からだの健康(心身医学)

 

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内科認定医、心療内科指導医・専門医 アレルギー専門医 

 

飯嶋正広

 

呼吸器病学とアレルギー学の接点

 

アレルギー舌下免疫療法の適応と限界と総合アレルギー専門医の役割(後編)

 

前編で紹介した症例は、花粉症以外に、アトピー性皮膚炎、喘息など複数のアレルギー疾患に罹患しており、精神的に参っているせいもあってか、不安、いらいら、攻撃性、抑うつ、神経過敏の傾向があり、睡眠障害も来していました。

 

症状は、くしゃみ、鼻汁については本人が自覚していましたが、鼻閉については気がついていませんでした。かゆみは、目だけでなく、全身の皮膚に及んでいました。

 

なお、専門医の診断については、花粉症であることは誤りではありませんでした。しかし、アレルゲンはスギのみでなくヒノキも陽性でした。なお、これら季節性のアレルゲンのみではなく、通年性のアレルゲンであるダニも陽性でした。

 

それから、睡眠障害や日中の眠気については、抗アレルギー薬の副作用が関与していることは、抗アレルギー薬を中止することにより軽減してしたとのことですが、日中の眠気は完全には回復しませんでした。これは、睡眠障害や日中の眠気については、抗アレルギー薬以外の原因も検討すべきことを示唆します。

 

そもそも睡眠障害といっても色々なタイプがあります。この症例では、寝つきが悪く(入眠困難)、夜中に何度も目を覚まし(中途覚醒)、それにもかかわらず、早朝に目が覚めた後は起床時まで眠れない(早朝覚醒)という複合的な睡眠障害でした。このようなケースでは、日中、仕事をしていても容易に睡魔に襲われがちになります。つまり、こうした睡眠障害を改善しない限り、日中の眠気を取り除くことは難しいのではないか、と考えます。

 

彼が、当クリニックを受診する最終的なきっかけになったのは、かつて短期間だけ使用して一定の効果が得られたベタメタゾン/クロルフェニラミン配合薬(セレスタミン®)を再開するか、さもなければ重症難治のスギ花粉症という診断により、分子標的治療薬の一つで抗IgE抗体製剤であるオマリズマブ(ゾレア®)による治療を勧められ、不安になったためのセカンドオピニョンを求めてのことだったということが、後日判明しました。

 

ベタメタゾン/クロルフェニラミン配合薬は、有効であることが予測されますが、副腎皮質ステロイドが含有されている内服薬であるため、長期的に使用するのはのぞましくありません。また、オマリズマブについては、彼の血清IgE値は、135U/L(基準170以下)で基準値内であるばかりでなく、抗アレルギー薬等の既存治療で無効であるとまではいえないので、直ちに選択すべき治療法ではなく効果も限定で記である可能性を伝えました。

 

それでは、この睡眠障害の原因は何なのでしょうか?

 

アトピー性皮膚炎による全身の皮膚のかゆみは、活動時より、安静時、とりわけ就眠時に強く感じられ、睡眠を妨げることがあります。また、気管支喘息患者では、本人の自覚がない場合でも、呼吸障害により就眠時の入眠や早朝の安眠を妨げることがあります。また、鼻閉による口呼吸は、睡眠障害ばかりでなく、日中の眠気をもたらします。抗アレルギー薬のなかでも眠気の副作用が少ないことが特徴であるフェキソフェナジン(アレグラ®)でも日中の眠気が強くなるような場合は、むしろ、他の誘因も併せて検討すべきであると私は考えます。

 

各種のアレルギー疾患は互いに合併し易いことが知られていますが、気管支喘息にアレルギー性鼻炎が合併したものを鼻炎合併喘息といいます。しかも、喘息の中で、鼻炎を合併しない喘息の方がむしろ少数派です。そして鼻炎合併喘息の場合、鼻炎に伴う鼻閉を治療しない限り気管支喘息の治療も進捗しないことが多いです。

 

そこで、この患者さんには、鼻閉に対してロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)である内服薬プランルカスト(オノン®)と副腎皮質ステロイド点鼻薬であるフルチカゾン(アラミスト®)を処方したところ、およそ3週後には鼻閉は改善し、睡眠障害や日中の眠気も気にならない程度にまでになりました。

 

さらに、およそ3カ月程度治療を継続すると、不安、いらいら、攻撃性、抑うつ、神経過敏の傾向が緩和し、性格が明るく真向きになったと、職場の同僚から褒められ、上司からは仕事の集中力が向上し、以前より意欲的になってきたように見えると高評価を得たそうです。

 

さらに半年を掛けて、同時にスキンケアとして保湿の徹底を指導したところ、概要ステロイド剤の強さもベリーストロング(非常に強力)からストロング(強力)中心となり、顔面や頸部はマイルド(穏やか)からウィーク(弱い)に移行することができました。

 

アレルギーやリウマチの専門外来においては、新型コロナ感染症予防対策も一般の外来に増して、十分な配慮が必要です。そのため、杉並国際クリニックでは、皆様の基礎疾患のケアのみならず、血清の亜鉛およびビタミンD(25OHVitD)濃度を測定し、欠乏もしくは低下が見られた場合には、食事療法などの生活療法に加えて栄養補充療法で是正をはかっています。そのうえで、玉屏風散や正脈散等の漢方薬の服用を推奨しています。この症例でも低亜鉛血症およびビタミンD欠乏症を来していました。なお、これと関連して骨塩定量による骨年齢は当初65歳でしたが、半年後に再検すると45歳程度まで改善しました。

 

この方は、花粉症のみならず、年に数回感冒に罹患し、その都度、気管支喘息発作が再燃して、会社を度々休むのが常でしたが、当クリニック受診以降は、一度も風邪をひくことなく、したがって会社を休むことなく勤務できています。職場で同じ課で新型コロナのクラスターが発生した際にも、彼のみがPCR陰性であったため、在宅勤務ではありますが、課長の代理として課内の業務を一人でこなし、得意先に迷惑を掛けず無事に危機を乗り越えることができたとのことでした。

 

全身のアレルギー症状が改善し、心身共に自信を取り戻されて以降の通院の予約がなく治療が途絶しているため、その後の経過の詳細が不明なのが残念です。