経口血糖降下薬の使い方(1)

 

2型糖尿病では、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性の両者があいまって、様々な程度のインスリン作用不足をもたらします。

 

インスリン分泌不全とインスリン抵抗性のいずれが主たる役割を果たしているかは症例毎に異なります。

 

欧米白人ではインスリン抵抗性が顕著であるのに対して、日本人ではインスリン分泌不全が主たる病態であることが多いことがわかっています。

 

いずれにも、食事療法・運動療法をしっかり行い、なお、血糖コントロールが不十分な場合に薬物療法を開始するのが原則です。

 

なお、日本糖尿病学会は、第一選択薬は特定せずに主治医の判断に任せる立場をとっているが、わが国においてはインスリン抵抗性を改善するビグアナイド(BG)類やインスリン分泌を促進するインクレチン関連薬のうちDPP-4阻害薬が頻用されています。

 

経口血糖降下薬は、主にインスリン非依存状態であり、急性代謝失調を認めない2型糖尿病の治療に用いられます。尿ケトン体陰性で、随時血糖値250~300㎎/dl程度か、それ以下であることが目安となります。

 

インスリン抵抗性改善薬:ビグアナイド(BG)類

メトホルミンがインスリン抵抗性改善作用を目的として使用されています。この薬剤は、インスリン分泌促進作用はなく、肝臓からの糖放出抑制、末梢での糖取り込みの促進、消化管からの糖吸収抑制により血糖を降下させます。GLP-1分泌促進作用もあります。

 

もっとも注目すべき副作用は乳酸アシドーシスです。発生頻度は9.6~16.2人/10万人です。

 

肝・腎機能、心肺機能に障害のある患者、アルコール多飲者では禁忌です。とくに腎機能障害では推定糸球体濾過量(eGFR)30mL/分/1.73m²未満(GFR区分G4:高度低下、G5:末期腎不全)には禁忌です。ヨード造影剤を用いる場合は一時的に中止します。継続服用中であっても、下痢や嘔吐などで脱水を来す危険があるときは服用を中止します。

 

欧米(米国および欧州糖尿病学会)では、肥満のある場合の第一選択薬ですが、食事内容、肥満度、使用できる用量などが異なるなる日本人での合併症予防効果は確立していません。

 

そこで、今後、わが国においてもメトホルミンはさらに頻用されることが見込まれています。

 

しかし、腎障害、過度のアルコール摂取、シックデイ、脱水、心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害、高齢者などには投与を控えるなど適切な対応が必要です。

 

 

インスリン分泌促進薬:DPP-4阻害薬

インクレチンの分解に関わるDPP-4の活性を阻害する経口血糖降下薬です。その主たる作用は活性型GLP-1濃度の上昇によるインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制です。

 

特徴は

①単独治療での低血糖のリスクが低い

 

②確実な食後血糖改善効果があり、血糖変動幅が狭くなる

 

③他の経口血糖降下薬やインスリン製剤の併用薬として有用性が高い

 

④服薬アドヒアランスが良好に保たれる

 

⑤治療に伴う体重増加がみられない、

 

⑥欧米の2型糖尿病患者に比し、日本人を含めたアジアの患者において効果が高い

 

などが挙げられます。

 

ただし、SUと併用する場合には低血糖に注意し、SUを減量します。

 

高齢者や中等度以上の腎障害を認める患者では、特に注意を要します。

 

膵癌・膵炎のリスク、心血管系への影響、免疫系(感染症、膠原病、癌を含む)への影響に関してのエビデンスの集積が不十分です。

 

DPP-4阻害薬を用いても十分な血糖コントロールが得られない場合は、長時間作用性で、空腹時血糖も食後血糖も下げるGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドやデュラグルチドへの切り替えを検討するのが良いとされます。ただし、これらのGLP-1受容体作動薬は経口薬ではなく、皮下注製剤です。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

日本糖尿病学会は、第一選択薬は特定せずに主治医の判断に任せるとしていますが、実臨床の現場では、さまざまな使い分けがなされるべきであると考えます。わが国において頻用されているビグアナイド(BG)類やDPP-4阻害薬にも様々な未解決の問題点が残されています。

 

そこで杉並国際クリニックでは、まず2型糖尿病患者の重症度に着目しています。

 

耐糖能異常の段階から軽症の2型糖尿病で、空腹時血糖はさほど高くなく、食後に高血糖になるタイプでは、まずα-グルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)を試みます。この薬剤は、消化管の二糖類分解酵素を阻害するため、耐糖能異常(IGT)から糖尿病への進展を抑制する効果があります。

 

また、即効型インスリン分泌促進薬の血糖改善効果はスルホニル尿素(SU)類ほど大きくはありませんが、SU類のようにインスリン分泌を促進します。

 

