内分泌・代謝・栄養の病気

 

<情緒不安定、易刺激性、うつ状態は内科の病気かも?>

 

4回シリーズ(第一話)

 

 

42歳女性。公務員。情緒不安定でイライラしやすく、

 

部下にうっかり暴言を吐きパワハラを訴えられ、

 

うつ状態になり、某有名病院の神経科を受診していました。

 

 

彼女は通勤の途中で駅の階段で転倒、左橈骨を骨折し、

 

国家公務員等共済の某病院整形外科を受診した際に、

 

血液検査で高カルシウム血症を指摘され、精査と加療のため入院を勧められたが、

 

欠勤を怖れたため、上司に相談して高円寺南診療所を紹介され来院となりました。

 

 

<現病歴>

半年前から倦怠感、疲労感が出現したため、婦人科を受診したところ、

 

早めの更年期障害および骨粗しょう症という診断を受け、

 

活性型ビタミンD製剤と女性ホルモンの処方を受けている。

 

 

その後、勤務中に集中力低下、情緒不安定、易刺激性がみられ、

 

通勤電車では傾眠傾向となり、しばしば乗りこしし、遅刻するようになる。

 

そこで、上司にきちんとした心療内科を受診するように勧められ、

 

都内有名病院の神経科・心療内科を受診。

 

 

双極性障害(躁うつ病)のうつ病相と診断され抗うつ剤を処方されていました。

 

果たして、どのような展開になるでしょうか?

 

心臓・脈管 / ・泌尿器の病気

 

<降圧薬3剤でコントロール不良の高血圧⁻腎臓超音波が鍵!>

 

 

90代女性。50代から高血圧を指摘されているが、

 

薬に頼るのが嫌いなので、降圧薬の服用を不規則に続けていました。

 

3か所の大学病院で、それぞれ別々の降圧剤を処方され、

 

家庭血圧で140~160mmHg台で推移するように

 

自分の判断で飲み分けていた模様です。

 

最近では3剤すべてを定期内服しても家庭血圧は130~150mmHgでした。

 

 

年をとり、3か所の大学病院に通院するのが苦になったため、

 

高円寺南診療所を紹介され、今までと同じ薬を処方してほしい、とのことで来院されました。

 

 

問診:5年程前に腎機能異常の指摘を受けてから、

 

やむを得ず降圧剤を定期内服するようになった、とのことでした。

 

3か所での処方薬を確認したところ、以下の通りでした。

 

A大学のα教授から、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬のテルミサルタン【ミカルディス®】80mg

 

B大学のβ教授から、カルシウム拮抗薬のアムロジピン【ノルバスク®】5mg

 

C大学のɤ教授から、サイアザイド利尿剤のヒドロクロチアジド12.5mg

 

 

尿検査:蛋白(±)、潜血(-)、沈査(硝子円柱1~2/1視野、細胞成分は認めず)

 

 

血液生化学検査:クレアチニン1.8mg/dL, K 5.2mEq/L, eGFR 19.8mL/分/1.73㎡

 

 

腹部超音波検査両側腎臓の対称的萎縮を認める

 

⇒慢性腎疾患を示唆、腎血管性高血圧は否定的

 

 

<臨床診断>

慢性腎臓病(良性腎硬化症の疑い)

 

長い高血圧歴、活動性のない検尿所見、両腎の萎縮から良性腎硬化症を疑います。

 

 

<鑑別すべき疾患>

 

原発性アルドステロン症:

若年で低カリウム血症をともなう高血圧という臨床像とは異なるので否定的です。

 

 

腎血管性高血圧:

難治性高血圧で、腎萎縮は左右不均一であることが多いですが、

 

この症例は降圧が無効ではなく、均一性の腎萎縮であることから否定的です。

 

 

大動脈炎症候群:

腎血管狭窄を惹起すると腎血管性高血圧となることがありますが、

 

腎血管性を疑わせる所見がありません。

 

 

線維筋異形成:

まず若年女性に多い疾患である点、

 

不均一な腎萎縮が認められるなどの点で一致しません。

 

 

 

<治療>

ARB・Ca拮抗薬・利尿薬配合剤であるミカトリオ配合錠®を

 

