慢性腎臓病(CKD)診療の課題と対策

 

慢性腎臓病(CKD)は末期腎不全に至るリスク因子で、患者数は増加しています。2011年当時で、日本では成人人口の約13%、1,330万人がCKD患者と言われております。CKD発症の背景因子として、糖尿病、高血圧などの生活習慣病が挙げられます。CKDは末期腎不全や心血管疾患のリスクが高く、国民の健康を脅かしています。

 

以上の現状を踏まえ、杉並国際クリニックは、定期通院患者の皆様の腎機能の保護に取り組み、慢性腎臓病(CKD)には腎機能は血清クレアチニン値を用いたGFR推算式によって算出したeGFR値で評価しており、eGFR値と尿蛋白量でCKDの重症度を決めています。

 

しかし、血清クレアチニンは筋肉量に影響を受けやすいし、推算式そのものもあくまで推定で患者ごとに腎機能を正しく評価するには課題があると指摘されています。そもそも腎機能評価には、推定値であるeGFRではなく本来は糸球体濾過率(GFR)そのものを使うべきなのだが、これにはイヌリンクリアランスという検査が必要になります。この検査は煩雑で、患者、医療従事者に大きな負担を強いるため、実臨床ではほとんど用いられていません。

 

 

さて、慢性腎臓病(CKD)診療の課題は3つあるといわれます。それは、

(1)予後予測法がないこと、

(2)早期診断法がないこと、

(3)治療法がないこと

 

1つ目は、腎障害患者の腎予後を予測する方法がないことに関して、血圧や血糖値などは腎障害のリスク因子ですが、直接的に腎予後を予測する因子としては弱いです。

 

しかし、関連記事:D-アミノ酸はCKDの腎予後予測に有用であり、推定腎機能(eGFR)高値の患者は低値の患者に比べてD-セリンの血中濃度が高まっていること、透析導入までの期間を検討したところD-セリンの血中濃度が高いほど透析導入が早いことを明らかにされました。

 

 

2つ目の早期診断法につながる、より正確に腎機能を評価できるバイオマーカーとして注目されつつあるのもD-セリンです。GFR値が低いほど血中D-セリン濃度が高いだけでなく、腎障害が進行していると考えられる患者ほど、尿中D-セリン排泄量が高まっていることが明らかとなりました。

とりわけ尿中D-セリン排出量が高まることは、腎機能ではなく腎障害と相関すると考えられる結果が得られたことは注目に値します。

 

例えば、糖尿病性腎症の早期段階では、GFRで示される腎機能は低下していないのに、尿蛋白(微量アルブミン尿)が出始めている病態があります。こうした症例を早期段階で拾い上げようとしてもGFRのみでは難しいです。

しかし、最近、腎障害と腎機能低下が相関しない段階であっても、血中D-セリン濃度は健常人と変わらないが、尿中D-セリン排泄量が高まっていることが明らかになりました。

つまり尿中D-セリン排泄量は、腎障害の早期段階を検出できるバイオマーカーとして有望だと考えられる結果です。

 

D-セリンは大量投与すると腎毒性があることも明らかになってきました。

1検体のD-セリンの測定には、最近開発された液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムを用いることにより、測定自体は5分で完了できるようになり、血液および尿中のD-セリンを測定することによる臨床検査が保険適応になることが期待されています。

 

 

ただし、3つ目の、慢性腎臓病(CKD)の治療法がないことは相変わらず大きな課題です。

現状では、CKDの予防に力を注ぎ、病気を進行させないことが賢明です。そのため肥満症、糖尿病、高血圧をはじめリスク因子となる生活習慣病のコントロールに際には、可能な限り一般尿検査による尿蛋白のチェックと擬陽性・陽性者には尿蛋白(糖尿病ではアルブミン)定量の重要性を強調していきたいと考えております。

夜間多尿を伴う高血圧の治療指針

 

鹿児島大学大学院心臓血管・高血圧内科学の大石充教授は、第107回日本泌尿器科学会(4月18~21日)で、夜間多尿を呈する食塩感受性高血圧患者への薬物治療における盲点について、循環器内科指導医の立場から指摘しました。

 

その盲点とは「特に、加齢や慢性腎臓病に伴うナトリウム(Na)の排泄障害を有する人や、閉経や糖尿病に伴うNaの体内貯留が認められる人では、食塩感受性が亢進しやすいため、食塩摂取量に留意することが必要」ということです。

 