軽症から中等症の2型糖尿病であれば、肥満者か非肥満者かに着目します。

 

非肥満2型糖尿病であれば、スルホニル尿素(SU)類を試みます。しかし、この薬剤は、インスリンの基礎分泌・追加分泌をともに高めるためるため、β細胞の疲弊を早めてしまう可能性があると考えています。低血糖を引き起こしやすいので注意を要します。

 

肥満2型糖尿病であれば、まずSGLT2阻害薬を用います。この薬剤は、腎のブドウ糖再吸収を阻害するため、血糖改善に加えて体重減少も期待できます。

 

高齢者糖尿病の血糖コントロール

 

高齢者には心身機能の低下がみられ、低血糖症状が典型的でないことがあり、重症低血糖を来しやすいという特徴があります。

 

こうした背景を受けて、2016年5月に日本糖尿病学会及び日本老年医学会より「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」が発表されました。

 

そこでは、患者の特徴と用いる薬剤から血糖コントロール目標(HbA1c)とその下限が設定されました。

 

患者の特徴とは、認知機能およびADLにより以下の3つのカテゴリーに分類しています。

 

 

カテゴリーⅠ:

①認知機能正常、かつ②ADL自立

 

カテゴリーⅡ:

①軽度認知障害~軽度認知症、または②手段的ADL低下、基本的ADL自立

 

カテゴリーⅢ:

①中等度以上の認知症、または②基本的ADL低下、または③多くの併存疾患や機能障害

さらに、重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤、SU類、グリニド類など)の使用の有無により二分類されます。

 

 

重症低血糖が危惧される薬剤を使用していない場合:

カテゴリーⅠ・ⅡではHbA1c<7.0%

カテゴリーⅢではHbA1c<8.0%

 

が目標とされました。

 

 

重症低血糖が危惧される薬剤を使用している場合:

カテゴリーⅠ

65歳以上75歳未満ではHbA1c<7.5%(下限6.5%)

75歳以上ではHbA1c<8.0%(下限7.0%)

 

カテゴリーⅡ

HbA1c<8.0%(下限7.0%)

 

カテゴリーⅢ

HbA1c<8.5%(下限7.5%)

 

とされました。

 

 

基本的な考え方として、

①血糖コントロール目標は、患者の年齢、認知機能、身体機能、併発疾患、重症低血糖のリスク、余命などを考慮して個別に設定

 

②重症低血糖が危惧される場合は、目標下限値を設定して、より安全な治療を行う

 

③目標値や目標下限値を参考にしながらも、患者中心の個別性重視の治療を行う観点から目標値を上回る設定や下回る設定を柔軟に行う

 

とされています。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

高齢者糖尿病の血糖コントロールの目標値を設定するためには、いろいろな準備が必要です。まず患者の年齢によって目標値が異なりますが、個人差を無視してはならないと思います。

 

そのための杉並国際クリニックの具体的な取り組みは、

 

①認知機能の評価:長谷川式・MMSEその他の自記式認知症スケール、ウィスコンシン・カード・ソーティング・テスト(WCST)

 

②身体機能の評価:杉並国際クリニックのオリジナルFitness Test

 

③併発疾患、重症低血糖のリスクの評価:日常診療の問診・諸検査

 

以上のような対応がすでに整備されています。

 

そのつぎに、今後の高齢者糖尿病患者の薬物療法においては、可能な限り低血糖を来さない薬物を選択していくことを検討しています。

 

とくに、重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤、SU類、グリニド類など)を使用している場合は、可能な限り、その他のより安全な薬剤に置き換えていくことが必要だと考えています。ただし、インスリン製剤の使用は中断できないことが多いため、その場合は、併用薬の選択に十分注意を払っていきたいと考えています。

糖尿病の診断と治療の原則

 

糖尿病の診断は、内科医にとっては容易です。しかし、治療開始に至らない、あるいは治療を中断する症例が就労世代に多いため、高齢に至ってからはじめて糖尿病の本格的な継続的治療を始めるケースも少なくありません。医療とつながっている重要性を啓発する必要があります。

 

糖尿病の治療の原則は、病態や治療の目的に応じた治療計画をたてることです。

 

糖尿病治療の目的は、糖尿病特有の合併症(網膜症、腎症、神経障害)と動脈硬化性疾患の発症・進展を阻止して、健常人と変わらない生活の質(QOL)を確保することにあります。

 

そのためには、血糖はもとより、血圧および血清脂質も適切にコントロールすることが重要です。血糖管理目標を定めるにあたって、血糖コントロールの目標値は、HbA1c(%)を指標にすると、