一日1回1錠を処方に変更しました。

 

 

偶然ですが、これまで内服していた3種類の薬剤と

 

同等の成分配合の合剤を処方することができました。

 

 

<転帰>

血圧はこれまで以上に安定し、比較的良好な経過を維持していました。

 

3か所の大学病院での処方が高円寺南診療所1か所の、しかも1日1錠の内服で済むので、

 

とても安心だし納得して服薬できると感謝してくださいました。

 

しかし、90歳を超える超高齢者であるため、

 

介護認定の必要性や在宅医療の必要性を家族に説明して、

 

彼女の住所近くの医療機関を紹介させていただきました。

 

 

<教訓> 

3つの大学病院の循環器内科の教授の外来を受診し、

 

それぞれ他院での受診歴は伏せたまま、なおかつ、

 

それぞれの大学病院の門前薬局で調剤された薬を内服されていました。

 

 

お薬手帳も3冊持参されていましたが、

 

医療制度のメリットが全く生かされていないのが残念でした。

 

かかりつけ医とか主治医をもつことが大切とは、

 

世間で何十年も言われ続けてきたことでした。

 

かかりつけの開業医から大学病院へ紹介という流れが効率的であるはずです。

 

しかし、高円寺南診療所では逆の流れが圧倒的に多いことから、

 

第一線の医療のむずかしさを感じています。

 

この傾向が続くのであれば、心電図やテレビレントゲン装置の他に、

 

超音波診断装置やなどは必需品です。

 

今回も、腎臓超音波検査が薬剤抵抗性の高血圧症の原因究明に役に立ち、

 

適切な対応決定するための材料が得られたことは特筆すべきだと思います。

<第6ステップ> その2

 

「社会的スキル」は私たちが生活していく上で、生きやすく活動していくために、

 

また他者と円滑な関係を築き、維持していくためにも非常に重要なスキルです。

 

 

このスキルは幼少期から家族や他者と関わっていくプロセスを通して発達していきます。

 

他者とのやりとりがうまくできて要領を得て成功体験を蓄積したり、

 

必要なことができなかったときに謙虚に反省することなどをくり返したり、

 

そうした試行錯誤の中から徐々にスキルアップしていきます。

 

 

しかし、場当たり的に試行錯誤をくり返すだけでは

 

スキルは向上しないということは、指摘しておかなければなりません。

 

 

「社会的スキル」の向上が見込めない具体例を挙げてみましょう。

 

 

・相手のことを考えずに強引に行動してきた。

 

・自分の望ましくない行動について、しかるべき適切な立場の人から指摘されてこなかった。

 

・過去の失敗を恐れて、相手とのやりとりを避ける行動様式を身に着けてしまった。

 

・孤立して他者とのやりとりの機会が極端に奪われてしまった。

 

 

スキルアップには、失敗を恐れず、過去の経験を顧みて、

 

絶えずトライ・チャレンジすることが必要です。

 

 

* 参考文献: 太田仁,2005,「たすけを求める心と行動」,金子書房

 

 

ストレス対処 MIYAJI 心理相談室(高円寺南診療所内)

 

主任 臨床心理士 宮仕 聖子


 

呼吸器 / 感染症 / 免疫・アレルギー・膠原病

 

 

<インフルエンザは従来よりも積極的な予防投与が推奨>

 

 

『日本感染症学会提言2012「インフルエンザ病院内感染対策の考え方について

 

(高齢者施設を含めて)」』(日本感染症学会・インフルエンザ委員会)には

 

抗インフルエンザ薬の暴露後予防投与について記載されています。

 

 

そこから、学べることを質疑応答形式でまとめてみました。

 

ただし、抗インフルエンザ薬は、ワクチン接種の代わりになるものではないということ、

 

インフルエンザの迅速診断には限界があることなどを予め念頭に置いてください。

 

 

 

Q1. 病院職員が家庭内で、インフルエンザを発症した人と接触した場合、

 

積極的に予防投与を行う必要がありますか?

