糖尿病はもはや国民病です。糖尿病専門医だけに任せておけばよい病気ではありません。薬物療法の発展は目覚ましいのですが、食事療法、運動療法、生活習慣編世用のための行動療法を駆使して治療に当たるのでなければ、コントロールに至ることは難しいです。糖尿病は動脈硬化性疾患とならんで臨床栄養学の中では中心的な病態です。私は、糖尿病専門医ではありませんが、たいていの糖尿病専門医よりは、糖尿病について深くかかわり、実践してきたという自負があります。

 

私は、昭和学院短期大学のヘルスケア栄養学科で、臨床栄養学を担当していたことがありますが、「臨床栄養学」の教科書を2冊出版して、改訂を重ねています。どうぞご参考になさってください。

 

 

 

Q1-6 

1型・Ⅱ型糖尿病以外の特定の機序、疾患による糖尿病をどのように診断するのですか?

 

【要点】

単一遺伝子異常が糖尿病の原因となることがあります。これらは①膵β細胞機能にかかわる遺伝子異常、②インスリン作用機構にかかわる遺伝子異常に大別されます。

種々の疾患、症候群や病態の一部として糖尿病状態を伴う場合があります。膵疾患、内分泌疾患、肝疾患、薬物使用、化学物質への暴露、ウイルス感染、種々の遺伝的症候群に伴う糖尿病です。

 

GDMといって、妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常があります。

 

診断には種々の臨床的情報を参照する必要があります。

①家族歴、遺伝形式、

②糖尿病の発症年齢と経過、

③他の身体的特徴、

④膵島関連自己抗体など種々の臨床的情報を参照する必要がある。

 

 

【 杉並国際クリニックの実地臨床からの視点 】

糖尿病など、内科医であれば誰でも診ているようなありふれた病気であると世間では認識されているようです。このような病気にまで、なぜ専門医制度が必要なのか、という疑問をもつ方がいらしても不思議はありません。

しかし、一口に糖尿病といっても、それほど単純ではありません。「糖尿病は生活習慣病です」などと単純に割り切って語る人は、素人もどきであり、少なくとも資格を持った内科医ではないといえるでしょう。単一遺伝子異常が原因となる糖尿病は生活

習慣病とは明確に区別されなければなりません。種々の疾患、症候群や病態の一部として糖尿病状態を伴う場

合であっても、薬物使用、化学物質への暴露、ウイルス感染、種々の遺伝的症候群に伴う糖尿病などは、生活習慣病ではありません。

 

 成因論的な病型分類を行うためには、

Ⅰ型糖尿病の診断のためには、GAD抗体、IA-2(insulinoma-associated protein-2)抗体、インスリン自己抗体(insulin autoantibody:IAA,インスリン使用前から存在)、ICA,ZnT8(zinc transporter 8)抗体などの膵島関連自己抗体を調べること、いずれかの抗体が陽性であれば、1型糖尿病を示唆する根拠となります。

 

日本糖尿病学会ホームページから

 

Q1-5 

1型糖尿病は、どのように診断するのですか?

 

【要点】

1型糖尿病は成因別に、(A)自己免疫性、(B)特発性に分類され、発症 様式別に、急性発症、緩徐進行、劇症の3つに分類されます。

 

急性発症1型糖尿病では、一般的に高血糖症状出現後3か月以内にケトーシスやケトアシドーシスに陥り、直ちにインスリン療法を必要とします。

 

緩徐進行(slowly progressive insulin-dependent diabetes mellitus:SPIDDM)1型糖尿病では、抗GAD抗体もしくは膵島細胞抗体(islet cell antibody:ICA)が陽性であるものの、診断されてもケトーシスやケトアシドーシスには至らず、直ちにはインスリン療法を必要としません。⇐ 膵島細胞抗体は、GAD抗体、IA-2抗体、インスリン自己抗体、ZnT8抗体とともに膵島関連自己抗体とされます。

 

劇症では、高血糖症状出現後1週間前後以内でケトーシスやケトアシドーシスに陥るため、血糖値に比しHbA1cが比較的低値であることが特徴であり、直ちにインスリン療法を必要といます。

⇐ケトーシスとは、尿ケトン体陽性、血中ケトン体上昇のいずれかを認める場合に診断されます。

 

 

【 杉並国際クリニックの実地臨床からの視点 】

糖尿病の多くは生活習慣病とされる2型糖尿病であり、診断は容易に行われています。

 

しかし、注意を要するのは生活習慣病でない1型糖尿病です。1型糖尿病の診断は、必ずしも容易ではありません。その理由は、成因が原因不明なもの(特発性)、自己免疫性など一様でなく、また発症様式も、急性発症、緩徐進行、劇症に3分類され、とりわけ緩徐進行1型糖尿病の臨床像は報告によりばらつきがあり、明らかな診断基準が明示されていないからです。

 

大多数を占める2型糖尿病は、治療開始に至らない、あるいは治療を中断する症例が就労世代に多いことが問題になっていますが、1型糖尿病である場合は、診断の遅れは、さらに深刻な事態になりかねません。糖尿病患者は1型・2型を問わず医療ケアとの継続的な繋がりを維持していくことが重要であることは、広く啓発していかなければなら無い課題です。