<6.0:血糖正常化を目指す際の目標、

<7.0:合併症予防のための目標、

<8.0:治療強化が困難な際の目標、

 

 

インスリン依存状態:

初診段階でインスリン依存状態にあるときは糖尿病専門医へ紹介することが原則とされます。

 

インスリン非依存状態:

病歴をよく聞き、インスリンの分泌状態やインスリン抵抗性などを臨床的に判断し、個々の患者にあわせた治療を行います。

 

 

1)食事・運動療法

食事療法は糖尿病治療の基本であり、成因、病態の如何に関わらず、すべての患者が行うべき治療です。

 

そのためには、

①1日の総エネルギー摂取量は患者の標準体重をもとに、生活活動強度を考慮して算出することから始めます。

 

②炭水化物、蛋白質、脂質のバランスを取ります。

 

③適量のビタミン、ミネラルを摂取できるようにします。

 

運動療法では、歩行数を毎日記録することによって意識化する習慣を形成することに加え、レジスタンス運動も実施すると効果的です。水氣道®は、水の抵抗を利用することによってレジスタンス運動の継続を容易にします。

 

食事療法と運動療法を2~3か月続けても、なお目標が達成できないときは、薬物療法(経口血糖降下薬またはインスリン製剤)を用います。

 

 

2)薬物療法

経口血糖降下薬を分類してみます。

①インスリン分泌を促進することなく血糖を改善するもの:

・ビグアナイド(BG)類、

・チアゾリジン誘導体、

・α‐グルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)

・SGLT2阻害薬

 

②血糖依存性のインスリン分泌を増幅するもの:

・インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)、

 

③血糖非依存性にインスリン分泌を促進するもの:

・スルフォニル尿素(SU)類、

・即効性インスリン分泌促進薬

 

どのような型の糖尿病であれ、適応のあるインスリン製剤、経口血糖降下薬、インクレチン関連薬を単剤から、段階的に組み合わせて血糖管理目標を目指す必要があります。

 

目標を達成できないとき、低血糖、体重増加、検査成績異常を認めるときは、糖尿病専門医を紹介することになります。

 

3) 低血糖

低血糖には特異的でない一般的な症状を伴うため、発見が遅れることがあります。

空腹感、脱力感や頭痛などで始まることが多いからです。これらは、低血糖でなくともしばしば経験する症状だからです。

発汗、動悸、頻脈、手の震えなどは交感神経系の緊張症状です。

これらの低血糖症状は、血糖値が低血糖(≦70㎎/dL)でなくても生じることがあります。

低血糖を来しうる薬物で治療されている患者では、普段と受け答えが違う場合には低血糖も疑っておく必要があります。症状が低血糖によるものか否かの確認には血糖自己測定(SMBG)が有用です。

 

上記の糖尿病治療薬の中で、単独で用いても低血糖を来すことがあるのは、③の

スルフォニル尿素(SU)類、即効性インスリン分泌促進薬、です。

 

また、①あるいは②と併用すると低血糖を助長することがあります。

 

これに対して、①と②を単独で、あるいは①と②を併用した場合、一般には低血糖(血糖値≦70㎎/dL)を来すことはありません。ただし、低血糖症状を来すことはあります。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

杉並国際クリニックにおける糖尿病治療の指針は、何よりも安全性に配慮するということにあります。糖尿病においては、低血糖を来さないような血糖管理を目標としています。そのためには、1)食事・運動療法を積極的に推進し、3)低血糖を来しにくい薬剤を選択し、インスリン依存状態に陥らないような取り組みをしています。

 

とくに水氣道のような運動療法を積極的に推進すし、薬剤の減量をはかるうえでは、低血糖の防止はとても重要です。以前は、スルフォニル尿素(SU)類は古くからある薬剤で安価でもあるため、多数処方してきましたが、インスリンの基礎分泌・追加分泌をともに高めるため低血糖に十分注意すべき薬剤です。最近では、低血糖を来しにくい薬剤を処方することが多くなってきました。とくに、肥満例には、低血糖を起こしにくく、しかも血糖改善に加えて体重減少も期待できるSGLT2阻害薬を処方する頻度が増えてきました。

糖尿病患者の腎症進行の原因物質を同定、新たな治療法に(その2)

 

東北大学病態液性制御学分野の阿部高明教授らの研究によって、糖尿病性腎臓病の原因物質としてフェニル酸が脚光を浴びています。

 

その結果、腎臓病を起こしやすい糖尿病患者において、フェニル硫酸を測定してリスクの程度を予測し、原因となるチロシンをあまり含まない食事にするといった食事指導をしたり、チロシン・フェノールリアーゼ阻害薬を投与してフェニル硫酸の産生量を減らすといった治療戦略が考えられます。

 

