脂質異常症とは?その3

 

―脂質異常症のリスク区分と脂質管理目標についてー

脂質異常症の中には、原発性の脂質異常症の他に、続発性(二次性)高脂血症が含まれています。具体的な疾患としては、ネフローゼ症候群、閉塞性肝・胆道疾患などの他、甲状腺機能低下症、クッシング症候群、先端肥大症などの内分泌疾患です。

これらの続発性(二次性)高脂血症の場合は、原疾患の治療を優先させます。しかし、改善が認められず高脂血症が長期化する場合は薬物療法を考慮しなくてはなりません。

 

原発性の脂質異常症の管理においては、まず生活習慣の管理を行い、血清脂質の推移を観察した後、薬剤の使用を検討することになります。

ただし、脂質異常症のすべてが生活習慣病ではなく、家族性高脂血症といって遺伝性の脂質異常症があるので注意が必要です。とくにヘテロ型家族性高脂血症は日常診療でしばしば遭遇します。

いずれの場合でも薬剤選択の基本は「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017」に準じて行います。

 

下に示すリスクカテゴリーの分類に応じて脂質管理目標値を目指します。特にLDL-Cのデータを参考にすることが重要です。LDL-Cの低下のためにはスタチンを用いますが、二次予防あるいは低下させるべきLDL-C量の落差が30㎎/dL以上の場合は強力なスタチンが必要になることが多いです。


高TG血症単独ないし500㎎/dLを超える重度高TG血症の場合には、急性膵炎予防のためフィブラートを積極的に検討します。
高LDL-Cと高TGが併存する場合には、まずスタチンを優先し、non-HDL-Cを指標にフォローします。それでもTGがコントロール困難な場合は、フィブラートを注意深く、慎重に併用します。
いずれの治療も目標は動脈硬化症の予防であるため、筋障害(筋痛、筋力低下)、肝障害、血清クレアチニン・カイネ‐ス上昇などの副作用に注意します。
 

脂質3

 

杉並国際クリニックでは、水氣道の実践を通して、脂質管理に対する非薬物療法に力を注いでいます。

水氣道の実践は関連薬剤の処方数や量を減らすことに役立っています。

また水氣道会員を中心に、季節ごと(3か月に1回)に行なっているフィットネスチェックによる健康指標モニタリングにより、早期に病気を発見したり、万が一の薬剤の副作用なども的確に早期に発見したりして、より安全かつ有効な治療計画作成を可能としています。

脂質異常症とは?その1

 

―診断のための基準値についてー

 

 

脂質異常症という言葉に馴染めないでいる患者さんは少なくありません。その理由の一つは、かつて、高脂血症という言葉が一世を風靡した時代があったせいであるかもしれません。

 

この二つの言葉は関連があるのですが、きちんと区別しておくことが必要です。

 

まず、高脂血症ですが、これは血清脂質を構成するコレステロール(C)、トリグリセライド(TG)、リン脂質(PL)、遊離脂肪酸のうち、はじめは、CとTGのいずれか、ないし両方が増加した状態を指しました。

 

ところが、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」にて、HDL‐コレステロール(HDL-C)が低い場合にも動脈硬化を促進することから、CやTGの増加に加えて、脂質異常症と命名されました。

もっとも、最初は低HDL-コレステロール血症も含めて高脂血症と呼んでいたのですが、医学の素人である一般人には不評で、「検査データで、どの脂の数値も高くないのに高脂血症の患者呼ばわりするのか?」と怒りだすような方も続出するありさまでした。

激しい方だと「医者は勝手な病名をこしらえて、患者を飯の種にするのはけしからん」などと言い出す方まで出現する有様でした。

 

ご尤もと言えばご尤もですが、医療の現場は大混乱でした。このような医療敵視・医療不信の方にみられる誤解は高円寺南診療所時代に、ほとんど解決しましたが、医学用語を適切に説明して、理解していただくことはとても大切なことです。毎日のように、こうして医学情報を発信している私の動機の一つになっています。

 

このような経緯を背景として「脂質が高値でも低値でも異常なときは異常である。」と説明することで事なきを得ようとして命名された言葉が、脂質異常症、ということになります。

 

そこでは、脂のすべて悪者にしてしまいがちな思い込みからの脱却が図られています。「善玉コレステロール、悪玉コレステロール」などという表現を用いての補助的説明も一定の効果を挙げることができたように思います。

 

コレステロールの他に、中性脂肪とも呼ばれるトリグリセライド(TG)も血清中の濃度が高くなるとリポ蛋白の質的異常(小型高比重LDLコレステロールやレムナントの増加など)、血液凝固線溶系の異常、善玉コレステロールであるHDL-コレステロールの低下といった動脈硬化に促進的に働く変化が起こります。

つまり、中性脂肪も高値になると高TG血症といって冠動脈疾患(CAD)の重要な危険因子であるということになります。

 

なお、高TG血症のリスク管理には、近年に至って、非HDLコレステロール値が用いられるようになってきました。これは、すべての血清脂質濃度から善玉コレステロールであるHDLコレステロール濃度を除いた残りの脂質濃度です。わかりやすく言えば、善玉コレステロール以外のコレステロールを悪玉コレステロールに見立ててリスクを評価しようとするものです。

