貧血なし)、舌は乾燥、

 

心音・呼吸音に異常を認めず、腹部平坦・軟で、肝・脾を触れず。

 

 

尿検査:蛋白(-)、糖(4+)、ケトン体(4+)

 

 

ドクトル飯嶋の見立て:現病歴から、シックデイにおけるⅠ型糖尿病のインスリン注射中断による

 

糖尿病性ケトアシドーシス

 

 

シックデイとは、糖尿病患者が、心身のストレス、

 

消化器疾患や外傷、感染症などにより体調不良となり、

 

食欲不振となることで食事ができない状態を指します。

 

 

その他、舌の乾燥は脱水、発熱は感染症,検尿での高度尿糖は高血糖状態、

 

ケトン体高度出現はケトアシドーシスを裏付けます。

 

 

意識障害は、脱水症と異常高血糖、糖尿病性ケトアシドーシスによる糖尿病性昏睡と考えます。

 

 

ドクター飯嶋の対処法:安全な環境下で血糖値のコントロールを図る必要があるため、

 

某病院の内分泌代謝科(糖尿病科)を紹介しました。

 

 

入院先の病院での経過:入院直後に簡易測定器で測定した血糖値は

 

測定可能範囲を超える異常高値であったため、

 

ただちに生理食塩水の点滴と静脈内インスリン持続注入を行うことによって、

 

患者の意識レベルは改善しました。

 

 

しかし、翌朝から再び意識障害が進行してしまいました。

 

 

頭部CT検査で脳浮腫を認めました。

 

不整脈を伴っていたため心電図で確認すると低カリウム血症の所見があり、

 

補正を試みたが、呼吸困難に陥り、不幸な結果になってしまったとのことです。

今月のテーマ<内分泌の特定内科診療>

 

 

高浸透圧高血糖症候群を合併した 「糖尿病性ケトアシドーシス」 Vol.1

 

 

 

血糖値が著しく高くなると高浸透圧をきたし、

 

また高度な脱水状態に陥ることから、多彩な精神神経症状を呈します。

 

特に意識障害が進行する糖尿病性昏睡は、一旦発症すると、

 

適切で速やかな処置がなされないと、

 

生命にとって、とても危険な状態になります。

 

これが高浸透圧高血糖症候群です。

 

 

 

また、高度のインスリン作用不足により、高血糖と著しいケトン体の蓄積により、

 

脱水と意識障害(糖尿病性昏睡)をきたす病態が、糖尿病性ケトアシドーシスです。

 

 

 

症例を提示します。

 

50代男性。

 

意識障害を主訴に妻に伴われて来院。

 

 

 

現病歴:今朝、意識がもうろうとしているところを家族が気づきました。

 

2日前に食欲がなく、吐き気もあって食事がとれないためインスリン自己注射を中止したそうです。

 

1週間前から38℃台の発熱と頭痛とのどの痛みが続いたとのことでした。

 

 

インスリン治療は5年前に現在通院中の病院で1型糖尿病と診断されて以来、続けてきたとのことです。

 

 

家族歴:糖尿病等はありません。

 

 

この男性の診察所見は、次回ご紹介いたします。

今月のテーマ<内分泌の特定内科診療>

 

 

「重症急性膵炎」

 

 

外来で腹痛や背部痛、吐き気や嘔吐を訴える患者さんは少なくないのですが、

 

そのような場合に、いつも頭を過ぎるのは急性膵炎や急性虫垂炎(俗に盲腸炎)などです。

 

診察ベッドに横になっていただき、前かがみで腹痛が軽快するときは、特に急性膵炎を疑い、

 

ただちに腹部超音波検査と胸や腹部のレントゲン検査を行います。

 

中高年の男性が大量飲酒後に起こすアルコール性急性膵炎が代表的です。

 

 

しかし、女性も男性の半数程度の頻度で発症し、

 

その原因は胆石による胆石性急性膵炎あることが多いです。

 

 

急性膵炎と診断したら、次には重症度の判定が必要ですが、

 

まず、年齢です。70歳以上は要注意です。

 