それでは、腎臓病を起こしやすい糖尿病患者において、原因となるチロシンをあまり含まない食事にするといった食事指導のためには、どのような基礎情報が必要なのでしょうか。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

慢性腎臓病(CKD)や糖尿病性腎臓病(DKD)の方は、原因となるチロシンをあまり含まない食事にするとよいということはわかりました。

 

しかし、それだけでは実際的なアドバイスにはなりません。実臨床においては、「原因となるチロシンをあまり含まない食事にする」という指導はしません。そのかわりに「チロシンを多量に含む食物を控えてください」という指導をしたうえで、具体的な食材を挙げていくのが親切であると思います。

 

 

チロシンを多く含む食品(含有量/100gあたり)は、

◆高野豆腐 3,000mg、◆チーズ 2,600mg、◆鰹節 2,600mg、

◆大豆・きな粉 2,000mg、◆落花生 1,100mg、◆アーモンド 580mg

 

鰹節を大量に摂取することは少ないとおもわれますが、体に良いとされる健康食である大豆製品(高野豆腐、大豆・黄な粉)などがチロシンを多く含むんでいることは注目に値します。

 

そもそも、チロシンは、アミノ酸の一種で芳香族アミノ酸の一つです。フェニルケトン尿症、睡眠不足、うつ症状(うつ病)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などに効果があるとされていますが、糖尿病や腎臓病の患者さんでは控えるべき食品ということになってしまうので注意を要するところだと思います。

 

膵β細胞を休息させることでこの細胞を保護するための具体的な方法については、次回(5月22日)に解説する予定でしたが、新たな重要トピックが入ってきたため、延期といたします。

 

 

糖尿病患者の腎症進行の原因物質を同定、新たな治療法に(その1)

阿部高明:東北大学病態液性制御学分野教授のコメント

 

糖尿病性腎臓病(Diabetic Kidney Disease)の原因物質はフェニル硫酸。

Nature Communications電子版(4月23日号)に報告。

 

フェニル硫酸はDKD増悪の予測因子であり、さらにDKDの治療ターゲットになり得る。

 

慢性腎不全モデルマウスに便秘薬を投与すると腸内細菌叢が改善し、さらに慢性腎臓病(CKD)の進行抑制ができる可能性があることを報告しています。

 

腸内環境がCKDの進行に関わる

慢性腎不全モデルマウスに便秘薬であるルビプロストン(商品名アミティーザ)を投与すると腸内細菌叢が改善し、いわゆる善玉菌と言われるLactobacillusやPrevotellaなどの減少が改善していました。さらに、尿毒素の血中濃度の低下と腎機能の改善を確認しています。腸内細菌が関与する代謝物が体内を巡り、腎障害を引き起こしている可能性があることが分かりました。 どんな物質がどんな経路をたどって腎障害を引き起こすのか

そしてその物質の産生を抑えれば腎障害を治療できるのか

 

以前に同定していたヒト特異的有機アニオントランスポーター遺伝子(SLCO4C1)に着目しました。この有機アニオントランスポーターはヒトでは腎臓にだけ存在し、老廃物を体外に排出する役割を担っています。この遺伝子を導入し、尿毒素を含む代謝物を排出しやすくしたラットを作成し、DKDを人為的に起こしたときに普通のラットと比べてどの尿毒素に違いが出るのかを検討しました。

 

その結果、糖尿病を誘発すると、普通のラットではフェニル硫酸の血中濃度が高まり、病期が進行するほど血中濃度がより高まっていきます。一方、モデルラットではフェニル硫酸の血中濃度が低下して腎症が緩和されることが分かりました。尿毒素を排出しやすくしたモデルラットで血中濃度が低下する物質としてフェニル硫酸を見出し、普通のラットで血中濃度が高まっていて、それは腎障害の進行と比例していたということです。  

 

またフェニル硫酸は腎機能低下が始まる前から血中濃度が高まっており、ミトコンドリア障害を介して腎臓のポドサイトや基底膜を傷害する作用があることも分かりました。糖尿病モデル動物にフェニル硫酸を経口投与するとポドサイトや基底膜が傷害され、アルブミン尿が悪化したのです。

 

糖尿病患者を対象とした検討は、岡山大学腎・免疫・内分泌内科学教授の和田淳先生と共同で、362人の糖尿病患者を対象に、血中フェニル硫酸量と臨床データとの関係を検討しました。糖尿病患者で血中フェニル硫酸量は高まっており、アルブミン尿の値に比例していました。さらに微量アルブミン尿期の患者ではフェニル硫酸が2年後のアルブミン尿増悪を予測する独立した因子であることが分かりました。年齢や性、BMI、収縮期血圧、HbA1c、eGFR値は有意な予測因子ではありませんでした。

