漢方薬は、大腸蠕動運動の増加作用、腸管内の水分調節による便の軟化作用、便の滑りを良くする作用を併せ持ち、効率良く大腸通過時間を短縮させます。また大黄の含有量によって作用の強いものから弱いものまで種類が豊富にあり、そのため微調整しやすく、作用が緩慢で、副作用を起こしにくいという好ましい特徴を持っています。さらに、通常の便秘薬では対応不可の腹痛や腹部膨満感等の便秘周辺症状に対応できるメリットまで有しています。
     

そのため漢方薬の便秘治療の位置付けとしては、腹部膨満感や腹痛等の便秘周辺症状を合併した便秘患者や高齢者、他疾患併存の便秘患者、西洋薬による治療効果が不十分な患者の良い適応になります。

 

・枳実:消化管運動亢進作用

 

・当帰・麻子仁:潤腸瀉下

 

・芍薬:鎮痛・鎮痙

 

一方で、投薬上の注意点もあります。便秘の治療に有効な代表的な漢方エキス製剤の構成生薬の中にも副作用をもたらすものが含まれているからです。

 

・麻黄:交感神経刺激作用があり、不適切な量を服用すると、食欲不振、嘔気、血圧上昇ならびに動悸を生じることがあります。
     
・大黄:子宮収縮作用及び骨盤内臓器の充血作用により早期流産の危険性があります。そのため妊婦または妊娠の可能性がある方には投与しないことが望ましいです。

 

・甘草:偽アルドステロン症を生じないように注意を払う必要があります。

大黄甘草湯(一包中の甘草0.67g)、防風通聖散(一包中の甘草0.67g)、
桂枝湯加芍薬大黄湯(一包中の甘草0.67g)、桂枝湯加芍薬湯(一包中の甘草0.67g)、桃核承気湯(一包中の甘草0.5g)、潤腸湯(一包中の甘草0.5g)、調胃承気湯(一包中の甘草0.33g)

皆様、「快便」ですか?

 

 

 ―杉並国際クリニック方式:ブリストル便形状スケールによる快便漢方処方―

 

ブリストル便形状スケールは便のタイプ(硬さ)を7種類に分類した世界共通の尺度です。 あなたの便はどのタイプですか?

 

英国ブリストル大学のHeaton博士が1997年に提唱した大便の形状と硬さで7段階に分類する指標であり、便秘や下痢の診断項目の一つとして使用されています。英語表記はBristol Stool Form Scale。

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(表をクリックで拡大)

 

英国生まれのこのスケール、実は、漢方医学との相性がとても良いです。
 

Heaton博士が提唱した20年後の2017「慢性便秘症診療ガイドライン」は、便秘と下痢を無関係に取り扱っていますが、それが現代西洋医学の相場であります。

 

しかし、実際には、心身に対するストレスが原因で便秘と下痢の間を行ったり来たりする過敏性腸症候群に悩んでいる多数の患者さんに対しては、これは、ほぼ無力なガイドラインです。
  

 

そして、日常診療でとりわけ難しいのが、便通に関する問診です。
 

私は簡単に「快食ですか?快便ですか?・・・」とお尋ねしていますが、これはきっかけにすぎません。

日本人の民族性のためか、便通についての情報はタブーという程ではないにせよ、尾籠(びろう)な話題として回避されやすいのが悩みの種でした。そのうえ、一般的な日常用語である「便秘」や「下痢」についての認識の仕方には個人差が多く、なかなか正確な情報を得ることができませんでした。そこで、登場してくれたのが英国生まれの「ブリストル便形状スケール」だったということです。


このスケールが便利なのは、患者さんとの認識のずれを最小限にしてくれることと、その確かで具体的な情報のもとに、ただちに対処法が示せることです。

私は、このスケールを用いて、便秘や下痢の漢方処方を決定することを考えています。

この発想は、まだ世界中でも前例がないため、おそらくオリジナルでのパイオニア臨床応用です。

これをお読みの皆様は、世界初のリポートを読んでいることになります。
  

便形状のタイプ別に適した漢方薬があります。下痢の場合には、急性下痢と慢性下痢症では背景が異なりますので、それぞれに応じた処方を工夫してみました。

 

タイプ❶~❷は硬便(便秘症)、タイプ❻~❼は水様便(下痢症)の目安となります。 まずは正常便とされる❸~❺をめざしましょう。

 

つぎに、可能であれば理想の正常便である❹に近づけるように調整していきましょう。

 

タイプ❶ (コロコロ便) 

麻子仁丸(ましにんがん)

成分:大黄4.0など

 

タイプ❷ (硬い便)   

大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)

成分:大黄4.0、甘草2.0など

 

タイプ❸ (やや硬い便) 

潤腸湯(じゅんちょうとう)

成分:大黄2.0、甘草1.5など

 

タイプ❺ (やや軟らかい便)

急性:五苓散(ごれいさん)
成分:茯苓6.0、沢瀉4.0など

慢性:啓脾湯(けいひとう)
成分:茯苓4.0、沢瀉2.0など

 

タイプ❻ (泥状便)    

急性:附子理中湯(ぶしりちゅうとう)
成分:甘草3.0、人参3.0、白朮3.0、乾姜3.0、附子1.0
             

慢性:半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
成分:半夏5.0、甘草2.5など

 

タイプ❼ (水様便)   

急性:黄芩湯(おうごんとう)

成分:黄芩4.0、甘草3.0など

慢性:柴苓湯(さいれいとう)
成分:半夏5.0、甘草2.0、沢瀉5.0、茯苓4.0など

竹田貴雄の「からだとこころと人間関係に効く漢方講座」

 

杉並国際クリニックで行っている漢方診療に共通する考え方を簡単に説明している記事を発見したので紹介いたします。

 

5食欲の有無で使い分ける「五月病に効く漢方薬」

2019/5/10

竹田 貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)

 時代は令和(PCでなかなか変換できませんね)を迎え、史上初の10連休となったゴールデンウイークが明けました。私の勤務先は4月30日と5月2日が営業日(結構な数の予定手術に加えて、緊急手術も立て込んだとてもタフな2日間……トホホ)でしたので、生活リズムをさほど狂わせることはありませんでしたが、皆様は連休明けいかがお過ごしでしょうか。


 今回のテーマは、五月病の漢方治療です。「五月病」は「夏バテ」と同様に正式な病名ではありません。五月病は、異文化交流でのカルチャーショックによる不調と考えられています。ちなみにWikipediaでは、「新入社員や新入生などに見られる、新しい環境に適応できないことに起因する精神的な症状の総称」とあります。

 

新しい環境への適応=リスガードのU字曲線

 

 今まで経験したものとは異なるものや理解できないことに出会うと、私たちの内面には様々な変化が起こります。一般的には、異文化適応における典型的な内面の変化は「リスガードのU字曲線」で説明され、4つのステージからなるとされています。ここでは、初めて病院に着任した研修医や若手医師を例に、各ステージで生じる感情の変化を見てみましょう。

 

図1 新しい環境への適応リスガードのU字曲線1

 

【ステージ1:ハネムーン期】
見るもの聞くもの全てが新鮮で、何をやっても刺激的で楽しい時期。病院の設備などの「見える文化」への関心が中心で、職員の価値観や場の空気などの「見えない文化」にまでは気づいていない。本来の力以上に活動的になりがち。