その理由は、食塩感受性高血圧患者が塩分を過剰に摂取すると、体内の塩分濃度が適正値を超え、夜間多尿のリスクが高まるからです。

 

日本人には食塩感受性高血圧患者が多く、夜間へのNaの夜間へ持ち越し(キャリーオーバー)が起こりやすい上、夕食時の食塩摂取量も多いため、夜間に血圧が上昇して夜間多尿を来すリスクが高い。

 

そこで大石教授は「夜間多尿の治療においては、原疾患も含めた病態生理の全体像を把握し、治療薬が効果を発揮するための前提条件を押さえておくことが重要」と注意を喚起しました。「適切な作用機序を有する薬剤を選択しないと、症状が悪化する恐れがある」からです。

 

食塩感受性高血圧患者は夜間多尿のリスクが高い

 

正常血圧者では、塩分を過剰に摂取した場合でも、血圧が上昇して尿中へのナトリウム(Na)排泄が促進され、血中Na濃度が適切なレベルに保たれます。

 

しかし、本態性高血圧患者では、Naを排泄するために正常血圧者よりも、さらに高レベルの血圧上昇が必要となります。この傾向は、本態性高血圧患者の中でも食塩感受性高血圧でより顕著です。

 

そのため、食塩感受性高血圧患者が塩分の多い食事を取ると、昼間に十分なNa排泄ができず夜間へ持ち越し(キャリーオーバー)ます。

 

その結果、夜間血圧が上昇して尿量が増加し、Na排泄が促されます。

 

これが食塩感受性高血圧患者における夜間多尿の発症メカニズムです。

 

塩分貯留に伴う夜間多尿にはサイアザイド系利尿薬が有効

夜間多尿を伴う食塩感受性高血圧治療の基本は、日中にNaをできるだけ排泄し、夜間へのキャリーオーバーを防止・低減することです。食塩摂取過多により夜間多尿を呈する食塩感受性高血圧患者では、サイアザイド系利尿薬を朝に投与した場合、日中のNa排泄が促され、夜間高血圧を来さず夜間多尿が改善します。しかし、同様のケースにむやみにループ利尿薬を投与した場合、体液量が減少する一方で、体内にNaが貯留し、副作用として浮腫を来す可能性がある。ただし、ループ利尿薬は心不全による体液貯留に伴う多尿に対しては有効である。

 

また、原疾患に対する治療法によっては夜間多尿が悪化する懸念もあります。カルシウム(Ca)拮抗薬は血管拡張により降圧作用を示すが、Naの排泄は促進しません。食塩摂取過多の食塩感受性高血圧患者に対してCa拮抗薬を投与すると、血管が拡張して血圧は下がるが、Na濃度は低下しないため、夜間に血圧を上昇させてNaを排泄せざるを得ず、尿量が増加する恐れがあります。このような症例に対しては、サイアザイド系利尿薬でNa排泄を促進する必要があります。

高血圧の初診時管理計画と初期治療

 

降圧療法は高血圧の重大合併症である心不全の発症を50%以上、脳卒中発症率を35~

40%、心筋梗塞を20~25%低下させることが示されています。

 

初診時には、

1)高血圧の重症度と血圧以外のリスク要因を組み合わせて高血圧患者のリスクを層別化、

2)それに則って血圧管理計画を立案します。

 

リスクの高さ(高、中、低)に応じて、診断して直ちに、あるいは1~3か月の生活習慣の修正後、140/90㎜Hg以上であれば降圧薬を開始します。

 

 

家庭血圧測定の重要性

診察室血圧が高血圧の場合、家庭血圧(HBP)測定が奨められています。

 

早朝起床後あるいは就寝前のHBPが≧135/85㎜Hgの場合、高血圧と診断します。

 

両者の診断に較差がある場合には、家庭血圧のデータを優先します。

 

白衣高血圧(診察室のみで高血圧)は、臓器障害や糖尿病などの危険因子がなければ、経過観察とします。

 

一方、仮面高血圧(診察室以外が高血圧)は、診察室血圧が正常でも降圧治療の対象となります。

 

また、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)も有用とされていますが、多くの医療場で日常的に実施されるようになるまでにはするまでには至っていません。

 

 

高血圧の非薬物療法

薬物療法の有無に関わらず、生活習慣の改善すなわち非薬物療法は重要です。

 