 

 

結果のまとめ

フェニル硫酸はDKDの原因物質であり、しかも微量アルブミン尿期にその後の腎障害の増悪を予測する因子になり得ます

 

微量アルブミン尿期はDKDの早期段階です。この段階で血中フェニル硫酸量が高ければ、その患者は腎障害が進行する可能性が高いと言えます。腎障害が進行する前に増悪リスクが高いことが分かれば、糖尿病などの治療を一生懸命取り組まなければいけないといった指導することができます。  

 

フェニル硫酸が体内で産生される機序ですが、まず食事中に含まれるチロシンが腸内細菌の作用によってフェノールに変換され、体内に吸収されます。フェノールは非常に毒性の高い物質ですから、すぐさま肝臓で解毒代謝酵素によって硫酸抱合され、フェノールよりは毒性の低いフェニル硫酸に変換されることが分かっています。  

 

腸内細菌がチロシンをフェノールに変換するのはチロシン・フェノールリアーゼという酵素です。これは腸内細菌のみが持ち、ヒトには存在しない酵素です。  

 

そこでこのチロシン・フェノールリアーゼの阻害薬を糖尿病モデルマウスに経口投与したところ、血中フェニル硫酸量が低下し、アルブミン尿が減少することを確認しました。さらに腎不全モデルマウスにこの阻害薬を投与すると、血中フェニル硫酸量が低下するとともに、血清クレアチニン値も低下しました。これは血中フェニル硫酸量を低下させると腎障害が改善する可能性を示唆する結果です。  

 

ですから、腎臓病を起こしやすい糖尿病患者において、フェニル硫酸を測定してリスクの程度を予測し、原因となるチロシンをあまり含まない食事にするといった食事指導をしたり、チロシン・フェノールリアーゼ阻害薬を投与してフェニル硫酸の産生量を減らすといった治療戦略が考えられます。  

 

これまでCKDやDKDを進行させないためには糖尿病や高血圧の治療、RA系阻害薬の投与をするしかありませんでした。今回明らかにしたフェニル硫酸を減らすことは、新しい治療コンセプトになると考えています。  

 

それでは、腎臓病を起こしやすい糖尿病患者において、原因となるチロシンをあまり含まない食事にするといった食事指導のためには、どのような基礎情報が必要なのでしょうか。

 

この点に関しては、次回、来週の水曜日5月29日に解説します。

糖尿病は病型にかかわらず、膵β細胞の休息を!

 

 

第116回日本内科学会総会・講演会(ポートメッセ名古屋)

第3日目

2019年4月28日(日)

 

教育講演13<1型糖尿病の病態と治療の最前線>

 

1型糖尿病:

膵β細胞の破壊により発症し、通常はインスリンの絶対的欠乏に至る糖尿病

 

発症因子:

他因子疾患。遺伝的素因を有する人に何らかの環境因子が働いて発症

 

遺伝的素因:

HLA。DR4およびDR9が感受性、

まれにDR8ハプロタイプ(強い疾患感受性、疾患の家族集積)

DR2が抵抗性。

 

成因による分類:

自己免疫性および特発性

 

日常臨床経過による分類:

劇症、急性発症および緩徐進行

高血糖症状出現からインスリン依存状態に至る期間が基準

急性発症1型糖尿病では3カ月以内:内因性インスリン欠乏    or 膵島関連自己抗体陽性

正常なインスリン分泌パタンが喪失

内因性インスリンは自己調節能を有するので投与インスリンの過不足をも緩衝

 

β細胞の病態による分類:

完全廃絶群、微小残存群

 

最近のトピック:

発症の環境因子として、他疾患に対する免疫療法により自己免疫を増強させると、膵β細胞障害を促進。インターフェロン療法や免疫チェックポイント阻害薬治療に伴って発症することが示唆。とくに癌の免疫チェックポイント阻害薬に伴って発症する1型糖尿病には、高率に劇症1型糖尿病が発症。劇症1型糖尿病は、発症時から膵β細胞が完全に廃絶してしまうので対応の遅れにより生命危機に直結。

 

 

治療:

インスリンポンプ(ASI)によるインスリン補充

内因性インスリン完全廃絶例でのコントロールは対応困難

残存β細胞を如何に温存させるかが重要

細胞性免疫によるβ細胞破壊を防ぐためには、

クリティカルなβ細胞の残存率は10~20%、

それ以下ではケトアシドーシスを発症し、インスリン依存状態に至る

初期治療によって、残存膵β細胞を休息させる

 

 

ポイント:

インスリンは膵臓に点在するランゲルハンス島組織を構成する細胞の一種であるβ細胞で産生され、分泌されています。

 