 

【ステージ2:カルチャーショック期】
徐々に環境に慣れてくると同時に、「見える文化」から「見えない文化」に直面する時期。院内の「見えない文化」は、言語化もされずに無意識かつ当たり前のようにまかり通っているため、理解困難。今まで抱いてきた期待が失望へ、興奮が落胆へと変わる。それまでに蓄積した疲れやストレスが表出して不適応を起こす。

 

【ステージ3:適応期】
カルチャーショックを抜け出し、異文化への適応が始まる。「習う」段階から「慣れる」段階。今まで分からなかった「見えない文化」が見えるようになり、その文化での暮らし方や振る舞い方に慣れてくる。

 

【ステージ4:成熟期】
異文化への適応がほぼ完了し、不安やストレスが消失する時期。新しい文化での様々な経験から、視野の広い見方や考え方ができるようになる。

 

 

経験0(無=学生)から1(有=医者)へのジャンプアップは本当に大変

 4月は入学・入社シーズンです。新人の若者は1日でも早く学校や職場に慣れようと、先生や先輩から場の「習慣」や「慣習」を一生懸命習います。この季節、「こんにちは」とあいさつすると、緊張の抜けないぎこちない笑顔で「こ、こんにちは」と返してくれる人をよく見かけますが、そうした人たちの名札にはたいてい「見習い中」と書いてあります。

 

 1年目の研修医も、4月の3週目あたりまでは「お客様扱い」で、ハイハイとスタッフの話を聞くだけでよかったわけです。ところが、厚生労働省から医師免許証が届く4週目ともなると、看護師さんから「○○先生、内服薬の指示をください」と当然のように言われ、「オレ(私)そんなこと言われても分からないし……」と困ってしまいます。学生時代の親しい友人もそれぞれの就職先で忙しくしているでしょうから、悩み事を相談したり愚痴を吐いたりする相手も見つけられず、知らず知らずのうちにストレスを溜めてしまうことになります。

 

 ゴールデンウイークの時期は、朝晩と日中の気温の変化が大きいこともあり、疲労が蓄積したり、ホルモン・免疫・自律神経系に影響が出やすい季節です。4月は勢いでどうにか働いていた新人が、社会人になって初のゴールデンウイークで休めと言われても、気持ちが高ぶったままで、気分転換がうまくいかないことが多いと思います。

 

 

カルチャーショック期に五月病が忍び寄る

 ゴールデンウイークが明けると、「本番モード」突入です。研修医は手術室や救急外来でバリバリ働くようになりますので、ミスが起こりやすくなります。処置を行うときにも、患者の命を守るためにはどこまでが安全で、どこからが危険なのか、まだ研修医には十分に分かりません。指導医も、自分に余裕があるときは研修医にやさしく接するのですが、ゴールデンウイーク明けの超多忙な時期には、「こんなことも分からないのか!」とついつい声を荒げてしまう場面も時にはあるでしょう。
 何か新しいことを始めた際には、自分がどのステージにいるのか考えることがとても大切です。五月病は、まさにステージ2の「カルチャーショック」に相当します。もし、不安やイライラ、焦燥感などを感じていれば、その人はカルチャーショック期にいると言えます。カルチャーショックは誰もが経験する異文化適応のプロセスなので、普段にもまして食事、睡眠、休養を意識するようにして、深刻に考え過ぎないようにすることが重要です。

 

 

認知=思考のクセ

 認知行動療法では、私たちは「認知」というフィルターを通してものごとを解釈していると捉えます。指導医にミスを注意されたという出来事も、それを受け取る研修医によって解釈が異なります。自分の犯したミスをどう解釈するか、心には4つの「認知」のフィルターがあるとされており、そうした認知=思考のクセに対する対処法はそれぞれ異なります。2

 

(1)現実的な対処
例:「同じミスを起こさないように対策を考えよう」
最も現実に適した認知法です。

 

(2)合理化
例:「こんなに忙しいんだからこの程度のミスは仕方がない」「自分だけに原因があるのではない」
「新型うつ病」とも「ディスチミア:Dysthymia=気分変調性障害(気分変調症)」とも呼ばれ、集団に適応するのが難しい人かもしれません。特効薬はなく、産業医や職場の上司による「育て直し」が必要とされています。

 

(3)怒り
例:「何であの指導医は自分ばっかり責めるんだ」
怒りの感情のコントロールが必要な人です。

 

(4)憂うつ・無力感
例:「自分はいつも失敗ばかり。この仕事は自分に向かない」
憂うつや無力感といった感情のコントロールが必要な人です。

 

 

五月病の漢方治療

 今回は、4つの「認知」のフィルターの中でも
(3)怒りの感情のコントロールが必要な人
(4)憂うつや無力感といった感情のコントロールが必要な人
に対する漢方治療を紹介します。五月病を漢方医学的に捉えると
・怒りの感情のコントロールが必要な人=氣うつ
・憂うつや無力感といった感情のコントロールが必要な人=氣うつ氣虚
ということになります。氣うつの人も氣虚の人も受け答えの際の声が小さく、ぱっと見元氣がないようですが、氣うつと氣虚は食欲があるかどうかで鑑別します。具体的には、
食欲なし→氣虚
食欲あり→氣うつ
となります。

 

氣虚の診断基準(寺澤のスコア) 氣を体内に取り込めなかったり、使い過ぎたりすることで、氣が足りなくなった状態です。診断基準(寺澤のスコア)で診断される氣虚は、大きく2つのパターンに分けられます。

(1)緊張型氣虚
 氣を使い過ぎて緊張が取れずに、氣が足りなくなってしまった状態です。手掌発汗、四肢がつっぱる、腹直筋攣急(ふくちょくきんれんきゅう:腹直筋の緊張)といった症状が見られます。
緊張型氣虚への漢方薬=建中湯類(けんちゅうとうるい)
肩・お腹・こころの力をぬく=芍薬(しゃくやく)+甘草(かんぞう)
桂枝加芍薬湯
(けいしかしゃくやくとう)
 第2回のコラムでご紹介した漢方薬です。からだとこころのリラックス薬である芍薬甘草湯の効果をそのまま発揮できる、コピペしたような処方です。周囲に氣を遣い過ぎて緊張が取れず、寝ているときに足がつって目が覚めてしまうような人に用います。
小建中湯(しょうけんちゅうとう)
 桂枝加芍薬湯に膠飴(こうい:水あめのこと)を加えると小建中湯になります。桂枝加芍薬湯より甘く非常に飲みやすい、「漢方スイーツ」とも言えるような薬です。

 

(2)弛緩型氣虚
 物が食べられずに氣を体内に取り込めず、氣が足りなくなった状態です。身体がだるい、日中の眠気、胃内停水(いないていすい:消化機能低下)、心下痞鞕(しんかひこう:胃もたれ)といった症状が見られます。
弛緩型氣虚への漢方薬=人参湯類(にんじんとうるい)
ダラーっと緩んだこころとからだに氣合い注入=人参(にんじん)+乾姜(かんきょう)
人参湯(にんじんとう)
 胃のあたり、上腹部が冷えている人に処方します。こころとからだの燃料である人参(にんじん:朝鮮人参のこと)に、火薬として乾姜(かんきょう:乾かした生姜のこと)を加えることで、体力が落ちて冷え切ったこころとからだを補い温めます。
大建中湯(だいけんちゅうとう)
 臍のあたり、下腹部が冷えている人に処方します。燃料としての人参と膠飴に、火薬として乾姜と山椒(さんしょう)を加えた漢方薬で、人参湯と同様にこころとからだを補い温めます。