 

そこで、LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、トリグリセライドの他に非HDLコレステロールの4つの指標を駆使して脂質管理をすべきという時代の到来となったわけです。

 

ただし、ここで保険医療の現場では困った事態になりました。以上の4項目のすべてを検査することは事実上制限されているのです。最大で3項目までが保険適応です。

 

しかし、幸いなことに、3つのデータがあれば4項目は簡単な計算で導き出せるのです。

 

そのために杉並国際クリニックでは、従来の脂質3セット項目(LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、トリグリセライド)を改め、この7月1日から新しい脂質3セット項目(総コレステロール、HDL-コレステロール、トリグリセライド)としました。

 

定期モニターすべき、4項目のうちHDL-コレステロール、トリグリセライド(TG)の2項目だけは直接法でデータを取り、非HDLコレステロール(non-HDL-C)は(TC - HDL-C)つまり、総コレステロール(TC)からHDL-コレステロール(HDL-C)を引くことで求めることができます。

そして、最後の、そして最も重要なLDL-コレステロール(LDL-C)は非HDLコレステロール(non-HDL-C)からトリグリセライド(TG)の5分の1を引くことで求めることができます。

 

本年7月以降に血液検査で血清脂質を調べる予定の方は、以上のようにして血清脂質の4項目のデータを得て、リスク評価した上で、これまで以上に、緻密で、個別かつ具体的な治療管理を行うことになります。

経口血糖降下薬の使い方(2)

杉並国際クリニックでは、日本人にとっての人種的ウィ―クポイントである膵臓β細胞保護の重要性に鑑みて、前回(先週)紹介したα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)とSGLT2阻害薬を、適応があれば今後さらに積極的に処方したい経口血糖降下薬として検討しています。

 

これに対して、インスリン分泌を促進するスルホニル尿素(SU)薬は、これまでより慎重に処方することとし、已むを得ない場合には、即効型インスリン分泌促進薬から開始することを考えています。

 

なお、チアゾリジン誘導体に関しては、現時点では積極的に処方するのは控えたいと考えております。

 

 

以下、その結論に至った背景を説明いたします。

 

α-グルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)

α-グルコシダーゼは澱粉のグルコシド結合を加水分解する酵素です。α-GIは唾液プチアリン、膵アミラーゼおよび小腸細胞の刷子縁に存在する二糖類分解酵素の作用を競合的に阻害して単糖類への分解を抑制します。その結果、糖の消化・吸収を遅らせます。

 

糖尿病では血糖上昇に比して、インスリン分泌のタイミングが遅れているので、α-GIにより糖質の分解・吸収を遅らせることによって、血糖上昇とインスリン分泌のタイミングが合うようになることで、食後の過血糖を抑制することができます。

 

したがって、空腹時血糖はさほど高くなく、食後に高血糖になる軽症2型糖尿病には単独使用されます。

 

また食後高血糖が著しい例であれば、SU類やインスリン治療患者でも、このα-GIを併用することにより血糖コントロールが改善します。

 

α-GIの阻害作用は競合阻害なので、小腸で糖質と同時に存在することが不可欠となるため、α-GIは食事開始と同時に服用するように指導しますが、服用を忘れたことに気づいた場合は、食事開始15分後までなら血糖上昇抑制効果は期待できるとされています。

 

現在使用されているα-GIは、アカルボース(グルコバイ®)、ボグリボース(ベイスン®)およびミグリトール(セイブル®)です。これらのすべてが、二糖類分解酵素阻害作用を有しますが、アカルボースはαアミラーゼ阻害作用もあります。

 

副作用としては、服用開始時の腹部症状(腹痛、腹部膨満感、便秘、下痢、放屁)の増加などを自覚することが多いため、特に高齢者、腹部手術歴のある患者では腸閉塞用の症状を起こすことがあるので注意します。こうした副作用の予防策としては最初は1日1~2回で、しかも、少量から開始して、腹部症状の有無や程度を観察しながら徐々に有効量まで増量します。

 

また、単独使用で低血糖を起こすことはまずありませんが、インスリンやインスリン分泌促進薬と併用した場合には低血糖に注意します。もし低血糖が起こったらブドウ糖あるいはブドウ糖が入っている飲料を与えます。

 

 

SGLT2阻害薬

この薬剤は、腎臓におけるブドウ糖再吸収の90%は近位尿細管S1セグメントに存在するナトリウムグルコース共輸送体2(SGLT2)により、また10%はS3セグメントのSGLT1によって行われています。SGLT1は小腸においてブドウ糖吸収を担っていますが、SGLT2は小腸には存在しません。したがって、SGLT2に選択的な阻害薬は小腸におけるブドウ糖吸収に影響することなく、腎臓におけるブドウ糖再吸収を抑制します。これによって尿糖が増加し、体脂肪や体重の減少が期待されます。

 

副作用としては、浸透圧利尿による脱水が問題になります。とくに高齢者では口渇感を感じにくいため注意を要します。本剤服用者に脳梗塞が報告されています。75歳以上の高齢者、65~74歳の老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)を伴う高齢者や利尿薬使用者については特段の注意が必要です。脱水はまた、高浸透圧高血糖状態やビグアナイド(BG)類による乳酸アシドーシスのリスクになることも指摘されています。

