こころの健康(身心医学)

 

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認定内科医、心療内科指導医・専門医、アレルギー専門医、リウマチ専門医、認定痛風医


飯嶋正広

 

 

専門医でも迷うリウマチ関連疾患の診断(その1)

 

産業医と臨床医の役割分担

 

20代男性。私が嘱託産業医として訪問している某社のイケメン職員。リモートでの高ストレス者面談の際に、「薬疹」の相談がありました。この方には、別の薬剤でのアレルギー歴があるとのことでした。

 

このような相談は、本来の産業医の業務ではないのですが、アレルギー・リウマチ専門医としては、とても気になる貴重な症例であったわけです。

 

はじめは発熱、のどの痛み(咽頭痛)、痰の絡まない咳(乾性咳嗽)、関節と筋肉の痛みに始まったそうです。

 

現病歴:

3週間前から咽頭痛と乾性咳嗽とが出現。市販の感冒薬を服用後、両腕に皮疹が出現。

 

2週前から38℃台の発熱が出現したため近所の医院を受診した。

 

インフルエンザウイルス抗原陰性、新型コロナウイルスPCR検査陰性、

咽頭には軽度の発赤があったため細菌性咽頭炎と診断され抗菌薬(ペニシリン系)を処方されたが改善しなかった。

 

10日前から関節痛と筋肉痛が出現した。

 

総合病院を受診し、首(頸部)と腋の下(腋窩)のリンパ節腫脹があったため、胸・腹・骨盤造影CT検査を実施したところ、脾臓の腫大(脾腫)を指摘された。
血液培養検査は陰性。その後も発熱が続いていた。

 

筋肉痛は二の腕(上腕)と太もも(大腿)にあり、つまんだりつかんだりしてみるとさらに痛みを感じた(筋把握痛)。関節痛は、肩、手、指に生じた。

 

 

やはり原因不明の発熱を見た場合には、一般的には感染症を疑います。

この相談者は、複数の女性との性交渉があるため、性病を恐れて、予めHIV(エイズ)や梅毒などは検査済みで陰性であったと報告してくれました。

 

そこで私は、この段階では伝染性単核球症を疑いました。また、サイトメガロウイルス感染症なども想起しました。

伝染性単核球症は、思春期以降に感染した場合に発症することが多く、接吻病(kissing disease) とも呼ばれています。

病原体のエプスタイン・バー・ウイルス(EBV) の既感染者の約15〜20%は唾液中にウイルスを排泄しており、感染源となりえます。

 

伝染性単核球症を疑うべき根拠は、思春期から若年青年期の患者で発熱、咽頭痛、倦怠感を訴え、リンパ節腫脹、咽頭炎が認められる場合には伝染性単核球症を疑うべきだからです。

 

このケースのように伝染性単核球症の診断が得られる前に抗菌薬を使う例も見られます。

しかし、伝染性単核症では、ペニシリン系抗菌薬により薬疹が出現することがあるため、使用は避けるべきです。

 

脾腫が認められる場合、脾破裂のリスクとなるため発症3週間は運動を避けるよう指示する必要があります。

ただし、運動再開の目安について、明確なデータは不足のため明確な基準はありません。

通常、腹痛は稀であり左側腹部痛が出現した場合は脾破裂を精査する必要があるのですが、このケースも腹痛の訴えが無かったのは幸いでした。

 

伝染性単核症であるとすれば、特異的な治療法はないけれども、アセトアミノフェンなどの対症療法で治癒することが多いです。

 

鑑別疾患のためには、データが必要です。幸い、ご本人は、血液データを保管しているとのことでしたので、翌日、データを送って貰うことにしました。