日本人のβ細胞は、とてもデリケートで、欧米人と比較して簡単に疲弊し、機能廃絶(インスリン産生不能)に陥りがちであることが知られています。

 

糖尿病の大多数を占める生活習慣病としての2型糖尿病ばかりでなく1型糖尿病であっても残存膵β細胞を休息させることが大切です。

 

 

糖尿病は認知症の促進因子です。

―糖尿病性認知症に注意!-

 

 

第116回日本内科学会講演会は2019年4月26日(金)から28日(日)の3日間、名古屋で開催されました。未曽有の大型連休の前でもあるため、初日の26日(金)は出席せず、高円寺南診療所としての最終診療日としました。

 

しかし、4月26日(金)は、聞き逃したくない貴重な演題が目白押しでした。そこで、学会レジュメをもとに重要なトピックを紹介します。

 

 

シンポジウム1.

生活習慣・生活習慣病と認知症・アルツハイマー病

特に、糖尿病性認知症について

 

高齢化に伴い、認知症や軽度認知障害の人の数が急増しています。認知症には有効な治療手立てが確立していません。認知症の原因の約6割はアルツハイマー病で、その他にも血管性認知症やレヴィ―小体型認知症があります。

アルツハイマー病は脳組織の変性性疾患であるため、生活習慣病との関連は乏しいと考えられがちでした。しかし、近年、運動不足や不適切な食事といった不健康な生活習慣および糖尿病や高血圧等の生活習慣病が、血管性認知症ばかりでなく、アルツハイマー病のリスクであることが報告されるようになってきました。

糖尿病と認知症発症の関係を調べた疫学調査では、糖尿病群は正常群と比べ、認知症、特にアルツハイマー病の発症リスクが有意に高いことが判明しました。さらに、生活習慣との関連では、中年期から老年期の持続喫煙および老年期の短時間・長時間睡眠は、アルツハイマー病および血管性認知症発症の有意な危険因子でした。

 

血管性病変やアルツハイマー病態よりも糖代謝異常が深く関与している認知症の病型として、糖尿病性認知症が注目されるようになってきました。これは血糖コントロールの不良例が多く、進行は緩やかですが近時記憶障害よりも注意・遂行機能障害がみられるのが特徴であるため発見されづらいことが問題になると考えられます。

 

上述の疫学調査の結果によると、定期的な運動習慣があり、大豆・大豆製品、緑黄色野菜、淡色野菜、海藻類ならびに牛乳・乳製品の摂取量が多く、米の摂取量が少ないという食事パターンの人では、認知症(アルツハイマー病、血管性認知症のそれぞれ)の発症リスクは有意に低いものでした。

 

そのため杉並国際クリニックとしては、本格的な認知症以前の段階である軽度認知障害の早期発見、可能であればその予防のための一層の対応が急務であると考えています。

 

将来の認知症発症を予防するためには、高血圧および糖尿病の予防と適切な管理に加え、禁煙、適切な睡眠、和食+野菜+牛乳・乳製品を中心とした食習慣ならびに定期的な運動を心がけることが大切になります。

 

 

高円寺南診療所30年の臨床経験による診療指針の正しさが次々と証明されてきていることは大きな励みです。禁煙指導、生活習慣指導、水氣道、トータルフィットネス・チェック、メディカル・チェック(区検診など)の総合的・抜本的な活動推進は、ますます重要性を増していると考えます。

 糖尿病の治療は、血糖値を下げるだけでは不十分!

 

-2型糖尿病では患者さんの病態を見極め、それに見合った薬剤を選択する必要ありー

 

一口に糖尿病といっても様々なタイプがります。多くは生活習慣病として認識されている2型糖尿病ですが、現在までに多くの種類の糖尿病治療薬が開発され、実際に処方されています。単に血糖値を下げることだけが目的であれば、どの薬剤を使用しても良いことになります。実際に、日本糖尿病学会は、糖尿病の第一選択薬は特定せずに主治医の判断に任せる立場をとっています。

 

ところで、日本人の膵臓のβ細胞(インスリン分泌細胞)は欧米人に比べて脆弱であることがずいぶん以前から指摘されています。そのため、日本人では糖尿病の初期から機能低下がはじまり、やがてインスリンを分泌できなくなりがちです。

 

つまり、糖尿病の患者さんの膵β細胞機能をいかに温存させるかを考えた処方が必要です。この膵β細胞の保護のためには、この細胞を疲弊させない薬剤を選択することが必要となります。

 

そこで2型糖尿病を診る際には、病態を見極めることが大切になってきます。残念ながら、他院から病態にそぐわない薬を長期間処方されてきた皆様に別の病気の初診で遭遇することが少なくありません。

 