 

 

氣うつに効く漢方薬

氣うつの診断基準(寺澤のスコア)

 ストレスにより氣の流れが詰まってしまった状態です。初期には頭や喉が詰まり、さらに進行すると胃や腸が詰まるようになります。

 

氣うつへの漢方薬=理氣剤柴胡剤
香蘇散(こうそさん)
 頭が詰まったときの理氣剤です。香附子(こうぶし)+蘇葉(そよう:シソの葉)で、頭にたまったストレスを発散します。軽いかぜによる頭痛にも有効です。

半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
 喉が詰まったときの理氣剤です。厚朴(こうぼく)で喉の詰まりを開きながら鍛え、半夏で吐き気を止めます。誤嚥を予防したい寝たきりの患者や、妊娠悪阻が続いているマタニティブルーの妊婦さんにも有効です。

四逆散(しぎゃくさん)
 第2回に紹介した柴胡剤です。胃が詰まって、腹直筋が緊張しているときの薬です。とても礼儀正しく、パッと見「いい人」なのですが、実は悩みを抱えていてイライラを表に出さない人(イライラ型氣うつ)に用います。手汗をビッショリかいていたり、胸脇苦満(きょうきょうくまん:肋骨弓部の重苦しさ)があったりすれば適応になります。


補中益氣湯(ほちゅうえっきとう)
 第3回に紹介した柴胡剤です。かぜをひかないからだ作り、ストレスに負けないこころ作りに効く「漢方エナジードリンク」です。こころとからだの燃料である人参に加えて、黄耆(おうぎ)で体にできた穴を塞ぐことで補充された燃料を漏らさないようにしながら、柴胡(さいこ)と升麻(しょうま)で免疫力やストレス耐性を引っぱり上げます。

 

 

新しいことにチャレンジするとき、漢方薬をお供にどうぞ

 何か新しいことを始めた際には、リスガードのU字曲線のどのステージにいるのか考えてみましょう。もし不安やイライラ、焦燥感などがあれば、その人はカルチャーショック期にいると言えます。カルチャーショックは誰もが経験する異文化適応のプロセスなので、食事、睡眠、休養を普段以上に意識するようにして、それでも不安やイライラ、焦燥感などが続くようであれば、今回紹介した漢方薬を試してみてください。

 

【参考文献】
1)Lysgaard, S. Adjustment in foreign society: Norwegian Fullbright grantees visiting the United States. International Social Science Bulletin, 1955;7:45-51.
2)日経メディカル Online コラム 「研修医のための人生ライフ向上塾!

 

研修医の五月病問題、専門家が緊急提言(2016年5月12日)
3)福井至・貝谷久宣監修「今日から使える 認知行動療法」(ナツメ社、2018年)
4)寺澤捷年著「絵でみる和漢診療学」(JJNブックス、1997年)

 

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

竹田貴雄先生。お見事です。竹田先生が「新しいことにチャレンジするとき」と書かれていますが、休職中の患者さんが職場復帰する場合も、これにあてはめて漢方薬でサポートすることはとても有効です。杉並国際クリニックでは、休職中に「食事、睡眠、休養を普段以上に意識する」ようにするだけでなく、生活習慣として、とりたてて意識しなくても済む状態にすることで、「不安やイライラ、焦燥感など」を逓減させるプログラムを組んでいます。生活習慣記録法、カウンセリングなどの心理療法、鍼灸治療、水氣道®、聖楽療法などに積極的参加されるようになると、漢方薬の効き目が高まり、社会復帰と安定的な継続勤務を容易にしています。         

竹田貴雄の「からだとこころと人間関係に効く漢方講座」

 

杉並国際クリニックで行っている漢方診療に共通する考え方を簡単に説明している記事を発見したので紹介いたします。

 

第4回花粉症に効く漢方薬の選び方

 

竹田 貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)

 

桃の節句を過ぎ、花粉症シーズン真っ最中ですね。皆さまいかがお過ごしでしょうか。今回は、花粉症の漢方治療についてお話しします。

 

今年は花粉の飛散量が多いようですが、同じ環境の中にいても、花粉症の症状が出る人と、全く無反応な人がいます。両者の違いは「水滞(すいたい)」という体質の差であると言えます。

 

漢方では、花粉症を「あるべき所に水がなく、十分足りている所に水が余っている状態=水滞」が原因と考えます。くしゃみや鼻水は、鼻に水があふれている状態と考えます。

 

水滞に要注意なのは、普段から水、お茶、コーヒー、お酒など水分を摂り過ぎている人や、砂糖たっぷりのスイーツが大好きでむくみがちな人、汗をかきにくい人、尿が少ない人などです。このような人は体に余計な水分が溜まっているため、アレルゲンに反応して、くしゃみや鼻水、涙、湿疹などの症状として余剰な水分が出てきます。

 

漢方治療を行う前に、必要以上の水分や甘いものを摂りすぎない、汗をかくために適度な運動をするなど、生活習慣の見直しによって水滞を予防することがまずは最も大切です。

 

 

温めるべきか、冷やすべきか、それが問題だ

 

漢方では、「余っている所から足りない所へ水を移動させる=利水(りすい)」という治療を行います。利水は、体が冷えているか、寒熱中間か、熱くなっているかという患者さんの状態によって、以下の3つの治療法に分けられます。

 

(1)体が冷えている人:体を温めながら水を移動させる

 

(2)寒熱中間:体を温めず冷やさず水を移動させる

 

(3)体が熱くなっている人:体を冷やしながら水を移動させる

 

この3つのパターンごとに、漢方薬の選び方を詳しく見ていきましょう。

 

体が冷えている人:体を温めながら水を移動させる

 

体が冷えると、顔が青白くなり、サラサラの鼻水が出ます。西洋医学での治療薬としては、フェキソフェナジン(商品名アレグラ他)やロラタジン(クラリチン他)などの抗アレルギー薬が該当します。

 

漢方では、附子(ぶし:トリカブトのこと)や乾姜(かんきょう:乾かした生姜のこと)といった生薬が、体を強力に温めて水を移動させます。代表的な漢方薬としては、

・附子が入った漢方薬:麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)

・乾姜が入った漢方薬:小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

が挙げられます。

 

麻黄附子細辛湯は、麻黄(まおう)、附子(ぶし)、細辛(さいしん)の3つの生薬から構成され、シャープな切れ味を持った漢方薬です。麻黄+細辛で体の表面を、附子で体の中心を強力に温めます。生姜(しょうきょう:「しょうが」とは読みません)、大棗(たいそう:ナツメのこと)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)などの胃薬が入っていないため、長期間の内服には向いていません。服用期間は3日程度にとどめます。

 

小青竜湯は、五味子(ごみし)という酸っぱい生薬が入っていますので、好き嫌いが分かれるところではありますが、芍薬、甘草などの胃薬が入っていることから、長期間の内服に向いています。

