今月のテーマ<救急医学③…心肺蘇生における電気的治療>

 

 

電気的除細動は、心肺蘇生の基本手技になってきました。

 

電気的除細動は生命予後を左右します。

 

2005年のガイドライン(ILCOR)など複数の心肺蘇生ガイドラインで、

 

早期除細動の有効性は実証されています。

 

まず、正常の心電図の例をお示しします。

 

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以前は医師・看護師・救急救命士のみに電気的除細動器を用いた

 

「除細動」「指同期性通電」の実施が認められていました。

 

 

しかし、2002年の高円宮憲仁親王の急逝が心室細動によるものであったことなどを受け、

 

2004年7月、厚生労働省から「緊急性があり医師がいないなどの条件を満たした場合は、

 

一般市民が除細動を実施しても医師法違反とはならない」旨の見解が出されました。

 

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これは、心室細動では心停止から除細動を行うまでの時間が生命予後を決定する

 

という研究結果を踏まえたものであり、

 

事実上、一般市民へ除細動の実施が解禁されたことになります。

今月のテーマ<救急医学②…心肺蘇生時の気道確保>

 

 

心肺<脳>蘇生においては、胸骨圧迫による脳血流の維持に加え、

 

可能な限り血液の酸素化を維持することが大切です。

 

 

気道確保器具において基本的器具と高度器具の優劣の比較はなされていません。

 

 

基本的な気道確保器具には、バッグバルブマスクがあります。

 

 

高度な気道確保器具は、気管チューブと声門上気道デバイスのことです。

 

 

声門上気道デバイスとは、ラリンゲアルマスクエアウェイと食道閉鎖式エアウェイ

 

(コンビチューブ)が含まれます。

 

 

心肺蘇生時に、食道挿管に気づかないことは、気道管理において最も致命的なミスです。

 

気管挿管後の挿管チューブの先端位置の確認、連続モニターには、

 

身体所見に加えて波形表示のある呼気CO₂モニターが現在最も推奨されています。

 

 

心肺蘇生中の最適な換気量については知見がありません。

 

ただし、現行ガイドラインでは

 

「人工呼吸は1分間に約10回として過換気を避ける」としています。

 

 

訓練を受けていない救助者は胸骨圧迫のみ、

 

訓練を受けている場合は胸骨圧迫と人工呼吸を30:2の比で行います。

 

今月のテーマ<救急医学①…一次救命処置(JRC蘇生ガイドライン2015)>

 

日本蘇生協議会(JRC)は、2015年に5年ぶりに蘇生ガイドラインを改訂しました。

 

 

◎2010年のガイドラインより、引き続き

 

「心停止と判断した場合は、救助者は気道確保、人工呼吸よりも胸骨圧迫から心肺蘇生を開始する」とされ、

 

質の高い胸骨圧迫が重視されています。

 

 

人工呼吸を2回行うための胸骨圧迫の中断時間は10秒以内です。

 

 

AEDが到着したら、速やかに電源を入れて、電極パッドを貼付します。

 

AEDの音声メッセージに従って、必要があればショックボタンを押します。

 

電気ショックを行った後は、直ちに胸骨圧迫を再開します。

 

 

一次救命処置の変更点

 

1)倒れている人を発見した場合、まず二次災害防止のため、周囲の安全を確認する。

 

2)死戦期呼吸は「呼吸なし」と判断し、速やかに胸骨圧迫を開始する。

 

3)胸骨圧迫の深さは5㎝以上で6㎝を超えない(胸骨圧迫の部位は胸骨の下半分)

 

4)1分間あたりの胸骨圧迫の回数は100~120回である。

 

 

今月のテーマ<医学総論⁻高齢者医学>No.3

 

 

高齢者総合機能評価<CGA>の7つのスクリーニング検査(CGA7)

 

において「否」の場合に追加する検査について

 

 

意欲の欠如(テスト1)⇒Vitality Index

 

認知機能の低下(テスト2)⇒MMSE,長谷川式

 

