今月のテーマ「糖尿病の最新医療」

 

 

高円寺南診療所では平成元年開設以来、禁煙運動を展開してきました。

 

 

初診の患者さんに禁煙をお勧めすると、再診率は明らかに低下します。

 

 

多くの開業医が、喫煙習慣に触れようとしない気持ちは痛いほどわかります。

 

 

場合によっては、『大の嫌煙家』、『禁煙ファシスト』など、信じられない位の

 

悪意のこもった書き込みを名指しでされることがあります。

 

 

この記事をお読みの皆様は、少なくとも心ある方々だと思います。

 

 

周囲に喫煙者がいらしたら、優しく、愛情をこめて、諭してさしあげてください。

 

禁煙の勧めは『愛』に他なりません。

 

長い年月の末、『愛』が通じることがあります。長い目で見て差し上げることです。

 

性急な「思い」は、相手の心を重くしますが、

 

軌跡の長い「思いやり」は遠くまで届くことがあるようです。

 

そうした、ささやかな『愛』を実践していきませんか。

 

 

喫煙とメタボリックシンドローム・糖尿病との密接な関係

 

 

2005年4月、日本の内科系8学会によって構成された、

 

メタボリックシンドローム診断基準検討委員会によって日本人のデータをもとに

 

日本人にあったメタボリックシンドロームの診断基準が設定されました。

 

 

この基準では、内臓脂肪の蓄積を反映する腹囲を必須項目とし、

 

さらに糖代謝異常(糖尿病)、脂質代謝異常(高脂血症など)、

 

高血圧のうち2項目以上が重なった病態を「メタボリックシンドローム」と診断します。

 

 

つまり、健康診断を受けて、動脈硬化の危険因子が2つ以上あり、

 

その中で内臓脂肪の蓄積が疑われる人がメタボリックシンドロームというわけです。

今月のテーマ「糖尿病の最新医療」

      

肥満と糖尿病

 

肥満症は、わが国でも激増している現状を受けて、

 

日本肥満症学会が診断基準と治療指針を作成しています。

 

 

その際に、大切なのは肥満(症)の基準が日本と欧米では異なるということです。

 

 

欧米ではBMIが30以上を肥満と定義していますが、

 

日本肥満学会では25以上を基準として採用しています。

 

 

さて、BMIBody mass index)とは、

 

身長(m)の二乗に対する体重(Kg)の比で体格を表す指数です。

 

 

このBMIが男女とも22のときに高血圧、脂質異常症、肝障害、耐糖能障害等の有病率が

 

最も低くなるということがわかってきました。

 

 

そこでBMI=22となる体重を理想としたのが標準体重です。

 

 

BMI 25以上を肥満と判定しています。

 

 

もともと日本では肥満が少なく、日本人は欧米の白人と比べて、

 

膵臓のβ細胞がデリケートで体重増加による

 

糖尿病等の発症のリスクが合併しやすいことが知られています。

 

 

肥満者はインスリン抵抗性が高く、

 

糖尿病を来した場合にはインスリン抵抗性改善作用を有するビグアナイド(メトホルミンなど)、

 

チアゾリジン誘導体(ピオグリタゾンなど)が用いられます。

 

 

中枢性食欲抑制薬(マジンドール)は、高度肥満者のみが適応となります。

 

 

糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬は、食欲抑制作用があるので、

 

肥満を抑制する作用を持っています。

 

 

日本で減量手術として保険収載されているのはスリーブ状胃縮小術のみです。

 

今月のテーマ「糖尿病の最新医療」

 

 

「劇症1型糖尿病」

 

 

本疾患は初期症状が典型的でないため、患者さんが協力的でないと、見落としやすく、

 

治療が遅れると予後不良の転帰をとる可能性が高いです。

 

 医師は積極的に疾患の存在を疑い、少なくとも初診時に尿検査を行うことが求められます。

 

しかし、「余計な検査は受けたくない。過剰診療だ。」と仰って、

 

保険点数26点(3割負担で70円)の尿検査を拒否する方が、

 

過去において少なくなかったことを経験しています。

 

実に嘆かわしい医療現状です!