 

なお、麻黄附子細辛湯や小青竜湯には、エフェドリンを主成分とする麻黄が含まれていることに注意が必要です。エフェドリンは血管を収縮させますので、臓器血流が低下しやすく、胃腸の弱い人では胃が痛くなるなどの副作用を起こすことがあります。麻黄が飲めない虚弱な人には、麻黄が入っておらず、小青竜湯のウラ処方ともいわれる苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)がおススメです。

 

寒熱中間:体を温めず冷やさず水を移動させる

寒熱中間の場合、鼻水に加え鼻づまりが併発した状態です。漢方では辛夷(しんい:コブシやモクレンなどの花の蕾を乾燥させたもの)という生薬が、鼻の通りを良くします。代表的な漢方薬としては、葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)が挙げられます。

 

葛根湯加川芎辛夷は、漢方のかぜ薬として有名な葛根湯(かっこんとう)に、川芎(せんきゅう)と辛夷が加わった処方です。川芎は頭痛の薬です。川芎で副鼻腔炎の痛みを取り、辛夷で鼻の通りを良くします。生姜、大棗、芍薬、甘草などの胃薬が入っているため、長期間の内服に向いています。

 

体が熱くなっている人:体を冷やしながら水を移動させる

体が熱くなると、赤ら顔になり、鼻づまりや粘稠な痰が絡むようになります。西洋医学での治療薬としては、モンテルカスト(キプレス他)などのロイコトリエン受容体拮抗薬、ナファゾリン(プリビナ)などの血管収縮点鼻薬が該当します。

 

漢方では、石膏(せっこう)という生薬が、体を強力に冷やして水を移動させます。代表的な漢方薬としては、

・石膏+辛夷が入った漢方薬:辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)

・石膏が入った漢方薬:越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)

が挙げられます。

 

辛夷清肺湯は、石膏や辛夷の他に、水を排出しながら冷やす生薬である黄芩(おうごん)、山梔子(さんしし:クチナシのこと)と、保水しながら冷やす生薬である知母(ちも)、麦門冬(ばくもんどう)とがバランスよく組み合わされています。体の水分バランスを取り、鼻から肺までの気道を開く処方です。

 

越婢加朮湯は、石膏と麻黄によって体の余剰な水を尿として排出します。朮(じゅつ)、生姜、大棗、甘草などの胃薬が入っているため、長期間の内服に向いています。

 

 

花粉症の漢方治療 まとめ

温める・胃薬なし:麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)

温める・胃薬あり:小青竜湯(しょうせいりゅうとう)※

(※麻黄を飲めない虚弱者:苓甘姜味辛夏仁湯[りょうかんきょうみしんげにんとう])

 

寒熱中間・胃薬あり:葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)

冷やす・胃薬なし:辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)

冷やす・胃薬あり:越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)

 

繰り返しになりますが、花粉症の治療において大切なのは、生活習慣の見直しで水滞を予防することです。必要以上の水分や甘いものを摂り過ぎない(私は花粉症シーズンにはビールやアイスクリームを控え、唐辛子を摂るようにしています)、汗をかくために適度な運動をするといった養生が第一で、漢方治療はその次です。

 

その上で漢方薬を選ぶ際には、まず、温めるべきか冷やすべきか、次に、胃薬成分が必要かどうかで使い分けましょう。

 

寒熱や胃薬成分の有無などの判断に迷う場合には、寒熱中間・胃薬ありの葛根湯加川芎辛夷が一番無難な処方です。ただし、葛根湯加川芎辛夷には、麻⻩附子細辛湯や小⻘⻯湯と同様に麻黄が入っています。胃薬成分が入っているとはいえ、麻黄が飲めない虚弱者には、服用困難な場合があります。

 

花粉症の漢方薬選びに迷ったら、寒熱中間・胃薬ありの葛根湯加川芎辛夷を処方しつつ、虚弱な人には苓甘姜味辛夏仁湯に変更するのがよいでしょう。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

竹田貴雄先生の解説は、漢方専門医としてのみならずアレルギー専門医としての立場からも説得力があり、概ね同意できます。「花粉症の治療において大切なのは、生活習慣の見直しで水滞を予防することです。・・・汗をかくために適度な運動をするといった養生が第一で、漢方治療はその次です。」これはそのとおりだと思います。そして「必要以上の水分や甘いものを摂り過ぎない(私は花粉症シーズンにはビールやアイスクリームを控え、唐辛子を摂るようにしています)」という部分に関しては、「甘いものを摂りすぎない、ビールやアイスクリームを控える」というのは賛成です。

 

しかし、「必要以上の水分を摂りすぎない」という個所については注意が必要です。花粉症体質の方は、必ずしも水分が過剰であるとは限らず、水の分布のバランスが崩れていることがむしろ問題であることが多いからです。花粉症で涙や鼻汁に悩まされているからといって、必ずしも水分が過剰であるとは限らないのです。むしろ、粘膜面での水分が欠乏して乾燥状態に陥らないように、身体が調整してくれている結果であることもあります。たしかに、水分の過剰摂取は無意味ですが、腎機能が正常である限り、大きな問題はありません。むしろ、脱水に気を付けて、良い水分を摂取することによって、花粉症にともなって産生される「毒」の尿中排泄を促すことが有効であると考えています。

第3回かぜやインフル予防に「補中益氣湯」がおススメ

 

 

2019/1/28

竹田 貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)

 

2019年1月、新しい年を迎えて、今シーズンもインフルエンザが猛威をふるっています。当院でも、休日には200人近い救急患者が救命救急センターに来院します。 

 

救急医療の最前線で、研修医たちはカフェインたっぷりのレ○ド○ルやバ○ンといったエナジードリンクを飲みながら頑張っていますが、中には残念ながら当直明けにインフルエンザに倒れてしまう人もいます。そんな中で、研修医に「エナジードリンクも良いけど、どうせ飲むならこれが良いよ」とそっと処方する漢方薬が、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)です。

 

 今回は、かぜを引かないからだ作り、ストレスに負けないこころ作りにおススメの「漢方エナジードリンク」、補中益氣湯をご紹介します。

 

 

補中益氣湯は氣(き)のお薬 

補中益氣湯は、13世紀の中国で李東垣(りとうえん)先生により考案されました。戦乱の世にあった中国で、かぜを引いた兵隊を3日で最前線に戻すための薬を作るように皇帝から命じられた李先生が、命がけで生み出した薬です。

 

人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、朮(じゅつ)、陳皮(ちんぴ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、当帰(とうき)、柴胡(さいこ)、升麻(しょうま)の10種類の生薬から構成される漢方薬です。補中益氣湯という薬名は、消化管(中)を補い(=補中)、氣を益(ま)す(=益氣)煎じ薬(=湯)という意味に由来します。

 

 

ここで少し、薬名に含まれる「氣(き)」について説明します。

 

昔の人はお米を炊く釜から立ち上がる湯気を見て、お米の中から出てくる目には見えないエネルギーを「氣」と名付けました。「氣」のつく言葉には、空氣、雰囲氣、電氣など色々とありますが、いずれも目には見えないけれどもそこにあるものとして、あるいはエネルギーとして、氣は存在していると考えます。