処方するのは医師ですから、決して患者さんの落ち度ではありません。そして、現在の日本糖尿病学会の指針によれば、必ずしもそうした処方医を責めるべきではないでしょう。

 

 

そこで、糖尿病の皆様に、お勧めしたいのは、処方してくださる先生に、以下のように率直に尋ねてみることです。

 

「私の糖尿病はインスリン分泌が不十分なタイプなのですか、それともインスリンが働きにくいタイプなのですか?」

 

あなたのこの問いかけに対して、診療データとともに笑顔ではっきりと答えてくれるようなドクターの処方薬であれば、まず安心してよいといえるでしょう。

 

 

このように、2型糖尿病の場合の薬の使い分けの基本は、病態を把握しておくことが前提となります。インスリン分泌促進薬か、インスリン抵抗性改善薬か、その選択が糖尿病の薬物療法を開始するにあたっての鍵になるからです。

 

杉並国際クリニックでは、以上のことを踏まえて、糖尿病の薬物療法開始の際には、これまで以上に丁寧な病態評価方法を開始して行く予定です。

 

インスリン抵抗性の指標としてHOMA-R([空腹時血糖値×空腹時インスリン値]/405

が用いられています。

この値が2.0以上であればインスリン抵抗性があると解釈し、薬物療法が必要であれば、インスリン抵抗性改善薬を処法します。

 

ただし、この方法には限界があります。空腹時血糖が140㎎/dLを超えるとデータの信頼性が確保できないからです。その場合は、体型やそのほかの検査所見(たとえば中性脂肪高値、あるいは高インスリン血症であれば、インスリン抵抗性が疑われます)から病態の鑑別を試みなくてはならないからです。つまり、初診時において軽度の糖尿病であれば有用な指標となりえるのですが、中等度以上の糖尿病の病態鑑別は、より複雑で難しくなるといえるでしょう。インスリン分泌低下が併存してくれば、スルフォニル尿素(SU)薬を併用したり、さらにインスリン注射を必要としたりする段階に至ることも少なくありません。

 

糖尿病はもはや国民病です。糖尿病専門医だけに任せておけばよい病気ではありません。

薬物療法の発展は目覚ましいのですが、食事療法、運動療法、生活習慣編世用のための行動療法を駆使して治療に当たるのでなければ、コントロールに至ることは難しいです。

 

糖尿病は動脈硬化性疾患とならんで臨床栄養学の中では中心的な病態です。私は、糖尿病専門医ではありませんが、生活習慣指導、食事療法、運動療法、認知行動療法など集学的な診療体制を構築して、口頭のみではなく実際に体験していただく経験を積み重ねてきました。

薬の処方ばかりに終始しているタイプの糖尿病専門医よりは、糖尿病の外来診療について深くかかわり、実践してきたという自負があります。

 

私は、昭和学院短期大学のヘルスケア栄養学科で、臨床栄養学を担当していたことがありますが、「臨床栄養学」の教科書を2冊出版して、改訂を重ねています。どうぞご参考になさってください。

 

 

日本糖尿病学会ホームページから

 

「糖尿病診療ガイドライン2016 糖尿病診断の指針 4 運動療法」では、運動療法について、とても有益な5つのQ&Aが掲載されています。

 

これを抜粋して紹介したあとに【杉並国際クリニックの実地臨床からの視点】でコメントを加えてみました。

 

 

Q4-4 

有酸素運動、レジスタンス運動とは何か?

 

 

【要点】

有酸素運動とは、十分に供給された酸素と、基質である糖質や脂質を反応させて再合成されたアデノシン3リン酸(ATP)をエネルギー源として用い、持続的、律動的かつ反復的に主要な骨格筋を10分間以上動かす運動をいいます。

 

有酸素運動は、心肺機能を高める効果があります。

 

レジスタンス運動は、骨格筋に負荷を与える運動であり、筋機能(筋力と筋持久力)を高める目的で行います。

 

 

【 杉並国際クリニックの実地臨床からの視点 】

 

2型糖尿病の患者さんの血糖コントロールに対する有効性は、有酸素運動とレジスタンス(抵抗)運動のいずれにも認められています。しかも、両者の併用効果も明らかにされています。

 

一般に有酸素運動には、ウォ―キング、ジョギング、サイクリングなどが含まれ、心肺機能を高める効果があります。そして、心肺機能は最大酸素摂取量で評価することができます。水氣道®も有酸素運動として水中でウォ―キング、ジョギングを行うほかサイクリングと同様の運動を行などがプログラムされています。

 

そして、陸上とは異なり水圧に抗しての呼吸や運動を行うことになるので、最大酸素摂取量はより大きくなり、心肺機能の向上をさらに高めることができます。有酸素運動は糖代謝を改善させるのは、インスリン抵抗性が改善することによります。