 

 

A1. 必要はありません。健康な職員は、ワクチン接種を行っていれば、

 

予防投与は原則として必要はありません。

 

 

高円寺南診療所では非常勤を含め職員全員が

 

インフルエンザのワクチンを毎年早期に接種しています。

 

そして日頃から健康保持に努めるようにしています。

 

健康とは身体的、心理的、社会的、霊的すべての側面で良好な状態であるということです。

 

職員が水氣道®に自主的に参加していることも、

 

インフルエンザ予防対策の一環として大きな意味があります。

 

 

 

Q2.インフルエンザを発症した患者に接触した入院患者に対しては、

 

ワクチン接種の有無に関わらず、抗インフルエンザ薬の予防投与が必要ですか?

 

 

 

A2. 必要です。ただし、本人の承諾が必要です。強制はできません。

 

ただし、実施するのであれば、なるべく早く24時間以内に投与を開始します。

 

発症者の同室者に対して予防投与を実施するのが原則です。

 

 

 

Q3.多床室(個室でない病室)に入院中の患者がインフルエンザを発症した場合、

 

その患者は個室に隔離し、その他の患者は他の病室へ移動しないようにするのは正しいですか?

 

 

A3. 正しいです。インフルエンザを発症した患者は直ちに個室に隔離して治療を行います。

 

同室の患者移動は、潜伏期間を考慮し、

 

3日間は、それまでの病室からの患者移動は行わないようにします。

 

 

 

Q4.高齢者施設では、どのような段階で、フロア全体で予防投与を行うべきですか?

 

 

A4. インフルエンザ様の患者が2~3日以内に2名以上発生して、

 

1名でも迅速診断でインフルエンザと診断されたら、

 

フロア全体の予防投与の開始を考慮すべきです。

 

 

 

Q5. 予防投与はワクチン療法に置き換わるものですか 。

 

また、インフルエンザの予防投与が認められている薬剤について教えてください。

 

 

A5. 予防投与は、いずれもワクチン療法に置き換わるものではありません。

 

10歳以上の未成年者ではハイリスクを除き原則使用は控えます。

 

現在、3剤が予防投与に使うことができます。

 

 

①ザナミビル(リレンザ®):1日1回、7~10日間内服

 

治療目的では症状発現から2日以内に使用します。

 

 

②オセルタミビル(タミフル®):1日1回、10日間吸入

 

慢性呼吸器疾患患者は、使用後に気管支痙攣発現の可能性があり、

 

乳製品に対して過敏症の患者は慎重投与とされるため、

 

アレルギー患者の多い高円寺南診療所では、他の薬剤を選択することが多いです。

 

 

③ラニナミビル(イナビル®):1回完結、単回吸入、2日間吸入も可

 

オセルタミビル耐性ウイルスに有効とされます。    

 

インフルエンザウイルス感染症患者に接触後2日以内に投与を開始します。

 

治療目的のときは、症状発現後、可能な限り速やかに投与開始します。

消化器系の病気

 

<心療内科は内科医だから責任重大なのです!>

 

3回シリーズその1

 

 

 50代女性。夫よりDVを受けていることで精神科

 

(本人は、心療内科と言ってはいますが・・・)に通院中だそうです。

 

高円寺南診療所に通院中の妹さん(看護師)のお話では、

 

最近、飲酒量も増えてきたそうです。

 

郷里から訪れた母親と共に部屋を訪れた際、

 

空の空き瓶が散在していて驚いたとのことでした。

 

なお、精神科の担当医はDVを専門とする、とあるマスコミ有名医ですが、

 

アルコール依存に関しては専門外とのことで、薬物治療のみの対応であったそうです。

 

 

高円寺南診療所では、患者さん本人の意思で来院される場合でない限り、

 

ご相談をお受けしないのを原則としておりますが、

 

相談者が継続的な通院患者さんである場合は、

 

最低限の必要な助言だけはお伝えできるように努めています。

 

そこで、まず基本的な身体状況・生活状況の確認をお願いしました。

 

 

お二人のお話から得られた情報は、

 

当該女性の眼球結膜(瞳の周囲の白目の部分)が黄色くなり、

 

お腹が異様に膨満していること。

 

 