 

氣は生命エネルギーそのものです。私たちは両親から氣をもらって生まれ、おいしい食べ物を食べたりおいしい空氣を吸ったりすることで氣を体内に取り込み、生命活動を営んでいます。病氣や加齢により氣を使い果たしたとき、私たちはこの世を去ることになります。

 

 

氣の異常には3つのパターンがあります。

 

(1)氣虚(ききょ)=氣を体内に取り込めなかったり、使い過ぎたりすることで、氣が足りなくなる

 

(2)氣うつ(きうつ)=ストレスにより氣の流れが詰まってしまう

 

(3)氣逆(きぎゃく)=ストレスによりブチ切れてしまう

 

 3つのパターンの中で、補中益氣湯の効能は

 

(1)氣虚に対する補氣作用=エネルギー補給

 

(2)氣うつに対する理氣作用=ストレス発散・免疫力アップ

の2つとなります。

 

ここからは、2つの作用の仕組みについて少し詳しく解説します。

 

効能その1:氣虚に対する補氣作用=エネルギー補給

【代表的な構成生薬】

・人参(にんじん):朝鮮人参のことで、昔から不老長寿の薬として有名な生薬です。

 

・黄耆(おうぎ):からだの傷を修復し、エネルギー漏れを防ぎます。

 

人参でエネルギーを補いつつ、黄耆でからだの傷を修復し、エネルギー漏れを防ぎます。人参と黄耆を合わせて参耆剤(じんぎざい)と呼びます。参耆剤はスーパー補剤として、癌患者や多忙な研修医など、からだにもこころにも無理がたたっている人をサポートします。

 

なお、参耆剤の仲間には、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)、加味帰脾湯(かみきひとう)などがあり、癌患者の緩和ケア領域で処方されています。

 

 

効能その2:氣うつに対する理氣作用=ストレス発散・免疫力アップ

【代表的な構成生薬】

・柴胡(さいこ):ストレスを発散し、免疫力をアップします。

 

・升麻(しょうま):垂れているからだとこころをシャキッと引き締めます。

 

柴胡でイライラを発散し、升麻でからだとこころをシャキッと引き締め、免疫力をアップさせることで、インフルエンザを予防します。

 

帝京大学の新見正則氏は、2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1pdm2009)流行時に、補中益氣湯による予防効果について検討しています。内服群(n=179)と非内服群(n=179)に分けて8週間観察したところ、インフルエンザの罹患者数は内服群で1人、非内服群では7人でした。補中益氣湯で新型インフルエンザを予防できる可能性があると報告しています(BMJ. 2009;339:b5213)。

 

補中益氣湯はKing of Drugs=医王湯(いおうとう)

補中益氣湯の適応は、「ツムラ補中益氣湯エキス顆粒」の添付文書によると以下のようになっています。

 

「消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症:

夏やせ、病後の体力増強、食欲不振、多汗症、結核症、感冒、胃下垂、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随」

 

色々な病名が並んでいますので、最初は何のことやらと混乱してしまいますが、先ほど述べた人参、黄耆、柴胡、升麻の効能を思い出していただくと、それぞれの病名を理解しやすくなります。具体的には、

 

・人参:夏やせ、病後の体力増強、食欲不振

 

・黄耆:多汗症

 

・柴胡:結核症、感冒

 

・升麻:胃下垂、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随

 と分類できます。

 

 1つの漢方薬で様々な病氣を治すことができることを異病同治(いびょうどうち)と言います。補中益氣湯は異病同治が可能な万能薬であり、“King of Drugs”を意味する「医王湯(いおうとう)」と呼ばれています。

 

今シーズンを補中益氣湯で乗り切りましょう

 

ここまでお読みいただいた方には、補中益氣湯が、かぜを引かないからだ作り、ストレスに負けないこころ作りに効く「漢方エナジードリンク」であることがお分かりいただけたかと思います。

 

 

からだとこころが疲れたと感じたら、補中益氣湯をぜひお試しください。補中益氣湯がご自身に合っているかどうかの判断基準は、

 

・飲んでみておいしいと感じたら、体力が落ちていて補中益氣湯が必要な状態

 

・飲んでみてまずいと感じたら、体力が十分あって補中益氣湯が不要な状態

 です。

おいしいと感じた方はインフルエンザの流行が終了するまで、あるいは元氣になっておいしいと感じなくなるまで、補中益氣湯を飲み続けましょう。

 

なお、補中益氣湯は小児、特に、受験が迫っているようなお子さんにもオススメです。かぜやインフルエンザに加え、受験のストレスにも負けないからだとこころ作りに役⽴ちます。補中益氣湯を飲んでみておいしいと感じたお⼦さんは、そのまま飲み続けながら受験シーズンを無事乗り切ってください。

 

 

聖ヒルデガルドの医学と漢方医学との接点(4)

If the stomach is irritated through different harmful foods and the bladder weakened through miscellaneous detrimental drinks, then they both will bring bad juices to the intestines and send a foul smoke to the spleen. The spleen will swell and become sore, and through its swelling and soreness create heart pain and cause slime to appear around the heart. But the heart is still strong and offers resistance to the heart pain. If, however, the previously mentioned juices increase in the intestines and spleen of the person and also bring the heart much trouble, then they will turn back to the black bile and mix together. Irritated through this black bile, together with the other juices, will rise angrily toward the heart with a black, foul smoke and tire it through numerous afflictions occurring suddenly. This is why such persons are sad and grouchy and eat and drink so little that they lose weight and sometimes can hardly stand upright. (CC174,21)

 

胃がいろんな害の多い食物で刺激され、膀胱が諸々の有害な飲み物で弱るならば、その両臓器は腸に悪い体液をもたらし、脾臓に腐敗したしぶきを送ることになるでしょう。脾臓は腫大して傷んできて、こうし腫れや傷みは心臓痛を引き起こし、粘液を生じて心臓の周りに出現します。しかし、心臓は依然として強く心臓痛に対する抵抗を示します。しかし、すでに言及した体液がその人の腸や脾臓で増加し、心臓にもさらなる問題をもたらし、そうなると両者は黒色胆汁に戻り、ともに交じり合います。この黒色胆汁が、他の体液と一緒に刺激されると心臓に向け黒くて腐敗したしぶきをともなって激しく増加し、種々の病気が突然発生することによって、それを疲弊させます。そのような人たちは悲しみにくれ不機嫌となり、ほとんど飲食しないので体重が減少し、ときどきまっすぐに立っていられなくなります。

 

第2回からだとこころのリラックス薬

 

「芍薬甘草湯」

杉並国際クリニックで行っている漢方診療に共通する考え方を簡単に説明している記事を発見したので、引き続き紹介いたします。

 

竹田 貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)

 

今回は、からだとこころの緊張をほぐす芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)のお話です。芍薬甘草湯は芍薬(しゃくやく)と甘草(かんぞう)の2種類の生薬※1から構成される非常にシンプルな漢方薬です。

 

芍薬甘草湯は昔からこむら返りの薬として有名です。他にも胃痛、胆石や尿路結石の疝痛、月経困難症の月経痛、ぎっくり腰など筋肉の急激な痙攣を伴う痛みに用います。

 

※1 植物や動物、鉱物などの自然界にある原料を、乾燥させる、破砕するなどの簡単な加工により薬剤に用いるもの。

 

 

芍薬は生薬の女王

例えばツムラの漢方薬(エキス剤)128種類※2を構成する生薬は全部で約130種類ありますが、薬と名の付く生薬は、山薬(さんやく)と芍薬(しゃくやく)の2つだけです。山薬と芍薬はその優れた薬効のため、生薬の王様として「薬」という名前が与えられています。

※2ツムラの漢方エキス剤は、「死」や「苦」にまつわる数字は縁起が悪いということから、4番、13番、42番、44番、49番、94番の6つが欠番となっています。1~128番から欠番を引いた122種類と、133~138番の6種類で合計128種類となります。

 

(関連記事:漢方製剤番号のナゾ、解決しました!)

