認定内科医、認定痛風医
アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医
飯嶋正広
新型コロナウイルス感染症蔓延によるライフスタイルの変化によるものなのか、最近、腎機能が急激に低下する方が増えてきました。
そこで、今月は腎臓病の治療対策をテーマとしました。
腎疾患の治療について(No1)
残念ながら腎臓病向けの単独の特効薬はありません!
第119回日本内科学会講演会(2022年)の教育講演5.慢性腎臓病治療の新たな展開(菅野義彦:東京医大)によれば、<「腎機能低下を防ぐことはできない. 治らないし、悪くなったら透析すればいい」に転機が訪れたのは、慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)の概念と普及であろう.」と述べているとおり、最近に至るまで、腎機能低下を有効に防ぐ手立ては存在しませんでした。
その理由の一つは、腎臓はおおまかにいっても4つ以上の重要な役割を同時に担っているからです。
その役割として、たいていの方がご存じなのは、
1)尿を作る仕事<機能1>
その他、以下の3つは、あまり理解されていないようです。
2)体の中のバランスを整える<機能2>
3)血圧を調整する<機能3>
4)ホルモンを作る<機能4>
以上をまとめて理解し、具体的なイメージを描くことは、医師にとってもなかなか骨が折れることなのです。そこで、私にとっては、「腎」に関する漢方の考え方が役に立ってきました。
私が2000年に発足させた「水氣道」は、稽古組織の構成上、五色の帽子で役割と階級を大まかに区分しています。これは五臓になぞらえたものです。そして最高位は黒で、これは「腎」を象徴しています。
さて、漢方では、成長・発育・生殖などに関わる泌尿器・生殖器・腎臓などの機能を「腎」と呼びます。「腎」の機能が低下したり、不足したりしている状態は「腎虚」と呼ばれています。「腎」は、身体の様々な機能に密接に関わっており、「腎虚」になると心身の両面において様々な衰えの症状が現れるようになると考えております。
また、漢方の源流となる中医学の五臓(肝・心・脾・肺・腎)の働きは相互に促進したり、抑制したりして全身のバランスをとっていると考えるのですが、この発想の妥当性が現代医学においてますます裏付けられてきています。
たとえば、上記のモデル図で、
腎は骨と密接なかかわりがあることを示しています。
腎は肺によって強められ⇒ますが、現代医学においても、腎不全で体液が酸性に傾く(代謝性アシドーシス)と肺での換気を増やしてアルカリ化をはかる(呼吸性アルカローシス)ことによって、酸・アルカリのバランス(酸塩基平衡)が維持されます。これは、上記の腎の<機能2>に相当します。
そもそも心と腎は相互に影響を受け、古くから、生理学的メカニズムとしては「心腎相関」、それが破綻した病理現象としては「心腎不交」といった概念が東洋医学理論にはありました。近年に至って現代医学においても、病気で身体機能に異常が起こる場合、心臓と腎臓の間に深い関係がある状態を「心腎連関症候群」と呼ぶようになってきました。
そこで、これらの働きについて、少し掘り下げて学習しておきたいと思います。
1)腎の<機能1>尿を作る
尿(おしっこ)を作るのは、よく知られている腎臓のおしごとです。
腎臓は血液中から、体に「必要なもの」と「不要なもの」を分別し、不要なものは尿と共に排出するので、解毒(デトックス)作用をもちます。ですから、腎臓の働きが損なわれると、体液が貯留して浮腫(むくみ)を招いたり、尿毒症になったりします。中医学では、腎の働きの低下による水毒と考えます。
2)腎の<機能2>体の中の体液のバランスを整える
腎臓は尿を作ることで、体の中のバランスを整える働きもしています。
腎臓は体調や気候によって、排出する水分やミネラル(電解質)の量を調節します。
体の中のバランスをとるために、汗をたくさんかいた時は、濃い尿を少量作って体の外に排出します。汗をかかない時は、薄い尿をたくさん作って体の外に排出します。
3)腎の<機能3>血圧を調節する
血圧というと心臓のイメージが強いかもしれませんが、実は腎臓も血圧の調節に関わっています。
腎臓は血圧を安定させるために、血圧が高い時は下げるように、低い時は上げるようにコントロールします。血圧のコントロールのためには東洋医学では常識とされていた「心腎相関」の考え方が有用であることが明らかになってきました。
4)腎の<機能4>ホルモンを作る
腎臓は、いくつかのホルモンを作ります。
1 赤血球を作るホルモンーエリスロポエチン(EPO)
腎臓は赤血球を増やすために、エリスロポエチン(EPO)というホルモンを作ります。血液中の赤血球が減ると、貧血になります。東洋医学では「血虚」に相当します。
2 骨を強くする
骨や歯を作るためにはカルシウムが必要です。カルシウムは歯や骨を強くするミネラルですが、「活性型ビタミンD」の働きが欠かせません。腎臓は、そのビタミンDを活性化させる働きを持っています。そして「活性型ビタミンD」は骨の代謝に係るホルモンのような働きをしています。東洋医学では、古来、腎は骨の健康を司るものと考えられてきました。
ARCHIVE
- 2024年9月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年9月
- 2023年7月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年9月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月