故郷(茨城)探訪

 

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常陸國住人 

飯嶋正広

 


常陸国の万葉集歌を味わう(その2)

 

先週に引き続いて、今回も虫麻呂の歌です。私は虫麻呂の歌が大好きです。この歌は、万葉集の中の収録番号では、前回の作品の一つ前です。この作品は、私個人にとっては、最も馴染み深いものです。それは、どういうことかというと、中学・高校の6年間自宅から学校までの通学途上の程近くの歌だからです。

 

題詞の那賀郡曝井(なかぐんさらしい)とは、茨城県水戸市愛宕町の滝坂の泉であろうといわれていますが、他にもそれらしき候補の泉があります。この泉は『常陸国風土記』にも紹介されていて、村落の婦女たちが洗濯した布を曝すためこの名が付いたといわれています。

 

歌の冒頭の「三栗の」は、「那賀」に係る枕詞です。このあたりは、古来より栗の産地で、「三栗」は、一つのいがに三つの実ができる栗のことです。その真ん中の栗の意から「なか」に掛かるとされています。

 

那賀は、常陸国那珂郡です。現在の茨城県中央部で水戸市やひたちなか市を含む一帯に当ります。

 

万葉集 第9巻 1745番歌

 

作者:高橋虫麻呂、題詞:那賀郡曝井歌一首

 

左註:(右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)

 

原文:三栗乃 中尓向有 曝井之 不絶将通 従所尓妻毛我

 

訓読:三栗の那賀に向へる曝井の絶えず通はむそこに妻もが

 

かな:

みつぐりの なかにむかへる さらしゐの たえずかよはむ
そこにつまもが

 

現代訳(飯嶋訳):

那賀の郷に向かって流れている清泉。
その水は絶え間なく湧き出ている。
そのように、私もそこに絶えず通ってみることにしよう。
ここを洗い場としてたくさんの女性たちが通ってきている。
その女性たちの中に、私の愛妻がいてくれたらよいのに。

 

英訳(飯嶋訳):

The clear spring flows towards the county of Naka,
its waters are continually gushing forth,
As such, I shall pass there constantly.
Many women come here to wash and bleach clothes,
I wish my beloved wife were among them.