 

山薬とは山にできる薬という意味で、ヤマイモのことです。古くから「山のうなぎ」といわれるほど精力が付くことで知られています。腎虚(じんきょ:加齢現象)に対する長生きの薬である補腎剤(六味丸[ろくみがん]、八味地黄丸[はちみじおうがん]、牛車腎氣丸[ごしゃじんきがん])を構成する生薬です。

 

芍薬は、女性の美しさを表す「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という言葉とともに、美人の代名詞とされてきました。花屋さんの店先で、すらっと背が高くゴージャスな大輪の花が咲いていたら、それが芍薬です。漢方では芍薬の根を生薬として用います。芍薬はからだとこころの弛緩作用とともに、止血作用も併せ持ちます。芍薬は血虚(けっきょ:貧血や栄養失調状態)に対する栄養剤である補血剤 (四物湯[しもつとう]、十全大補湯[じゅうぜんだいほとう]、人参養栄湯[にんじんようえいとう])を構成する生薬でもあります。

 

 

芍薬でからだとこころをリラックス 

芍薬にはからだとこころをリラックスさせる3つの作用があり、これらの作用を西洋薬に例えると

  1. 横紋筋をリラックス=エペリゾン(ミオナール他)
  2. 平滑筋をリラックス=スコポラミン(ブスコパン他)
  3. こころをリラックス=エチゾラム(デパス他)

となります。芍薬はエペリゾン+スコポラミン+エチゾラムの合剤のように働き、からだとこころをリラックスさせます。

 

芍薬に甘草を合わせると、横紋筋をリラックスさせる作用が強くなります。芍薬甘草湯がこむら返りに処方されることが多いゆえんです。

 

甘草=スイーツ+抗炎症作用+保水作用

 

甘草の主成分であるグリチルリチンは、砂糖の50倍とも100倍ともいわれる甘さを有します。甘草の多くは食用となり、しょうゆやあめの原料に用いられます。イタリアでは甘草はリクイリツィア(liquirizia:甘い根、英語ではリコリス[licorice])と呼ばれ、甘さの中に苦味が残るリクイリツィア味のキャラメルやジェラートが食されています。

 

グリチルリチン製剤の強力ネオミノファーゲンシーは、蕁麻疹などに対する抗アレルギー薬や慢性肝炎の治療薬として用いられます。グリチルリチンは腸内細菌によりグリチルレチン酸に変換され、副腎皮質ホルモンの1つであるコルチゾールを不活化する酵素の働きを抑制します。これによりコルチゾールによる抗炎症作用が効果的に発揮されます。

 

また、コルチゾールには、水分や電解質の代謝に関係するミネラルコルチコイド受容体と強力に結合して保水作用を示すという性質もあります。

 

 

甘草は1日6gまで 

ただし、甘草の取り過ぎには要注意です。甘草を漫然と長期投与すると、グリチルレチン酸によってコルチゾールの働きが長続きする分、水分貯留のために浮腫、血圧上昇、低カリウム血症、尿量減少といった症状を示す偽性アルドステロン症が起こる場合があるからです。

 

甘草はツムラの漢方薬(エキス剤)128種類の73%に当たる93種類に含まれています。甘草はからだとこころを温め過ぎず冷やし過ぎず(寒熱中間)、全身に効き(表も裏も※3)、漢方薬を構成する生薬のバランスを整えるため、多くの漢方薬に用いられています。そのため、漢方薬による最も頻度の高い副作用がこの偽性アルドステロン症です。

 

偽性アルドステロン症を予防するため、甘草の投与量は1日6gまでとするのがよいでしょう。

 

※3 皮膚や筋肉などの体表部を「表」、消化器をはじめとする臓器など身体の深部を「裏」と呼びます。

 

 

芍薬甘草湯は1日3回ではなく、頓服で

芍薬甘草湯を1日3回処方すると、それだけで甘草が6gに達してしまいます。芍薬甘草湯は漫然と1日3回処方するのではなく、痛むときに頓服で用いるようにします。

 

漢方の勉強が進んでくると、2剤、3剤と漢方薬の処方が増えて甘草の投与量が多くなりがちですが、

1.「芍薬甘草湯は頓服で」

2.「甘草は1日6gまで」

 この2点だけは忘れないでください。

 

 

からだとこころをリラックスさせる芍薬甘草湯の子どもたち

ツムラの漢方薬(エキス剤)128種類の中で、芍薬を含む処方は44種類(34%)あります。芍薬と甘草の両方を含む処方は30種類(23%)です。芍薬甘草湯から生まれた30種類の中で、からだとこころをリラックスさせる効果の高いオススメの漢方薬を最後にご紹介します。

 

桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)

芍薬甘草湯の効果をそのまま発揮できる、コピペしたような処方です。周囲に氣を遣い過ぎて緊張が取れず、寝ているときに足がつって目が覚めてしまうような人(緊張型氣虚と言います)に用います。1日3回処方しても含まれる甘草は2gですので、安心して処方できます。

 

 

四逆散(しぎゃくさん)

とても礼儀正しく、パッと見「いい人」なのですが、実は悩みを抱えていてイライラを表に出さない人(イライラ型氣うつと言います)に用います。手汗をビッショリかいていたり、胸脇苦満(きょうきょうくまん:肋骨弓部の重苦しさ)があったりすれば適応になります。1日3回処方しても含まれる甘草は1.5gですので、こちらも安心して処方できます。

 

慢性疼痛の患者さんの場合、甘草の過量投与を避けるため、桂枝加芍薬湯や四逆散をベースに処方し、抑えきれない痛みが襲ってきたら芍薬甘草湯を頓服で使うのがよいでしょう。

連載: 竹田貴雄の「からだとこころと人間関係に効く漢方講座」  

 

竹田貴雄の「からだとこころと人間関係に効く漢方講座」

 

杉並国際クリニックで行っている漢方診療に共通する考え方を簡単に説明している記事を発見したので紹介いたします。

 

連載の紹介

 

「気管挿管より漢方講演の方が得意な麻酔科医」という竹田氏が、「からだとこころと人間関係に効く漢方」をテーマに、人間関係に悩む人を心理療法と漢方治療で支えるノウハウを紹介します。

 

著者プロフィール

竹田 貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)1994年産業医科大学医学部卒。新日鐡広畑病院(現:製鉄記念広畑病院)でのペインクリニック外来業務を通じて、漢方薬と鍼治療に出会う。2015年から現職。日本麻酔科学会麻酔科指導医・専門医。日本医師会認定産業医。著書に『「とりあえずロキムコ」から脱却! 痛みの漢方治療“効く”First Step』(メディカ出版)。

 

日経BPより

 

 

第1回 西洋医学と漢方の二刀流、

 

始めてみませんか?

