<第6ステップ> その1

 

あなたは、いま、すでに助けを求める人を、頭の中で特定できた段階にあるとしましょう。

 

その次の段階は、「助けの求め方を考え、実行する」ことです。

 

 

もし比較的軽い、小さな頼みごとといった助けが必要なら、実行しやすいかもしれません。

 

例えば、助けを求める人が親しい間柄であれば、

 

気軽に声をかけたり、電話やメールで尋ねたりすることができるでしょう。

 

また、例えば道に迷ってしまった時などは、

 

通りがかった見知らぬ人に声をかけてみたり、交番に行って聞いてみたりするでしょう。

 

 

これに対して、自分が抱えている問題が重大であれば、

 

行動に移す前に、予め助けの求め方を考えて、

 

綿密に計画を練っておかなければなりません。

 

たとえ親しい間柄であったとしても、まず声のかけ方・連絡の方法、

 

最初にかける言葉、タイミング、時間や場所などをよく考え吟味する必要があるでしょう。

 

 

それにはまず自分が何にどんなふうに困っているか、

 

相手にわかるように具体的に説明できることが必要です。

 

そのうえで、自分の苦しい胸の内が相手に伝わるように表現する能力も必要です。

 

 

このような能力、つまり、他者と良い信頼関係を築き、社会との望ましい適応をするために、

 

有効な行動を適切に実行する能力のことを「社会的スキル(social skill)」と呼びます。  

 

 

* 参考文献: 太田仁,2005,「たすけを求める心と行動」,金子書房

 

 

ストレス対処 MIYAJI 心理相談室(高円寺南診療所内)

 

主任 臨床心理士 宮仕 聖子

<第5ステップ> その2

 

第5ステップは「助けを求める人を決める」段階です。

 

自分が抱えている、今ある大事な問題について、

 

周囲のサポーターたちの誰に助けを求めるのが適切か、引き続き考えていきましょう。

 

複数の人の力を借りることも大きな助けとなるでしょう。

 

 

しかし、上のような考えを巡らせ、助けを求めることが苦しくなったり、

 

ためらわれることもあったりすると思います。

 

特に、きわめて個人的な問題の場合や、

 

もっと自分の苦しみをわかってほしい場合はそうです。

 

どんなに親しい間柄でも、親しいからこそ、打ち明けにくいこともあるのです。

 

 

臨床心理士は第一に、来談者の皆さんの「しんどさ」「苦しみ」に寄り添い、

 

受け止めることに努めます。

 

そのために、皆さんの心の中で、周囲で、

 

何が起こっているのかを皆さんがお話しできる範囲でお聞きしていきます。

 

事情をしっかり伺った上で、今の苦しみから脱していく方法を

 

ともに真剣に考えていきます。

 

もちろん、守秘義務がありますので、

 

お話したことが外部に漏れる心配はありません。

 

 

臨床心理士に相談する、カウンセリングを受ける、

 

というのは、「自分は病気なんだ」ということではありません。

 

第24,25回でお話ししたように、「自己スティグマ」、

 

つまり「こんな自分は周囲に受け入れられない(病気だ、変だ)というレッテルを

 

自分自身に貼ってしまうこと」によって自尊心や自己評価が下がり、

 

助けを求めることをためらわせるのです。

 

 

誰もが必ず人生の中でライフイベント、重大な問題にぶつかることがあります。

 

つい、「他の人にとっては大した問題じゃないだろう、こんなことで人に相談するのは…」

 

とためらう気持ちが起こるかもしれません。

 

しかし、自分と他人の悩み、苦しみの重さは天秤で測れるものではありません。

 

誰にでも弱点があって、たまたまそこに問題が発生したと思ってくださってよいと思います。

 

「自分が弱いから」ではありません。

 

 

臨床心理士は、「その人にとって」重大な問題である、

 

ということをよく理解している専門家なのです。

 

 

* 参考文献: 太田仁,2005,「たすけを求める心と行動」,金子書房

 

 

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主任 臨床心理士 宮仕 聖子

 

<第5ステップ> その1

 