減塩(6g/日未満)、野菜・果物、魚(魚脂)の積極的摂取、コレステロールや飽和脂肪酸の摂取制限、減量〔BMI(㎏/m²)未満〕、運動、節酒(エタノール換算:男性20~30ml以下、女性10~20ml以下)、禁煙が奨められます。禁煙(受動喫煙防止も含む)、脂質代謝の改善自体には降圧効果はありませんが、動脈硬化症の予防のためには必須の条件です。

 

いずれも数㎜Hg以上の降圧効果が期待できますが、特に減量と運動の効果が大きいです。

 

生活習慣の修正が維持できてはじめて休薬が可能となります。

 

慢性腎臓病(CKD)に合併する高血圧の治療

 

高血圧は、慢性腎臓病(CKD)の発症・進展及び心血管疾患(CVD)発症の最大の危険因子で、高血圧治療はCKD診療における要です。

 

高血圧治療の要点を示します。

 

①高圧目標は130/80㎜Hg未満とする。

ただし、非糖尿病で尿蛋白陰性のCKDでは140/90mmHgを推奨する。

 

②高齢者でも同様であるが、過度な降圧は避ける。

 

③糖尿病及び尿蛋白陽性(0.15g/gCr以上、アルブミンでは30㎎/gC以上)のCKDでは、ACE阻害薬/ARBを第一選択薬とする。

 

④尿蛋白陰性の非糖尿病CKD(多くは高齢者の腎硬化症)では、病態に応じて降圧薬を選択する。

 

⑤降圧薬(特にACE阻害薬/ARB)を服用中の患者(特に高齢者)が脱水になると急性腎障害(AKI)発症の危険がある。

 

したがって、下痢・嘔吐・食欲不振など脱水の危険があるときには、これらの降圧薬を中止して速やかに受診するように患者に伝える。

 

特に尿蛋白陰性で高齢の患者や腎機能が既に低下している患者においては、Ca拮抗薬が使いやすい。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

慢性腎臓病(CKD)に合併する高血圧という視点からの治療指針を紹介しましたが、実際には高血圧患者の腎機能を調べてみると、そのほとんどが慢性腎臓病(CKD)に該当します。

 

特に、高齢者ではそれが顕著です。したがって、高血圧がある受診者には尿検査によって早めに慢性腎臓病(CKD)のチェックを行うことが大切であり、

 

慢性腎臓病(CKD)であれば、少なくとも、毎月1回は尿検査を実施するように心がけたいと考えています。

 

上記③で、尿蛋白陽性(0.15g/gCr以上、アルブミンでは30㎎/gC以上)のCKDとは、蛋白尿区分でA2(軽度蛋白尿)もしくはA3(高度蛋白尿)の場合に相当します。

 

そして、蛋白尿区分がA1で蛋白尿に関して正常区分であっても、糖尿病の場合は、合併する高血圧症の治療にはACE阻害薬/ARBを第一選択薬とすることが推奨され、高圧目標は130/80㎜Hg未満ということになります。

 

逆にいえば、蛋白尿区分A1(正常)で非糖尿病のケースでの合併する高血圧症の治療にはACE阻害薬/ARB以外の選択の可能性が大きくなります。

 

この区分に属する高齢者の多くは腎硬化症であり、病態に応じて降圧薬を選択することが推奨されていますが、このようなケースではCa拮抗薬が使いやすいとされるので、これを第一選択薬とするのが妥当だと考えます。

 

逆に、特に高齢者であれば、ACE阻害薬/ARBを服用して脱水になると急性腎障害(AKI)発症の危険があることから、なるべくCa拮抗薬でコントロール可能な状態を維持することが望まれます。

 

かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準

 

慢性腎臓病(CKD)は、重症度分類をもとに「かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準」(日本腎臓病学会、日本医師会監修2018年3月発表)により、病診連携が進むことが期待されています。

 

 

CKDの概念と重症度分類

慢性腎臓病(CKD)は、末期腎不全(ESKD)のみならず心血管疾患(CVD)のハイリスク群です。そして、その危険の程度は糸球体ろ過率(GFR)と尿蛋白量の増加によって増大します。

 

すなわち、同じ尿蛋白量であっても糸球体ろ過率(GFR)が低下するほど慢性腎臓病(CKD)と末期腎不全(ESKD)の危険は大きくなります。

 

危険度尺度としての尿蛋白量は、他の疾患の場合とは異なり、糖尿病に関しては尿アルブミンを用いるようになっています。糸球体ろ過率(GFR)を用いた重症度段階にはG(GFR)、尿蛋白を用いた重症度段階にはA(アルブミン)を付けて表記されています。

 

 