 

 

劇症1型糖尿病は急性1型糖尿病の約20%とされます。

 

 

ウイルス感染による膵臓炎、ウイルス感染に対する免疫応答、

 

または、その両方がインスリンを産生する膵島β細胞の

 

急激な破壊につながると推測されています。

 

膵島β細胞の機能障害は永続的なため、糖尿病も持続的です。

 

ただし、通常の1型糖尿病とは異なり、GAD抗体などの膵島関連抗体は通常陰性です。

 

 

約70%の症例に前駆症状として上気道炎(咽頭痛、発熱など)、

 

消化器症状(上腹部通痛、悪心・嘔吐)などの感染症状があり、

 

急激な血糖上昇のため、口渇、多飲、多尿、全身倦怠感を示します。

 

(ただし、代謝失調は急激に生じるため、

 

初診時のHbA1cは8.7%以下であることが診断基準の1つです。)

 

発症1週間前後で膵β細胞に激しい炎症が生じ、

 

ケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥ります。

 

 

ケトアシドーシスにより重症化すると昏意識障害、

 

さらに昏睡に陥るので、適切な輸液とインスリン投与が遅れれば致死的です。

 

 

また、回復してもインスリンの枯渇により、血糖コントロール困難となり、

 

糖尿病に伴う、さまざまな合併症(網膜症、腎症、神経障害、動脈硬化症)のリスクが高く、

 

社会生活に高度の支障をきたす重大な病気です。

 

 

全身状態について、呼吸、循環器の救急的管理が必要な場合もあります。

 

 

また、膵外分泌酵素

 

(アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼⅠなど)の上昇を伴うことが多いです。

 

 

急性期から回復後は、インスリン強化療法など、通常の1型糖尿病の治療に準じて、

 

食事療法、運動療法、インスリン治療、自己管理が必要となります。

 

膵移植、膵島移植などはドナー不足のため、まだ現実的ではありません。

今月のテーマ「ウイルス性消化器疾患の最新医療」

 

 

<主な病原ウイルスと消化器疾患>

 

 

C型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)・・・肝細胞がん、管内胆管癌

 

 

消化器疾患においては腫瘍や炎症において

 

感染との関連が指摘されるものが多数あります。

 

 

EBウイルス・・・低~中分化胃がん

 

ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)・・・薬剤性過敏症症候群

 

サイトメガロウイルス(CMV)・・・潰瘍性大腸炎

 

ピロリ菌・・・慢性活動性胃炎、萎縮性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がん、胃MALTリンパ腫

今月のテーマ「ウイルス性消化器疾患の最新医療」

 

 

<免疫抑制・化学療法によるB型肝炎ウイルスの再活性化問題②>

 

 

B型肝炎のマネメントは、まず最初に、HBs抗原を測定(スクリーニング検査)します。

 

 

HBs抗原陽性の場合:核酸アナログ(エンテカビルなど)による抗ウイルス療法を開始します。

 

HBs抗原陰性の場合:HBc抗体とHBs抗体を測定します。

 

いずれかが陽性の場合:HBV-DNAを測定します。

 

 

このHBV-DNAが陽性(≧2.1log copies/mL)なら、

 

肝酵素(AST/ALT)活性が基準値内であっても、直ちに核酸アナログ療法を開始します。

 

 

免疫抑制・化学療法中は定期的にHBV-DNA測定を行い、

 

陽性化したら直ちに核酸アナログを投与します。

 

 

免疫抑制・化学療法終了後も、B型肝炎ウイルスの再活性化が起こり得るので、

 

当面の期間、核酸アナログの投与を継続し、引き続きフォローアップが必要となります。

 

 

分子標的薬による治療中に再活性化することもあり、

 

特にリツキシマブを含む化学療法ではリスクが高いことが知られています。

今月のテーマ「ウイルス性消化器疾患の最新医療」

 

 

<免疫抑制・化学療法によるB型肝炎ウイルスの再活性化問題①>

 

 

B型肝炎ウイルスがやっかいなのは、C型肝炎ウイルスとは異なり、

 

肝臓内からウイルスを完全に排除できないことです。                    

 

 

そして、免疫抑制薬や化学療法によって患者の免疫能が低下すると、

 

B型肝炎ウイルスの再増殖(再活性化)をきたして肝炎を発症します。

 

 

特に、B型肝炎が治ったようにみえる患者(HBs抗原陰性)から発症したものを、

 

デノボB型肝炎は重篤化しやすく死亡率が高いです。

 

今月のテーマ「ウイルス性消化器疾患の最新医療」

 

 

<C型肝炎ウイルスに対する経口薬療法②>

 

 

C型肝炎ウイルスには複数のタイプがあります。

 

ゲノタイプ1、ゲノタイプ2といいますが、

 

それぞれに承認されている治療薬は異なり、使い分けが必要です。

 