そして、動脈血中の酸素分圧≤60㎜Hg

 

または人工呼吸を必要とするような呼吸不全かどうかどうかを見極めます。

 

動脈採血して酸素分圧を分析することは緊急設備がある病院でないと実施できないので、

 

簡便にかつ迅速に測定できる経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)計により、

 

動脈血酸素飽和度が90%未満かどうかで判断しています。

 

 

次のステップとしては

 

全身性炎症反応症候群に該当するかどうかを迅速に判断しなければなりません。

 

 

具体的には、以下の項目です。

 

1)体温>38℃あるいは<36℃

 

2)脈拍数>90/分

 

3)呼吸数>20/分あるいは動脈血中二酸化炭素分圧<32mmHg

 

4)白血球数>12,000/ または<4,000/ または10%超の幼弱球の出現

 

 

以上のうちで、一般の診療所で即座に確認できるのは①、②および③のみです。

 

しかし、この3項目が該当すると全身性炎症反応症候群と診断できることになっています。

 

 

そうすると、激しい腹痛を訴える患者さんの多くが、これに該当してしまいます。

 

急性膵炎の重症度判定を判定基準により厳密に行うためには、

 

血液検査の結果を待たなくてはならないため、手遅れにならないよう注意が必要です。

 

 

したがって急性膵炎を疑った場合は、重症度に関係なく、

 

緊急入院できる準備をし、24時間安全が確保される環境に移送することが大切です。

今月のテーマ<痛風・高尿酸血症>

 

 

「高尿酸血症・痛風の生活指導と合併症がある場合の治療」

 

 

1)高尿酸血症・痛風は代表的な生活習慣病です。

 

飲酒制限などの生活習慣是正はお薬の効果を高めます。

 

 

2)そこで生活習慣の是正を目的とした生活指導が基本となります。

 

 

3)高尿酸血症・痛風に対する生活指導は、食事療法、飲酒制限、

 

肥満者の場合は、肥満を解消することによって血清尿酸値を低下させる効果が期待されます。

 

 

4)運動の推奨が中心となります。

 

 

5)食事療法としては適正なエネルギー摂取、

 

プリン体・果糖の過剰摂取制限、十分な飲水を励行します。

 

 

6)身体活動(運動)は、メタボリック・シンドロームの種々の病態の改善に有効です。

 

メタボリック・シンドロームの改善は血清尿酸値を低下させる効果が期待されます。

 

 

7)高血圧・心疾患系の病気を合併する場合:

 

「総合的な臓器のリスク回避」を目指し、

 

同時に高尿酸血症の発症に関連する生活習慣を改善するための指導を受けましょう

 

 

8)脂質異常症を合併する場合:

 

動脈硬化性疾患の1因子となる脂質異常症を治療し、

 

動脈硬化性疾患の軽減を図ることを目標としつつ血清尿酸値のコントロールをします。

 

 

9)メタボリック・シンドロームを合併する場合:

 

食事療法や運動療法、また禁煙などの生活習慣をまず改善して

 

7%程度の体重の減量をはかることが基本です。

 

メタボリック・シンドロームの治療の最終目標は、

 

本症候群の帰結点である動脈硬化性疾患や2型糖尿病の

 

発症予防と進展を食い止めることにあります。

 

 

10)なお日本肥満学会は、

 

まず現在の体重ないしウエスト周囲径の5%程度の減少を目標とするよう勧告しています。

今月のテーマ<痛風・高尿酸血症>

 

 

「高尿酸血症・痛風の治療」

 

 

1)水分の摂取量を確保し、1日尿量2リットル以上を目安にします。

 

 

2)薬を内服しているときは、しっかりと、水分を摂取しましょう。

 

 

3)高尿酸血症の治療では、

 

肥満、高血圧、糖・脂質代謝異常などを合併することが多いので、

 

生活習慣全般を改善することが最も大切です。

 

運動は水氣道のような有酸素運動を推奨し、

 

過激な無酸素運動は血清尿酸値を上昇させるので控えるようにします。

 

 

4)特に、血清尿酸値を下げるためには、

 