 

SGLT2阻害薬を選択するにあたっては、概ね65歳未満の肥満者であれば、脱水および脱水にもとづく高浸透圧高血糖状態のリスクを減らすことができ良い適応であると考えています。

 

 

スルホニル尿素(SU)類

SU類は、膵β細胞にあるSU受容体と結合し、アデノシン三リン酸(ATP)感受性Kチャンネルを閉鎖して、β細胞膜の脱分極をもたらすことによって、電位依存性Caチャンネルより細胞外Caが流入してインスリン分泌を起こします。したがって、SU類が適応となるのは内因性インスリン分泌能が残っている症例であり、対象となるのは食事療法や運動療法を十分に行ってもコントロールが得られない非肥満2型糖尿病です。

 

グリペンクラミド(オイグルコン®、ダオニール®)はSU類の中で最も強力で、長時間作用するため、1日に1~2回の投与です。

 

グリクラジド(グリミクロン®)は血糖低下作用以外に抗酸化作用や血小板機能亢進を抑える作用があり、糖尿病の血管病変への効果が期待されています。

 

グリメピリド(アマリール®)はSU受容体との結合解離速度、結合親和性が、従来のSU類と異なり、インスリン分泌促進作用は弱いです。しかし、血糖低下作用はグリペンクラミドとほぼ同等で、広く使用されています。

 

SU類でもなお血糖コントロールが不十分な場合、持続型インスリンを追加するBOT(basal supported oral therapy)が行われます。この方法によって、インスリンにより血糖が改善し、糖毒性が解除されβ細胞の機能の回復やインスリン抵抗性の改善が期待されます。

 

 

即効型インスリン分泌促進薬

スルホニル尿素(SU)類のようなスルホニル尿素(SU)構造をもたないが、膵β細胞のSU受容体と内向き整流KチャンネルからなるATP感受性Kチャンネルを抑制することにより、SU類のようにインスリン分泌を促進します。これらのインスリン分泌促進の特徴は服用からインスリン分泌効果発現までの時間が極めて短く、かつ血中インスリン上昇のスピードが速いが、インスリン分泌持続時間が短いことです。

 

血糖改善効果はSU類ほど大きくないので、空腹時血糖はあまり高値でないが、食後の高血糖がみられる患者によい適応となります。

 

現在、ナテグリニド(ファスティック®、スターシス®)、ミチグリニド(グルファスト®)、レパグリニド(シュアポスト®)が使用可能です。

 

 

チアゾリジン誘導体

チアゾリジン誘導体は脂肪細胞の核内の転写調節因子であるPPARγのアゴニストで、脂肪細胞の分化を促進します。チアゾリジン誘導体が作用すると、前駆脂肪細胞は小型脂肪細胞に分化し、大型脂肪細胞はアポトーシスを起こします。ヒトではTNF-αの産生を抑制してインスリン抵抗性が改善すると考えられています。

 

その他に、PAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)の発現抑制は抗動脈硬化作用にも関係すると考えられています。

 

現在わが国ではピオグリダゾン(アクトス®)が使用可能です。適応となるのは、食事療法・運動療法では効果が十分でなく、インスリン抵抗性が推定される2型糖尿病〔BMI≧25㎏/m²、空腹時血中インスリン≧10μU/mL、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)≧2.5など〕、あるいは他剤でコントロールが十分でなく、インスリン抵抗性があると思われる症例です。

 

副作用としては、水・ナトリウムの貯留作用あるため体重がしばしば増加します。特に女性ではその傾向が強いので、女性では1日1回15㎎から投与を開始することが望ましいです。浮腫が強い場合はフロセミドなどの利尿薬を併用します。心機能低下状態にある患者では心不全の進行が認められることから、心不全および心不全の既往のある患者には禁忌であり、心不全発症の恐れのある心筋梗塞、狭心症、心筋症、高血圧性心疾患などの心疾患のある患者には慎重に使用すべきとされています。

 

その他、血清乳酸脱水素酵素(LDH),クレアチンキナーゼ(CK)などの上昇もみられます。なお、膀胱癌との関連が一部で指摘されているため、投与開始時にはこれについて説明し、特に膀胱癌治療中の患者へは投与しないことになっています。

 

インスリン分泌促進作用はないので、単独投与では低血糖の危険性は少ないです。しかし、SU類との併用では低血糖に注意する必要があります。

経口血糖降下薬の使い方(1)

 

2型糖尿病では、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性の両者があいまって、様々な程度のインスリン作用不足をもたらします。

 

インスリン分泌不全とインスリン抵抗性のいずれが主たる役割を果たしているかは症例毎に異なります。

 

欧米白人ではインスリン抵抗性が顕著であるのに対して、日本人ではインスリン分泌不全が主たる病態であることが多いことがわかっています。

 

いずれにも、食事療法・運動療法をしっかり行い、なお、血糖コントロールが不十分な場合に薬物療法を開始するのが原則です。

 

なお、日本糖尿病学会は、第一選択薬は特定せずに主治医の判断に任せる立場をとっているが、わが国においてはインスリン抵抗性を改善するビグアナイド(BG)類やインスリン分泌を促進するインクレチン関連薬のうちDPP-4阻害薬が頻用されています。