その日は朝から、お酒を飲んでいないのに異様な口臭がすること。

 

 

身長152㎝、体重48㎏、脈拍(安静時)110/分、血圧94/52mmHg、呼吸数16/分。

 

SpO₂95%(高円寺南診療所の経皮的動脈血酸素飽和度測定装置をナースである妹さんにお貸しして測定)

 

 

ここまで、私は一切、話題の病人を診察しておりません。

 

しかし、暫定的診断はほぼ可能です。

 

 

<アルコール性肝障害>です。

 

ただし、重症度をきちんと評価しなければ適切な対応はできません。

 

そこで、ご本人に受診を促していただくことにしました。

血液・造血器の病気

 

<のどの痛みや腹痛は、単なる風邪とは限りません!>

 

咽頭(のど)が痛いので他院を受診し、

 

感冒薬を処方され症状が改善したので風邪は治った、と自己判断した20歳男性。

 

1週間後に腹痛とともに下肢に盛り上がった湿疹が出現したため、

 

一石二鳥の安上がりを狙って高円寺南診療所を受診することになったそうです。

 

 

この方は、今どきの平成生まれのお兄さんで、

 

帽子を被ったまま診察室にお入りになるのでした。

 

意識は清明、発熱なし、血圧126/80mmHg、脈拍数68拍/分、

 

バイタルサインには異常を認めませんでしたが、

 

そのためか尿検査がお気に召さないようでした。

 

<腹痛と湿疹できたのに、なぜ尿まで調べるんだ。>とのたまうのでした。

 

 

尿検査所見:蛋白(+)、潜血(+)、

 

これで腎機能障害、ときに腎炎合併が疑われるので血液検査が必要なのですが、

 

聞く耳持たぬ若者への説明に苦慮しました。

 

 

<検査の結果すべて異常が無かったら診療代は払いたくない。>という若者に対して、

 

<私の眼には狂いがないので>と応じると、

 

<先生おもしれえ、オッサン大門(ドラマ、ドクターXの主人公)かよ!わかったよ。

 

痛くねえように血取ってよ。俺、医者と注射が大の苦手なんで>

 

と急に弱気な態度に。

 

 

採血後<先生、スゲー名医だ!ちっとも痛くなかった>、

 

やはり、この男の子、身長は180センチ近いが、

 

先月まで未成年のお子ちゃまでありました。

 

 

 

 初診時診断の手掛かり:

 

①隆起性の病変、②急性の腹痛その他、

 

最低、これだけで、米国リウマチ学会の基準で

 

<シェーンライン・ヘノッホ紫斑病>と診断できます

 

その他、この症例は③20歳以下(つまり、未成年者の病気)に一応該当しています。

 

なお、④バイオプシーといって生検組織で、

 

小動静脈壁の顆粒球を見出せば、確かですが、ふつうそこまでしません。

 

これは、全身性のアレルギー性血管炎が本体で、

 

血管の炎症によって毛細血管の透過性が亢進して、浮腫や組織への出血を来す病気です。

 

 

先行感染があり、隆起性の紫斑、腹痛、腎炎などの所見が揃えば、

 

概ね誤診はないと思いますが、医学には100%確実ということはありません。

 

素人の一般大衆はそれがわからないのは仕方ないから

 

裁判に訴えることもやむなしだとしても、

 

裁判官がそのレベルだとこの国の司法も大いに心もとないと思います。

 

 

追加の検査として、腹部レントゲン検査をしました。

 

その理由は、腸重積を来すことがあるため、見落としを防ぐためです。

 

幸い腸重積の所見はありませんでしたが、

 

腸管ガス像が顕著でしたので、ガスを駆除することにしました。

 

像が顕著でしたので、ガスを駆除することにしました。

 

 

 

処方:

ガスコン®【消化管ガス駆除剤】のみを処方(前医で処方され、飲み残していた鎮痛剤の内服を許可する)

 

 

血液所見(再診時に説明):

赤血球474万、Hb14.2g/dL, 白血球9,800好酸球15%、血小板32万、

 

PT-INR1.0(基準0.9~1.1),APTT32秒(基準対照32.2)、

 

