遷延する症状で苦しむ方のために

 

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アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医

飯嶋正広

 

見落とされがちな微量栄養欠乏症<亜鉛>No.2

 

<なぜ亜鉛欠乏症に注目したのか?>

 

私が亜鉛欠乏症に注目していたのは、東大の衛生学教室に所属して、微量栄養元素の欠乏症の研究に従事していたころがきっかけです。その後、栄養系の大学で10年程、臨床栄養学を教えていたこともあり、このテーマとは長い付き合いになります。

微量栄養素の欠乏症は、身体症状のみならず精神症状にも影響を及ぼすため、心身医学のテーマになりうる領域であると考え続けてきました。

 

なお日常診療においては、糖尿病の患方に、亜鉛欠乏症を見出すことが多かったので日頃から注意を払っております。

また、アレルギー(難治性蕁麻疹やアトピー性皮膚炎など)やリウマチ関連疾患(骨粗鬆症、線維筋痛症など)をはじめ種々の自己免疫性疾患の診療対象者で、治療反応の良好でない方についても、同様の結果が得られました。

 

さらに、最近2年間で経験したのは、Covid-19に感染した方の血液中の亜鉛濃度やビタミンDの濃度を検査したところ、いずれのケースも例外なく、いずれかが低値を示していたことです。

 

 

<なぜ亜鉛欠乏症になるのか?>

 

原因としては、先天性亜鉛吸収障害(腸性肢端皮膚炎)が有名ですが、ほとんどは後天性であり、生活習慣や環境によるものと考えられます。

 

亜鉛の摂取不足や吸収不全(高齢者、経管栄養、肝疾患、炎症性腸疾患など)が主ですが、妊娠、糖尿病、尿毒症やHIV感染症が原因となることも知られています。医原性といって、キレート作用のある薬剤の服用、血液透析例も原因となっています。

 

しかし、多くの場合は以下の例が多いようです。

 

1 偏食の増加・ファーストフードや加工食品の普及で亜鉛摂取不足

 

2 慢性肝疾患の亜鉛吸収障害

 

3 アルコール過飲や多剤内服による亜鉛過剰消費、

等が増えておりその臨床像が注目されています。

 

 


<亜鉛欠乏症の症状とは?>

 

亜鉛不足が続くとさまざまな体調不良が起こります。その症状には、味覚障害(味がわからない、本来の味と違う味に感じる)、食欲不振(食欲がない、食が細くなる)、皮膚炎(かぶれやすくなる、かぶれがいつまでも良くならない)、脱毛、貧血(顔色が悪くなる、電車に乗っていると気分が悪くなる)、口内炎等があります。

 

亜鉛は代表的必須微量元素で,欠乏により味覚異常,皮膚炎,脱毛,貧血,口内炎,男性 性機能異常,易感染性,骨粗しょう症などが発症します。さらに,肝硬変,糖尿病,慢性炎症性腸疾患,慢性腎臓病患者の多くでは,血清亜鉛値は低下し,亜鉛欠乏状態であることが指摘されています。

 

2016年にようやく日本臨床栄養学会のミネラル栄養部会が「亜鉛欠乏症の診療指針」をミネラル栄養部会報告として発表しました。(日本臨床栄養学会誌 38 (2): 104-148, 2016.)しかし、診療指針に示されていないその他の重要な亜鉛不足症状としては血糖値悪化があります。亜鉛は血糖値を下げるインスリンホルモンの合成・分泌にも関与するからです。

 

また亜鉛は脳の働きにも重要な役割を果たしており、記憶を司る脳の海馬には亜鉛が多く存在するので亜鉛不足は記憶低下につながります。また「やる気ホルモン」と呼ばれる脳内ドーパミンの合成が減るためうつの原因にもなります。さらに体のあちこちに慢性疼痛を訴え色々検査しても原因のはっきりしない方の気付かれにくい要因として亜鉛不足による神経障害性疼痛があります。当クリニック通院中の線維筋痛症の方は、ほぼ例外なく亜鉛欠乏症もしくは低亜鉛血症でした。

 

それでは、次回は亜鉛欠乏症をどのように診断するかについて説明することに致しましょう。