 

DAAs治療開始およそ4週後にHCV⁻RNAが陰性化しますが、

 

治療中断による再燃を避けるため、12ないし24週続けます。

 

ただし、DAAsは単剤投与では耐性ウイルスが出現しやすいため、

 

複数の種類の併用療法が基本になります。

 

 

インターフェロンと併用することもありますが、インターフェロンなしで、

 

複数のDAAs併用によって治療することがトレンドになってきました。

 

インターフェロン治療とは異なり、代償性肝硬変においても慢性肝炎患者と同じくらい有効です。

 

 

残念ながら、非代償性肝硬変に対しては、いずれの薬剤も未承認です。

今月のテーマ「ウイルス性消化器疾患の最新医療」

 

 

<C型肝炎ウイルスに対する経口薬療法①>

 

C型肝炎に対する治療は、2014年以降大転換しました。

 

それまでは、インターフェロンの注射による治療が主流でした。

 

DAAsという飲み薬で治療できるようになってきました。

 

これらはインターフェロンとは異なり、白血球や血小板の減少という副作用がありません。

 

そもそも、C型肝炎は、ウイルスを永続的に排除できる可能性があります。

 

ですから、持続的にウイルスを陰性化することを治療の目標にします。

 

DAAsという治療薬は、C型肝炎ウイルスの非構造タンパク質を標的とすwる低分子量化合物群です。

 

今月のテーマ <クリーゼ(危機)>

 

 

「副腎クリーゼ(急性副腎不全)①」

 

何らかの原因(ストレッサー)によって副腎皮質ホルモンの分泌が急激に不足する(第一次ストレス反応)と、

 

急性副腎不全(副腎クリーゼ)と呼ばれるショック状態(第二次ストレス反応)となります。

 

 

副腎の感染や出血、血栓、外傷、下垂体障害などがストレッサーとなり、

 

ストレス反応として副腎皮質ホルモンの急速な不足を生じるといったことがあります。

 

副腎皮質ホルモンの急激な不足だけでなく、相対的不足でも副腎クリーゼは起きます。

 

 

これはアジソン病(副腎皮質機能低下症)患者が強いストレッサーに晒されたときなどが代表的です。

 

副腎皮質ステロイド剤の長期大量内服患者が、急に薬の服用を中止した場合も起こることがあります。

 

 

つまり、副腎皮質ステロイド剤の急激な中止も生体にとっては

 

大きなストレッサーとなりうることを理解しておくことが重要です。

 

 

副腎皮質から分泌される副腎皮質ホルモンは、

 

糖分の代謝や水分・電解質(酸・塩基など)のバランスに関わり、

 

ストレッサーに対抗して体のはたらきを調節する重要なホルモンです。

 

 

それまで投与されていたステロイドの突然の中止や、

 

感染・敗血症、精神的なストレスとされるものは、すべてストレッサーとなり得ます。

 

 

こうしたストレッサーによるストレス反応として副腎クリーゼは発症することがあります。

 

 

今月のテーマ <クリーゼ(危機)>

 

「クリーゼを理解する②」

 

 

前回(昨日)は、クリーゼの引き金としてストレスが関与することを説明しました。

 

 

このストレスという言葉は、日常生活においても余りにも便利に使われ過ぎていて、

 

医学的に議論するうえで問題が生じやすいのが難点だと思います。

 

 

というのは、そもそもストレスとは、

 

何らかの刺激によって引き起こされる結果として

 

体の働きの歪(ひずみ)という反応を意味するのでストレス反応と表記した方がわかりやすいです。

 

 

これに対して、体の働きの歪(ひずみ)を引き起こす原因は

 

ストレッサーという言葉を用いて区別して用いると、因果関係が分かりやすくなると思います。

 

 

 つまり、ストレッサー(原因)⇒ ストレス反応(結果)という関係があるので、

 

ストレスという言葉が出てきたときには、その内容を吟味しないと混乱を生じます。

 

 

以上をまとめてみますと、

 

私たちの心身に悪影響を及ぼす様々なストレッサーは、

 

以下のようなストレス反応を引き起こします。

 

 

1)生命のコンディションの基礎を支えるホルモンに大きな影響を与えること。

 

2)ホルモンバランスの乱れ

 

(これ自体が、慢性的なストレッサーです)をさらに増幅してしまうことがあること。

 

3)その結果、生命が危険にさらされてしまうことがあること。

 

 

 

次回から代表的なクリーゼについて説明していきます。