慢性腎臓病(CKD)における治療原則

末期腎不全(ESKD)と心血管疾患(CVD)を抑制することが治療の目標です。

この目標を達成するためには集学的な治療が必要です。

 

すなわち、

①CKDの原因に対する治療

②生活習慣改善

③食事療法

④高血圧治療

⑤脂質異常症治療

⑥糖尿病・耐糖能異常治療

⑦貧血治療

⑧CKD-MBD(CKDにおける骨・ミネラル代謝異常)治療

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

「かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準」は、実際に運用するうえでは、とても複雑かつ煩雑です。かかりつけ医に、この紹介基準を要求することは、ほぼナンセンスに近いです。このような非現実的な試みを各学会がガイドラインを作成して行っています。なぜ非現実的かというと、かかりつけ医の守備範囲のみが膨大になってしまうからです。

 

かかりつけ医は各専門医より高度な能力を要求されているといっても過言ではありません。

 

かかりつけ医は、今後、ますます担い手が必要とされますが、患者さんは専門医志向が強いのが現実なので、こうしたガイドラインがうまく機能するようには思えません。

 

そもそも、日本の保健医療の実際は、ガイドライン通りの医療を必ずしもカバーしていないという矛盾があります。

 

それでも、杉並国際クリニックは、ガイドラインに準拠して、継続実施可能な方策を立案しました。

 

それは、継続的定期受診者に対するケア・プランです。

1)月初の受診時に、試験紙法による尿検査を実施

2)糖尿病の方は、それに加えて、尿生化学検査(尿アルブミン/Cr比)を実施

3)3カ月に1回の血液検査で血清Cr濃度およびeGFRの算出を実施

 

これらを実施する根拠を示します。

そのためには腎臓専門医が慢性腎臓病(CKD)をどのように分類しているのかを知っておく必要があります。まずは、原疾患で、糖尿病とそれ以外の疾患を明確に区別しています。

 

糖尿病以外の原疾患としては、高血圧、腎炎、多発性嚢胞腎、その他、が挙げられています。

 

蛋白尿区分としては、A1、A2、A3の3区分です。

 

糖尿病以外の原疾患の場合は、試験紙法による尿検査のみでも判定可能です。

 

(-)尿蛋白/Cr比<0.15(g/gCr):正常がA1,

 

(±)0.15(g/gCr)≦尿蛋白/Cr比<0.49(g/gCr):軽度蛋白尿がA2、

 

(+~)尿蛋白/Cr比≧0.50(g/gCr):高度蛋白尿がA3

 

ただし、糖尿病が原疾患の場合は、尿生化学の検体提出が必要です。

 

(-)尿アルブミン/Cr比<30(mg/gCr):正常がA1,

 

(±)30(mg/gCr)≦尿アルブミン/Cr比<300(mg/gCr):微量アルブミン尿がA2、

 

(+~)尿アルブミン/Cr比≧300(mg/gCr):顕性アルブミン尿がA3

 

 

糸球体ろ過率(GFR)mL/分/1.73m² 区分は原疾患に関わらず6区分されます

 

G1:正常または高値≧90

 

G2:正常または軽度低下60~89

 

G3a:軽度~中等度低下45~59

 

G3b:中等度~高度低下30~44

 

G4:高度低下15~29

 

G5:末期腎不全(ESKD)<15

 

 

臨床実務上では、蛋白尿区分から分類していくことが有用だと思われます。

 

A3であれば、糸球体ろ過率が正常であってもすべて専門医に紹介することが推奨されています。

 

A2であって、G3a以上もしくはG1もしくはG2であっても血尿+であれば、すべて専門医に紹介することになります。

 

A1の場合は、G3b以上もしくはG3aで40歳未満は、すべて紹介です。

 

これは、ほとんどのケースで専門医を紹介することを意味するため、かかりつけ医としては、逆に、紹介せずに継続診療すべきケースを把握しておけば十分、ということになります。

 

専門医紹介を免れるケースは、以下の区分に限られます。

 

A1(尿蛋白正常)区分であれば、GFR区分でG1およびG2(GFR≧60)、

もしくはG3a(GFR≧45)で40歳以上は生活指導・診療継続

 

A2(微量アルブミン尿/軽度蛋白尿)区分であれば、G1およびG2(GFR≧60)で、血尿(+)を伴わないもの

 

ただし、A1区分でG3aの40歳以上では、3カ月以内に30%以上の腎機能の悪化を認める場合は速やかに紹介することになっています。

 

 