「人に助けを求めよう、人の力を借りよう」と決断できたら、

 

次は「助けを求める人を決める」段階に入ります。

 

 

この段階では、こんな考えを巡らせるでしょう。

 

○自分の悩みのために、時間や労力を割いてくれそうな人はいるだろうか。

 

○悩みを相談することで、その人の負担になりはしないだろうか。

 

●自分の気持ちに、真剣に寄り添ってくれる人はいるだろうか。

 

●自分より知識を持っていて、教えてくれそうな人はいるだろうか。

 

●自分の問題が解決するよう、良い助言をくれる人はいるだろうか。

 

●印は、今まで何度も挙げている通り、

 

相手に①情緒的サポート、②手段的サポート、③情報的サポートを求める、

 

ということです。

 

(第16~19回をご参照ください)

 

 

第14回の「コンボイ・モデル」でお話したように、

 

あなたの周りの人たち(サポーター)が、どの円に含まれ、

 

どのくらいいるのか、まずは当てはめてみましょう。

 

 

そして、自分が抱えている、今ある大事な問題について、

 

周囲のサポーターたちの誰に助けを求めるのが適切か、考えてみましょう。

 

もちろん、複数の人の力を借りることも大きな助けとなるでしょう。

 

 

臨床心理士は、自身が直接のサポーターであると同時に、

 

「その人が抱えている、今ある大事な問題について、

 

周囲のサポーターたちの誰に助けを求めるのが適切か」

 

ということをともに考え、検討するパートナーともなり得る専門家なのです。

 

* 参考文献: 太田仁,2005,「たすけを求める心と行動」,金子書房

 

 

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主任 臨床心理士 宮仕 聖子

<第4ステップ> その2

 

前回は、「自己スティグマ」が助けを求める妨げとなることについて、

 

私の研究結果をもとに、その理由をご紹介いたしました。

 

また、その他の理由として、

 

○混乱していて、そこまで考えが及ばない状態である、

 

○人に助けを求められないほど、疲弊しきっている、

 

○無気力になっていたり、投げやりになっていたりする、

 

といったことも挙げられます。

 

 

上記のような理由が解消され、人に助けを求めた方がいい、

 

自分にとってプラスであると判断されれば、

 

「人に助けを求めよう」という意思が固まります。

 

 

臨床心理士といった専門家は、どなたのどんな悩みでも、

 

その方にとって大切な問題であると受け止めます。

 

 

今まで書いてきたように、専門的な知識を持っており、

 

自尊心が低下することなども熟知しています。

 

それらに配慮しながら慎重に、そして支持的に来談者の皆さまの悩みに耳を傾けます。

 

その上で、これから問題にどう取り組んでいけばよいかを示唆します。

 

認知行動療法であれば、問題解決に向けて目標を立て、

 

カウンセラーと来談者の共同作業によって、対処法の習得を進めていきます。

 

 

* 参考文献: 太田仁,2005,「たすけを求める心と行動」,金子書房

 

 

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主任 臨床心理士 宮仕 聖子

 

<第4ステップ> その1

 

「自分にどれだけの解決能力があるか」が判断できたら、

 

次は「人に助けを求めるかを決める」段階に入ります。

 

この段階での前提として大切なことは、気づきです。

 

たとえば、以下のような気づきです。

 

〇「自分は問題を抱えている」

 

〇「しんどいな」

 

〇「これは重大だな」

 

〇「一人では解決が難しいな」

 

しかし、人はそれでも助けを求めない場合があります。

 

それは<HELP!力>第3回~第9回で上げた数々の理由が存在するからです。

 

 

私が行った研究(宮仕, 2010)では、悩みが深刻である時に、

 

助けを求めよう(あるいは、求めまい)という意思決定が起こるのではない、ということがわかりました。

 

 

そうではなく、「自己スティグマ」が助けを求める妨げとなるというものでした。

 

つまり、「こんな自分は周囲に受け入れられないというレッテルを自分自身に貼ってしまうこと」が

 

「自尊心や自己評価が下がること」に繋がります。

 

その時こそが助けを求めることをためらってしまうプロセスを形成し始める、

 