 

経口血糖降下薬は、主にインスリン非依存状態であり、急性代謝失調を認めない2型糖尿病の治療に用いられます。尿ケトン体陰性で、随時血糖値250~300㎎/dl程度か、それ以下であることが目安となります。

 

インスリン抵抗性改善薬:ビグアナイド(BG)類

メトホルミンがインスリン抵抗性改善作用を目的として使用されています。この薬剤は、インスリン分泌促進作用はなく、肝臓からの糖放出抑制、末梢での糖取り込みの促進、消化管からの糖吸収抑制により血糖を降下させます。GLP-1分泌促進作用もあります。

 

もっとも注目すべき副作用は乳酸アシドーシスです。発生頻度は9.6~16.2人/10万人です。

 

肝・腎機能、心肺機能に障害のある患者、アルコール多飲者では禁忌です。とくに腎機能障害では推定糸球体濾過量(eGFR)30mL/分/1.73m²未満(GFR区分G4:高度低下、G5:末期腎不全)には禁忌です。ヨード造影剤を用いる場合は一時的に中止します。継続服用中であっても、下痢や嘔吐などで脱水を来す危険があるときは服用を中止します。

 

欧米(米国および欧州糖尿病学会)では、肥満のある場合の第一選択薬ですが、食事内容、肥満度、使用できる用量などが異なるなる日本人での合併症予防効果は確立していません。

 

そこで、今後、わが国においてもメトホルミンはさらに頻用されることが見込まれています。

 

しかし、腎障害、過度のアルコール摂取、シックデイ、脱水、心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害、高齢者などには投与を控えるなど適切な対応が必要です。

 

 

インスリン分泌促進薬:DPP-4阻害薬

インクレチンの分解に関わるDPP-4の活性を阻害する経口血糖降下薬です。その主たる作用は活性型GLP-1濃度の上昇によるインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制です。

 

特徴は

①単独治療での低血糖のリスクが低い

 

②確実な食後血糖改善効果があり、血糖変動幅が狭くなる

 

③他の経口血糖降下薬やインスリン製剤の併用薬として有用性が高い

 

④服薬アドヒアランスが良好に保たれる

 

⑤治療に伴う体重増加がみられない、

 

⑥欧米の2型糖尿病患者に比し、日本人を含めたアジアの患者において効果が高い

 

などが挙げられます。

 

ただし、SUと併用する場合には低血糖に注意し、SUを減量します。

 

高齢者や中等度以上の腎障害を認める患者では、特に注意を要します。

 

膵癌・膵炎のリスク、心血管系への影響、免疫系(感染症、膠原病、癌を含む)への影響に関してのエビデンスの集積が不十分です。

 

DPP-4阻害薬を用いても十分な血糖コントロールが得られない場合は、長時間作用性で、空腹時血糖も食後血糖も下げるGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドやデュラグルチドへの切り替えを検討するのが良いとされます。ただし、これらのGLP-1受容体作動薬は経口薬ではなく、皮下注製剤です。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

日本糖尿病学会は、第一選択薬は特定せずに主治医の判断に任せるとしていますが、実臨床の現場では、さまざまな使い分けがなされるべきであると考えます。わが国において頻用されているビグアナイド(BG)類やDPP-4阻害薬にも様々な未解決の問題点が残されています。

 

そこで杉並国際クリニックでは、まず2型糖尿病患者の重症度に着目しています。

 

耐糖能異常の段階から軽症の2型糖尿病で、空腹時血糖はさほど高くなく、食後に高血糖になるタイプでは、まずα-グルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)を試みます。この薬剤は、消化管の二糖類分解酵素を阻害するため、耐糖能異常(IGT)から糖尿病への進展を抑制する効果があります。

 

また、即効型インスリン分泌促進薬の血糖改善効果はスルホニル尿素(SU)類ほど大きくはありませんが、SU類のようにインスリン分泌を促進します。

 

軽症から中等症の2型糖尿病であれば、肥満者か非肥満者かに着目します。

 

非肥満2型糖尿病であれば、スルホニル尿素(SU)類を試みます。しかし、この薬剤は、インスリンの基礎分泌・追加分泌をともに高めるためるため、β細胞の疲弊を早めてしまう可能性があると考えています。低血糖を引き起こしやすいので注意を要します。

 

肥満2型糖尿病であれば、まずSGLT2阻害薬を用います。この薬剤は、腎のブドウ糖再吸収を阻害するため、血糖改善に加えて体重減少も期待できます。

 

高齢者糖尿病の血糖コントロール

 

高齢者には心身機能の低下がみられ、低血糖症状が典型的でないことがあり、重症低血糖を来しやすいという特徴があります。

 

こうした背景を受けて、2016年5月に日本糖尿病学会及び日本老年医学会より「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」が発表されました。

 

そこでは、患者の特徴と用いる薬剤から血糖コントロール目標(HbA1c)とその下限が設定されました。

 

患者の特徴とは、認知機能およびADLにより以下の3つのカテゴリーに分類しています。

 

 

カテゴリーⅠ:

①認知機能正常、かつ②ADL自立

 

カテゴリーⅡ:

