『嘱託産業医』の相談箱

 

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臨床産業医オフィス

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

<先月から、当面の間、職場の健康診断をテーマとして、産業医紹介エージェント企業各社が提供しているコラムを材料として採りあげ、私なりにコメントを加えています。>

 

産業医紹介サービス企業各社が提供する<健康診断>コラム

 

No2.ファースト・コール提供資料から(その3)

 

ここからは、厚生労働省がまとめた『平成28年版過労死等防止対策白書』『令和3年版過労死等防止対策白書』を基に、長時間労働による労働者の不安と自殺者の状況について解説します。


出典:厚生労働省『令和3年版過労死等防止対策白書』『平成28年版過労死等防止対策白書』

 

 

疾患の発症や悪化への不安

 

『平成28年版過労死等防止対策白書』によると、調査人数全体の約27%にあたる人が、過去半年間に「脳・心臓疾患、精神障害の発症や悪化の不安を感じたことがある」と答えていることが分かりました。

 

図1

画像引用元:厚生労働省『平成28年版過労死等防止対策白書』

 


また、不安を感じた理由として、約30%の人が「長時間労働や残業が多いため」と答えています。

 

これは「仕事で精神的な緊張・ストレスが続くため」「職場の人間関係に関する悩みがあるため」に次いで3番目に多い理由です。このことから、長時間労働は心身の不調を引き起こす原因の一つになり得ると考えられます。

 

図2

画像引用元:厚生労働省『平成28年版過労死等防止対策白書』
出典:厚生労働省『平成28年版過労死等防止対策白書』

 

 

産業医からのコメント

調査人数全体の約27%にあたる人が、過去半年間に「脳・心臓疾患、精神障害の発症や悪化の不安を感じたことがある」というデータを正しく認識する必要があります。

 

その不安を感じた理由として、「仕事で精神的な緊張・ストレスが続くため」「職場の人間関係に関する悩みがあるため」に次いで約30%の人が「長時間労働や残業が多いため」という明確な理由があります。

 

長時間労働は、このように不安に直結し、また長引く不安はストレスフルな状態(高ストレス状態)であることが示唆されます。職場の一般健康診断だけでは、高ストレス者を発見し、健康障害や事故を未然に防止することはできません。

 

ストレスチェック制度とは、労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止することを主な目的とした、労働安全衛生法第66条の10全体に係るものをいい、2015年(平成27年)12月に施行されました。

 

定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげるという一連の手続きが取られるようになりました。
 

長時間労働を減らしていく過程でストレスチェック制度を有効に活用していくことが望まれます。