という結果が得られました。

 

 

この研究結果は、臨床心理士として、

 

とりわけ認知行動療法を専門とする私の考え方を支える大きな柱の一つになったように思います。

 

 

* 参考文献: 太田仁,2005,「たすけを求める心と行動」,金子書房

 

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主任 臨床心理士 宮仕 聖子

 

<第3ステップ (続き)

 

第3ステップは、「自力で解決できるか」「自分にどれだけの解決能力があるか」を検討する段階です。

 

この段階で問題になるのは、自分の解決能力を過大評価あるいは過小評価することです。

 

過大評価した場合は、問題解決に失敗したり、自力で頑張り過ぎて疲弊してダウンしたりする恐れがあります。

 

その結果、問題がもっと大きくなってしまうかもしれません。

 

過小評価した場合は、人に頼り過ぎて、自分の解決能力を伸ばすチャンスを失ったり、

 

人に依存し過ぎて迷惑をかけたりしてしまいます。

 

 

いずれの場合も、気づきと対応が遅れれば、人間関係にヒビが入ったりするかもしれません。

 

 

臨床心理士は、来談者の皆様の気づきを促し、

 

大切なサポート資源である人間関係を損なわずに活用できるよう、

 

また遅くとも、なるべく修正可能な段階で、

 

「自分で対応できること」や「人の助けが必要か」

 

といったことに気づけるようにサポートしていきます。

 

 

また言うまでもなく、臨床心理士は情緒的サポートをはじめ、

 

必要に応じて直接的にもサポートを提供していきます。

 

* 参考文献: 太田仁,2005,「たすけを求める心と行動」,金子書房

 

 

ストレス対処 MIYAJI 心理相談室(高円寺南診療所内)

 

主任 臨床心理士 宮仕 聖子

 

 

<第3ステップ

 

もし、<この問題をこのままにしておくと、この先まずいぞ>と、現状を認識できたら、

 

その次は「自力で解決できるか」「自分にどれだけの解決能力があるか」を検討する段階に入ります。

 

自分で何とかできるようなら、人に助けを求めないでしょう。

 

一方、例えば、

 

1)<自分が抱えるには精神的に荷が重すぎる>とか、

 

2)<問題解決に関する知識がない>とか、

 

3)<人から少し助言をもらえればよりスムーズに解決できそうだ>

 

と判断されれば、次の段階へ進みます。

 

 

ちなみに、今までこのコラムを読んできてくださった皆さんはお気づきかもしれませんが、

 

1)は情緒的サポート、 辛さや苦しさ、悲しさなどの気持ちの面に寄り添い、共感したり、励ましたりしてくれるようなサポート。

 

2)は手段的サポート、 勉強やパソコンの操作といった、やり方がわからない時に具体的な方法を教えてくれるようなサポート。

 

3)は情報的サポート ヒントのような、自分にとって役立つ知識や情報を提供してくれるようなサポート。

 

が求められることになります。(第16回をご参照ください)

 

 

* 参考文献: 太田仁,2005,「たすけを求める心と行動」,金子書房

 

 

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主任 臨床心理士 宮仕 聖子

 

<第2ステップ

 

もし自身の問題に気づくことができたら、

 

次のステップは「問題の重大性」を判断する段階になります。

 

緊急性があれば、<即座に対処しよう>、<助けを求めよう>と判断されるでしょう。

 

それほど問題が重大でなければ、先送りしたり、<時間をかけて解決しよう>と判断したりするでしょう。

 

 

また、時間が解決してくれるかもしれません。

 

しかし、<このままにしておくと、この先まずいぞ>と判断されれば、次の段階へ進みます。

 

実はここでも「否認」が働くことがあります。

 

 

問題が重大であって、<この先まずいぞ>という状況判断が、

 

その人にとってあまりにも不安で脅威的であると、

 

「大したことないさ」とか「何とかなるさ」と、事の重大性を否認してしまうのです。

 

 

また、他者の指摘や忠告も素直に受け入れられず、対人関係にまで問題が生じるかもしれません。

 

 

まとめ: 第1ステップにしても第2ステップにしても、

 