①軽度認知障害~軽度認知症、または②手段的ADL低下、基本的ADL自立

 

カテゴリーⅢ:

①中等度以上の認知症、または②基本的ADL低下、または③多くの併存疾患や機能障害

さらに、重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤、SU類、グリニド類など)の使用の有無により二分類されます。

 

 

重症低血糖が危惧される薬剤を使用していない場合:

カテゴリーⅠ・ⅡではHbA1c<7.0%

カテゴリーⅢではHbA1c<8.0%

 

が目標とされました。

 

 

重症低血糖が危惧される薬剤を使用している場合:

カテゴリーⅠ

65歳以上75歳未満ではHbA1c<7.5%(下限6.5%)

75歳以上ではHbA1c<8.0%(下限7.0%)

 

カテゴリーⅡ

HbA1c<8.0%(下限7.0%)

 

カテゴリーⅢ

HbA1c<8.5%(下限7.5%)

 

とされました。

 

 

基本的な考え方として、

①血糖コントロール目標は、患者の年齢、認知機能、身体機能、併発疾患、重症低血糖のリスク、余命などを考慮して個別に設定

 

②重症低血糖が危惧される場合は、目標下限値を設定して、より安全な治療を行う

 

③目標値や目標下限値を参考にしながらも、患者中心の個別性重視の治療を行う観点から目標値を上回る設定や下回る設定を柔軟に行う

 

とされています。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

高齢者糖尿病の血糖コントロールの目標値を設定するためには、いろいろな準備が必要です。まず患者の年齢によって目標値が異なりますが、個人差を無視してはならないと思います。

 

そのための杉並国際クリニックの具体的な取り組みは、

 

①認知機能の評価:長谷川式・MMSEその他の自記式認知症スケール、ウィスコンシン・カード・ソーティング・テスト(WCST)

 

②身体機能の評価:杉並国際クリニックのオリジナルFitness Test

 

③併発疾患、重症低血糖のリスクの評価:日常診療の問診・諸検査

 

以上のような対応がすでに整備されています。

 

そのつぎに、今後の高齢者糖尿病患者の薬物療法においては、可能な限り低血糖を来さない薬物を選択していくことを検討しています。

 

とくに、重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤、SU類、グリニド類など)を使用している場合は、可能な限り、その他のより安全な薬剤に置き換えていくことが必要だと考えています。ただし、インスリン製剤の使用は中断できないことが多いため、その場合は、併用薬の選択に十分注意を払っていきたいと考えています。

糖尿病の診断と治療の原則

 

糖尿病の診断は、内科医にとっては容易です。しかし、治療開始に至らない、あるいは治療を中断する症例が就労世代に多いため、高齢に至ってからはじめて糖尿病の本格的な継続的治療を始めるケースも少なくありません。医療とつながっている重要性を啓発する必要があります。

 

糖尿病の治療の原則は、病態や治療の目的に応じた治療計画をたてることです。

 

糖尿病治療の目的は、糖尿病特有の合併症(網膜症、腎症、神経障害)と動脈硬化性疾患の発症・進展を阻止して、健常人と変わらない生活の質(QOL)を確保することにあります。

 

そのためには、血糖はもとより、血圧および血清脂質も適切にコントロールすることが重要です。血糖管理目標を定めるにあたって、血糖コントロールの目標値は、HbA1c(%)を指標にすると、

<6.0:血糖正常化を目指す際の目標、

<7.0:合併症予防のための目標、

<8.0:治療強化が困難な際の目標、

 

 

インスリン依存状態:

初診段階でインスリン依存状態にあるときは糖尿病専門医へ紹介することが原則とされます。

 

インスリン非依存状態:

病歴をよく聞き、インスリンの分泌状態やインスリン抵抗性などを臨床的に判断し、個々の患者にあわせた治療を行います。

 

 

1)食事・運動療法

食事療法は糖尿病治療の基本であり、成因、病態の如何に関わらず、すべての患者が行うべき治療です。

 

そのためには、

①1日の総エネルギー摂取量は患者の標準体重をもとに、生活活動強度を考慮して算出することから始めます。

 

②炭水化物、蛋白質、脂質のバランスを取ります。

 

③適量のビタミン、ミネラルを摂取できるようにします。

 

運動療法では、歩行数を毎日記録することによって意識化する習慣を形成することに加え、レジスタンス運動も実施すると効果的です。水氣道®は、水の抵抗を利用することによってレジスタンス運動の継続を容易にします。

 

食事療法と運動療法を2~3か月続けても、なお目標が達成できないときは、薬物療法(経口血糖降下薬またはインスリン製剤)を用います。

 

 

2)薬物療法

経口血糖降下薬を分類してみます。

①インスリン分泌を促進することなく血糖を改善するもの:

・ビグアナイド(BG)類、

・チアゾリジン誘導体、

・α‐グルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)

・SGLT2阻害薬

 

②血糖依存性のインスリン分泌を増幅するもの:

・インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)、

 

③血糖非依存性にインスリン分泌を促進するもの:

・スルフォニル尿素(SU)類、

・即効性インスリン分泌促進薬

 

