臨床産業医オフィス
<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>
産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者
飯嶋正広
ハラスメント対策の本質論(No2)
Ⅱ 総論 なぜ「ハラスメント」が発生するのか
各論の検討に入る前に、ここで今一度考えるべきは、ハラスメント問題の「本質」かと思われます。「ハラスメント」が起きる原因には、大別して個人と組織風土による要因の二つが挙げられます。それぞれについて説明します。その際に重要なポイントも以下の二つがあります。
■自社で起こりやすい事とは何か?
■社員に気を付けてもらいたいポイントはどこにあるのか?
まず■自社で起こりやすい事とは何か?について述べます。
企業によって、職場によって、状況によって「何がハラスメントにあたるのか?」、「何が問題になるのか?」は違ってきます。
なぜならある企業Aでは普通のことが、別の企業Bでは普通ではないというケースは十分あり得るからです。
次に■社員に気を付けてもらいたいポイントはどこにあるのか?ですが、
こうした「ハラスメント問題の本質」を、従業員一人ひとりに考えていただくことと、その振り返りの内容を組織全体で共有するための試みに着手することが、その職場で起こりがちなハラスメントの防止のための取り組みを効率的に推し進めるうえで不可欠だと思われます。
●個人の要因
「行為者の資質に問題がある」「ハラスメント意識が欠如している」「人材不足や忙しさによってストレスが生じやすい」「してはいけないことを正しく認識していない」など個人に根差した理由によって起こりやい「ハラスメント」があります。それは、ジェンダーがらみの伝統的な信念や価値観についての無意識の囚われが大きな原因になっていることが考えられます。
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
ジェンダーに関する感覚は個人差が大きいものの一つです。その個人差がハラスメントをもたらすきっかけになることがあります。ジェンダーハラスメントとは、一般的な意味での「男らしさ」「女らしさ」のイメージに基づいて人をあれこれと非難したり、強要したりする嫌がらせを指します。「女性なのに、××を嫌がるの?」といった発言だけでなく、「男性なのに、○○できないの?」という何気ない励ましの言葉も、相手の受け止め方次第ではこれに該当します。ジェンダーに関する従来からのハラスメントにはマタニティーハラスメント(マタハラ)が知られていますが、男性に対して女性がおかしてしまう可能性があるものにパタニティーハラスメント(パタハラ)があります。
パタニティハラスメント(パタハラ)
バタニティハラスメントとは、子育てを理由として育児休暇やフレックス勤務、短時間勤務を取得しようとする男性社員の行動を非難したり、人事評価に悪影響を及ぼしたりする行為です。「男が育休ですって。どういうつもりなのかしら?」「評価がどうなっても知らないぞ!」といった言葉が、これにあてはまります。もはや、子育ては女性だけという時代ではなくなって久しいです。男性も一緒に育児を行うという価値観を自然に持ち合わせているくらいでなければ労務上のトラブルを生じてしまいます。
●組織風土による要因
「会社から常に高い目標を与えられる」「ミスの許されない業務を担うものの、社員のスキルがそれに見合っていない」。こうした強いストレスが日常で繰り返されている組織では、「ハラスメント」が起きやすくなります。また、事業所が本社から離れた地域にあり、「その責任者が実質的にすべての権限を握っている」「それぞれの職場の実情が本社や他の部署になかなか伝わらない」といった閉鎖的な職場環境も「ハラスメント」が起きる確率は高くなります。
時短ハラスメント(ジタハラ)
時短ハラスメントは、現場に労働時間の削減を要求するときに発生しがちなハラスメントです。時短の実現を強制的に命じる一方で、具体的な施策を何も提案せず、すべてを丸投げするだけに留まらず、「業績や成果はこれまでと同様に」と厳しく求める行為がこれに該当します。指示を出すだけでは、何の改善にもつながりません。
もっとも、時短に努めるように命じれば管理職の責任から免れることができるという誤った考え方が組織風土にあったり、真に時短を望んでいないのが企業の本音であったりするケースも想定できますが、人手不足の零細企業では深刻な問題でもあります。少なくとも時短の実現のためには「こうしたらどうか」という考えを提示し、それが徐々にではあっても運用していけるようサポートする姿勢が望まれます。
ケアハラスメント(ケアハラ)
ケアハラスメントとは、働きながら家族の介護をしている社員に対する嫌がらせです。具体的には、介護休業や介護時短制度などを利用しようとする際に、「そんなに休んでばかりでは重要な仕事は任せられないなあ」などと言って、上司や同僚が妨害することを指します。介護だけを理由に降格処分を下すのもこれに該当します。
●放置によるリスク
「ハラスメント」の根本的な解決には、原因の精査と具体的な対策の実効が不可欠ですが、それは個人にとっても企業にとっても容易ではありません。しかし、それが横行してしまうと、企業にどんなリスクが生じるのでしょうか。二つのリスクが想定されます。
(1)法的責任を負う
企業活動において「ハラスメント」が行われた場合、その企業には不法行為責任や債務不履行責任などの法的責任が課されます。そのため、「ハラスメント」があったと立証されれば、被害者が受けた精神的な損害を企業が賠償しなければならないことになります。さらには、民事紛争に発展した場合には、風評による企業イメージの低下は間逃れず、会社の信頼・信用に大きなマイナスをもたらしてしまうことになります。
(2)離職率の増加
もう一つは、離職率の増加です。「ハラスメント」が発生してしまう職場は、人間関係も気まずくなりがちです。社員のモチベーションも低下してしまうので、有能な人材が離れていく可能性が高くなることでしょう。転職者が続出すれば、企業としては、人材を新たに採用しなければならなくなります。それらに加えて、結果的にコストや生産性の面でも直接・間接の影響が生じることになります。
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