「否認」という防衛機制に陥りやすいことが問題になります。

 

ひとたび「否認」に陥ると、その先、問題がさらに大きく膨らんだり、

 

深刻になったりする可能性が大きくなります。

 

 

先に述べたように、人間関係が既にこじれてしまっていたら、

 

たとえ現状を正しく受け止められても、問題の重大性に気づくのが遅れ、

 

人に助けを求めることすら難しくなってくるでしょう。

 

 

臨床心理士は、皆様を取り巻く大切な人間関係がこじれないように、

 

なるべく早い段階で、現状を整理して、問題の重大性に気づけるようにサポートしていまきす。

 

 

* 参考文献: 太田仁,2005,「たすけを求める心と行動」,金子書房

 

 

ストレス対処 MIYAJI 心理相談室 (高円寺南診療所内)

 

主任 臨床心理士 宮仕 聖子

 

今回は「人が助けを求めるまでのプロセス」について考えていこうと思います。

 

 

<第1段階>

 

まずは、「自分の身の上に問題が起こった」、「自分は問題を抱えている」、と気づくことです。

 

目の前で問題が起これば、あるいは「しんどいな」と感じれば、「問題」に気づくはずだと思うかもしれません。

 

 

しかし、実はそう簡単な話ではありません。

 

人は自分を守るために、「否認」という防衛機制を用いることがあります。

 

「防衛機制」とはフロイトの精神分析の用語です。

 

簡単に言うと、「強い不安や受け入れがたい衝動が生じた時に、

 

不安定にならないよう、自分(自我)を守るために、無意識的に行われる心理的な働き」です。

 

 

また「否認」とは防衛機制の一つで、

 

「不安や苦痛を生み出すような問題から目をそらし、認めないこと」です。

 

 

問題が起こった時に、自分にとってあまりにも不安や脅威だったりすると、

 

その感情から自分を守ろうと、無意識的に問題自体を「否認」してしまうことがあるのです。

 

 

心の中で、問題がそもそも無かったことのように処理されてしまうと、

 

問題自体に気づくことができなくなってしまいます。

 

 

自分(自我)を守るためには、まず問題を意識的に受け止めることが大切です。

 

なぜなら、問題は取り残されたまま、原因がわからぬまま、

 

心身に変調をきたしてしまうからです。

 

 

そこで臨床心理士は、まずどんなにしんどいのか、ご本人の心身の変調を受け止めます。

 


そして、クライアントさんの自我を守りつつ、問題(困難)に気づけるようにサポートしていきます。

 

 

 

* 参考文献: 太田仁,2005,「たすけを求める心と行動」,金子書房

 

 

ストレス対処 MIYAJI 心理相談室 (高円寺南診療所内)

 

主任 臨床心理士 宮仕 聖子

(18の続き)

 

臨床心理士といった心理の専門家は、

 

「苦しい、辛い」という訴えしか言えない状態、混乱した状態でも、

 

まず情緒的なサポートによって、クライアントさんの気持ちの下支えをいたします。

 

 

どんなことが辛いのか、お話ができるまで、待っています。

 

また、その人が話しやすいように気持ちを引き出すサポートもします。

 

そして、必要であればより専門的な、手段的・情報的サポートも提供します。

 

 

例えば、認知行動療法といった手法を使って、クライアントさんと問題の解決に向けて、

 

物事のより良い受け止め方や考え方、ふるまい方のトレーニングを提供します。

 

 

心理の専門家というと、ちょっと相談に躊躇するところがあるかもしれませんが、心配はいりません。

 

その人が今訴えたいことを、ありのまま受け止める姿勢でお話をお聞きします。

 

ただ、相談する人から「HELP!」が来ないと、

 

カウンセラーは十分なサポートをすることができません。

 

もし悩んで、周りの人に話しづらかったり、うまくいかなかったりするときは、

 

カウンセラーに一言、「HELP!」と伝えに来てくださいね。

 

 

ストレス対処 MIYAJI 心理相談室(高円寺南診療所内)

 

主任 臨床心理士 宮仕 聖子