遷延する症状で苦しむ方のために

 

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認定内科医、認定痛風医
アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医


飯嶋正広

 

見落とされがちな微量栄養欠乏症<亜鉛>No.3

 

<どのようなときに亜鉛欠乏症を疑うべきか?>

 

最近、指導医クラスの漢方専門医の方々と「近年、漢方が次第に効きにくくなってきた」という本音トークを交わしました。その原因は、名医たちの漢方の見立てが悪いからではなさそうなので、私は患者さん側の要因を検討すべきではないかと提案しました。

 

そして漢方の専門医は臨床栄養学を学ぶべきであるというのが旧来からの私の持論を展開しました。とくにミネラル類やビタミン類などの微量栄養素が欠乏していると漢方薬の効果が薄れてしまうことを経験しているからです。

そのような場合には、漢方薬を増量したり、他薬に切り替えてみたりしてもうまくいかないことがほとんどです。しかし、不足している微量栄養素を適切に補充すると、従来通りあるいは、それ以上に漢方薬が効き始めるのです。

 

杉並国際クリニックで亜鉛欠乏症を発見して、亜鉛補充により劇的に改善した例としては、脱毛症や味覚・嗅覚障害などがあります。

 

しかし、医師ではない一般の方に説明するには、亜鉛が足りなくなると、具体的にどのような症状があらわれるか、ということを、もっと詳しくお伝えしておくことが役に立つのではないかと思います。

 

まず、風邪などの感染症にかかりやすい(易感染性)場合や、風邪が長引く場合は一度亜鉛不足をチェックするとよいでしょう。易感染性はウイルスを退治するTリンパ球の機能低下が原因だからです。

 

つぎに、腹部不定愁訴といって、普段から何となくお腹の調子が悪いという方も、一度亜鉛不足を疑ってみると解決の糸口がつかめるかもしれません。食欲低下に加えて慢性下痢もよく見られる症状です。亜鉛は腸管粘膜の状態維持に働いているからです。ですから潰瘍性大腸炎や過敏性腸症候群といった慢性炎症性腸疾患の診断をされている方は是非、血中亜鉛濃度を測定しておいてください。


さらに、皮膚炎や傷が治りにくい方にも検査をお勧めします。

同様に蚊に刺された跡がいつまでも残ったり、化膿しやすかったりするときは亜鉛不足を疑う必要があります。皮膚炎や傷が治るためにはコラーゲンというタンパク増生が必要ですが、亜鉛が不足するとコラーゲン合成が進まず傷の治りが遅れるからです。

そもそも細胞分裂の際にはDNAが複製されます。この時、亜鉛指(ジンクフィンガー)と呼ばれる亜鉛を含んだタンパク質が働きます。したがって亜鉛が不足すると基本的に細胞分裂が盛んな組織、すなわち骨、皮膚、粘膜、味蕾、性腺組織などにトラブルが生じます。

 

鉄欠乏性貧血を治したのにどこかすっきりしない人は他の亜鉛不足症状に転じた可能性を考えた方がよいでしょう。貧血は赤血球の増殖不良や膜の脆弱化によって溶血(赤血球の細胞膜が破綻すること)しやすくなることが原因となることもありますが、鉄欠乏に合併していることがもっとも多く、この鉄欠乏性貧血に対して鉄剤投与で治りにくい貧血は亜鉛不足も疑う必要があります。

 

また鉄と亜鉛の吸収経路は共通であるため鉄剤長期服用が亜鉛吸収を妨げてしまうこともあります。

 

なお男性不妊、流産増加の原因としても亜鉛不足は要チェックです。