アルコール飲料やプリン体、果糖(フルクトース)、ショ糖(シュークロース)や

 

カロリーの過剰摂取を避けることがポイントです。

 

 

5)尿路結石、腎疾患、高血圧などの合併がある場合は、

 

血清尿酸値が8.0mg/dⅬ以上で薬物療法を考慮します。

 

 

6)痛風発作の発現・再現、高尿酸血症の合併症を防ぐためには、

 

血清尿酸値を6.0mg/dl以下にコントロールすることが重要です。

 

 

7)なお、治療により自覚症状がなくなっても継続療養することが必要です。

 

 

8)無症候性高尿酸血症といって、症状をともなわない高尿酸血症の段階で、

 

無症候性高尿酸血症であっても、生活習慣の改善にもかかわらず

 

血清尿酸値が9.0 mg/dⅬ以上であればお薬による治療の可否を検討します。

 

 

9)高尿酸血症が原因で発症する

 

痛風関節炎、痛風結節、腎障害、尿路結石を予防するために

 

血清尿酸値を低下させることが望ましいです。

今月のテーマ<痛風・高尿酸血症>

 

 

「高尿酸血症・痛風の診断」

 

 

Q1.そもそも尿酸とは?

 

A1.尿酸はプリン塩基(アデニン、グアニン)をはじめとするプリン分解の最終産物です。

 

 

Q2.高尿酸血症の原因は?

 

A2.尿酸の産生過剰、尿酸排泄の低下またはその両方の合併により生じます。

 

尿酸の産生過剰の原因は、食事からのプリンの過剰摂取や、

 

内因性のプリン産生増加、プリンヌクレオチドの分解亢進などにより起こります。

 

 

 

高尿酸血症・痛風の診断の実際:

 

1)高尿酸血症は血清尿酸値が7.0mg/dl以上をいいます。

 

 

2)高尿酸血症が急性痛風関節炎、痛風結節、腎障害、尿路結石

 

の原因になることは以前から知られていました。

 

 

3)近年、高尿酸血症が動脈硬化性疾患の危険因子でもあることが明らかになりつつあります。

 

 

4)高尿酸血症は、原因によって

 

「尿酸産生過剰型」、「尿酸排泄低下型」、「混合型」に大別され、

 

そのタイプ別に適した治療を行います。

 

 

5)痛風の診断では、単純エックス線(レントゲン)検査は、

 

他の類似の疾患との鑑別に有用です。

 

高円寺南診療所では、痛風の診断に積極的に超音波検査を活用し、

 

パワードップラー法による異常血流を検知し、

 

関節炎の拡がりと炎症の程度などを併せて評価し診断に役立てています

 

 

6)超音波検査は苦痛を伴わず、被爆の恐れもないので、

 

必要な時間をかけて、患者さんとコミュニケーションを図りながら、

 

丁寧に観察できるので実際上のメリットが大きいです。

 

骨病変の評価においてがレントゲン検査より優れ、

 

また軟骨表面の尿酸塩結晶の検証に有用であることが示されています。

今月のテーマ<痛風・高尿酸血症>

 

 

「高尿酸血症・痛風の最近のトレンド」

 

1)高尿酸血症は、本邦の30歳以降の成人男性では推定30%で、

 

30~60歳台のすべての年齢層の男性で現在も増加傾向にあります。

 

 

その背景として摂取カロリーが減少しているにもかかわらず、

 

肥満者の割合が増加していることが挙げられます。

 

 

その理由は、1日当たりの歩数の減少をはじめとする

 

運動不足による体脂肪率の増加が考えられています。

 

 

肥満および運動不足による体脂肪率の増加をはじめとする

 

メタボリック・シンドロームも、

 

血清尿酸値の上昇に結び付く可能性を示しています。

 

 

 

2)血清尿酸値は慢性腎臓病の発症や進展に関係します。

 

なお一般集団において高尿酸血症は腎不全の危険因子です。

 

痛風は、本邦の30歳以降の成人男性では推定1%超です。

 

 

 

3)肉類・砂糖入りソフトドリンク・果糖の摂取量が多い集団、

 