基本的日常動作機能の低下(テスト5,6)⇒Barthel Index

 

手段的日常生活動作機能の低下(テスト3)⇒他の手段的日常生活動作についての評価

 

情緒<抑うつ状態>(テスト7)⇒GDS15項目版

今月のテーマ<医学総論⁻高齢者医学>No.2

 

 

高齢者総合機能評価<CGA>

 

の7つのスクリーニング検査について、評価方法と(評価領域)についてまとめてみます。

 

1)あいさつの可否 (意欲)

 

2)3つの言葉を繰り返してもらう (認知機能①言語流暢性「コミュニケーション能力」)

 

3)外来まで付き添いなしで来られたか(手段的日常生活動作)

 

4)2.で覚えた言葉の復唱 (認知機能②記憶機能「遅延再生」)

 

5)介助なしに入浴可能か(基本的日常生活動作①)

 

6)介助なしに排泄可能か(基本的日常生活動作②)

 

7)自分が無力だと思うか(情緒)

 

今月のテーマ<医学総論⁻高齢者医学>No.1

 

 

高齢者総合機能評価<CGA>

 

とは、高齢者の生活機能を評価する方法です。

 

 

評価の対象は、高齢者の日常生活動作能力、認知機能、情緒・気分の3つの側面です。

 

 

そのおのおのに対しては、簡単な7つのスクリーニング検査があり、

 

そこで異常が確認された場合のみ、種々の評価スケールを用いて、さらに詳しく調べます。

 

 

高齢者総合機能評価<CGA>を導入することのメリットは

 

1)生活機能・生命予後の改善

 

2)入院日数の短縮による医療費の抑制

 

3)チーム医療・ケアの形成

 

などとされています。

 

今月のテーマ<中毒の特定内科診療>

 

「環境薬物中毒」No.5

 

 

「花粉症と喘息の薬をだしてください」とのことで来院された若い男性。

 

これまで大きな病気にかかったことはなく、

 

ご家族にもアレルギー体質の方はいないとのことでした。

 

 

最初は、鼻炎合併喘息を疑いましたが、

 

実は花粉症でもなく気管支喘息でもありませんでした。

 

 

それに気づいた切っ掛けは、彼が転職してからの職場環境が、

 

以前の職場環境(不動産の営業職)と激変したこと、

 

取り扱っている物質について具体的に注意を向けることができたからです。

 

 

発作性呼吸困難をきたすような明らかな原因が不明であり、

 

何らかの環境物質に暴露したことに関連して

 

症状が出現した可能性について検討してみました。

 

 

彼が業務上で取り扱っている材料はウレタンフォームの材質とのことでした。

 

ウレタンフォームは、ポリウレタン樹脂で、その樹脂の原料は

 

ジイソシアネートという刺激性のある物質です。

 

目の粘膜や気道粘膜刺激症状や喘息様症状を起こすことで知られています。

 

高濃度の吸入により、肺炎や肺水腫を来します。

 

 

低濃度の暴露では、約半年から1年ほどで、

 

喘息様発作を起こすものが表れ始めるので、

 

職業性喘息を起こす代表的な物質の一つとされています。

 

 

発症の状況から、ジイソシアネートの低濃度長期暴露が疑われました。

 

 

この若い男性の症状である鼻炎は花粉症によるものではなく、

 

また咳も喘息様発作を伴い、職業性喘息とされますが、

 

一般の喘息とは区別されなければなりません。

 

 

その旨をご本人に説明し、産業医宛の情報提供書をお渡ししたところ、

 

後日、職場の衛生管理者とともに来院されました。

 

 

取り扱っていた物質は、トルエンジイソシアネートで、

 

軟質ポリウレタンフォームの原料として使用していたことが再確認されました。

 

コーティングやエラストマーという製品を製造しているとのことでした。

 

 

本人は、ウレタン発砲作業現場から離れて、

 

営業事務担当の部署に配置転換することによって、

 

以前の症状は全く出現しなくなったそうです。