原因疾患を問わず腎臓専門医への紹介目的は、

 

1)血尿、蛋白尿、腎機能低下の原因精査

 

2)進展抑制目的の治療強化(治療抵抗性の蛋白尿・顕性アルブミン尿)、腎機能低下、高血圧に対する治療の見直し、二次性高血圧の鑑別など

 

3)保存期腎不全の管理、腎代替療法の導入

 

 

原疾患に糖尿病がある場合:

1)腎臓内科医の紹介基準に当てはまる場合で、原疾患に糖尿病がある場合には、さらに糖尿病専門医の紹介を考慮

 

2)それ以外でも以下の場合には糖尿病専門医への紹介を考慮

①糖尿病治療方針の決定に専門的知識(3カ月以上の治療でもHbA1cの目標値に達しない、薬剤選択、食事運動療法指導など)を要する場合

②糖尿病合併症(網膜症、神経障害、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患など)発症のハイリスク者(血糖・血圧・脂質・体重等の難治例)である場合

③上記糖尿病合併例を発症している場合

糖尿病患者の腎症進行の原因物質を同定,新たな治療法に

 

阿部高明:東北大学病態液性制御学分野教授のコメント

 

糖尿病性腎臓病(Diabetic Kidney Disease)の原因物質はフェニル硫酸

Nature Communications電子版(4月23日号)に報告。

 

フェニル硫酸はDKD増悪の予測因子であり、さらにDKDの治療ターゲットになり得る。

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──慢性腎不全モデルマウスに便秘薬を投与すると腸内細菌叢が改善し、さらに慢性腎臓病(CKD)の進行抑制ができる可能性があることを報告しています。

 

──腸内環境がCKDの進行に関わる

慢性腎不全モデルマウスに便秘薬であるルビプロストン(商品名アミティーザ)を投与すると腸内細菌叢が改善し、いわゆる善玉菌と言われるLactobacillusやPrevotellaなどの減少が改善していました。さらに、尿毒素の血中濃度の低下と腎機能の改善を確認しています。腸内細菌が関与する代謝物が体内を巡り、腎障害を引き起こしている可能性があることが分かりました。

 

どんな物質がどんな経路をたどって腎障害を引き起こすのか。そしてその物質の産生を抑えれば腎障害を治療できるのか。

 

以前に同定していたヒト特異的有機アニオントランスポーター遺伝子(SLCO4C1)に着目しました。この有機アニオントランスポーターはヒトでは腎臓にだけ存在し、老廃物を体外に排出する役割を担っています。この遺伝子を導入し、尿毒素を含む代謝物を排出しやすくしたラットを作成し、DKDを人為的に起こしたときに普通のラットと比べてどの尿毒素に違いが出るのかを検討しました。

 

 

──その結果、糖尿病を誘発すると、普通のラットではフェニル硫酸の血中濃度が高まり、病期が進行するほど血中濃度がより高まっていきます。一方、モデルラットではフェニル硫酸の血中濃度が低下して腎症が緩和されることが分かりました。尿毒素を排出しやすくしたモデルラットで血中濃度が低下する物質としてフェニル硫酸を見出し、普通のラットで血中濃度が高まっていて、それは腎障害の進行と比例していたということです。

 

またフェニル硫酸は腎機能低下が始まる前から血中濃度が高まっており、ミトコンドリア障害を介して腎臓のポドサイトや基底膜を傷害する作用があることも分かりました。糖尿病モデル動物にフェニル硫酸を経口投与するとポドサイトや基底膜が傷害され、アルブミン尿が悪化したのです。

 

 

──糖尿病患者を対象とした検討は、岡山大学腎・免疫・内分泌内科学教授の和田淳先生と共同で、362人の糖尿病患者を対象に、血中フェニル硫酸量と臨床データとの関係を検討しました。糖尿病患者で血中フェニル硫酸量は高まっており、アルブミン尿の値に比例していました。さらに微量アルブミン尿期の患者ではフェニル硫酸が2年後のアルブミン尿増悪を予測する独立した因子であることが分かりました。年齢や性、BMI、収縮期血圧、HbA1c、eGFR値は有意な予測因子ではありませんでした。

 

 

結果のまとめ:

フェニル硫酸はDKDの原因物質であり、しかも微量アルブミン尿期にその後の腎障害の増悪を予測する因子になり得ます。

 