BMI(体格係数)の高い集団は痛風になりやすいです。

 

これに対してコーヒー摂取量が多い、ランニング距離が長い、

 

適切な運動を日常的に行う集団は痛風になりにくいです。

 

 

 

4)痛風・高尿酸血症の合併症には尿路結石があります。

 

尿酸結石が主ですが、その危険因子は、尿量低下、

 

高尿酸尿症(尿中に排泄される尿酸の濃度が高い状態)、

 

酸性尿の3つが重要です。

 

したがって、1日2リットル以上の尿量の確保、

 

尿中の尿酸排泄を高めない治療方法の選択、

 

尿のアルカリ化が尿酸結石の予防に有効です。

 

 

 

5)血清尿酸値は単独で将来に高血圧を発症にかかわりがあります。

 

また、脳卒中の初発ならびに再発リスク、

 

心不全による予後ならびに再入院の予測子になる可能性が指摘されています。

今月のテーマ<痛風・高尿酸血症>

 

「痛風診療の意義」

 

痛風は日本では明治以降に初めて報告された病気です。

 

 

痛風の原因は高尿酸血症であり、これは他の生活習慣病と同様に、

 

飽食の時代とともに患者数が増えています。

 

 

症状が多彩であるため、

 

出現する症状によって患者さんが整形外科(急性関節炎など)、

 

泌尿器科(尿路結石など)、皮膚科・外科(痛風結節など)、

 

内科(メタボリックシンドローム合併例など)など

 

異なる診療科を受診することが多いようです。

 

 

 

その場合、診療科により治療のポイントに違いが生じやすく、

 

また一般医と痛風専門医(主としてリウマチ内科専門医や糖尿病専門医など)で

 

診療内容が大きく異なることも問題点の一つとして指摘されています。

 

 

 

生活習慣病対策の基本は、生活習慣の是正、

 

まずは生活リズムの乱れを正し、そのうえで食事療法、運動療法

 

さらに、最近では心身医学療法(認知行動療法を含む)を活用することがトレンドです。

 

とくに痛風発症とストレスは深い関係がありますが、

 

一般医のみならず痛風専門医を自負するドクターのほとんどは馴染みが薄いせいか、

 

不得手としていることが多く十分に活用されていないどころか研究自体が未開発です。

 

 

 

高円寺南診療所は、多くの場合

 

『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン<第2版>』

 

(日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会、2010)

 

に準拠していますが、独自に補強した方法を用いています。

 

 

開設以来、食事療法(管理栄養士による外来栄養指導)の他、

 

運動療法(水氣道)、心身医学療法(臨床心理士による認知行動療法)などを統合し、

 

豊富な経験を集積し、本格的な痛風診療を実践し続けています

今月のテーマ<消化管機能障害>

 

「慢性胃炎」

 

ほとんどの皆さんは<慢性胃炎>という病名に聞き覚えがあることでしょう。

 

しかし、診断の水準は少し複雑です。

 

 

Step1: みぞおちの辺りを中心として

 

胃もたれ、胃痛、胸焼けなどの症状があれば、

 

それだけで臨床的には<慢性胃炎>を疑います。

 

 

Step2: 胃内視鏡(胃カメラ)で観察した胃粘膜が粗く、

 

あるいは粘膜の血管が透けて見えれば、内視鏡的<慢性胃炎>です。

 

この場合の多くは、ヘリコバクター・ピロリ感染が原因になっています。

 

 

Step3: 組織の一部を取り出し検査で確認すれば、病理組織学的<慢性胃炎>です。

 

 

高円寺南診療所では、

 

「みぞおちの辺りを中心として胃もたれ、胃痛、胸焼けなどの症状」だけの患者さんに

 

直ちに胃内視鏡検査を勧めることはありません。

 

 

むしろ、他の病院で、胃の検査をして「胃には異常がない」とされ、

 

治療もすでに始めているが、少しも良くならない、

 

かえってひどくなってきている、あるいは、少し良くなっても再び悪化を繰り返す、

 

といったタイプの患者さんの相談を多数例経験しています。