竹田 貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)

 

皆さん、こんにちは。北九州総合病院の竹田貴雄と申します。気管挿管より漢方講演の方が得意な麻酔科医です。

 

漢方好きが高じて、「からだとこころと人間関係に効く漢方」をテーマにした講演会で全国を回っています。このたび日経メディカルの編集者の目に止まり、連載を始めることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

 

西洋医学と東洋医学を1枚の医師免許証で行えるのは日本だけ

高血圧や糖尿病といった「病気」を扱う西洋医学とは違い、漢方医学は「頭が重い」だとか「疲れがとれない」など、様々な「愁訴」を治療対象としています。

 

漢方を勉強すると、医師・看護師・薬剤師といった職種や内科・外科など診療科の垣根を越えて、医療スタッフみんなで1人の患者さんの治療を考えることができます。例えば、月経困難症に悩む患者さんに対して、産婦人科医ではない私でも、血液循環を改善する駆瘀血剤(くおけつざい)で治療することができるのです。

 

ちなみに、中国や韓国にも西洋医学と東洋医学はありますが、西洋医学と東洋医学それぞれの医師免許証が必要です。1枚の医師免許証で西洋医学と東洋医学両方の診療を行うことができて、さらに漢方薬を投薬したり鍼灸まで行うことができるのは日本だけです。日本の医師は、西洋医学と東洋医学の二刀流になることができる非常に恵まれた環境にあるといえます。

 

 

病名と証(しょう)

患者さんを診察する際に、西洋医学と東洋医学は異なる観点からアプローチします。診断名は、西洋医学では病名、東洋医学では証(しょう)といい、証が原因となって「病氣」が生じると考えます。東洋医学では、四診(望診[ぼうしん]・聞診[ぶんしん]・問診[もんしん]・切診[せっしん])という診察法を用いて患者さんの状態を把握し、

 

・寒熱(かんねつ):熱くなって痛んでいるのか、冷えて痛んでいるのか

・患者の体を流れるエネルギー(氣血水[きけつすい])の過不足:よく見られる異常は水滞(すいたい)、瘀血(おけつ)、氣(き)の異常

など、証(しょう)を診断することで、証に合わせた治療を行います。

 

 

痛みの原因と治療薬

日々の診療や漢方講演の際、「痛みに効く漢方薬はありませんか?」と質問されることがあります。しかし、このような西洋医学的な考え方では本当の意味において漢方の使い手にはなれません。いわゆる「漢方鎮痛薬」というものは存在しないのです。

 

西洋医学では、

・侵害受容性疼痛に非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェン

・神経障害性疼痛にプレガバリンやオピオイド、デュロキセチンなどの抗うつ薬

と病名に応じた治療薬があります。

 

また、心理社会的要因が強いケースでは、認知行動療法などの心理療法を併用します。

 

例えば、ペインクリニック外来を受診する患者さん、特に慢性痛の患者さんでは、既にNSAIDs、プレガバリン、デュロキセチンなどの鎮痛薬を処方されてから外来に紹介されてきます。ですので、硬膜外ブロックや末梢神経ブロックが効かないとなると、もうお手上げですね。

 

どうしよう……。医師も患者も途方にくれたとき、さあ漢方の出番です。

 

 

東洋医学では、

・筋緊張が原因となっている痛みに芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

・水滞(すいたい)が原因となっている痛みに利水剤(りすいざい)

・瘀血(おけつ)が原因となっている痛みに駆瘀血剤(くおけつざい)

・血虚(けっきょ)が原因となっている痛みに補血剤(ほけつざい)

・陰虚(いんきょ)が原因となっている痛みに滋陰剤(じいんざい)

・腎虚(じんきょ)が原因となっている痛みに補腎剤(ほじんざい)

・氣(き)の異常が原因となっている痛みに氣剤(きざい)

と証に応じた漢方薬があります。

 

単に「痛みに効く漢方」ではなくて、「水滞(すいたい)が原因となっている痛みに効く利水剤(りすいざい)」や「瘀血(おけつ)が原因となっている痛みに効く駆瘀血剤(くおけつざい)」を処方する必要があるのです。

 

 

さあ漢方の勉強を始めましょう

本コラムでは、日常診療に漢方治療を取り入れてみたいという先生方に、漢方治療を行う際に必要とされる東洋医学的な概念(寒熱[かんねつ]・氣血水[きけつすい]の異常)に対する理解を深めていただき、漢方治療の第一歩を踏み出していただけるように、微力ながらお手伝いをさせていただきます。

 

漢方治療に関して、痛みの治療を入り口にした入門書、『「とりあえずロキムコ」から脱却! 痛みの漢方治療“効く”First Step』(メディカ出版 2016年)という本を出しています。本コラムとともに参考にしていただけますと幸いです。

 

When bad humours afflict an individual with a rash on his entire body, one should wait awhile until the abscesses mature and the humours are discharged. When the skin between the abscesses turns red and begins to dry out, a suitable salve should be applied without delay. In this way, the skin will not become more painful through the infection and will not relapse into sepsis. (CC154,33)

 

悪い体液をもつ人は全身性の発疹に苦しみますが、そのひとは膿瘍が熟してその悪い体液が排出するまでのしばらくの間待たなければなりません。膿瘍間の皮膚が赤くなって乾燥すると、遅滞なく適切な膏薬を塗布すべきでしょう。このように、皮膚は感染によって痛みが増すことはないであろうし、敗血症にまで陥ることにはならないでしょう。

 

 

<解説> 

聖ヒルデガルトの皮膚を通しての治療理論は、現代にも通用するとても傑出した役割をもっています。聖ヒルデガルトが考えていた悪い体液とは何か、ということはとても興味深い内容を含んでいるように思われます。

 

聖ヒルデガルドの時代にはウイルスはおろか細菌を直接調べる顕微鏡などは開発されていなかったにもかかわらず、感染症の概念をもっていたことには驚かされます。

 

一般的にいって、膿瘍を形成するような発疹は感染性のものが主ですが、栄養関連の代謝毒、皮膚アレルギーを引き起こすアレルゲンなども悪い体液に含まれている可能性があります。なお、敗血症とは、細菌等が血流に乗って全身性に散布されておこる重篤な病態です。

 

聖ヒルデガルトは、こうした悪い体液により全身に発疹が出現しても、膿瘍形成という自然治癒の過程を待つことが大切であり、そのうえでタイミングよく適切な軟膏処置をすれば、悪い体液が血液中に流れこむことが防げると考えていたようです。

聖ヒルデガルドの医学と漢方医学との接点(2)

 

Although the human brain is mostly healthy and pure, sometimes disturbances of the air and the other elements rise up to the brain and pull various humors(fluids)back and forth to the brain, causing a foggy smoke to appear in the passages of the nose and throat, so that a harmful slime collects there like the smoke of foggy water. This slime draws the diseased parts of the weak fluids together, so that they are painfully secreted out of nose and throat; similarly, ulcers break open when they are ripe and the slime in the drains; and no food can be cooked without ridding itself of impurities through the cleansing foam. In the same manner the soul works in the human body, when all the body fluids in the eyes, ears, nose, mouth, and digestive tract- each in their own way- are cooked through the fire of the soul, like a food is cooked over the fire, until it brings up foam. (CC134,19)