──微量アルブミン尿期はDKDの早期段階です。この段階で血中フェニル硫酸量が高ければ、その患者は腎障害が進行する可能性が高いと言えます。腎障害が進行する前に増悪リスクが高いことが分かれば、糖尿病などの治療を一生懸命取り組まなければいけないといった指導することができます。

 

フェニル硫酸が体内で産生される機序ですが、まず食事中に含まれるチロシンが腸内細菌の作用によってフェノールに変換され、体内に吸収されます。フェノールは非常に毒性の高い物質ですから、すぐさま肝臓で解毒代謝酵素によって硫酸抱合され、フェノールよりは毒性の低いフェニル硫酸に変換されることが分かっています。

 

腸内細菌がチロシンをフェノールに変換するのはチロシン・フェノールリアーゼという酵素です。これは腸内細菌のみが持ち、ヒトには存在しない酵素です。

 

そこでこのチロシン・フェノールリアーゼの阻害薬を糖尿病モデルマウスに経口投与したところ、血中フェニル硫酸量が低下し、アルブミン尿が減少することを確認しました。さらに腎不全モデルマウスにこの阻害薬を投与すると、血中フェニル硫酸量が低下するとともに、血清クレアチニン値も低下しました。これは血中フェニル硫酸量を低下させると腎障害が改善する可能性を示唆する結果です。

 

ですから、腎臓病を起こしやすい糖尿病患者において、フェニル硫酸を測定してリスクの程度を予測し、原因となるチロシンをあまり含まない食事にするといった食事指導をしたり、チロシン・フェノールリアーゼ阻害薬を投与してフェニル硫酸の産生量を減らすといった治療戦略が考えられます。

 

これまでCKDやDKDを進行させないためには糖尿病や高血圧の治療、RA系阻害薬の投与をするしかありませんでした。今回明らかにしたフェニル硫酸を減らすことは、新しい治療コンセプトになると考えています。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

慢性腎臓病(CKD)や糖尿病性腎臓病(DKD)の方は、原因となるチロシンをあまり含まない食事にするとよいということはわかりました。しかし、それだけでは実際的なアドバイスにはなりません。実臨床においては、「原因となるチロシンをあまり含まない食事にする」という指導はしません。そのかわりに「チロシンを多量に含む食物を控えてください」という指導をしたうえで、具体的な食材を挙げていくのが親切であると思います。

 

チロシンを多く含む食品(含有量/100gあたり)は、

◆高野豆腐 3,000mg、◆チーズ 2,600mg、◆鰹節 2,600mg、

◆大豆・きな粉 2,000mg、◆落花生 1,100mg、◆アーモンド 580mg

 

鰹節を大量に摂取することは少ないとおもわれますが、体に良いとされる健康食である大豆製品(高野豆腐、大豆・黄な粉)などがチロシンを多く含むんでいることは注目に値します。

 

そもそも、チロシンは、アミノ酸の一種で芳香族アミノ酸の一つです。フェニルケトン尿症、睡眠不足、うつ症状(うつ病)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などに効果があるとされていますが、糖尿病や腎臓病の患者さんでは控えるべき食品ということになってしまうので注意を要するところだと思います。

朝食を全く食べないと、毎日食べる場合よりも心血管死のリスクが高い(J Am Coll Cardiol誌2019年4月30日号)

 

 

朝食を抜くことが、心血管死や総死亡のリスク上昇と関連するかが米国で検討された。 

 

背景:

朝食は1日の中でも重要な食事と考えられているが、朝食を抜くことの健康上の影響に関する研究は少ない。エビデンスは不十分であるが、朝食の欠食は、過体重/肥満、脂質異常症、高血圧、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、冠動脈心疾患、脳血管疾患のリスク上昇と関連することが示唆されている。

 

目的:

本研究では、米国の全国代表コホートで、朝食の欠食と心血管死、総死亡との関連を検討すること。

 

対象:

米国全国健康栄養調査(NHANES)III(1988~1994年)の参加者6550例(40~75歳、平均年齢:53.2歳[標準誤差:0.3]、48.0%が男性)

 

方法:

本研究では、前向きコホート研究で、朝食の摂取頻度に関する情報は面接調査で収集された。「どのくらいの頻度で朝食を食べるか?」という質問に対する回答を「全く食べない」、「たまに食べる」、「時々食べる」、「毎日食べる」の4つのカテゴリーに分類した。

 

心血管死を心疾患または脳血管疾患による死亡をエンドポイントとした。死亡の判定には、2011年12月31日までのNHANES III Public-Use Linked Mortality FileとNational Death Indexのデータを用いた。