血清IgA612mg/dL、血沈15mm/時間(基準値2~10)

 

 

幸いにも血小板・凝固系は正常であったので、特別な治療は必要ではありません。

 

ただし、炎症所見があり、特に血清IgAが高値なのでIgA腎症との鑑別が必要です。

 

 

前医で処方された飲み残しの薬を呑み切ってしまうと、関節が痛みだしたというので、

 

精査しましたが関節リウマチの合併は認められませんでした。

 

 

現在は、軽度のネフローゼ症候群のため、定期的に尿検査をしています。

 

今では素直で誠実な青年に成長しています。

 

 

テーマ:患者の皆様からのメッセージ・ボード創設(その4)

 

<反り腰>この不健康なる姿勢の矯正法

 

今回は、水氣道関連の話題から、姿勢矯正についてお話いたしましょう。

 

姿勢の大切さについては、健康な皆様は普段あまり関心がないかもしれません。

 

実は、医師とりわけ最近の整形外科医の先生方も、患者さんの姿勢について

 

あまり積極的にコメントされない傾向があるかもしれません。

 

 

次の例は、よくあるケースです。

 

初診の患者さんに、しばしば受診理由をお尋ねすると、

 

いろいろなお答えに遭遇します。<家の近くだから>なるほど!

 

<ネットで検索して良さそうだったから>どこが?

 

<医者に見放されたので>私も医者の端くれなんですが・・・

 

 

腰痛や膝痛の相談をしたら、

 

<レントゲンに異常がないから、シップと鎮痛剤を出しておきましょう>

 

という対応だったので、軽く考えていました。

 

しかし、5年後には、かなり腰や膝が変形してきたので、

 

同じ病院の同じ先生にみていただきました。

 

今度は<どうしてこうなるまで放置していたのか、毎日電気を充てに来なさい>、

 

というので半年通ったが一向に改善しないので、おそるおそる理由を尋ねると

 

<年のせいだから現実を受け入れなさい>といわれ、どうにも納得がいかないので、

 

メイドの土産ついでに、前から気になっていた高円寺南診療所にでも行ってみるか、

 

ということになった次第というお話・・・

 

 

こうしたケースの患者さんは、姿勢の悪さに気づかないまま、

 

また、整形外科医に指摘されないまま、

 

あるいは指摘されても具体的な対策をとらないまま年余を過ごされ、

 

重症化させてきているのです。

 

 

大抵の場合、姿勢の悪さは、非効率的で不健康な日常動作をもたらします。

 

骨にも筋肉にも神経にも良くない刺激を与え続けています。

 

それから、浅くて不規則な呼吸も、

 

姿勢の悪さが関与している例を多く観察しています。

 

 

姿勢の悪い患者さんに遭遇したとして、

 

私たち医師は何をして差し上げることができるでしょうか。

 

医療というシステムとの付き合い方がポイントです。

 

 

現行の医療には限界があることを多くの一般人も医療従事者も、

 

気づいているはずなのですが、自分自身の問題として、

 

あまり真剣には考えていない風潮があるのではないでしょうか。

 

患者さんが求める医療ケアは、

 

限定された医療機関の施設の中だけでは実現できないことが多い、

 

ということに気づいたとして、そこから何かを独自に始めてみようという

 

気概を持って行動している医師にはとんとお目に掛れないのは残念なことです。

 

そこで、苦節十数年、工夫と実践の積み重ねによって

 

体系化することができた鍛錬法が水氣道®です。

 

 

病気を治すには、病気の原因に気づくことが大切です。

 

自覚症状は、自分で感じるほかはありません。

 

すぐには自覚できない症状も、定期的な鍛錬と養生を繰り返すことによって、

 

次第によくわかってくるものです。

 

 

症状が悪化するときばかりでなく、改善するときも観察が必要です。

 

それによって、<気づき>が促されるからです。

 

また、顔見知りの親しいグループで鍛錬することによって、

 

自分で気づけないことでも、気づかせてもらえる機会が増えます。

 

さらに、<他人のふり見て、わがふり直せ>という教えも至極もっともだと思います。

 

 