どのような型の糖尿病であれ、適応のあるインスリン製剤、経口血糖降下薬、インクレチン関連薬を単剤から、段階的に組み合わせて血糖管理目標を目指す必要があります。

 

目標を達成できないとき、低血糖、体重増加、検査成績異常を認めるときは、糖尿病専門医を紹介することになります。

 

3) 低血糖

低血糖には特異的でない一般的な症状を伴うため、発見が遅れることがあります。

空腹感、脱力感や頭痛などで始まることが多いからです。これらは、低血糖でなくともしばしば経験する症状だからです。

発汗、動悸、頻脈、手の震えなどは交感神経系の緊張症状です。

これらの低血糖症状は、血糖値が低血糖(≦70㎎/dL)でなくても生じることがあります。

低血糖を来しうる薬物で治療されている患者では、普段と受け答えが違う場合には低血糖も疑っておく必要があります。症状が低血糖によるものか否かの確認には血糖自己測定(SMBG)が有用です。

 

上記の糖尿病治療薬の中で、単独で用いても低血糖を来すことがあるのは、③の

スルフォニル尿素(SU)類、即効性インスリン分泌促進薬、です。

 

また、①あるいは②と併用すると低血糖を助長することがあります。

 

これに対して、①と②を単独で、あるいは①と②を併用した場合、一般には低血糖(血糖値≦70㎎/dL)を来すことはありません。ただし、低血糖症状を来すことはあります。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

杉並国際クリニックにおける糖尿病治療の指針は、何よりも安全性に配慮するということにあります。糖尿病においては、低血糖を来さないような血糖管理を目標としています。そのためには、1)食事・運動療法を積極的に推進し、3)低血糖を来しにくい薬剤を選択し、インスリン依存状態に陥らないような取り組みをしています。

 

とくに水氣道のような運動療法を積極的に推進すし、薬剤の減量をはかるうえでは、低血糖の防止はとても重要です。以前は、スルフォニル尿素(SU)類は古くからある薬剤で安価でもあるため、多数処方してきましたが、インスリンの基礎分泌・追加分泌をともに高めるため低血糖に十分注意すべき薬剤です。最近では、低血糖を来しにくい薬剤を処方することが多くなってきました。とくに、肥満例には、低血糖を起こしにくく、しかも血糖改善に加えて体重減少も期待できるSGLT2阻害薬を処方する頻度が増えてきました。

糖尿病患者の腎症進行の原因物質を同定、新たな治療法に(その2)

 

東北大学病態液性制御学分野の阿部高明教授らの研究によって、糖尿病性腎臓病の原因物質としてフェニル酸が脚光を浴びています。

 

その結果、腎臓病を起こしやすい糖尿病患者において、フェニル硫酸を測定してリスクの程度を予測し、原因となるチロシンをあまり含まない食事にするといった食事指導をしたり、チロシン・フェノールリアーゼ阻害薬を投与してフェニル硫酸の産生量を減らすといった治療戦略が考えられます。

 

それでは、腎臓病を起こしやすい糖尿病患者において、原因となるチロシンをあまり含まない食事にするといった食事指導のためには、どのような基礎情報が必要なのでしょうか。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

慢性腎臓病(CKD)や糖尿病性腎臓病(DKD)の方は、原因となるチロシンをあまり含まない食事にするとよいということはわかりました。

 

しかし、それだけでは実際的なアドバイスにはなりません。実臨床においては、「原因となるチロシンをあまり含まない食事にする」という指導はしません。そのかわりに「チロシンを多量に含む食物を控えてください」という指導をしたうえで、具体的な食材を挙げていくのが親切であると思います。

 

 

チロシンを多く含む食品(含有量/100gあたり)は、

◆高野豆腐 3,000mg、◆チーズ 2,600mg、◆鰹節 2,600mg、

◆大豆・きな粉 2,000mg、◆落花生 1,100mg、◆アーモンド 580mg

 

鰹節を大量に摂取することは少ないとおもわれますが、体に良いとされる健康食である大豆製品(高野豆腐、大豆・黄な粉)などがチロシンを多く含むんでいることは注目に値します。

 

そもそも、チロシンは、アミノ酸の一種で芳香族アミノ酸の一つです。フェニルケトン尿症、睡眠不足、うつ症状(うつ病)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などに効果があるとされていますが、糖尿病や腎臓病の患者さんでは控えるべき食品ということになってしまうので注意を要するところだと思います。

 

膵β細胞を休息させることでこの細胞を保護するための具体的な方法については、次回(5月22日)に解説する予定でしたが、新たな重要トピックが入ってきたため、延期といたします。

 

 

糖尿病患者の腎症進行の原因物質を同定、新たな治療法に(その1)

阿部高明:東北大学病態液性制御学分野教授のコメント

 

糖尿病性腎臓病(Diabetic Kidney Disease)の原因物質はフェニル硫酸。

Nature Communications電子版(4月23日号)に報告。

 

フェニル硫酸はDKD増悪の予測因子であり、さらにDKDの治療ターゲットになり得る。

 

慢性腎不全モデルマウスに便秘薬を投与すると腸内細菌叢が改善し、さらに慢性腎臓病(CKD)の進行抑制ができる可能性があることを報告しています。

 