 

朝食の摂取頻度と心血管死および総死亡との関連は、Cox比例ハザード回帰モデルで検討した。

 

結果:

共変量は、年齢、性別、人種/民族、婚姻状態、世帯所得、喫煙状態、飲酒、身体活動、総エネルギー摂取量、健康食指数(Healthy Eating Index-2010)による全体的な食事の質、BMI、高血圧、糖尿病、脂質異常症だった。

 

6550例のうち、朝食を全く食べないと回答した参加者は5.1%(336例)、たまに食べる参加者は10.9%(713例)、時々食べる参加者は25.0%(1639例)、毎日食べる参加者は59.0%(3862例)だった。

 

11万2148人年の追跡期間中(追跡期間中央値:18.8年、最長追跡期間:23年)、2318例が死亡し、そのうち619例が心血管死だった。

 

朝食を全く食べない参加者は、心血管死のリスクが高かった。全ての共変量で補正したところ、朝食を毎日摂取している参加者と比較して、朝食を全く食べない参加者の総死亡のハザード比(HR)は1.19(95%信頼区間[95%CI]:0.99-1.42)、心血管死のHRは1.87(95%CI:1.14-3.04)だった。

 

また、朝食の摂食頻度と心疾患による死亡および脳卒中による死亡との関連を別々に検討した。全ての共変量で補正した結果、朝食を毎日食べる参加者と比較して、朝食を全く食べない参加者の心疾患による死亡のリスクは有意ではなかったが(HR:1.59、95%CI:0.90-2.80)、脳卒中による死亡のリスクは有意に高かった(HR:3.39、95%CI:1.40-8.24)。

 

考察:

先行研究と同様、今回の研究でも、心血管の健康を促進し、心血管疾患の罹患と死亡を予防する簡単な方法として朝食をとることの重要性が明白に示された。

 

また、朝食の欠食がどのように心血管代謝の異常を引き起こし、最終的に心血管死へとつながるのかを説明しうる機序として以下のものを挙げている。

 

(1)朝食の欠食は、食欲の変化や満腹感の低下と関連し、これはその後の過食とインスリン感受性の障害へとつながる可能性がある。

 

(2)朝食の欠食は、絶食の時間が長くなるため、視床下部-下垂体-副腎系の、ストレスとは無関係の過活動と関連し、朝の血圧上昇につながる。朝食の摂食は、血圧を低下させる助けになることが報告されており、それにより血管の閉塞、出血、心血管イベントが予防される可能性がある。

 

(3)朝食の欠食は、例えば総コレステロールやLDLコレステロール濃度の上昇など脂質濃度の有害な変化を誘発する可能性がある。

 

結語:

米国の中高年集団を長期にわたって追跡した今回の前向きコホート研究により、朝食の欠食が心血管死のリスク上昇と関連することが示された。今回の結果は、心血管の健康促進において朝食をとることのベネフィットを支持するものだった。

 

 

論文:

Rong S, et al. Association of skipping breakfast with cardiovascular and all-cause mortality.J Am Coll Cardiol. 2019:73:2025-32.

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

朝食抜きダイエットを推奨する医師もいますが、日頃、朝食摂取を進めている私には理解できない理論を展開していました。今回の米国の研究は、朝食摂取の意味をこれまで以上に明らかにしてくれました。

第2・第3の狭心症とは何か?

 

第116回日本内科学会講演会は2019年4月26日(金)から28日(日)の3日間、名古屋で開催されました。未曽有の大型連休の前でもあるため、初日の26日(金)は出席せず、高円寺南診療所としての最終診療日としました。

 

しかし、4月26日(金)は、聞き逃したくない貴重な演題が目白押しでした。そこで、学会レジュメをもとに循環器の重要なトピックを紹介します。

 

 

教育講演4.冠攣縮性狭心症と微小血管狭心症

 

 一口に狭心症といっても、いろいろなタイプがあります。近年、安定狭心症の患者さんの中で非閉塞性冠動脈疾患を有する方が増加しているとのことです。これらの狭心症は、明らかな冠動脈硬化症などの形態異常は認めないが、機能異常を伴うものがあります。それらには、冠攣縮性狭心症や微小血管狭心症が関与している可能性が高いとされます。

 

冠攣縮性狭心症の分子機構は、血管平滑筋収縮の分子スイッチの役割を果たすRho-kinaseの活性化が主な原因であり、その成因として、冠動脈の炎症性変化(特に冠動脈外膜)が重要であるようです。

 