 そして、新たな<気づき>は<新鮮な驚き>と<感動>をもたらします。

 

頭で納得するだけでなく、<腑に落ちる>ということができて、

 

はじめて自然治癒力が発動されるからです。

 

水氣道は単なる自己整体法ではなく、心身の均衡と再統合を図ることができるため、

 

治療やリハビリテーションのみならず、

 

病気の早期発見や健康の維持・増進などすべての領域に関与します。

 

本来、予防とはこれらすべての概念を統括するものなのです。

 

TCさん

神経・精神・運動器

 

テーマ:ギラン-バレ症候群

 

<風邪を引いた後で、手足が動かなくなる病気>

 

 

私にとって懐かしい方の貴重な症例をご紹介いたします。

 

初診1992年(平成4年)~最終診2008年(平成20年)

 

症例は男性T・O氏(喉頭がんにて死去)

 

 

私が若い頃、W教授(故人)率いる東大医学部の衛生学教室(現、分子予防医学教室)で、

 

微量栄養素の研究<リチウムの必須性の研究>をしていたときの指導者です。

 

衛生学すなわち健康医学を専門としているのにもかかわらず、

 

教室員のほとんどが喫煙者なのには驚きました。

 

W教授は心臓病を患ったため禁煙されたと伺っておりましたが、

 

O博士は相当なヘビースモーカーで大酒家でした。

 

 

O博士との思い出は懐かしいです。

 

私の国際学会デビューはオーストラリアのアデレードでした。

 

それはO博士のご指導により実現したものでした。

 

それ以来のご縁で、私が高円寺南診療所を開設して3年目に来院され、

 

それ以降、主治医を務めさせていただいておりました。

 

当初から禁煙をお勧めしておりましたが実行していただけませんでした。

 

 

そのO博士が、ある日<風邪を引いた後で、手足が動かなくなった>

 

ということで診察いたしました。

 

 

その結果、1995年(平成7年)9月26日にギラン-バレ症候群の診断のもとに、

 

入院加療目的で即座に河北総合病院を紹介しました。

 

この病気は、感染症(急性胃腸炎、呼吸器感染症など)の治癒から数日後に発症する

 

末梢神経障害により筋力低下など運動麻痺をきたす病気です。

 

両下肢から脱力が始まり、上肢、顔面領域、最重症だと呼吸筋麻痺へと進行し、

 

生命の危険すらあります。

 

 

この病気による脱力は上肢から発症するケースもあり、

 

O博士もこのタイプであったため入院後も全く仕事が手に就かず、

 

幸い呼吸筋筋力低下が生じなかったため人工呼吸器は使わずに済んだものの、

 

唇が動かしづらくなり(顔面神経麻痺)、ろれつも回らず、

 

嚥下困難となり(迷走神経運動枝・舌下神経の麻痺)、

 

起床どころか寝返りもままならず、とても辛い経験をされていました。

 

 

その当時は、治療としてステロイドが有効であると信じられていた時代でしたので、

 

河北病院でもステロイドの全身投与が行われましたが、

 

やはりなかなか改善しませんでした。

 

現在ではその治療法の有用性は否定されておりますが、

 

医学の進歩による治療法の変遷には、つくづく隔世の感がします。

 

 

東大第三内科の御出身であるW教授は、初期に精確な診断が下せたということで、

 

私を大いに褒めてくださいました。

 

しかし、肝心の治療との間には大きなギャップがありました。

 

そこで、後輩の専門医が府中の東京都立神経病院にいらっしゃるということもあり、

 

さらなる精密検査と専門的治療からリハビリテーションを目的に

 

転院していただくことになりました。

 

 

 

少し専門的な話になりますが、

 

ギラン-バレ症候群では、脳脊髄液検査では蛋白細胞乖離、

 

血清検査では抗ガングリオシド抗体が陽性となります。

 

つまり、症状は末梢神経の病気ですが、

 

原因は私が専門とする自己免疫病(アレルギー・リウマチ関連疾患)です。

 

現在の神経免疫疾患治療ガイドラインによれば、

 

血漿交換療法(血液浄化療法:抗ガングリオシド抗体という自己抗体を除去する治療法)と

 