 

人間の脳は、いつもは健康で純正なものですが、ときとして空気やその他の元素が混乱して脳に達すると様々な体液が脳を去来するようになります。そうすると鼻や喉の通路に霧状の煙をもたらし、その結果、霧状の水煙のように有害な粘液をそこに集めます。この粘液は弱った体液の病んだ部分から寄せ集められてきて、それらは鼻や喉から激しく分泌されます。同様に、それらの分泌物が熟腐していて粘液を排出すれば潰瘍が発現します。不純物を洗浄泡で取り除かずに食物を調理することはできません。それと同様に、魂が人体内で働くのは、あたかも食物が火の上で調理されるように、目、耳、鼻、口、消化管にあるすべての体液がーそれぞれ独自の様式でーそれが泡を吐き出すまで調理されるからなのです。

 

<解説> 聖ヒルデガルトは「脳」をどのように考えていたのかは、「魂」との区別がわからないと難しそうです。それから、聖ヒルデガルトの医学用語には神経(自律神経、感覚神経、運動神経など)という言葉は登場しないので、「通路」とか「霧状の(煙)」などの比喩で表現されている箇所があるようです。

 

ところで聖ヒルデガルト鼻や喉で分泌物が排出される発端として、空気やその他の元素の混乱を考えていることがわかります。聖ヒルデガルト医学において元素というのは、空気、火、水、土の4元素なので、4元素の混乱が、鼻や喉に異常分泌液をもたらす、ということになります。これら4元素は体内にも体外にも存在しますが、病気の原因としてわかりやすいのは、体を取り巻く環境としての4元素の混乱です。端的な例を挙げるならば、4元素とは気象を構成する要素であり、4元素の混乱とは気象の変動ということになるでしょう。これらは現代医学でも中医学でも外因とよんで同様な認識をしています。

 

より具体的に言うならば、外気の寒熱・乾湿ということになります。

 

こうした元素の混乱が脳に達するというプロセスを聖ヒルデガルドは想定していますが、これはどういうことなのでしょうか。私たちは外気温や風の強さを感じることはできます。そのわけは、私たちの皮膚や粘膜には触覚,圧覚,温覚,冷覚, 痛覚という五種の感覚受容器があるからです。皮膚や粘膜は、感覚情報を受け取り、神経へ感覚情報を伝達する器官• 感覚受容器は,への情報伝達を可能にしていることは確かです。

 

ただし、ここで私はとても興味深いことに気づくことができました。以前「乾湿感」という言葉を耳にしたときには不覚にも疑問には思いませんでしたが、温度とは違って、私たちには湿度を直接感じることができるセンサーを持っていないということです。特に瞬時的な乾湿状態を私たちは把握することはできません。それでも私たちは皮膚の荒れや鼻腔内の乾燥具合でどうにか乾湿状態を把握することはできます。それは乾燥状態、湿潤状態は、一定の時間が経過してはじめて鼻や皮膚の状態の変化をようやく感知できるものだからです。乾湿の感覚は健康や生命維持にとって大切であり、とくに脱水状態に陥らないことは極めて重要なことです。ひとは視床下部にある渇中枢が刺激されて口渇を感じて、飲水行動を取るような仕組みをもっています。

 

聖ヒルデガルトは目、耳、鼻、口、消化管にあるすべての体液について言及していますが、たしかに皮膚の乾燥以上に問題なのは粘膜の乾燥です。粘膜の生理的な体液が欠乏してしまうと、粘膜は諸感覚を含め機能を失ってしまい、生命の維持すら危うくしてしまうからです。鼻や喉から粘液が激しく分泌する生体反応も、病的反応あるいは病気の兆候としてばかりではなく、粘膜の異常乾燥を防ぐための身体の防御反応と見ることも可能ではないかと思われます。

 

聖ヒルデガルトは「脳」を粘膜や皮膚の感覚受容体から感覚神経を経て文字通り中枢である脳に達するまでのすべての入力プロセスを意味しているように思われます。これに対して「魂」とは「脳」に発して運動神経や筋肉を介しての身体の諸々の反応や働き、さらには思考や決断・意思に基づく行動に至るまでのすべての出力プロセスを意味しているように思われます。

 

養生の基本は、外界の寒冷・暑熱という病気の外因に対して適切な対応をすることですが、乾燥や湿潤に対する備えは疎かになりがちです。それが証拠に、現代においてもインフルエンザの大流行があり、また、夏の脱水症・熱中症などが問題になっています。

 

Q3-実際 

花粉症で悩んでいます。漢方が効いたという友人がいますが、誰にでも効くのでしょうか?

 

A3-実際 

全く効かないという人はほとんど経験しません。そういう意味では、花粉症に対して漢方は良く効くといえるでしょう。花粉症というのは、西洋医学的な病名ですが、実際にはアレルギー性結膜炎とアレルギー性鼻炎が中核をなすことが多いです

 

漢方が得意とするのは、圧倒的にアレルギー性鼻炎です。アレルギー性鼻炎は、くしゃみ・鼻汁(鼻水)を主とするタイプと鼻閉(鼻づまり)を主とするタイプがあります。鼻閉があればアレルギー性鼻炎の重症度は重度に分類されます。実際には、両方のタイプが合併する例が少なくありません。

 

漢方薬は、それぞれのタイプで使い分けるとより効果的です。たとえば、くしゃみ・鼻汁タイプであれば、葛根湯、葛根湯加川芎辛夷、小青竜湯、荊芥連翹湯、辛夷清肺湯、麻黄附子細辛湯が標準です。これに対して、鼻閉タイプであれば、葛根湯加川芎辛夷、辛夷清肺湯が標準です。      

しかし、両方のタイプが合併する場合は、高円寺南診療所30年の経験を踏まえて、時間薬理学的処方を試みます。これは、時間帯によってもっとも適した漢方薬をチョイスする方法です。杉並国際クリニックでは、朝食前に出勤に備えてくしゃみや鼻汁をコントロールして眠気を醒ます小青竜湯、夕食前には就寝に備えて鼻閉を解消して熟睡を助ける越婢加朮湯を処方することで、花粉症の治療だけでなく、生活リズムの修正をはかることを試みて大多数で著効若しくは有効な成績をおさめています。

      

ただし、これもワンパターンではありません。朝用に処方している小青竜湯は比較的体力があって胃が丈夫で暑がりの方にはよく合うのですが、逆に、体力が十分でなく胃腸虚弱で冷え性の方には、かわりに苓甘姜味辛夏仁湯を処方します。

 

また、鼻閉型では口呼吸に伴い口腔・咽喉頭粘膜が乾燥して嗄声(かすれ声)になっていたり、いつも喉に痰が絡まっているような、つまったような、あるいはムズムズするような異常感覚に悩まされたり、扁桃の周囲に炎症を来しているケースも数多く見られます。

このような場合には、昼食前に、それぞれの徴候に対応した漢方薬を処方することで、更なる改善をはかることができます。