 

そのメカニズムは、内臓脂肪や体重の減少による全身的な代謝改善効果に加えて、遺伝子発現の変化に伴う運動に対する骨格筋の適応により、細胞内のシグナル(信号)を変化させることによります。簡単に言えば、有酸素運動の習慣をもつことによって遺伝子レベルからの確実な体質改善が期待できるということになります。水氣道®もこうした根本的な体質改善を目標にしています。

 

一方でレジスタンス運動は、自体重、チューブ、ダンベルやマシンなどを用いて行う抵抗運動で、筋機能を高める働きがあります。レジスタンス運動の効果は、骨格筋を増やすことによって体組成の変化をもたらし、その結果、インスリン抵抗性が改善します。

 

筋量を増やすには、無酸素運動を取り入れた中~高強度の運動が必要とされてきましたが、比較的低強度のレジスタンス運動においても反復運動を繰り返すことで、筋の持久力を高め、有酸素運動と同様に遺伝子発現の変化を伴う適応が生じ、糖代謝を改善する可能性が高まります。

 

水氣道®は水中運動であるため、運動に際して持続的に水の抵抗を受けます。水氣道®は有酸素運動であると同時にレジスタンス運動でもあります。水中の運動は、自覚される以上に強度が高いのですが、そのほかに水氣道®は比較的低強度のレジスタンス運動において反復運動を繰り返すため、筋量増加のための運動条件をすべて網羅しているといえます。

 

なお運動に伴って、様々なホルモンの分泌が変化します。健康な人では、血糖降下性に働くインスリンは運動時に低下し、血糖上昇性に働くグルカゴンやカテコーラミン、コルチゾールは増加します。

これに対して2型糖尿病の患者さんが中等度の強度の運動を行った場合、インスリンの低下は起こりにくいため肝臓での糖生産性は増加しにくいことに加え、骨格筋での糖利用は増加するので、運動により血糖値を下げることができます。

糖尿病はもはや国民病です。

糖尿病専門医だけに任せておけばよい病気ではありません。

薬物療法の発展は目覚ましいのですが、食事療法、運動療法、生活習慣編世用のための行動療法を駆使して治療に当たるのでなければ、コントロールに至ることは難しいです。

 

糖尿病は動脈硬化性疾患とならんで臨床栄養学の中では中心的な病態です。

私は、糖尿病専門医ではありませんが、生活習慣指導、食事療法、運動療法、認知行動療法など集学的な診療体制を構築して、口頭のみではなく実際に体験していただく経験を積み重ねてきました。薬の処方ばかりに終始しているタイプの糖尿病専門医よりは、糖尿病の外来診療について深くかかわり、実践してきたという自負があります。

 

私は、昭和学院短期大学のヘルスケア栄養学科で、臨床栄養学を担当していたことがありますが、「臨床栄養学」の教科書を2冊出版して、改訂を重ねています。どうぞご参考になさってください。

 

 

日本糖尿病学会ホームページから

「糖尿病診療ガイドライン2016 糖尿病診断の指針 4 運動療法」

では、運動療法について、とても有益な5つのQ&Aが掲載されています。

 

これを抜粋して紹介したあとに【杉並国際クリニックの実地臨床からの視点】

でコメントを加えてみました。

 

 

Q4-3 

1型糖尿病患者に運動療法は有効か?

 

【要点】

運動の長期的な血糖コントロールへの効果に対する一定の見解は得られていません。しかし、心血管疾患のリスクファクターを低下させ、生活質QOLを改善させます。

(合意率95%)<推奨グレードB>

 

 

【 杉並国際クリニックの実地臨床からの視点 】

高円寺南診療所の30年間で、インスリン療法を導入した方は、たった数名のみで、極めて少数です。1型糖尿病の方と2型糖尿病が進行した方です。

初診時にすでに糖尿病が進行していた方の1人のみがインスリン療法を開始したあと透析クリニックで腎透析療法を受けています。その方も水氣道®を永年続けることによって、透析導入のタイミングを予想以上に遅らせることができました。

 

1型糖尿病の患者さんでも運動により血糖値は低下します。しかし、長期的な血糖コントロールへの運動の効果については一定の見解は得られていません。ただし、心血管疾患を生じるリスクが高いとされている1型糖尿病の患者さんも、運動に寄よりこれらのリスクを減少させると同時に、QOL〔生活の質、人生の質〕を高めるなど血糖コントロール以外の効果が期待されます。そのため運動の強度が中等度以下の運動療法が勧められます。

 

なお、合併症がなく、血糖コントロールが良好であれば、インスリン療法や捕食を調節することにより、いかなる運動も可能です。