γ-グロブリン大量静注療法が推奨されています。

 

 

この2つの治療法について有意差がないことが明らかとなったため、

 

患者状態を考慮して治療法を選択します。

 

簡便性からγ-グロブリン大量静注療法が選択されることが多いです。

 

幸いにO博士は、 当時の段階でγ-グロブリン大量静注療法と禁煙実行が

 

徐々に功を奏し、無事退院し、研究生活に戻ることができました。

 

 

その後、O博士は、<咽喉の違和感が続いている>

 

とおっしゃるので喉頭鏡で拝見したところ、立派な病変が見つかりました。

 

そこで、私はO博士に<先生は、禁煙をされて10年以上絶ちますね>とお尋ねしました。

 

するとO博士曰く

 

<実は、ギラン‐バレが治ってきたころから、また吸い始めちゃってね>

 

と悪びれもせず、茶目っ気たっぷりにお答えになるのでした。

 

残念ながら私の診断は喉頭がんでした。

 

 

念のため河北病院の耳鼻科で確認を済ませ、

 

手術目的で御茶ノ水の東京医科歯科大学に転院しました。

 

しかし、手術の甲斐なく、闘病ののちご他界されました。

 

そのころ、私は東大の研究室に足繁く通っていたため、

 

その道すがら、たびたびO博士をお見舞いしました。

 

手術により声を失ったO博士は、それにめげることなく

 

筆談で私に多くの激励のメッセージをくださいました。

 

その後、私は衛生学教室を離れ、

 

心療内科やリハビリテーションの勉強をはじめたのですが、

 

東大から2つの学位(保健学修士、医学博士)を次々と取得できたのも

 

O博士の叱咤激励の賜物だと思って感謝しています。

 

 

私が禁煙指導に熱心な理由、水氣道®という健康増進法を開発し、

 

さらに近年に至って聖楽院を主宰するに至った動機は、

 

このあたりに源を発するものではないか、と振り返っているところです。

 

もう少しツボの世界を見ていきましょう。

 

 

今回は「太谿(たいけい)」です。

IMG_1877

場所は内踝とアキレス腱の中間で窪みがあるところです。

 

 

 

「排尿障害」「膀胱炎」「咽頭炎」「歯痛」「耳鳴り」「腰痛」「踵痛」「喘息」「足の冷え」等に効果があります。

 

 

 

お灸やマッサージが良いでしょう。

 

 

 

<参考文献>

このツボが効く 先人に学ぶ75名穴       谷田伸治 

 

経穴マップ イラストで学ぶ十四経穴・奇穴・耳穴・頭鍼      監修  森 和

                                      著者  王 暁明・金原正幸・中澤寛元 

 

 

 

高円寺南診療所 統合医療部 漢方鍼灸医学科 鍼灸師 坂本光昭

内分泌・代謝・栄養の病気

 

テーマ:甲状腺クリーゼ

 

   <インフルエンザとの鑑別にご注意!>

 

 

医師は知識だけではダメ、経験の蓄積、それに優秀なチームに恵まれていないと

 

対応できないことがあります。

 

 

かつて、診療所の受付の職員から「甲状腺クリーゼの対応が可能ですか」

 

という電話での問い合わせについての返答を求められたことがあります。

 

 

私は、職員が即座に「対応可能です。ご来院はいつが可能ですか。」

 

と対応できない問い合わせについては、

 

「申し訳ございません。現段階では、十分な対応ができません。」

 

と答えるように指示しています。

 

 

医師ではない事務職員に高度な医学知識を求めることは無理なことではありますが、

 

せめて病名としての認識ができるように、

 

ふだんから教育しておくことは医師として、責任者として、

 

日々怠ってはいけない責務の一つだと考えています。

 

 

この、<日々の臨床>のシリーズも、

 

患者の皆様に対して最先端の臨床情報を提供することと同時に、

 

高円寺南診療所の職員に対する教育の役割をも兼ねています。

 

 

 

その残念なケースの一つが、本日のテーマ、甲状腺クリーゼです。

 

 

その後は、甲状腺クリーゼの対応が可能か、という問い合わせ自体が一件もありません。

 