腸内環境がCKDの進行に関わる

慢性腎不全モデルマウスに便秘薬であるルビプロストン(商品名アミティーザ)を投与すると腸内細菌叢が改善し、いわゆる善玉菌と言われるLactobacillusやPrevotellaなどの減少が改善していました。さらに、尿毒素の血中濃度の低下と腎機能の改善を確認しています。腸内細菌が関与する代謝物が体内を巡り、腎障害を引き起こしている可能性があることが分かりました。 どんな物質がどんな経路をたどって腎障害を引き起こすのか

そしてその物質の産生を抑えれば腎障害を治療できるのか

 

以前に同定していたヒト特異的有機アニオントランスポーター遺伝子(SLCO4C1)に着目しました。この有機アニオントランスポーターはヒトでは腎臓にだけ存在し、老廃物を体外に排出する役割を担っています。この遺伝子を導入し、尿毒素を含む代謝物を排出しやすくしたラットを作成し、DKDを人為的に起こしたときに普通のラットと比べてどの尿毒素に違いが出るのかを検討しました。

 

その結果、糖尿病を誘発すると、普通のラットではフェニル硫酸の血中濃度が高まり、病期が進行するほど血中濃度がより高まっていきます。一方、モデルラットではフェニル硫酸の血中濃度が低下して腎症が緩和されることが分かりました。尿毒素を排出しやすくしたモデルラットで血中濃度が低下する物質としてフェニル硫酸を見出し、普通のラットで血中濃度が高まっていて、それは腎障害の進行と比例していたということです。  

 

またフェニル硫酸は腎機能低下が始まる前から血中濃度が高まっており、ミトコンドリア障害を介して腎臓のポドサイトや基底膜を傷害する作用があることも分かりました。糖尿病モデル動物にフェニル硫酸を経口投与するとポドサイトや基底膜が傷害され、アルブミン尿が悪化したのです。

 

糖尿病患者を対象とした検討は、岡山大学腎・免疫・内分泌内科学教授の和田淳先生と共同で、362人の糖尿病患者を対象に、血中フェニル硫酸量と臨床データとの関係を検討しました。糖尿病患者で血中フェニル硫酸量は高まっており、アルブミン尿の値に比例していました。さらに微量アルブミン尿期の患者ではフェニル硫酸が2年後のアルブミン尿増悪を予測する独立した因子であることが分かりました。年齢や性、BMI、収縮期血圧、HbA1c、eGFR値は有意な予測因子ではありませんでした。

 

 

結果のまとめ

フェニル硫酸はDKDの原因物質であり、しかも微量アルブミン尿期にその後の腎障害の増悪を予測する因子になり得ます

 

微量アルブミン尿期はDKDの早期段階です。この段階で血中フェニル硫酸量が高ければ、その患者は腎障害が進行する可能性が高いと言えます。腎障害が進行する前に増悪リスクが高いことが分かれば、糖尿病などの治療を一生懸命取り組まなければいけないといった指導することができます。  

 

フェニル硫酸が体内で産生される機序ですが、まず食事中に含まれるチロシンが腸内細菌の作用によってフェノールに変換され、体内に吸収されます。フェノールは非常に毒性の高い物質ですから、すぐさま肝臓で解毒代謝酵素によって硫酸抱合され、フェノールよりは毒性の低いフェニル硫酸に変換されることが分かっています。  

 

腸内細菌がチロシンをフェノールに変換するのはチロシン・フェノールリアーゼという酵素です。これは腸内細菌のみが持ち、ヒトには存在しない酵素です。  

 

そこでこのチロシン・フェノールリアーゼの阻害薬を糖尿病モデルマウスに経口投与したところ、血中フェニル硫酸量が低下し、アルブミン尿が減少することを確認しました。さらに腎不全モデルマウスにこの阻害薬を投与すると、血中フェニル硫酸量が低下するとともに、血清クレアチニン値も低下しました。これは血中フェニル硫酸量を低下させると腎障害が改善する可能性を示唆する結果です。  

 

ですから、腎臓病を起こしやすい糖尿病患者において、フェニル硫酸を測定してリスクの程度を予測し、原因となるチロシンをあまり含まない食事にするといった食事指導をしたり、チロシン・フェノールリアーゼ阻害薬を投与してフェニル硫酸の産生量を減らすといった治療戦略が考えられます。  

 

これまでCKDやDKDを進行させないためには糖尿病や高血圧の治療、RA系阻害薬の投与をするしかありませんでした。今回明らかにしたフェニル硫酸を減らすことは、新しい治療コンセプトになると考えています。  

 

それでは、腎臓病を起こしやすい糖尿病患者において、原因となるチロシンをあまり含まない食事にするといった食事指導のためには、どのような基礎情報が必要なのでしょうか。

 

この点に関しては、次回、来週の水曜日5月29日に解説します。

糖尿病は病型にかかわらず、膵β細胞の休息を!