また、微小血管狭心症にもRho-kinaseの活性化が重要な関与をしていて微小冠動脈の攣縮や拡張不全を引き起こし、また冠攣縮性狭心症との併存例があることも明らかになってきました。

 

これらの非閉塞性狭心症が目立つようになってきた背景には、閉塞性冠動脈疾患については冠動脈インターベンション(PCI)やステントの技術が改良され成熟期してきたことも無関係ではなさそうです。しかし、それにもかかわらず、PCIを行った後も約4割の患者において胸部症状が消失しないPCI後の狭心症の問題が残っています。こうしたPCI後の狭心症にも、冠攣縮性狭心症や微小血管狭心症など第2・第3の狭心症が併存している可能性が考えられています。

 

家庭血圧を測定しましょう‼ー仮面高血圧のはなし

 

家庭血圧を測定しないと仮面高血圧や白衣高血圧を見逃してしまいます。

 

実際には高血圧であるにもかかわらず、診察室で正常域を示す場合があります。この場合でも、家庭血圧測定により、高血圧であることがわかれば、仮面高血圧とされます。

 

仮面高血圧では、高血圧性臓器障害や心血管イベントのリスクが、正常域血圧のみならず白衣高血圧に比べて有意に高く、持続性高血圧によるリスクと変わりません。仮面高血圧の一つが早朝高血圧です。

 

 

ヒトの血圧は、一日を通じて変動します。夜間から早朝にかけて上昇します。早朝に高血圧を呈すれば早朝高血圧ですが、その評価は家庭血圧で評価するのが実際的です。家庭血圧での高血圧の基準は135/85㎜Hg以上です。早朝高血圧は、心血管イベントの引き金になることが知られています。

 

また、これとは反対に、早朝血圧が135/85㎜Hg未満で、就寝前血圧が135/85以上を就寝前高血圧、両者とも高い場合を持続性高血圧といいます。これらは正常血圧と比較して脳卒中のリスクが高いです。特に治療中の高血圧患者において、早朝高血圧であると脳卒中のリスクが明かに高くなります。

 

杉並国際クリニックの対応は、早朝血圧が他の時間帯よりも高い(就寝時の血圧が正常域で早朝血圧が高い早朝高血圧もしくは就寝時血圧よりも早朝血圧が15㎜Hg以上高い)場合には、就寝前の降圧薬の処方を検討します。

 

杉並国際クリニック誕生以前の高円寺南診療所30年の臨床経験において、新規脳卒中患者をほとんど発生させず、予防に成功できたことは、目立たない地味な実績ではありますが、ささやかながら確かな実感を伴う誇りとしております。

 

そこで、皆様にアドヴァイスがございます。それは家庭血圧の測定習慣をもつことです。

 

記録のための血圧手帳を差し上げますので、診察のたびごとに血圧手帳をご持参ください。その都度チェックして具体的なアドヴァイスをします。

 

そして正しく家庭血圧を測定する際には、若干の注意点があるのでご紹介いたします。

 

①早朝血圧測定のタイミング:起床後1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前

 

②早朝血圧測定ではリラックス状態の確保を:背もたれのある椅子に座り、1~2分の安静後に測定

 

なお、就寝前血圧の測定は、食事、服薬、入浴などにかかわらず測定することができます。

 

Q7

心房細動に対してカテーテルを使った治療法があることを知りました。どのような患者さんが選択できる治療法なのですか?

 

A

不整脈の治療法は、近年大きく変化しています。不整脈の種類によっては植込み式除細動器(ICD)や高周波カテーテルアブレーションなどの非薬物療法の有効性が薬物療法を上回ることが示されています。

そうして、不整脈の薬物療法は、自覚症状の軽減や非薬物療法を補完する役割が主となってきました。抗不整脈薬は不整脈そのものよりも基礎疾患や心不全、その他の合併症の有無が重要視されるようになり、それに応じた治療目標が立てられるようになってきました。

 

最近の不整脈関連の学会の動向では、心房細動の心拍数調節の基準や、カテーテルアブレーション治療が議論されています。そこで、心房細動について実際にお受けした質問について回答数することにしました。

 

 

杉並国際クリニックからの回答

症候性発作性・持続性心房細動はアブレーション治療の適応です。この場合、抗不整脈薬の使用は問いません。また、徐脈頻脈症候群、左心室収縮不全を伴う慢性心不全に合併した心房細動も適応になります。ただし、無症候性長期持続性心房細動は積極的適応とはなりません。