最近の高円寺南診療所は、甲状腺疾患を未病(自覚症状が出現していない病気の初期の段階)

 

のうちに発見して、計画的かつ専門的な対応をし、予防策を講じているためか、

 

甲状腺クリーゼは全く経験していません。

 

むしろ甲状腺病に関しては、

 

他の専門病院に通院している方の相談も日常的に対応しています。

 

甲状腺などのホルモン関連の病気は、病状が変化しやすいので、

 

大学病院などのように2,3か月に1回程度の受診では、

 

細やかな対応ができないのは仕方がないことです。

 

 

 

甲状腺クリーゼとは、

 

甲状腺中毒症の患者さんに強いストレス(感染、外傷、手術、精神的ストレスなど)

 

が加わった際に、症状が極度に進行し、

 

甲状腺ホルモン作用不足に起因して

 

複数臓器の機能不全(重篤な心不全や中枢神経症状など)がもたらされる病態です。

 

 

したがって、甲状腺クリーゼは対応が遅れると死亡する危険を伴うため、

 

甲状腺ホルモンの検査結果を待たず緊急に治療することが必要な病態です。

 

 

<風邪をひいて38℃以上の熱がでて動悸がひどくなり、吐き気が出て下痢になり、

 

うとうとしてしまうのに、気持ちも落ち着かなくなり、たまりません。>

 

という患者さんの訴えは珍しくありませんが、

 

医師までもが風邪のせいと即断すると命とりです。

 

 

ポイントは、病歴です。通院中の患者さんであれば、その点、まず問題はないです。

 

しかし、初診の場合は特に、甲状腺の病気に気が付かないと

 

大変な事態を招いてしまいます。

 

 

 

最近では、患者さんが勝手に自己診断して、

 

たとえば<インフルの症状なので、インフルに良く効く風邪薬と解熱剤を出してください。>

 

などと、診断も処方内容も決めつけて要求する方も、

 

お見えになるのでさらに注意を要します。

 

 

以下に、甲状腺クリーゼの症状と診断基準を紹介いたします。

 

 

症状:

Ⅰ.甲状腺中毒症(遊離T3および遊離T4の少なくともいずれか一方が高値)

 

Ⅱ.①中枢神経症状(不穏、せん妄、精神異常、傾眠、けいれん、昏睡)、

 

②発熱(38℃以上)、③頻脈(130回/分以上)、

 

④心不全症状、⑤消化器症状(嘔気・嘔吐、下痢、黄疸を伴う肝障害)

 

 

診断:

甲状腺中毒症状に加えて、①中枢神経症状と②~⑤の1つ以上、

 

あるいは②~⑤の3つ以上を満たす場合、甲状腺クリーゼと診断します。

 

 

甲状腺中毒症状の他に中枢神経症状の見分けがとても大切です。上記の例では、

 

<うとうとしてしまうのに、気持ちも落ち着かなくなり、たまりません。>

 

というところが鍵になります。

 

確かに、このような症状に見舞われたら、

 

<とても、たまったものではありません。>

 

 

傾眠(うとうとしてしまう)、不穏(気持ちも落ち着かなくなる)など、

 

心身医学や心療内科などで十分なトレーニングを積んできた医師でないと判断が難しいと思います。

 

また、このような患者さんは精神科医に相談するケースはごく稀ではないでしょうか。

 

 

治療の要点は、甲状腺ホルモン分泌および活性化の抑制、

 

作用の遮断(主として交感神経β作用)、水・電解質代謝の是正の3点です。

 

 

①甲状腺ホルモン分泌および活性化の抑制

 

抗甲状腺薬大量投与、無機ヨード(甲状腺ホルモン分泌を抑制)、

 

ステロイドホルモン(T4から活性型の甲状腺ホルモンであるT3への変換を抑制)

 

 

②甲状腺ホルモン作用の遮断・・・特に高度な頻脈を伴う場合、

 

β遮断薬の投与(ただし、低拍出性心不全の場合は禁忌!)

 

 

③水・電解質代謝の是正・・・ショック対策  

 

気道確保、補液、酸素投与、ステロイド投与