今月のテーマ<神経の特定内科診療>
「重症脳卒中(JSS30以上)」Vo1.1
今回の症例は、平成元年に高円寺南診療所開設後も、
しばらくの間週末勤務をしていた救急病院での忘れられない経験例です。
70代の男性。急激な意識障害のために救急車で搬入されてきました。
付き添いの妻からのお話によると、
「今朝、食卓のテーブルの前で、椅子に座って食後のコーヒーを飲んでいたところ、
突然崩れ込むように椅子からずり落ちたので、大変だ、と思いながらも、
それまで、しばしば起こしていた低血糖発作かもしれないと考えて、ようやく救急車を呼びました。
持病に高血圧と不整脈がありますが、
大の病院嫌いのためこれまで治療を受けてくれませんでした。」
とのことでした。
意識障害の評価は、意識レベルJCSⅡ-10と判断しました。
JSCとはJapan Coma Scaleという意識障害の重症度分類です。
まず、JSCⅡというのは、刺激すると覚醒する状態です。
これに対してJSCⅠは、刺激しなくても覚醒している状態、
JSCⅢは、刺激しても覚醒しない状態です。
次に、JSCⅡをさらに細かく査定してみます。
JSCⅡには3水準あり、JSCⅡ⁻10、JSCⅡ⁻20およびJSCⅡ⁻30です。
JSCⅡ⁻10は、「普通の呼びかけで容易に開眼する」状態
JSCⅡ⁻20は、「大きな声または体を揺さぶることにより開眼する」状態
JSCⅡ⁻30は、「痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと、辛うじて開眼する」状態です。
これは意識障害の分類であって、脳卒中の重症度の評価ではありませんが、
緊急を要する現場で時間と手間がかからない評価方法なのでとても有用です。
当然の意識障害であることから、脳卒中を疑いました。
そこで神経学的検査をすると、左片麻痺を認めました。
そこで右半球の脳卒中を疑いました。
ただし、脳卒中には、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞があるので
鑑別が必要です。
不整脈を心電図で確認すると、心房細動と診断しました。
この慢性の心房細動を原因としてできた心臓内の血栓が、血流に乗って
脳へ向かう動脈を閉塞させたこと(心原性脳塞栓症)が推定されました。
脳卒中の中でも、脳梗塞、てんかん、低血糖発作などを疑いました。
ただちに頭部MRI検査を行いましたが、発症後3時間を経過していました。
頭部MRI検査では、拡散強調像(DWI)という撮影技法によるフィルムにて、
右大脳半球に高信号域を認めました。
これは脳の動脈血流が遮断された領域を表します。
右の中大脳動脈が血流を供給する領域(灌流域)に一致するものでした。
これは、急性期脳梗塞の所見です。