 

通常、

① 急性発症では何らかの膵島関連自己抗体が陽性であることが多く、大半が自己免疫性に分類されます。1型糖尿病は、免疫学的な理解が必要であり、したがって、アレルギー学やリウマチ学を専攻するアレルギー専門医、リウマチ専門医としては、その専門性からも強い関心をもつ領域です。

 

② 緩徐進行(SPIDDM)1型糖尿病は、定義上GAD抗体あるいはACAの陽性が前提であるため自己免疫性に分類されます。ただし、臨床上は報告によりばらつきがあり、明らかな診断基準は明示されていません。糖尿病発症または診断時にケトーシスおよびケトアシドーシスはないこと、多くの症例で経過中に膵島関連自己抗体が陰性化すること、自己抗体の値によらず、内因性インスリン分泌が低下しない例もあること、などから、診断が遅れがちになる可能性があります。

 

③劇症の多くは自己免疫の関与が不明であり、通常では特発性に分類されます

 

Q1-4 

糖尿病は1種類ではなく、複数の病型があると聞きました。病型の分類はどのように行うのですか?

 

【要点】

  • 糖尿病の成因分類は、糖尿病の他に糖代謝異常を含めた分類です。
  • 糖尿病と糖代謝異常の成因は、大きく分けて、(Ⅰ)1型、(Ⅱ)2型、(Ⅲ)その他の特定の機序・疾患によるもの、(Ⅳ)妊娠糖尿病の4つに分類します。なお、現時点でどれにも分類できないものを分類不能とします。
  • 糖尿病の分類は、原因による分類(成因分類)が主体です。ただし、インスリン作用不足の程度に基づく病態(病期)を併記します。
  • 成因分類にあたっては、家族歴、発症年齢と経過、身体的特徴、膵島関連自己抗体、ヒト白血球抗体(human leukocyte antigen : HLA),インスリン分泌能/インスリン抵抗性の程度、遺伝子検査など、種々の臨床的情報を総合して判断します。
  • 一人の患者が複数の成因を持つことがあります。

 

 

Q1-4-1 

糖尿病は、すべてが生活習慣病ではない、というのは本当ですか?

 

 

【 杉並国際クリニックの実地臨床からの視点 】

糖尿病患者の大多数を占めるのが2型糖尿病です。その成因には多因子遺伝が想定されています。

 

これらはインスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子です。

 

こうした遺伝要因に加えて、過食(特に高脂肪食)・運動不足などの生活習慣、およびその結果としての肥満が環境因子として加わると2型糖尿病を発症し易くなります。糖負荷後の早期のインスリン分泌低下が特徴です。

 

しかし、インスリンが枯渇し、病期がインスリン依存状態まで進む割合は限られています。

Q1-2 高血糖をどのように判定するか?

 

【要点】

  • 空腹時血糖値、75gOGTT2時間値の組み合わせにより、正常、境界型、糖尿病型のいずれかを判定する。

 

  • 空腹時血糖100~109mg/dLの場合、正常域の中で正常高値とする。

 

  • 糖尿病疑い、境界型、空腹時血糖が正常高値、HbA1c5.6%以上の患者や、

肥満や脂質異常症の患者、家族歴が濃厚な患者に対しては、積極的にOGTTの施行を検討する。

 

  • POCT(point of care testing)機器によるHbA1cの測定値は、現時点で診断に用いないものとする。

 

 

【 杉並国際クリニックの実地臨床からの視点 】

このガイドラインは、理論的には参考すべきですが、実際的ではありません。

 

空腹時血糖値の測定だけならまだしも、75gOGTT2時間値の測定などは、なかなか日常的に行えるものではないからです。

 

そもそも75gOGTTとは、75gのブドウ糖を摂取して血糖値等を検査する負荷試験です。実施のためには患者さんがルールを順守してくださることが前提ですが、それがなかなか難しいのです。その理由は以下の手順を読んでいただければわかると思います。下線部は脱落しやすいルールです。

 

実施の手順として

①糖質を150g以上含む食事を3日以上摂取、

②10~14時間の絶食、

③採血して血糖値(空腹時血糖値)を測定する

④早朝空腹時に75gブドウ糖を含む250~350mLの溶液を5分以内で服用、

⑤服用後30~60分おきに採血して血糖値を測定する。検査中は禁煙とする。

 

あなたは、これらをすべてクリアできる自信がありますか。

これができるような方は、糖尿病タイプの方には少ないと思います。

 

なおガイドラインは

<空腹時と2時間値の測定は必須で、臨床の場では途中時点の血糖値や尿糖も調べるのが望ましい。>

<可能であれば空腹時と30分後のインスリン値を測定して、初期インスリン反応を調べる。>

としていますが、患者さんに以上のような負担を掛けておいて、それを調べないのは理不尽な話です。

 

しかし、実際にそこまで検査すると保険請求で却下され、医療機関にとっても大きな痛手となります。