 

 

第116回日本内科学会総会・講演会(ポートメッセ名古屋)

第3日目

2019年4月28日(日)

 

教育講演13<1型糖尿病の病態と治療の最前線>

 

1型糖尿病:

膵β細胞の破壊により発症し、通常はインスリンの絶対的欠乏に至る糖尿病

 

発症因子:

他因子疾患。遺伝的素因を有する人に何らかの環境因子が働いて発症

 

遺伝的素因:

HLA。DR4およびDR9が感受性、

まれにDR8ハプロタイプ(強い疾患感受性、疾患の家族集積)

DR2が抵抗性。

 

成因による分類:

自己免疫性および特発性

 

日常臨床経過による分類:

劇症、急性発症および緩徐進行

高血糖症状出現からインスリン依存状態に至る期間が基準

急性発症1型糖尿病では3カ月以内:内因性インスリン欠乏    or 膵島関連自己抗体陽性

正常なインスリン分泌パタンが喪失

内因性インスリンは自己調節能を有するので投与インスリンの過不足をも緩衝

 

β細胞の病態による分類:

完全廃絶群、微小残存群

 

最近のトピック:

発症の環境因子として、他疾患に対する免疫療法により自己免疫を増強させると、膵β細胞障害を促進。インターフェロン療法や免疫チェックポイント阻害薬治療に伴って発症することが示唆。とくに癌の免疫チェックポイント阻害薬に伴って発症する1型糖尿病には、高率に劇症1型糖尿病が発症。劇症1型糖尿病は、発症時から膵β細胞が完全に廃絶してしまうので対応の遅れにより生命危機に直結。

 

 

治療:

インスリンポンプ(ASI)によるインスリン補充

内因性インスリン完全廃絶例でのコントロールは対応困難

残存β細胞を如何に温存させるかが重要

細胞性免疫によるβ細胞破壊を防ぐためには、

クリティカルなβ細胞の残存率は10~20%、

それ以下ではケトアシドーシスを発症し、インスリン依存状態に至る

初期治療によって、残存膵β細胞を休息させる

 

 

ポイント:

インスリンは膵臓に点在するランゲルハンス島組織を構成する細胞の一種であるβ細胞で産生され、分泌されています。

 

日本人のβ細胞は、とてもデリケートで、欧米人と比較して簡単に疲弊し、機能廃絶(インスリン産生不能)に陥りがちであることが知られています。

 

糖尿病の大多数を占める生活習慣病としての2型糖尿病ばかりでなく1型糖尿病であっても残存膵β細胞を休息させることが大切です。

 

 

糖尿病は認知症の促進因子です。

―糖尿病性認知症に注意!-

 

 

第116回日本内科学会講演会は2019年4月26日(金)から28日(日)の3日間、名古屋で開催されました。未曽有の大型連休の前でもあるため、初日の26日(金)は出席せず、高円寺南診療所としての最終診療日としました。

 

しかし、4月26日(金)は、聞き逃したくない貴重な演題が目白押しでした。そこで、学会レジュメをもとに重要なトピックを紹介します。

 

 

シンポジウム1.

生活習慣・生活習慣病と認知症・アルツハイマー病

特に、糖尿病性認知症について

 

高齢化に伴い、認知症や軽度認知障害の人の数が急増しています。認知症には有効な治療手立てが確立していません。認知症の原因の約6割はアルツハイマー病で、その他にも血管性認知症やレヴィ―小体型認知症があります。

アルツハイマー病は脳組織の変性性疾患であるため、生活習慣病との関連は乏しいと考えられがちでした。しかし、近年、運動不足や不適切な食事といった不健康な生活習慣および糖尿病や高血圧等の生活習慣病が、血管性認知症ばかりでなく、アルツハイマー病のリスクであることが報告されるようになってきました。

糖尿病と認知症発症の関係を調べた疫学調査では、糖尿病群は正常群と比べ、認知症、特にアルツハイマー病の発症リスクが有意に高いことが判明しました。さらに、生活習慣との関連では、中年期から老年期の持続喫煙および老年期の短時間・長時間睡眠は、アルツハイマー病および血管性認知症発症の有意な危険因子でした。

 

血管性病変やアルツハイマー病態よりも糖代謝異常が深く関与している認知症の病型として、糖尿病性認知症が注目されるようになってきました。これは血糖コントロールの不良例が多く、進行は緩やかですが近時記憶障害よりも注意・遂行機能障害がみられるのが特徴であるため発見されづらいことが問題になると考えられます。

 

上述の疫学調査の結果によると、定期的な運動習慣があり、大豆・大豆製品、緑黄色野菜、淡色野菜、海藻類ならびに牛乳・乳製品の摂取量が多く、米の摂取量が少ないという食事パターンの人では、認知症(アルツハイマー病、血管性認知症のそれぞれ)の発症リスクは有意に低いものでした。

 

そのため杉並国際クリニックとしては、本格的な認知症以前の段階である軽度認知障害の早期発見、可能であればその予防のための一層の対応が急務であると考えています。

 

将来の認知症発症を予防するためには、高血圧および糖尿病の予防と適切な管理に加え、禁煙、適切な睡眠、和食+野菜+牛乳・乳製品を中心とした食習慣ならびに定期的な運動を心がけることが大切になります。

 

 

高円寺南診療所30年の臨床経験による診療指針の正しさが次々と証明されてきていることは大きな励みです。禁煙指導、生活習慣指導、水氣道、トータルフィットネス・チェック、メディカル・チェック(区検診など)の総合的・抜本的な活動推進は、ますます重要性を増していると考えます。